ゲヘナ1年生の連邦捜査部活動   作:watazakana

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強化訓練‐チュートリアル

爆発。爆発爆発狙撃銃撃爆発殴打。

 

『ウレイ、この戦場の構図がわかった。基本的に隠れられる場所には即席地雷……IEDが仕込まれていて、IEDがない場所は射線が通っている。基本的な砲台の位置は把握した。情報はそっちに送る。校舎内壁で外一周、そしてウレイを中心に動くレール機動砲台で内一周の二重包囲。その中でフキが暴れまわっているって形だ。さながら決闘場だな』

「フキ先輩と吽堂リッカ、組めば強いのはわかっていましたが……!」

 

旧校舎の空き教室に潜り込み、息を整えます。旧校舎は廃墟となって久しい場所ですが、そこはゲヘナの旧校舎。アビドス校舎よりも若干広いです。構造はシンプルで、銃撃戦をするには遮蔽物が少ないのですが、フキ先輩が旧校舎をぶっ壊し続けているせいで遮蔽物は増えつつあります。

 

『包囲している内周砲台を潰したい。やるなら今だ。校舎壁面は奥に逃げ場がない。今、ウレイの居る教室前に集結しつつある。外周砲台は潰したか?』

「はい、見つけ次第」

『なら、確実に隠れられる場所は増えている。撃ったらすぐ移動だ。ウレイが移動していた場所の中で安全なところをナビゲートする。合図で撃て』

「……はい」

 

包囲しているのは吽堂リッカ謹製のレール式機動砲台です。なぜこのような状況なのか。それは私が「強くなりたい」と言い出したことが始まりでした。

 

♢ ♢ ♢

 

 

「これより戦木式応急強化訓練を行う」

「私はやらん。帰らせていただく」

「とか言ってるヤツはいい標的だ。普通にボコられる」

「……だいたいなんで私が戦わなきゃならん。間違っても前線に出られるような人間じゃないだろ私は」

 

やけに整った中庭の中、尤もな指摘から始まります。

 

戦木式強化訓練を受けるのは私とアキヨ先輩。教官は便利屋の皆さんとフキ先輩です。

 

「まず最初に言っておく。この訓練は基礎を軽視する。いわゆる一夜漬け勉強と一緒だ」

「話を聞けフキ」

「この4日間で、少数精鋭の戦力による猛攻を凌ぐ術を教えるだけだ。より実戦的な環境で試行回数を重ねる……高難度の死にゲーと同じ環境に置く。協力してくれるのは便利屋68の諸君だ。アルやハルカは気乗りしないだろうが、彼女らは風紀委員会を振り回せる程度には十分強い。一流の傭兵組織として、価値ある戦訓をくれるだろう」

「えっ、今私たちのこと一流って言った?そうよね!」

「おい」

 

フキ先輩はアキヨ先輩に待てのジェスチャー。

 

「ここでは役割を分担する。二人一組、ウレイが武力担当、アキヨがオペレーター担当だ。ウレイは絶対に倒れてはならない。アキヨは常に万全の環境を調えろ。その為なら何をやっても良い」

「それって……」

「アキヨは後方支援に徹しろという意味だ」

「それならまあ……」

 

アキヨ先輩も馬鹿ではありません。訓練の必要性を承知しているからこそ、渋々了承しました。

 

「では簡単に説明だ。これから旧校舎に移動し、屋内でゲリラ戦を行う。実際は市街地戦になるだろうが、まずは相手の得意領域の特性を掴め。風紀委員会に掛け合った結果、リッカの協力を貰えるようになった。なおゲリラを仕掛けるのは私と建築くん6号によって構築された仮想アリウス陣地だ。便利屋の諸君には狙撃とIEDの敷設を担当してもらっている」

 

確かに、各人の個性からすれば納得の配役です。

 

「ルールは単純。この戦木フキをバテさせるか、二人揃って旧校舎から脱出するか。このどちらかを満たせば勝ちだ。一方で、ウレイが倒れる、あるいはアキヨが捕まる、そしてどちらか一方だけが脱出し3分経過。どれか一方を満たした場合、敗北になる。この応急強化訓練は、2回目の勝利で終了だ」

 

なるほど、私たちは一蓮托生というわけですね。まあ、それぞれ単騎で集団戦に対応できるほどの実力はありませんからね……

 

「何か質問は?」

「あの、旧校舎から出ることとフキ先輩達をバテさせるって難易度釣り合ってますか?」

「釣り合わん。そもそもこの2種は難しさの種類が違う。撤退戦と撃滅戦は基準が異なる。単純比較はできん」

「フキがバテるという基準がわからない。そもそもバテたことあるのか君は?」

「基準は私の腕に装着しているスマートウォッチの心拍数が220を超えるか、私の機動力が疲労により明確に落ちたと便利屋諸氏が判断するか、私がギブと宣言するか、いずれかの条件を満たすこととしたい。ちなみにバテたことはある」

 

あのフキ先輩が?私たちは怪訝な顔をしました。

 

「ヒナと演習した時に夏バテした」

「ウレイ、あの腕時計スッたりできないか?工作は私がやる」

「ズルしたって何にもなりませんよ!」

 

一気にフキ先輩バテさせ作戦は無しの方向になりました。

 

「他に質問は」

「あ、ありません」

「便利屋が旧校舎に乗り込むことはあるか?」

「ノーコメント」

「あるってことかよ……資材の調達方法は?」

「手段は問わん」

「お前の持ってるアサルトライフルと拳銃は何だ。得物はショットガンじゃなかったか?」

「言ったろ、環境に合わせると。じゃあ時間だな。これより旧校舎へ移動する」

 

一方的に打ち切られた質疑応答に、アキヨ先輩は「は!?」と声を上げました。

 

「おい、まだ質問は終わって───」

「アキヨに質問をさせると本当に終わらなくなるのを思い出した。これ以降質問は一度に二つまでだ」

 

♢ ♢ ♢

 

電気が不通で影の多い旧校舎の教室で、息を整えます。

 

『砲台は全部で14基。今12基が集まっている。今なら包囲を破壊できるぞ。残り2基は動く気配がない。明らかに意図があるが……』

「それを見越しても撃つしかありません。お願いします」

『わかった。スリーカウントで撃て』

「了解」

 

レールを滑走する音、機銃砲塔がこちらへ照準を合わせる音。

 

『3』

 

無音の緊張。

 

『2』

 

まず壁越しの掃射。机で防ぎます。

 

『1』

 

机の木の部分が粉微塵になった瞬間に、壁がぼろぼろと崩れ落ちました。対象が露になります。

 

『撃て!!』

 

ボロボロになった机を蹴り飛ばし、次の掃射が来る前にグレネードを砲台へぶちこみます。念入りにもう2発。吽堂リッカの砲台ならこれで!

 

『……よし、包囲の半壊を確認。ウレイ急げ!』

「はい!」

 

教室を駆け出て、合流エリアまで急ぎます。その場所でアキヨ先輩と合流して、フキ先輩をかいくぐり、校舎から脱出する!

 

『大丈夫、フキはさっきの場所に向かっている。問題なく合流できるはず』

「わかりました。IEDに気を払いつつ、急いで向かいます」

 

階段を駆け上りつつ、下の階段にはデコイ兼邪魔用に爆弾を落としておきます。上階へ上がれば、またも日光だけ照らす廊下を駆けます。しかし、すいすいと行けるわけではありません。窓からは常にアル先輩の狙撃という脅威が私を見つめています。3~5秒に一度の狙撃、それが5回。10秒~15秒のリロード時間を挟みます。普段中距離を領域とするアル先輩ですが、長距離でもその命中率は陰りを見せません。これがあの時の、手榴弾を撃ち抜いたライフルだと思うと鳥肌モノです。

 

ともかく、一定間隔でこちらを正確に狙う弾丸を手持ちの盾などでしのぎつつ、なんとか合流エリアまで来ました。

 

「アキヨ先輩!」

「来たな、作戦最終段階!射撃頼んだ!」

「はい!」

 

校舎から出るにあたって、フキ先輩を切り抜ける方法は限られています。真正面から戦えば3秒後にノックアウトが保証されている相手とは、そもそも出くわしてはいけません。つまり、遮蔽物や階層をフル活用しなければならないのです。フキ先輩の役割(ロール)は至近距離決定打ですから、階層を貫通しての攻撃はできません。ですから、私たちができること。それは、フキ先輩から離れた場所で垂直移動……床を抜いて一階まで最短時間で移動するという荒業です。

 

私のグレネードで、校舎の床を爆破していきます。1枚、2枚、3枚、4枚……最後の1枚まで念入りに。

 

「周囲にフキの反応はない。今なら行ける!」

 

とはいえ、高所からの落下は普通に効くので、1階ずつ勢いを殺して降ります。最後まで降りて、出口まで来た時。

 

「……さすがに、出口は固めますよね!」

 

残り2基の砲台と、備え付けられた大量の地雷。

 

「アキヨ先輩伏せて!」

 

幸い私の武器は範囲爆発攻撃に長けるので、何発か撃てば全てが沈黙します。正直こんな場所で時間を食っていられません。爆発に次ぐ爆発で、辺りを煙が包んだころ。

 

「……正直、ここまでやるとは思ってなかったよ。フキの見込み以上だ」

 

冷たい刃物を喉に突きつけるような声。あっまずい。アル先輩だけ警戒してて、カヨコ先輩のことを考えてなかっ……

 

「教訓だね、ウレイ。私たちも、アリウスも、警戒すべきは一人だけじゃない」

 

……恐怖の銃声が鳴り響きました。

 

 

 

♢ ♢ ♢

 

 

 

「はい。というわけで反省会を行う」

 

リザルト発表です。作戦時間6分30秒(早期決着型の動きにつき低評価)。弾薬消費は多大(最悪評価)。校舎損壊度は大(高評価)。私の評価は中程度、アキヨ先輩の評価は低、総合評価は10点中4点でした。

 

「なんでだ。私十分やっただろ」

「じゃあアキヨからだ。まず、オペレーターとしての自覚が足りん。やるべき仕事だけやっているだろ」

「役割はそういうもんだろ」

「確かにそれは正しい。だが相手がアリウスであることを忘れるな。ウレイ、コイツと組んでどうだった?先生と比べてみろ」

「えっ」

 

急に話を振られて、慌てて答えました。

 

「そうですね……アキヨ先輩の作戦は、仕込みがないです」

「うぐ……」

「その場その場の対処は的確なんですけど、それが後々に活きないというか……」

「ぐぐ……」

「あと対処が的確なだけに戦略が安直ですね……」

「ぐぅ……」

「ウレイの評価は実に的確だ。付け加えるなら、アキヨには環境を整える気概がない。今のアキヨは知識でごり押しているに過ぎん。その場その場の戦術は光るが、そこに戦略性はないし、ただの補助に留まっている」

 

アキヨ先輩が反論できないまま、畳みかけるようなフキ先輩の説教。

 

「補助以上のことができないという考えは捨てろ。オペレーターにできることはもっとある。ウレイが射撃と移動を繰り返すだけで理想的な環境が仕上がるようにしろ。せめて先生の半分くらいはやれ」

「そうは言うけど、じゃあどうしろって?」

「それを考えるのが『知恵』だ。2回目以降に期待する。さて、次はウレイだ」

「は、はい」

 

身構えます。

 

「まず経験に頼り過ぎ。そこかしこボカンボカン派手に暴れ回ったら位置が速攻でバレる。気軽に弾薬を使うな」

「で、ですが、フキ先輩も暴れまわっていましたよね」

「デモンストレーション……というか、あれは単純に障害物を増やすのと、定期的に位置を知らせることでどのくらいの速さで移動するか、という情報の周知を兼ねていた。次からは音をたてないようにする」

 

あの、指摘よりも次回予告の方が怖いです。

 

「それと、床抜きによる垂直移動の発想は悪くない。しかし、出口を一つに絞っている以上、私たちは出口で待っても良いんだ」

「あっ」

「あとリッカからの伝言だが、『マト乙。実戦なら軽く30回は負けてる。もっと遮蔽と爆発物意識して動けないの?ちゃんと攻撃が効くんだからフキみたいな動きしてると秒殺だよ。あとアキヨは随時移動して。移動すらしないで指示なんてよくできるね、正気を疑う。二人とも、次からはもっと実戦気分でやってね』だそうだ。カヨコさんからは何かあるか?」

「……フキの言う通り、二人のセンスは悪くないけど、余りにも実戦慣れしていない。でも実戦慣れしてないだけ。……スタートラインが思ったよりも前でよかった。あとは試行回数稼ぐだけだから」

 

あの、カヨコ先輩。難易度上げる宣言しておいて「あとは試行回数稼ぐだけ」って、怖すぎますが。これで2回クリア?無理では?

 

「基本ルール、実力確認の実践演習も終わった。これから20分の休憩を挟んだのち再スタートだ!作戦会議するなり休むなり、やれることはやっておけ!ムツキ、爆発物の再設置!カヨコさんは───」

 

フキ先輩はそれぞれに指示を出しながら、校舎の中へ入っていきました。

 

「……ウレイ」

「はい、アキヨ先輩」

「終わったらリッカぶっ飛ばすぞ」

「はい……」

 

地獄の強化訓練は、まだ始まったばかりです。

 

 

 




あけましておめでとうございます。今後ともゲヘナ1年生の連邦捜査部活動をよろしくお願いいたします。
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