ゲヘナ1年生の連邦捜査部活動   作:watazakana

25 / 39
トリニティと楽園の敵 -防衛戦-

目が、醒める。

 

夜はもう涼しくて、荒涼とした月はスラムにお似合いだ。いや、スラムじゃなくて、もう私の要塞。住んでたチンピラたちは目が覚めたらびっくりするだろうなあ。木材の乱雑なつぎはぎが、理路整然とした建造物になってて、トタンをかぶせただけの屋根が、レンガ造りの綺麗な天井になっている。置かれたドラム缶には可燃物が満杯で、その上銃器も弾薬も山ほどあるんだ。落ちている弾丸や薬莢を鋳なおせば一応形になるからね。私は不良たちを追い出しも攻撃もしない。その辺は彼女たちの裁量だ。私を攻撃するなら戦いだし、従うなら人手として扱おう。防衛戦力は多いに越したことはない。

 

要塞起点近くのやぐらに上って、風を浴びる。夏服はもう寒いな。

 

 

───ねえ、ヒナ、フキ。あなたたちはすごかった。こっちは戦争のつもりだったのに、あなたたちはとてもつまらないというように薙ぎ倒していったよね。あの時、衝撃だったんだ。私が全力で構築した陣地を、眉一つ動かさずに更地に変えた。私はそれを止められなかった。時間稼ぎもできなかった。私の弄した策が圧倒的な力で踏み潰される。すごかったよ。すごかったんだよ。

 

でも、フキは風紀委員会をやめた。ヒナは委員長になって、単独で動くことが多くなった。もう、あの二人は組むことなんて二度とないだろうね。

これは、ヒナとフキのせいだよ。私はあの力に惚れちゃって、それを目指してきたというのに……結局、あなたたちに挑めなくなっちゃったから、私はトリニティと戦争するしかないんだ。

 

夜の暗闇に、なにやら動いている人影を複数見つけた。中には、先生と思しき大人もいる。

 

「へぇ……私に先生を寄越すんだ。ツルギどころか、先生と、正義実現委員会ですらない一般生徒を。私も舐められたもんだね」

 

私の愛銃は好調。まずは先生を狙撃して無力化しよう。スコープ越しにまじまじと見て思ったけど、この人ヘイローないんだ……。

 

距離を測り、照準器を調整。風速、高度を勘定に入れて……まあ大体この辺かな。トリガーに指をかけて、少し力を入れるだけ。さあ、飛ぶぞ。狼煙の弾が。鏑矢が。舐め腐った君たちのリーダーに命中するぞ!

 

しかし、飛んだのは弾ではなく、私の銃そのものだった。手が痺れるどころの騒ぎじゃない。射線を見れば、櫓の壁を複数の弾が貫いている。ここの壁は600mm鋼板にすれば良かったか……いや、それを考えるのは後だ。目下衝撃的なことはスラグ弾が私の手に喰ってかかったこと!嘘でしょ、ショットガン!?ここまで来たの!?どこから、どうやって!?だって、ここに来るまでには少なくとも16基の12mm護衛機関銃と4基の60mm滑走機関砲の自動迎撃に、対戦車地雷原を4箇所、極め付けに30機のミサイルドローンの迫撃と追跡を突破しなきゃいけない!この区画だけでヒナを迎え撃つには不足するけど、逆を言えばヒナでなきゃ突破は困難!!チナツだろうと天雨だろうと、先生だろうと!指揮でこの差は埋まらない。単騎の質で決まる。となると火器管制システムに支障が出た?ここに来てミス!?ありえない!

 

「キヒヒィッ……みぃいいいいつぅうううううけぇええええええたァ〜ぞォォォォオ?」

 

声に、固まる。屋根に立つのは、おどろおどろしい血色のヘイロー。ああ、聞いたことある。トリニティの戦略兵器。トリニティが誇る最高戦力。それが私を見上げている。いや、視認されてすぐに姿を消した。かと思えば眼前に迫るのは膝、衝撃。鼻っ柱を打ってよろめいてしまう。ああ、こいつは、ヤバイ。何がヤバいって、要塞はコイツにかすり傷ひとつさえつけられていない。

 

「ひとつ!ひとつ聞いていい?剣先ツルギ!何故ここまで来れたの?ここに来るまで相当苦労するはず。ヒナのような耐久力でもなければ、怪我の一つ二つはしているはずでしょ!」

 

そう、アレは傷ひとつ負っていない。でもヒナじゃないんだぞ。なんでヒナ以外がここまで来れる?対戦略生徒を想定した火力で、なぜ?

その問いを受けたそれは、長い舌をべろりと出して、あざ笑うように、しかしあっさりと言ってのけた。

 

「治った」

 

治った。思わず復唱してしまう。つまり全部受けて全部回復したということ。信じられない。確かに、よく見れば服は傷だらけだ。夜の暗さでよくわからないだけで。けど、どうなんだ?弾丸より速く動いて全弾避けた可能性と、ツルギの言う通りに被弾してもなお回復できる可能性。いや、どちらにせよ理不尽!!

 

「ふざけんな!これだよこれ!開戦するならド派手にやらなきゃ!」

 

この叫びはどちらも本音だ。理不尽を相手に叫びたくなったし、不思議と胸が高鳴り出すのもまた事実だった。ああ、これ!ヒナとフキに味わわされたのはこれだよ!大昔には巨人を殺した英雄もいたという話だけど、今なら理解できる。その英雄は恐怖の中に高揚を見出していたんだ。

 

さて、とにかくコレとは距離をとらなきゃ。至近距離では瞬殺される。最初に被弾した瞬間に指示を飛ばしていたドローンがツルギに照準を合わせる頃だ。閃光弾を盾に、拳やショットガンの嵐がくるぎりぎりで飛び降り。いや、ちょっと間に合わなかったな。既にお腹へ激痛が走っている。でも、とりあえずこれで足止めはできるだろう。飛び降りた先は絡繰り屋敷。通路は一定区間で分けられていて、私の指示で別の区間に入れ替わる。時間がなかったからレパートリーはたったの2つだけど、変えさえすれば行き着く先は全く別の区画だ。私を追っても迷子になるだけ。そして、私じゃなかったら沢山の自動機銃装置が出待ちしている。並ならこれでKOだけど……まあツルギだし。超再生だか高速移動だか知らないけれど、時間稼ぎならできたことだろう。たとえスラムを片っ端から更地にして直進したとしても30分はかかる。このカラクリに気づけなかった時、スタート地点へ行くのに足が速ければ15分だ。いやあ厳しい。悪条件とはこのことだね。まさか最初っからトリニティの戦略兵器を持ち出してくるとは思わなかった。

 

「あとは先生と、あの生徒たちを45分以内に叩きのめす……その間にツルギの対抗策を見つけ出さないと……」

 

はぁ、厳しい。私の勝利条件は一気に遠くなった。流石トリニティ。やることがえげつない、脳筋、なんちゃってお嬢様。

 

要塞中央まで逃げて、ようやく私は座り込む。椅子なんてないし、あるのは作業台にホワイトボード、組み立てを待つ機関銃パーツ、そしてドローンの映像を映す画面だけ。

 

「さぁて、あいつらは今どの辺かな?」

 

見つけた。入り口に突入したくらいか。じゃあ、私が直接出向いてやんないとね。

 

立ち上がって、ふと、気づく。

 

「愛銃が、ない」

 

仕方がないので、自立砲台からマシンガンをもぎ取って向かった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。