「先生、指示を」
「先ずはセンサーを潰すよ。ウレイ、スモークグレネード。ヒフミ、発熱デコイ。ハナコはリッカ本人の撹乱。夜が明けるまでに絶対抑えるよ」
「チッ……」
特に問答もない戦闘。無味。こんな普通の戦いは、音が一層よく響く。
そう、音。頭の中で、音が響いている。声と銃声と爆発。四六時中、溢れてくる音。戦争の音だ。それに合わせて、私もマシンガンを掃射する。反動きついな、でも撃てる。反撃の射撃が煙の向こうから。まあこれは当然避けられる。場数が違うもの。
先生の勘は冴えてる。センサーは熱感知と光学の併用だったから、この指示は素晴らしく的確で、私にとっては最悪だ。すかさず煙が立ち込めて、私の視界は制限される。
でも、煙があるなら当たるまで撃てばいい。煙幕は障害物じゃない。凡人の身体で動ける範囲は決まっている。熱源は無視だ。どうせロックオンなんかしなくても横薙ぎに掃射くらいできる。ほら、背後にドローンが行ったぞ。ハナコとかいう生徒はどうした?私を撹乱するって話じゃなかったの?
「うふふ……そうせかせかしてると、抜けるものも抜けませんよ……♡」
後ろ!振り返ってぶん殴る!
感触はない、空振り……なんだ?どこにいる?見回していると来るのはウレイの殴打。後頭部、頬、腹、的確な打撃だ。銃を使わないのは射程か?取り押さえないのは機銃を潰しきれてないからか、手の内を警戒しているからか……どちらにせよ厄介だ、射撃音が無いと何もわからない。
「ぐっ……」
あいつ、あの時こんなキレの良い動きじゃなかっただろ。
「あら、声や銃声には敏感なカラダですけれど、やっぱり足音にはそうでもないですね?」
「右!!」
拳は空を切る。誰もいない。確かにハナコは近くだ、至近距離と言ってもいい。でも、すかさずウレイが煙幕で妨害してくる!私の視界は既に煙だらけ。分が悪い!退くか?いや、戦力に関してまだ探れてない。情報のひとかけらも無しには……!
「そう急がなくても、まだまだ時間はあるのですから♡じっくりと、素敵な夜にしましょうね……♡」
「何ッだお前気持ち悪いな!!」
こっちは時間がないっつーの!ああくそ、悩んでいる暇はない!
「先生、あなたとはフツーの喧嘩のつもりでここに来たけど、ごめん。舐めてた」
今回の戦争、ツルギやヒナのような力押しだけじゃない。先生みたいな、私を策で上回ろうとする人もいる。豪快さはない。むしろ不愉快。私に戦術と指揮で勝とうっていうなら、普通は私の要塞に入ってこない。入ってきた時点で私の勝ちだ。小手先の戦術で、私の戦略は崩されない……そう舐め腐ってたのは私の方だ。先生は、勝てる人だ。油断するとこちらが負ける。でも、私だって勝てる。スモークグレネードもデコイも、数に限りがあるはず。私が用意した機銃120基と滑走機関砲32基、ドローン130機の半分をツルギに潰されたとして、それでもあの4人を落とすには十分。
「だから───」
時間はない。けど、この物量で畳み掛けて疲弊したところを叩くまでの時間はあるはず。先ずは小手先、ドローンを20機!
「根性試しだ!物量に勝てるだけの力と根気と体力があって初めて戦争をする資格がある!!」
「あら、物量に任せて逃げる気みたいですね?」
「逃がしません」
「あんた達がヒナみたいに頑丈ならアリだけど、そうでもないでしょ?あんた達の相手は私だけじゃない。私と要塞だよ」
私が指示を出せば、ドローンがそのまま辺りを爆撃する。ミサイルは値段が張ったけど、なんとか揃えられてよかった。爆風に揉まれながら、一目散に撤退。ここからは自動操縦だった各設備を手動で回す。
「さぁて、ちょっと図に乗りすぎたな。一番厄介なのは……」
やっぱり、先生だ。的確に私の扱うセンサーを見抜いてきた。あと指揮能力。戦闘力がなくても指揮でウレイの動きのキレを底上げできる。互いに信頼しているんだ。あとハナコだな。足音が聞こえていないことを見抜かれた。あと何気に素早い。私が彼女から意識を逸らした瞬間に行動している。常にハナコを注視してないと、他人員の支援に回られて厄介。ウレイは先生と分断すればどうにかなる。あのダブルおさげの……普通なトリニティ生は私単騎でどうとでもなりそうだ。
潰す順番は、ハナコ、ウレイ、ヒフミ、最後に先生。そしてツルギとのタイマン、あるいは先生を脅してツルギと戦うときのサポートに回らせる。ハナコは直接戦う力がない。強かったらあの場で私が仕留められているはず。それならもっと前にわかっているはずだし、そもそも私は姿を現さないし。
今のうちに愛銃を捜して、狙撃ポイントへ移動しよう。ドローン18機のシグナルがロストしたから、滑走機関砲を12基と機銃ドローンを50機追加。まだまだ留まってもらうよ。ああ、これも楽しい。真っ当に戦争をやっている!頭の中で響く音によく似ている!ああ、これだよ!これ!理不尽な強さも、踏み躙れる合理も!私の周りで常に溢れて然るべきなんだ!
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「逃げられた……追いますか?」
深夜に割れた電灯が仕事をすることはありません。スマホを腰にくくりつけて、ライト機能で中を照らします。そこに吽堂リッカの姿はありません。先程墜したドローンだけです。
「いや、ここは敵の拠点だから、深追いは禁物だよ」
「おかげで随分情報がつかめましたね。リッカさんにとっては手痛い時間だったのではないでしょうか」
「そうだと良いのですが……」
ヒフミは撹乱に精一杯で、吽堂リッカの姿を視認した時間自体が短いですね。私は反応を探ったついでに殴ってどれだけダメージが入るか探った程度です。ハナコ先輩が一番情報を手に入れられたようでした。
「まずは、吽堂リッカさんその人の特徴についてです。ウレイさんの言う『戦争狂』という評ですが、これは合っていそうですね。今のところ、彼女の目的は戦争そのもの……詳しく言うなら、自分の技術を総動員した戦いが好きなのでしょう。彼女自身は正義実現委員会の幹部ほど強いわけではありません。イチカさんやマシロさんほどの脅威ではないでしょうし、普通の戦場で戦えば私達だけでも勝てるでしょう。ウレイさんの実力なら、殴り合いに持ち込めれば勝てると思います」
「問題は、ここが吽堂リッカお手製の要塞の中であること」
「はい。要塞は守る側が絶対的に有利です。ただ、不可解なことが」
「不可解なことって?」
先生が訊きます。
「この要塞は敵を弾くための設備がありません」
「あっ、なるほど……」
「ウレイさんは理解が早くて助かりますね。今度、トリニティで遊びませんか?今後のお仕事のために、それはもう、色々な……」
「それは後で。それより、この要塞に外へ向けた迎撃機能がない、というのはなぜ?」
確かに、普通は要塞となれば『近づかせない』ための設備が必要です。拠点でもありますし、万一落とされては敵に塩を送る事態になります。戦力をそのまま招き入れるなんてことはありません。入られる時も、絶対に数を減らすでしょう。ですが、吽堂リッカの要塞はすんなり入れた。
「あらあら、お堅いですね♡……おそらく、これがリッカさんの戦い方なのでしょう。要塞とは言うものの、実態は罠のそれです。通路も狭いですし……一人一人確実に制圧するようにできています」
これが組織同士の戦いなら、まず成立しない戦場。組織がこの要塞を運用するメリットは一切ないでしょう。なぜなら完全に武装して外に向けた迎撃をするメリットの方が大きい上、こんなに狭い場所では数の力を生かせないからです。人員という通常戦力を多く運用できる拠点こそ要塞であり、設備を稼働するために人員を多く必要とするのが要塞です。ですが、ここは全てが吽堂リッカのオーダーメイドであり、ドローンや機銃しかない極狭の領域。だからこそ、敵戦力の展開を許さず、一対多数を一方的に強いることができる。この閉じた空間は爆発物の威力を高める一方で、自傷を恐れる人はかえって使いにくくなっている作りにもなっています。空崎先輩やフキ先輩以外の人間を弾く方法……爆発物を使って強引に突破しようとする人に対する答えでもあるでしょうね。
私たちが会議をしている中に、レールを高速で走る音とドローンの駆動音。いざ飛び込まんと大きくなっていきます。
「……どうやら相手の増援が来るみたいだ」
「先生、指示をお願いします!」