ゲヘナ1年生の連邦捜査部活動   作:watazakana

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Eat or Die!!

がたん、がたん。酷い振動で強かに背中を打ち、目が覚める。荷物があるということはトラックの荷台だろうか。まだ全身が痛い。Flak41改の砲撃の爆風を喰らったせいだ。直撃でもないのに意識を持って行かれた……連中、砲弾にどんな改造を施したんだか。

 

あの時のチンピラ集団に怨嗟の声を漏らして、隙間から差し込む光の方を見る。広くても地元、どの辺りなのかは風景だけでわかる。ヘルメット団の本拠地ならそう時間はかからない。機を見て逃げ出せばいい。そう思っていたんだけど、その風景が問題だった。

線路、砂漠、廃墟と化した駅舎が流れていく。

 

────アビドス郊外の砂漠地帯。キヴォトスの中でも有数の「通信不可能地帯」。だめだ、逃げられない。それじゃあ、逃げ出せたとしても誰にも伝えられない。しかも砂漠だ、よりにもよって。市街地までこの身をド平地に晒しながら逃げる?無理だ。絶対に見つかって撃たれる。あの火力支援もあっちゃ逃げるもくそもない。途端に、怒りが不安や恐怖に変身する。未来がない。今がもう昼頃で、光が荷台を熱くさせているのも私の気勢を削いだ。……攫われてから、一夜明けているんだ。私は人知れず埋められるのかな。状況がわかれば、他の……アビドスのみんながどう思っているか、なんて考えてしまう。最近は先生に本当に迷惑していたけど、それを正直に言いすぎたかな。カリカリしたまま、帰っちゃったから。連絡が途絶えちゃって、そのままアビドスを去ったって思われてるのかな。

 

……違うのに。裏切ってなんかないよ。皆に誤解されたまま死ぬのはやだよ。

 

あの子はどうしたんだろうな。銀の髪と水晶のヘイローが綺麗だった、ゲヘナのあの子。私、あの子に良い思いを抱いてなかった。私たちの事情も知らないで、ヘルメット団に要らない喧嘩を売るだけ売って、アヤネちゃんからは結構好かれて、それでお弁当食べた次の日から来なくなった。私たちを心底馬鹿にされた気がした。でも、結局あの子だって、それなりの事情があったのかもしれない。そりゃそうだもの、あの子はゲヘナの生徒。アビドスだけが全てじゃないし、ゲヘナは治安が悪い学校だし……あの子も、余裕がなかったのかもしれない。

 

「私、人のこと言えないじゃん……」

 

過去の私が、急に愚かしく思えてきて、情けなくて、皆に誤解されたまま死ぬのが悲しくて、怖くて。感情は涙になって決壊する。抑えようとしても、奔流をおさえるなんて無理で、嗚咽が自然と出てくる。

 

「うぅ、ひぐっ……ごめん、有馬さん……」

 

次の瞬間、私は爆発に巻き込まれて砂に放り出されていた。

 

 

----

 

前日夜、アビドス砂漠

 

「ねえ、まだ~~?寒くて凍え死んじゃいそうだよ……」

「イズミ、ちょっとは静かにしてよ!言葉にしたらもっと寒くなっちゃうじゃない!」

「やはり、乾燥した木材は持ってくるべきでしたね~☆」

 

美食研究会の皆さんと、アビドス砂漠へやってきました。砂漠の中を泳ぐワームの親玉と思しきロボっぽい蛇?を撃退したり、砂漠の生き物を狩ったり、サボテンを採集したりしています。今は余りにも寒いもので、食事がてら拾った諸々に榴弾や雷管で着火できないかと試しているところです。

 

「……大変ですね、フウカ先輩」

「本当よ」

 

訂正します。給食部のフウカ先輩も拉致されてきました。あのロボワームと砂塵のせいで車載調理器具が全滅しています。可哀想に。酷いしかめっ面です。

 

「ふふふ、焚火ができないのであれば、ここで夜を過ごすのはかなり危険ですわ」

「じゃあここ2時間の奮闘は何だったのよ!」

「フウカさん、これは『砂漠のど真ん中で焚火はちゃんと準備しないとできない』という教訓を得たのです。ですからこれは成功の母とも……」

「言わないから!」

 

延々と続きそうな漫才に、私が割って入ります。ハンドルを握るフウカさんだけでも建設的な話が出来れば……

 

「じゃあ、市街地の方に車走らせた方が良いですね」

「そうね……この線路に沿って行けば、何かしらの建物があるだろうし、そこで夜を越すのが安全ね」

 

もう寒いのは嫌だという意見の一致から、フウカ先輩は爆速で車両をかっ飛ばします。市街地につくのは、意外と早かったです。ともかく、風を凌げる建物は偉大です。廃ビルの一室には、使われていなかったガスボンベもあり、しかも正常に動作しました。これで火を囲んで暖を取り、遭難者にしてはかなり幸運な夜を過ごしてめでたしめでたし……

 

と、言うには些か早かったのでした。突如蹴り飛ばされるドア、臨戦態勢を取る私たち。乗り込んできたのは……

 

「武器を捨てろ、アビドス対策委員会だ!」

「え、皆さんなんで?先生も……」

「……あれ、ヘルメット団かと思ったらウレイちゃんじゃーん。そっちの人たちは?」

 

アビドスの方々は武器を降ろし、それを確認して美食研究会も武器を降ろします。傍らで、私は一人の欠員に気付きました。それは一度置いて、先生たちと挨拶です。

 

「ウレイさんのお知合いですの?」

「はい、アビドス高校の……あとはシャーレの先生です。皆さん、こちらはゲヘナの美食研究会と給食部です。食材探しをしてたら遭難してしまって……気づいたらここに」

「うへぇ、こんな遠いところまで。他校の自治区まで来ちゃって大変だね」

 

そちらはなぜ?と問い返すと、案の定、セリカさんが行方不明になってしまったようで。お互い自己紹介がてら、状況を説明しました。

 

「誘拐……」

「そ。この辺で連絡が途絶えちゃってね。これから行方を追うんだけど、手伝ってくれたりしない?」

「事は一刻を争うから、かなり急いでる」

 

シロコ先輩の視線が若干キツイ。そうですよね、だって、いきなり来なくなったんですから。そっちからしたら、私も結局他校と同じ、憐みはしても助けは絶対にしない『世間』なんですから。

 

「わ、私は……」

 

そうしたい。手伝いたい。でも、それをすれば、「きっと戻ってこれない」。セリカさんを助けてしまえば、最後まであれよあれよとアビドスの問題に付き合ってしまう。それは、アビドスにとって有難いことでしょう。ですが、それは、自由ではありません。道徳規範ひとつしかありません。それは、私が道徳に操られているだけで、自由意志の元やっているわけではない。それは、同情。私が彼女らを「可哀想だ」と思う傲慢があります。そんな気持ちでアビドスを助けても、きっと後で醜い心が露見するだけです。

私がしたいのではなく、私がしてやってる。そんな状況が嫌なんです。でも、そんなの言えない。

 

たった3秒の沈黙に、ハルナさんが口を開きます。

 

「お断りいたしますわ」

「……どうして」

「私たちはゲヘナ学園の生徒ですわ。対して、そちらの問題はゲヘナが絡まない、アビドスだけの問題。勝手にゲヘナが介入でもすれば、それがどのような政治的意味を含むか、わからないわけではないでしょう?」

「あれれ、それ言っちゃうの?既に他校の自治区内に入ってる美食研究会が?」

「私たちは美食のない土地へは行きませんの。此処にいる理由も、アビドスの美食を求めてきただけですのよ。そして、ウレイさんはその案内人をしていただけのこと。本質的にあなたたちと何も関係がありませんわ。無理にでもウレイさんを連れていきたい、私たちを戦力としたいと言うのなら、こちらも全力で抵抗させていただきますわ」

 

再び、両者臨戦態勢。先生は、こんな事態を望みません。きっと退いてくれる。でも、私はこのままじゃいけない。どう言えばいいのかわからない。何が正解なの?

 

「……ラーメン」

 

先生は、ただ一言言いました。

 

「え?」

「柴関ラーメン。そういう名前のめちゃくちゃ美味しいラーメン屋さんがアビドスにある」

「……なるほど」

「今誘拐されてるセリカって子は、そのお店のアルバイトなんだ。彼女は柴関ラーメンにとって必要な存在なんだよ」

 

ラーメン、という言葉を聞いて、美食研究会の目の色が変わりました。

 

「まさか、ラーメンを独り占めするために誘拐を!?」

「絶対違うから」

 

イズミ先輩とフウカ先輩の傍らで、真剣な面持ちのアカリ先輩が問います。

 

「そのラーメン屋さん……食べ放題とかありますか?」

「あるわけないでしょ、ラーメン屋だって言ってんじゃん!」

 

反射でツッコむジュンコさんですが、先生が出来る限り奢ってくれると言った結果、アカリさんが見たことない表情をしました。違うんです先生、その人お金に困ってるわけじゃなくて単純に食欲が無限にあるだけなんです。多分「イッパイ クエル ウレシイ」なんですこの顔。

 

「ウレイさん」

「はい」

「案内を引き続きお頼みしたいのですが」

「……はい!」

 

ハルナ先輩の意図を理解しました。私への助け舟だったんですね。少なくとも、私のセリカさんを助けたいという気持ちとアビドスへの介入という不可分だった問題を切り分けてくれました。「アビドスのことは、また考えればいい。今日は人助けをしよう」、そう言える口実を、作ってくれました。ハルナ先輩のことを、少しだけ見直しました。

 

----

 

昼頃、アビドスの砂漠

 

カンカンと太陽が照りつける、乾いたクソッタレの昼下がり。砂漠をトラックで行くのは至難の業だが、線路のあたりは補強されていて良い道になっている。しかも、限界過疎のこの自治区だから、爆走したって良いんだ!なんたって誰もいないからな。最高だろ?

 

エアコンをガンガン効かせて、冷たい風と熱い日差しを楽しみながら黒見セリカをランデブーポイントへ運ぶ。するとたんまり金がもらえる。いやあ、まさかFlak41改まで貸与してくれるたあ太っ腹なお客さんだな。世界みんなこういう奴らで溢れてくれれば良いのになあ。さて、こいつを運び終わったら金は何に使おうかな。新しい服を買っても良い、豪勢な飯もできるな!今日は神様に愛された日だ!最高!

 

なーんて、考えていたこともあった。

 

「おい、後ろのアレって、うちらの車か?」

「何?」

 

サイドミラーを見ると、黄色い車が爆走している。しかもその車、助手席の女がフロントのフレームに足かけてこっちにスナイパーライフルを向けている!!

 

「やべえ!アイツら、うちらに銃向けてやがる!!」

 

----

 

彼女のスナイパーとしての腕は上等かつその強みは唯一無二だ。今、彼女は右足をフロントフレームにかけて、しっかりと構える。しかしそれは不動の剛体というわけではない。テロ行為に明け暮れる彼女の柔軟かつ鍛え上げられている体幹は、車の揺れを受け流すサスペンションと化していた。彼女の頭、そして銃だけは、縦にも横にも、前後にも動いていない。彼女は『立って』構えている。最高速度ゆえの荒々しい揺れに、一切の影響を受けていない。振動の無効化をフィジカルで行えること。風紀委員会と対峙できるだけの戦闘力の所以である。

 

今、彼女は引き金を引いた。弾が放たれ、蛇行回避しようと試みるトラックの左後輪を優雅に貫いた。

 

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「照準、合わせます!」

 

アカリさんが、足を損傷し動きの鈍ったトラックに榴弾を撃ち込みました。エンジンルームに直撃し、大爆発を引き起こします。吹き飛ぶトラック、確かにセリカさんと思しき人影も投げ出されています。

 

「セリカちゃん発見!」

「半泣きのセリカ発見!」

「うっさい!泣いてなんかないし!」

 

とりあえず、セリカさんを救うことはできました。砂まみれのセリカさんたちは、再会を喜んでいるようです。良かった。

 

「それで、ウレイさんはどうしますの?」

「え?」

「感動の再会、ではなくって?」

「……そう、ですね。でも、今の私はゲヘナ学園のイチ生徒です」

「あら、私たちは勝手に美食のために動きましたけど、ウレイさんは違う。一度は食卓を囲んだ仲なのでしょう?」

「……」

「また味わいたいのではなくて?貴方の心を奪った食事を」

「……そう、ですね」

 

私は、まったくもって浅い人間です。先生みたいに立派な大人というわけではないし、美食研究会のように熱中している、なんてこともない。勉学も平均で、運動もそこそこ。それでいいんだと思っているし、私が望むものは、それなりに楽しい高校生活です。シャーレに行かない高校生活は味気なくて、でもシャーレに居るとなんでもかんでも抱え込んでしまいそうで……私が望まない方向でガチにならざるを得ない、というのが、怖くて。そして、「やらなきゃいけない」という義務感の奴隷になりたくないんです。私が部活動でやることは、「自由」のもとでありたいんです。でないと、やり遂げられないから。気後れしちゃうから。だから、「この先」が怖かったんです。前向きに踏み出せる理由と、アビドスの皆と対等に向き合う覚悟が欲しかったんです。

 

どこか、誰かを目で捜しているようなセリカさんへ、一歩踏み出します。

 

「セリカさん」

 

くだらないかもしれないけれど、前向きに踏み出す理由が一つできたから。

 

「あとでラーメン、一緒に食べない?」

 

 

 

 

 




連邦捜査部シャーレ 人員構成

先生:指揮官的な役割を持つ、シャーレの顧問であり責任者。超法規的措置の主体であるため、権限やできることの範囲で言えば連邦生徒会の一室にも匹敵する。部隊指揮の腕は優秀通り越して最強の域であり、多対一がなぜか成立する上になんか勝つ。なんで?

有馬ウレイ:部員一号。先生の護衛や補助などを行う。先生は護衛としてウレイを扱いたがらないので、専ら助手として業務を手伝う役が多い。戦闘の腕は中の上。どこか情を持つことを忌避している節がある。
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