それからというもの、私はシャーレの正式な部員として所属することになりました。アビドスとゲヘナを往復し、先生の手伝いをしたりゲヘナ近隣のブラックマーケットで聞き込みをしたり(というのも、ヘルメット団の所有していたFlakが違法改造品だったようです)、残党狩りをしたり、対策委員会の会議に出たり、何かと忙しない日々を送っています。セリカさんの件から、ヘルメット団を見かけることはなくなりました。これは大変良いことです。美食研究会は柴関ラーメンを大変気に入ったようですが、他にも追い求めるべき美食があるとかで、今度はミレニアムだか百鬼夜行だかの自治区へ行ったり来たり飛んだり跳ねたりしているそうです。
そんな、新しい日常にも慣れてきたある日のことです。新しいアビドスの溜まり場である柴関ラーメンに、見慣れないゲヘナの4人組……いえ、ひとりは見覚えのある4人組が現れました。確かあの子は……そうだ、伊草さん。いつもおどおどしているのが特徴的で、覚えていました。
どうやら4人は金欠の様子……を通り越して極貧です。580円のラーメン1食を分け合うって普通見られない光景ですよ。大将さんが気を利かせてドーンと大盛りにしたラーメンを、屈託のない笑顔で分け合う4人。対策委員会のみんなとは柴関ラーメンおいしいトークで大盛り上がり。このゲヘナ生たちも柴関ラーメンの話を聞いてやってきたのかな。伊草さんも、学校ではどんな時でも落ち着かないようで心配になってくる様子でしたが、今は少なくとも落ち着けているようで、少し安心しました。さて、幾らかの談笑のあと、4人とは別れて帰路に着きます。
久々にゲヘナの中でも温厚な人たちと出会いました。まだゲヘナ学園も捨てたものではないですね。
そう思っていた時期が、私にもありました。
「………………」
「…………」
ヘルメット団の襲撃が消えたと思ったら、次は放課後傭兵。で、その元締めはあの4人。便利屋68、とかいう部活(企業?)のリーダーはすごくバツが悪そうな顔をしています。ですが、まあ他の3人がやる気なので、当然私たちも応戦します。
「なんかすみません、ウチの学校が」
「ううん、ウレイの謝ることじゃない」
「ゲヘナ学園は沢山の生徒が居ますからね〜☆」
「そうよ!悪いのはアイツら!とっとと倒すわよ!」
「な、な……なんでこうなるのよぉおおおおお!!!?」
銃声、爆発音、喧騒の中で、魂の叫びがこだましました。
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さて。便利屋68の皆さん。強いです。先生の指揮があって辛うじて優勢を取れています。いや、あのリーダーが及び腰で士気が低いので、それも込みでようやくこちらが優位。あの強さは個々の強さだけではありません。明確に分担をしています。爆弾を撒きながら弾丸もばら撒く銀髪の子、爆発する弾丸で回避行動を取らせるリーダー、そのタイミングに合わせて背後からショットガンのゼロ距離射撃を狙う伊草さん、そしてようやく見つけた隙を完全にカバーする目つきの怖い人。それぞれが完璧に役割をこなしています。つけいる隙がありません。
「まずはハルカとカヨコから崩そう、ハルカはホシノが引き受けて。シロコはドローンでカヨコを集中砲火。火力の切れ目をなるべく作らず、リロードと射撃を交互にね」
ホシノ先輩が伊草さんを抑えて、シロコ先輩が目つきの怖い人をマークしています。ノノミ先輩が傭兵団を牽制しつつ、セリカさんと私で切り込みますが、先生の指示がないときっと成立しません。先生の指示はシロコ先輩に集中しているのでカヨコの視線の向きを特に見ているのでしょう。シロコ先輩から視線が離れた時にすかさずシロコ先輩の弾丸が飛んでいます。対してホシノ先輩と伊草さんの戦いは苛烈です。伊草さんはどれほど撃たれても倒れず常に背後を取り続け、ホシノ先輩は向かってくる伊草さんの射撃を盾で受けつつ容赦なくカウンターして距離をとります。
「セリカさん、リーダーを狙って!」
「言われなくても!」
そして、私の前に立ちはだかるのは、銀髪の子。名前は確か、ムツキ。
「やっほー、元気してる?」
「ムツキ先輩、ここは退いてくれませんか」
「んー、やだ!だってこれ仕事だし、そういうのはアルちゃんが決めるコトだから」
「そうですか。依頼人の方が気になりますが、じゃあゲヘナらしいやり方で退いてもらいます」
「あははっ!力尽くだね!いいよ、じゃんじゃんやり合お!!」
最初は単純に撃ち合います。グレネードランチャーの攻撃範囲と火力に気づいたムツキ先輩は、すぐに移動が主体の戦い方になりました。マシンガンで牽制しながら、爆弾で攻める戦い方です。あのマシンガンの長所は射程距離。長距離から弾を撒いて多数を攻撃する銃種です。距離を置けば置くほど有利になります。加えてあの爆薬量。彼女の基本的な戦い方は「近付かせない」、これに尽きます。おそらく、常に爆弾を自分の足元に忍ばせているのでしょう。爆発が砂を巻き上げて投げた爆弾を埋もれさせ、また爆発すれば砂がまた爆弾を埋めます。独特な移動パターンは爆発と共に逐一変化しているあたり、どの辺りに爆弾があるのかは予想がつきます。故に、接近ルートを限定される。接近すること自体が無理難題に近いです。しかし、私の間合いと彼女の間合いは被っている上に、彼女の方が射撃の腕が上等です。私は近付かざるを得ません。格闘になっても抑えなければ、セリカさんは背後から銃弾の雨を浴びることになります。
さて、近づくのが無理な話、というのは、彼女がセットした場でルールに則った攻略をする場合の話。私はグレネードランチャーでその辺を撃ちます。爆弾のところに命中すれば、より大きな爆発が砂を撒いて、煙は私たちの視界を塞ぎます。
「ちゃんと気づくなんてやるね〜、でもさあ、それを予想してないとでも思ってるなら、かわいい後輩ちゃんだね」
くふふ、という笑い声が聞こえた方を撃ちます。しかし、手応えはありません。逆に、後頭部から衝撃。
「っ、何処!」
「マシンガンは接近戦だとアサルトライフルとかサブマシンガンに弱い、だから距離を置く、爆弾は詰められないための防衛手段、じゃあその爆弾の壁をグレネードで一斉に取り払えば、私の視界を封じつつ近づける。それに、私の妨害が主目的、でしょ?そっちは適当に撃って当たるし」
作戦が看破されています、まずい。看破されるなら、対策も持っているということ。
「でもさあ、そんな弱点とか戦術とか、把握してないわけないよねぇ?」
打撃、打撃打撃打撃、後頭部、側頭部、鳩尾、喉。これ、まさか。
「銃が撃てないなら、銃で殴るだけだよねっ!!」
銃床!視界が遮られれば、打って出ることだってできるのがムツキ先輩という人間か!
今の距離で戦いが成立しているのは、ひとえに視界が悪いこと。早くこの砂塵から抜け出さないと!
「もう行っちゃうの?」
「っ!?」
砂塵から抜け出したと思ったら、足元から爆発が。最初の打撃の前に、巻き起こった砂塵の外側へ爆弾を配置していたんでしょうか?だとすれば凄まじい対応力です。
「あっっははは!引っかかった!ちゃんと爆弾敷いててよかったぁ!」
考えてみれば簡単な話です、基本戦術として爆弾を主体とした戦い方をしているなら、息をするように爆弾を設置しているなら、いついかなる時も爆弾を有効活用できるか考えるはずです。ですが……これは普通に暮らしてて即座に思いつくものではありません。便利屋68、傭兵業も平然と行うプロの経験があってこその発想。……強い。
「さーてと。そろそろかな」
痛みで立てない私になんか関心を寄せず、学校はチャイムを鳴らします。すると、傭兵団は定時だ退勤だとぞろぞろ帰っていくのでした。そして、便利屋のリーダー……アル先輩が慌てふためき撤退指示を出します。
「じゃあね、シャーレの後輩ちゃん。楽しかったよ!」
便利屋との戦いは、戦術的な勝利で終わりました。