「えーと、シャーレの備品不足チェックは完了、他には……」
こんにちは、有馬ウレイです。先生がトリニティへ長期出張に行ってから一週間が経過しました。馬鹿みたいに忙しいです。何と言っても事務仕事の多さ!手で入力しなければいけない数字が沢山あって、集中力も削がれていきます。先生、私は荒事だけ処理したいです。任されたからにはやりますけど……
さて、今日の当番はセリカちゃんです。ああ、素晴らしきは友達、持つべきは友達……安心感が段違いです……仕事も若干捗っている気がします。
「ウレイ、これはどうするの?」
「それは……先生の権限がないとどうしようもないから放置で良いかな」
「じゃあ、この書類は?」
「それは私の机に」
ですがまあ、執務室は私とセリカちゃんだけの空間、つまり崩されるばかりの仕事の山があるだけ、というわけでもなく。
「ウレイさん、いらっしゃいますか」
「あ、リン先輩」
「すみません、ウレイさん。この書類はシャーレの権限がどうしても必要なので、私たちが引き受けることはできません。お手数かけますが、そちらで処理していただけると」
「ああ、すみません。こっちでやっておきます」
「あの、ワダツミ水産学校の水質検査結果なんですが……赤潮になる可能性が高いらしく、緊急対処のための投薬許可証の発行をお願いしたいんです」
「わかりました、発行します。学園名と連絡先をお聞きしますね……」
「ゲヘナの教員からテストの答案を受け取ってくださいと催促が……」
「やっべ、すみませんすぐ行きます!!!」
書類の分類整理だけでも面倒かつ大量……それだけならまだ、まだナツミ先輩から教わった効率的な処理方法があるのでマシなんです。というか、一つ一つはさほど問題ありません。先生から任された仕事のうち、私の落ち度でミスをすることはあっても、根本的に無理な仕事なんてものはありませんから。真の問題は……
ジリリリリリリリ、という内線電話が引き連れてきます。
「はい、こちらシャーレです」
『あ、もしもし?モモカだよ~』
「目標はどこですか」
『おっ、話が早くなってきたね。ミレニアム自治区の郊外の……えーとどこだっけ、まあ郊外のどっかで暴走した小型ロボが暴れててさ~。ま、頑張ってね』
「あの、場所は?」
『小型ロボだし、いつもの工場の近くでしょ。もういい?切るよ~』
「あっちょっと!……くそっ、切りやがった……」
はい。こうしたトラブルが仕事を中断させ、提出すべき報告書の数も増やします。仕事の一つ一つは苦労しないものの、それが積み重なり、影響し合い、見た目以上の仕事を要求するのです。というかモモカさん仕事をしてください。せめて場所は教えやがれ下さい。
「……セリカちゃん、行こうか」
「ちょ、顔怖いわよ……」
「とりあえず今ミレニアムにおける活動の経費が増えたので、書類は一部作り直しです」
「あ~……どんまい……私も手伝うからさ」
結局、通りがかったエンジニア部の皆さんとロボを一掃し、それだけで夕方になってしまいました。
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こんばんは。有馬ウレイです。結局仕事は片付けきれないまま夜を迎えました。セリカちゃんはバイトもあるので日が沈まないうちに行ってもらいました。ひと段落したと思ったらまたひと段落分の仕事が追加される……先生はこれ以上に大変なんですね……尊敬通り越して畏怖までありますよ……
まあ、それはそれとして。私は「あるファイル」を開きます。表題は、『ゲヘナ学園に潜伏する重大な思想犯罪者一覧(最終稿)』。その数たったの4人。『万魔殿』がエデン条約調印式前後に致命的なテロを引き起こしかねないと判断した、楽園の敵。
……最終的に暴力で解決するつもりだったとはいえ、疑問が残ります。マコト先輩は「計画することすら摘発対象とする」ためにシャーレを頼りました。しかし、その「計画の証明」はどうやってするのでしょう?
計画が規制対象になるということは、シロコ先輩のようにシミュレーションするだけでもアウトです。ですが、人が何を考えているかなんて基本的に知りようがありません。計画を実行に移せば、その行動こそ証拠になります。準備をすれば物流が証拠になります。ですが、計画は……「思うだけ」なら、誰にも迷惑をかけていませんし、現実世界に思考の跡は残りません。だからこそのシャーレであり、私なんでしょうけど……
証明できない犯罪……そんなの理屈として成立するのでしょうか。
果たして、私の一存で簡単にシャーレの強権を振るって良いのでしょうか?
「こんな時、先生が居ればなあ……」
引き受けると言った以上、これについて答えを出したく思いますが……頭をひねる必要がありそうです。
「少し、会ってみますかね」
次は、この4人に接触するとしましょう。