「あの、仮入部しに来たんですけど」
「ああ、ごめん、ちょっと驚いちゃって」
ささ、上がって上がって。お茶でもどう?と、先生は歓迎の意思を示しました。私はそれに甘えることにしました。
「よっぽど行動力があるんだね、こんな新しい部活に早速仮入部、なんて。えっと……」
「有馬です。有馬ウレイ」
少し、ぎこちない会話をします。先生に対する印象は、「キヴォトスっぽくない」と「親近感がわく」の二つでした。キヴォトスには、様々な姿かたちの住民が居ます。私たちみたいな見た目の種族はメインではありますが、かといって最大多数勢力というわけではありません。ヘイローを浮かべない住民で、私たちのような容姿をとる種族は(私の思いつく中では)存在しません。故に、キヴォトスらしくない。てっきりロボや犬猫の見た目をした大人かと思ったんですけどね。でも実際には、ザ・大人になった私たち。でもそこまで堅苦しくなく、同じ人なのだと思える仕草や表情。それらは、ヘイローのない私たち、といった感じで、無意識に築いていた壁が溶けていく感覚がしました。
「ウレイの制服は確か、ゲヘナだよね」
「はい。ゲヘナの一年です」
「ゲヘナの部活には、良いのがなかった?」
「イカレた部活かアホみたいに忙しい部活か大所帯しかないので……」
「イカレた……」
「……すみません、あんまり適切な語彙ではありませんでしたね」
そういえば、あまり言葉遣いに気を払っていなかったことに気付きます。ゲヘナという場所は、どれだけ口汚くても人目をはばかる、なんてことはありませんでしたから。世辞で気にしないでと言う先生の心情を考えると、すこし申し訳なく思います。しばらく気を紛らわす談笑をした後、シャーレの話題に戻りました。私の思うシャーレとは、学園の垣根を越えた何でも屋さん。先生ともおおむね同じ認識で、そこは少し安心しました。
「じゃあ、ウレイは、シャーレでどんなことがしたい?」
「どんなこと……」
どんなことがしたいか、そんな高尚な目的意識を持ってやってきたわけではありません。シャーレには、私の求める何かがあるかもしれない、という賭けでやってきたのです。ゲヘナの傍若無人で波乱万丈な毎日も楽しいでしょう、ですが、私としては、それはありふれた背景であってほしいのです。ですから、ゲヘナの主体にならず、キヴォトスの華たる女子高生ライフを謳歌したい。極論、シャーレでなくても良いのです。そんな逡巡を察したように、先生は問いを変えました。
「じゃあ、ウレイにとって、シャーレはどんなものであって欲しい?」
それなら単純明快です。シャーレとはどういった組織なのかはわかりますから。
「いざという時に、助けてくれるところ」
すると、先生は穏やかな顔をにこりと綻ばせて、「じゃあ、シャーレはそういう部活動だよ」と答えました。
「シャーレは『生徒が困っている時に、きっと力になれる場所』。ということで、有馬ウレイさん」
「はい……?」
「やり方教えるから、このメールの仕分けしてくれないかな……」
「……生徒のために動くという話では……?」
殺到するお問い合わせに答えるのも。生徒の助けにつながると強気に通された私は、やや困惑しながらもお手伝いをすることになりました。
FAQをとっとと作った方がいいということに気づいたのは、少し後の話です。