ゲヘナ1年生の連邦捜査部活動   作:watazakana

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トリニティと楽園の敵 -戦準備-

「先生、先生!!」

『ウレイ?どうしたの?』

 

日も暮れて、私はタクシーを捕まえ、乗り込みながら話します。吽堂リッカがトリニティに行くなら、先生に伝えなければ。

 

結局、あの要塞から出るにはイオリ先輩をはじめとした風紀委員会の助けが必要でした。対空崎先輩を想定した火力は凄まじく、これをチナツさんの指揮込みでも突破できなかったのは私の落ち度です。さらに悪いことに、トリニティでは風紀委員会のバックアップが封じられてしまいます。トリニティでの治安維持活動は、正義実現委員会の領分であり、ゲヘナの風紀委員会はトリニティ自治区内での活動ができません。組織全体が政治的意味合いを多分に含むためです。エデン条約締結間近で、トラブルは絶対に避けなければならない以上、風紀委員会は動けない。だとしたら、正義実現委員会と先生、そして私だけがことに当たれます。

 

「夕方に戦争狂がそっちに行きました、詳しいことは合流してから話せませんか。私は至急トリニティへ向かいます。合流地点の座標を送りますので、そこで待っていただければ」

『わかった。すぐ行く』

 

先生はすぐに行動を起こします。出張中で仕事も多いでしょうに、フットワークがここまで軽いと安心と畏怖が半々ですね。タクシーにはできる限り飛ばしてほしいとお願いしましたが、夜のゲヘナ近郊は渋滞が酷く、運が悪ければ何時間も拘束されます。

 

はい。その運が悪い日がこちらになります。畜生め……何なら前方車両全部爆破してやりたい……!

 

「ダメですねぇ、これじゃあトリニティまで行けません……お客さん、降りて走ったほうが速いですけど、どうしましょう?」

「すみません、ではここで降ります。ありがとうございました」

 

どうしようもないので、渋滞区間はタクシーから降りて走っていくしか無い……そう腹を括った時、聞き覚えのあるエンジン音と声が聞こえました。

 

「ウレイさーん!」

 

呼びかける声は、なるべく反応したくない気品漂うあの声。

 

「何、でしょう」

 

振り返れば、給食部のトラックに美食研究会+1が、渋滞に巻き込まれていました。

 

「こんなところで何をなさっているのかしら?」

「諸事情あってトリニティに向かうところです」

「まあ!聞きましたかみなさん。ウレイさんも同じ場所を目指しているご様子ですわ」

 

それを聞いた美食研究会の面々は感嘆していました。見かけによらずやるなあ、みたいな……簀巻きにされているフウカ先輩は「寄るな!!!!」という意思表示を目でやっています。

 

「あっ、違いますよ!違います!トリニティに行くのは事実ですが……」

「その様子を見るに、急いでいらっしゃるのでしょう?」

「うぐ……」

「ここから走ってもトリニティへ着くのは日を跨いでから。手遅れになるのではなくって?」

 

そうです。ハルナ先輩の言う通り。あの戦争狂をのさばらせていたら、もうどうしようもないのです。

 

ですが、この人たちは美食テロリスト。私がやろうとしているのは犯罪幇助……!天使と悪魔(種族的には悪魔ですが)が囁いてきます、他の手段がまだあるはず、いやいや今行かなきゃどうすんのさ……

 

「行く道は同じですし、これから先が大事なのです。今決断せずに後悔することこそ、私たちにとって致命傷になるのではありませんか?」

 

この言葉が決定打でした。

 

「……トリニティ自治区まで」

「了解!飛ばすよー!」

「道は私が開きますよ〜☆」

 

結局、こうなりました。すみません、みなさん。でもこれには最悪学園間戦争の命運がかかってるかもしれないので……!

 

----

 

ある時は歩道に乗り上げ、ある時は道路を塞ぐ車を爆破し、トリニティ自治区へグイグイ進んでいきます。それはさながら行進する小災害でした。もちろん、トリニティがそれを把握していないはずがなく、各地で検問が敷かれた中、手薄にならざるを得ない路地を正面から突破していきます。そのまま迷いなく左へ右へ、ハルナ先輩の号令を見事なハンドル捌きで実行するフウカ先輩(トリニティ自治区へ入る直前に簀巻きから解放され、ヤケクソになってハンドリングをしていました)。あっという間に水族館へ着いて、美食研究会は中へ入っていきます。私は合流ポイントが近かったので、先生の元へ走りました。

 

「先生!」

「ああ、ウレイ!」

 

数週間ぶりの再会で安心する私もいましたが、それは後。

 

「吽堂リッカという2年生の生徒がトリニティのスラムへ向かいました。目的は正義実現委員会との戦闘、もとい、戦争です。場所は不明ですが、チナツさん曰く、『要塞化が始まったらそこにいる』そうです」

「……そうか。連絡ありがとう、ウレイ。おかげで正義実現委員会と早めに連携が取れそうだよ」

「いいえ、これも私が弱いから……そんなことより、あなたたちは……」

 

先生の後ろには、ヒフミと3人の生徒、そしてハスミ先輩がいました。

 

「こんばんは、浦和ハナコと言います」

「白洲アズサだ」

「ゲヘナ……!」

 

唯一、敵意を隠そうともしない桃髪黒服の小さな少女が、黒い羽根を震わせて睨みつけています。正直不愉快です。

 

「やりますか?上等ですけど」

「ひっ」

「ウレイ、抑えて。この子はコハル。正義実現委員会の1年生」

「先生!……下江コハル。あっ、アンタのことなんか信用しないからね!」

 

わかりきったことを……

 

「すみません、まだコハルはゲヘナに対する偏見が解けてなくて……」

「……いえ、お互いそんなもんでしょう。偏見持つなって方がおかしい話です」

「あはは……とにかく、ウレイさん。お久しぶりですね。精一杯お手伝いさせて頂きますので、よろしくお願いします!」

「ヒフミ、そんなに畏まる必要はありません。私たちゲヘナの落ち度ですので」

 

そう、この件に限っては……いえ、この件と美食研究会の件に限っては完全にトリニティが被害者です。

 

「皆さん、よろしいでしょうか」

 

挨拶が済んだところで、ハスミ先輩が進言します。

 

「今回の問題は、大きくなればゲヘナとトリニティの外交問題に発展しかねない、速やかに処理すべき重大な事件になります。ティーパーティー、及び『万魔殿』がこの事件を正式に認める前に、勝負を決めなければなりません。刻限は夜明け2時間前、午前4時をめどにしたいと思います。しかし、同時に美食研究会の件も処理しなければなりません。そのため、これより部隊を二つに分けて運用します。補習授業部の中でも戦闘が優れているアズサさん、そしてコハルは私の指揮下に入り、美食研究会を。先生、ツルギ、ハナコさん、ヒフミさん、そしてウレイさんは吽堂リッカを相手してください。ツルギは既に捜索を始めています。途中で合流することになるでしょう」

「トリニティの戦略兵器を持ち出すなんて、相当重く見てますね」

「当然です。相手はあのゲヘナの風紀委員長を相手取れるのですから」

 

用心するに越したことはない、ということです。トリニティがここまでしているのですから、心強いですね。私たちは地図を開き、大まかに要塞起点の検討をつけます。最も提案が速かったのは浦和先輩です。

 

「そうですねえ、要塞はどのくらいの人数で建設されるのですか?」

「一人です。ですが、風紀委員会の戦闘資料を見るに、1日でスラム1区画を要塞化できます。一度構築された防御を突破するのは、相当に困難です」

「それはなかなか……手が早いですね。放課後しばらくしてゲヘナ中央区を抜け出して、トリニティ自治区まで来るにはそれなりの時間がかかったはず。早めに見積もって20時ごろでしょうか。現時刻が23時、仮に20時間で1区画を乗っ取るという計算なら、大体7分の1を占領・開発済みですね。ゲヘナとトリニティの区画の単位は同じなので、肌感覚としてはトリニティの中央校舎の2階までが彼女の手中に落ちています。もちろん、正義実現委員会やウレイさんが追ってくることは想定しているはずなので、なるべく開発出来て、対トリニティとして合理的な場所を選ぶでしょう」

 

す、す、と地図を指さし、経路や標高、更には周囲の地形などを素早く読み込む浦和先輩は、歴戦の軍師に見えます。

 

「この辺りでしょうか。スラム街3区域。この辺りは中立の立場を貫く学園自治区が後背にあります」

「なるほど、D.U.やゲヘナと隣接するトリニティで、吽堂リッカは挟み撃ちに遭うことを恐れたんですね」

「その上侵入経路も少なく、更に防御側の射角が多くなる地域になると限られてきますからね。要塞化の起点はおそらくここでしょう。版図を拡げる上では開発しやすい場所を責めるでしょうから、経路としてはこのような感じで……」

 

マーカーで塗られていくのは、一つの「要塞」。5時間後の予想区画まですらすらと浮かび上がらせるこの先輩に底知れぬ感嘆を、地図からそれを浮かび上がらせるあの戦争狂に底知れぬ恐ろしさを抱きます。

 

「ここからは少し離れてるね。ヒフミ、ツルギに連絡お願い」

「了解しました!」

「ここからは急ぐよ。全員、準備は良い?」

 

全員、準備万端です。

 

「じゃあ、作戦開始」

 




吽堂リッカ
スナイパーライフルと建築・改造技術を武器に戦う。要塞改造の手腕はキヴォトスでも随一。弱点は本人の耐久力が紙かつ戦闘が得意ではないこと。ただし、要塞が実質耐久なので敵として相対するとなると厄介極まりない。
銃の名前は「ライン・ライン」。
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