ゲヘナ1年生の連邦捜査部活動   作:watazakana

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実力Tire表

S(キヴォトストップクラス):ヒナ、フキ
A+(学園トップクラス):戦車イロハ、完全要塞リッカ、ゲリラサオリ
A(学園組織トップクラス):サオリ、軍略アキヨ、即席スラム要塞リッカ、耐久アツコ
B(精鋭):アツコ、ミサキ、ヒヨリ、素リッカ
C(強い):ウレイ、平均的アリウス生徒
D(並):前線アキヨ


7対1

「……そんな目をされても、素直についていく気にはなれませんよ」

 

相対するは、アリウスの特記戦力、錠前サオリ。ちらりと見える出口の先に、展開している戦力は居ないようです。フキ先輩が居れば、この状況は打開できたでしょう。ですが、この場でどうにかできる人なんていません。でもサオリに従えばまずもって愉快なことにはならないでしょう。

 

私が、何とかする必要がある。

 

状況を確認しましょう。出口はサオリが塞いでいます。出口は一つだけ。一見すればサオリを移動させないことには出られません。

 

私の扱う銃種はグレネードランチャー。壁に穴を開けることなら多分できます。しかし、この部屋の狭さでグレネードを使うのは勇気が要りますね。私たちが戦闘不能になってもサオリが無事だった場合が怖いです。

 

面会室の仕切りガラスを見遣ります。刺さった扉はガラス全面にヒビを入れています。小突けば崩れるでしょう。しかし、それを想定しないはずがありません。サオリは必ず対処するはずです。

 

どうにか頭を回していると、ガラスの向こうから声がしました。

 

「全く、私目当てのお客さんが多い日だね?サオリ。そんなに背が伸びちゃって……どう?アリウスは。青春してる?」

「見違えるほど軽薄になったな。陰鬱で臆病なお前はどこに行った?」

「覚えててくれたんだ。マメだねえ。3回くらいしか会ったことないのに」

「物覚えは良い方でな」

「だから彼女に好かれちゃったんだ」

 

ちら、と吽堂リッカを見ます。彼女は目くばせをしました。

 

『待て』

 

待てってこっちが待てだよ吽堂リッカ。

 

「吽堂リッカ。アリウスに戻れ。彼女はお前を気に留めていた。今戻れば寛大にも許して下さるそうだ」

「アリウスに戻れば、ここから出られるって意味でいい?」

「ああ」

「断れば、どうなるの?」

「それは予告か?」

「いや?気になっただけ」

「お前も抹殺対象になる」

「へぇ……」

 

キンッ、という金属音が聞こえました。

 

「じゃあサオリ伏せてね」

「ッ!!」

「ウレイアキヨ!!来い!」

 

瞬間、割れる仕切りガラス。飛んできたのは手榴弾!

 

すかさず私たちは吽堂リッカの元へ滑り込みます。直後、爆発。面会室は部屋とも呼べないくらいにはすっきりした空間になりました。

 

「こっち来て!」

 

爆煙の中、声の方へ走り出しました。無理やり作った、第二の出口。地下牢の中です。

 

----

 

「しかし、どうやって手榴弾を!?」

「日頃の行いかな!具体的にはヒナフキ狂いの模範囚として信頼を稼ぎつつ、美食(美食研究会のこと)とか温部(温泉開発部のこと)のやらかしに乗じて部品と火薬ちょろまかしてきたの!」

「元から脱獄する気満々だったんじゃないか!」

「あははっ!!脱獄する気なら最初からそうしてたよ?」

 

後ろからは駆けて来る足音が聞こえます。

 

「でもリスクが高いって気付いたんだ」

「そりゃそうだろ」

「安全に、そして確実にヒナとフキを相手するなら、こうした方が良いんだよ。はい、じゃあ右に曲がって」

 

右に、曲が……った先に見えるのはいつか見たガトリング砲台!いつって?トリニティでの吽堂リッカ戦の時です!

 

「おいお前それは!!」

「なんでこれがあるんですか!?」

「ミレニアム謹製『建築くん6号』自家製造バージョンがあるからね」

「まさか、作ったんですか?」

「うん。で、今敷設完了って感じ。レールないから自走できないし固定砲台なんだけど。いやホント、サオリが来た瞬間に起動できてよかった。じゃあ次左に曲がってね」

 

すかさず左に曲がります。直後、ガトリング砲の銃声が響き、やいのやいのと騒がしくなる地下牢エリア。

 

「なんだなんだ温部か?」

「また美食がやらかしたのか?」

「同志か!?」

 

足音はざわめきに薄まりながらもまだ聞こえます。

 

「そういえば、フキはどこに居るの?」

「この期に及んでそれですか?」

「いや、そうじゃなくて。どうせ組んでるんでしょ?だったら、フキと合流するのが先決。はい左」

 

普通に戦略の話でした。

 

「フキは第一校舎、一階の空き教室だ。どうせ人の来ない場所だし、サオリとやらは他戦力をフキに差し向けたんだろうな」

「ゲヘナの本拠地でこれって、正気じゃないですよね……」

「ウレイ、言ったでしょ。アリウスはイカレてるって。また左!」

 

今、アリウスについて考えるのは得策ではありません。憎悪の体現であるかのような足音が、私たちに追いつくその前に逃げ切らないと。このルートは地下牢区画を一周する経路です。今にも崩れた壁が見えてきました。

 

「面会室のほかにもいくつか出口がある。そっちは全部防御を固めておいたから、少なくとも2分は足止めできる」

「2分ですか……!?」

「2分は大きいぞウレイ、この状況なら特に」

 

2分。確かに大きいです。2分走れば600m分の余裕が生まれます。

 

「面会室から娑婆に出て、そのまま第一校舎!OK?」

「はい!」

「ああ!」

 

このまま無人の勾留場を抜けて、地上へ出ます。サオリが通った後であろう道にはどこもかしこも風紀委員が倒れていました。手も足も出なかったのは容易に想像できます。風紀委員会さん、前回の美食研究会脱走幇助と今回の脱獄幇助の件は本当にごめんなさい。非常事態なんです。許して。

 

だんだんと蛍光灯の病的に白い光から、太陽の自然光へと色が変わります。外では銃撃戦が起きていますが、日常と大した変化がないので判別がつきません。しかし……

 

 

砲撃音を学園内で聞いたことはありません。

 

 

砲兵隊の暴発、あるいはイオリ率いる部隊がアリウスと交戦したのでしょうか。そう思って本部の外へ出ると。

 

履帯特有の重厚な剛体がアスファルトをギャリギャリ言わせてドリフトする光景が見えました。戦車……ゲヘナの保有するティーガーです。砲口の向きは真っ直ぐ、ゲヘナ第一校舎へと向けられます。

 

『こちらゲヘナ学園「万魔殿」棗イロハが告げます。所属不明の学外生徒は今すぐに退去しなさい。学外生徒による武力の行使はゲヘナ自治区及びゲヘナ学園敷地内において認められておりません。これ以上の抵抗は……はあ、もういいです。めんどくさいので撃ってください。どのみち外交問題にはさせませんから』

 

----

 

戦木フキが戦闘を開始して15分経過。彼女は既に違和感を覚えていた。姫、ミサイル要員、そして手下。全てに連携が取れているが、何かが欠けている。そういえば殺意がない。前回は研ぎ澄まされていた殺意が今回はまるでない。攻勢一辺倒だった戦いも今では遅滞防御の側面が強い。そんな感覚があった。

 

姫の周囲で強く光る青い光。あれは手下のダメージや疲労を軽減するものだと見当がついていた。地上から延々と撃ってくるミサイルには大量の子弾が隠れており、絨毯爆撃が短いスパンで巻き起こっていた。移動の制限と火力が目的なのだろうとフキは見た。

 

手数、回復、牽制、火力。どれもが揃っていて、しかし欠けている殺意以上の何か。

 

「貴様ら、もしや私が本命ではないな?殺意がないぞ」

 

他に目的が……そこまで言って、気付く。

 

「貴様らの目的、吽堂リッカか!!」

 

戦闘の目的、そして戦術の意図を看破されると同時に、欠けているものを悟られた。「決定打」だ。トドメ、あるいは畳み掛ける役割がいない。そしてその戦力は他に割かれている。戦木フキを足止めしている間に、アリウスは本命を獲るつもりだったのだ。

 

気付いた以上、戦木フキにとってこれ以上戦闘に付き合うメリットはなかった。戦木フキはゲヘナの地下構造を把握している。地上に戻るためのルートも知っている。

 

戦木フキは即座に戦闘をやめて、決闘場から逃げ出した。

 

「……気付かれたか、やっぱり勘が良いよ。アンタは」

 

赤いヘイローの生徒は黒いマスクを顎に下ろし、無線機に言葉を当てた。

 

「ヒヨリ。フキが逃げた。私たちは地上でウレイとリッカを迎え撃つ。オーバー」

『はっ、はい!フキは痛いのが苦しくて逃げたんですかね、こっちに来ませんよね……?お、オーバー』

「いや、あの調子じゃ1割も削れてない。確実に戦闘の意図に気付かれた。想像以上に強い……もし見かけたらポイントを……」

 

瞬間、爆発音。

 

『こちらゲヘナ学園───』

 

「……っ、まずい、ゲヘナに気付かれた。私は姫達を連れて逃げる。姫から貰ったスモークグレネードはいくつ残ってる?オーバー」

『え、えーと、10個あります、オーバー』

「なら十分そうだね。リーダーを拾って逃げて。オーバー」

『は、はいぃ……お、オーバー!』

 

砲弾炸裂するゲヘナの1階を、赤いヘイローの生徒は後にした。

 

----

 

そして、今。

 

「逃がさん」

 

遠く、そして鮮明に聞こえた声。恨みがましさなんてない、ただただ憎しみで乾き切った声。

 

直後、四発の銃声。

 

「あぐっ……!!」

「リッカ!」

 

あの扉を吹き飛ばした銃撃です。それが、吽堂リッカの背中に直撃します。当然吽堂リッカは吹き飛ばされました。おそらく意識も飛んでいます。

 

「はぁ……ったく、こちとら体力も残ってないってのに……!運動しておけばよかったとは、全く思わんがね……!」

 

アキヨ先輩も限界が近いです。これ以上逃げ回るより、本部前で防衛戦をするしかないでしょう。

 

先程の銃声で、イロハ先輩の戦車がこちらを向きました。

 

「ウレイさんに……吽堂リッカ、アキヨさん。そしてそちらは……所属不明の生徒ですね」

 

戦車長は天蓋を開けて、こちらへ向きました。

 

「今日はどういったご用事で?」

「危険人物とウチの生徒の引き取りだ」

 

狩りからの逃走劇から一転、闘争の緊張が走ります。ゲヘナの主力戦車、それを駆る生徒の中でも最も洗練された戦車乗り。通常の銃撃ではまず太刀打ちできない相手です。ですが、相対する錠前サオリも只者ではありません。

 

「すべて却下します。危険人物だろうがなんだろうがゲヘナで問題を起こした場合は風紀委員会の管轄です。他校の生徒が干渉できるものではありません。直ちに帰ってください」

「……そうか。残念だよ」

 

サオリは構えます。イロハ先輩もまた空へと発砲し、開戦の合図としました。ドウ、と戦車が火を噴きます。しかし、すでにその場にサオリは居ません。ではどこか?いつの間にか戦車の砲塔に足をかけていました。……吽堂リッカを肩に担いで。

 

「まだやり合うには早い」

「っ……」

「イロハ先輩!」

 

私は即座に銃口をサオリに向けます。が、彼女は一瞥するだけ。視線を再びイロハ先輩へ。

 

「今『万魔殿』を敵に回す気はない」

「これだけのことをやっておきながら、ですか?」

「これだけに留めているからこそ、だ」

 

サオリは拳銃の銃口をイロハ先輩に向けます。イロハ先輩が行動できないように威圧しながらも、私やアキヨ先輩が攻める隙はありません。

 

「貴様には黙ってもらう。次会う時には、どのような形であれ貴様らが失墜した後だ」

 

銃声。サオリが引き金を引いた……かに思われたその瞬間、予想に反してイロハ先輩は無事です。サオリは飛び退きました。あの反応は、間違いありません。

 

……()()()()()()()()()ありませんが、風紀委員会でも『万魔殿』でもない、第三の増援なら話は別です。

 

「誰だ」

「……間に合った!」

「ウレイまさか、拘留場に入る前に?」

 

はい、そのまさかです。拘留場に入る前に、連絡を入れていたのです。フキ先輩独りよりも、私たちの方が圧倒的に弱いのですから、奇襲さえかけられれば簡単にやられてしまいます。何も対策しない訳がありません。

 

「依頼主はここに居ると聞いたのだけれど、随分物騒ね。腕が鳴るわ」

 

便利屋68の増援です。

 

「ごめん、遅くなった」

「ベストタイミングですよ。カヨコ先輩」

「ねーウレイちゃん、爆弾投げていいのってあの青いのだよね?」

 

サオリへ聞こえるようにムツキ先輩は話します。

 

「はい。私たちを守ってください。できれば吽堂リッカに弾を当てないようお願いします!」

「……これで7対1、ですね。再度警告します。吽堂リッカは風紀委員会による刑期を未だ満了していません。この場に吽堂リッカを置いて直ちに帰ってください」

「8対1だっつの……」

 

更に、米俵のように担がれていた吽堂リッカの意識も戻りました。

 

「っ!?リッカ、貴様───」

「すっごい痛かったけど、生憎こういう刺激はこの前貰ったことがあってね」

「このままおとなしく寝ておけば……!」

「アリウスに戻れる?私、アリウス……というか昔の話嫌いなんだよね。だから、そんな選択はナシ」

 

キン、という音。いつの間にか手元に持っているのは手榴弾。

 

「サオリ、私はもうアリウスと縁を切ったんだ」

「っ───!!」

 

手榴弾から距離を取ろうと吽堂リッカごと投げたサオリ。しかし時すでに遅く、吽堂リッカは手榴弾を手放した直後でした。そのまま成す術なく爆発……するかと思いきや。

 

砲撃音にも似た銃声の直後、鉄が破裂するような甲高い音とともに、破片となった爆弾が辺りの地面に爆発することなく散らばりました。

 

音の方を見ると、大荷物を背負った薄荷色の髪の生徒が、青ざめた顔でこちらに走ってきます。

 

「みみみみみみ、皆さん!!私が渡したグレネードを!!」

 

四方の物陰から何かが私たちの元へ投げられます。

 

「グレネードが来ます!総員防御姿勢!」

 

イロハ先輩の号令で全員が耐える構えをしましたが、炸裂したのは煙幕。

 

「えへへ、こういうお迎えは姫様の方が良かったですよね、私ですみません……」

「いや、よくやった。……第一段階は失敗だ。撤退するぞ」

 

否。煙幕ではなく催涙ガス!あいつらの会話が遠くなっていきます。駄目です、追跡できません。砲声も聞こえないということは、何かしらの対戦車妨害効果もあるみたいです。

 

「は、はい。すみません……私がのろまで……」

「作戦は第二段階へ移行する。すぐに配置へ向かってくれ」

 

聞き捨てならない言葉を前に、私たちはどうすることもできませんでした。

 

 

煙幕が晴れると、サオリも、あの薄荷色の髪の生徒も、物陰に隠れていたであろう生徒たちも、全員が影も形もなくなっていました。

 

 

 

 

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