ゲヘナ1年生の連邦捜査部活動   作:watazakana

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誤字報告ニキネキにはこの場を借りて御礼申し上げます。ありがとうございます。これからも誤字を見つけたら「仕方ねぇな……」ってノリでやってあげてください。そうならないように頑張ります。


Black to Blacky

「便利屋68、ねえ……」

 

便利屋68。文字通り、「あらゆること」を対象に代行するサービス業を営む組織。様々な場所で問題を起こし、ゲヘナ学園から直々に目をつけられているらしい違法部活動……。

 

「ゲヘナ学園はゲヘナ自治区以外に強く出られないから、他の自治区を転々としてるのでしょうか……」

 

私は今、ブラックマーケットに居ます。改造されたFlak41の出どころの追跡と、便利屋68の動向調査です。Flak41については、少し困難です。というのも、Flak41のあの型番は既に市場に出ていません。生産されておらず、多数の中古品がブラックマーケットに流れています。個人の所有していたものから、不正に持ち出された学校の備品まで、実に多岐にわたります。そもそも、私たちの追っているものと同一の物なんて、そんな状況からわかるんですかね。手掛かりったって、そう簡単に見つかるはずもないんですよね……

 

「すげえ、見ろよ。現金輸送車だ」

「今の時代に見られるなんてな、現金取引だなんて、珍しいヤツもいたもんだな」

「アレ襲ったら、当面不自由はしねえよな……」

「冗談、マーケットガードにボコられた挙句ここからも追放だぞ」

 

そんな会話が聞こえます。ああ、現金。確かに珍しいです。今の時代、カードや携帯電話で口座を管理することが多くて、そういうのはかなり格式の高い高額な取引か、闇取引でもない限り見なくなりました。にしても、このブラックマーケットでも現金輸送車が必要になるくらいの取引は「珍しい」んですね。となると……取引対象は、大型の兵器か、超希少な非合法の品。

 

となると、私の探しているモノが、実は近くに……なんてことがあるかもしれません。現金輸送車を追うことにしました。

 

----

 

現金輸送車は、「闇銀行」の正面口前でひっそり停車しました。「闇銀行」は、ゲヘナ学園の間でも存在感を持っている銀行です。ちょくちょく見かけますよ、闇銀行に借金して大変な目に遭っている生徒とか、逆に犯罪行為を働いて利益を得るために闇銀行を利用する生徒とか。しかし、腑に落ちないところがあります。ブラックマーケットは、犯罪や不正の巣窟です。しかも木を隠すなら森の中と言わんばかりに白昼堂々と犯罪が行われます。だからこそ、こっそりと言いますか、「私悪いことしてませんよ」という雰囲気を放つ現金輸送車の存在が際立つのです。あれでは相当目立ちます……目立つのですが……私の視線は、それよりも見覚えのある人影に釘付けになってしまいました。

 

「た、対策委員会と、先生……?」

 

彼女らの目線は、現金輸送車に向いています。そういえば、アビドスの危機は暴力組織だけでなく、借金にもあるので、おそらくお金の行方を追跡していたのでしょう。確かに、キヴォトスお騒がせの便利屋や地域の暴力組織と、相手が後ろ暗い人たちばかりでしたからね……。丁度目標が同じなこともありますし、合流することにしました。

 

「先生がた、こんにちは……で、そこの人は」

 

遠くからではわかりませんでしたが、嫌な制服が目に留まりました。

 

「あ、あうぅ……」

「ウレイ、紹介するね。この子はトリニティのヒフミ」

 

事情を聴いて、大体の状況を把握しました。

 

「というわけだから、えーと……カリカリしないでくれると、助かるかな……なんて……」

「トリニティは何考えてるのかわからない、いえ、いかに人を自分の手を汚さず貶めるかを四六時中考えている集団なので」

「違いますよ!?」

「うへ~、すごい偏見だね。そうなの?ヒフミちゃん」

「いえ、ですが、こうなるのも仕方ありません……ゲヘナとトリニティの仲はずっと昔から険悪で、いつも諍いが絶えないんです……」

 

くそう、こういう「私大人ですが?」みたいな態度が気に食わない!

 

「というか、トリニティに何かされたりしたの?」

「セリカさん、トリニティは絶対にゲヘナを馬鹿にしてます」

「凝り固まってるわね……」

「あはは……」

「で、なんでトリニティのお嬢様がわざわざブラックマーケットなんかに?推し活するにしたって業者なり何なり雇って取り寄せればいいでしょう」

「いいえ!それでは駄目なんです!」

 

ヒフミはいつも斜に構えて冷笑する、そんなトリニティの雰囲気とは全く違う熱い反応を返してきました。

 

「いいですか、このペロロ様グッズはもう表向きでは流通していない、超激レア品なんです!フリマサイトに流せばプレミア価格がついてそれはもう大変な騒ぎになるほどなんです!そこに業者を雇って取り寄せるなんて、横流しの危険がある方法なんか取れません!お金だってないですし!それに、業者を使うだなんて、ペロロ様に失礼です!ペロロ様を直々にお迎えすることにも意味があるんです!!」

「や、やっぱりわからないですけど……本当にトリニティの人ですか?」

 

こいつ、おそらくトリニティでも異端側なのでは?私は訝しみました。

 

「すごい情熱ですね~」

「あ……すみません!こんな熱くなっちゃって……」

「いえ……」

 

だとしたら、そこまで嫌う理由はありません。誤解していたかもしれないことを謝ります。

 

「……それで、どうするんですか?」

「集金確認書類を奪うために、アレをするしかないって言ってたところだね」

「先生、わかるように言ってください」

「やだなあウレイちゃん、アレって言ったらアレしかないよ」

「ホシノ先輩まで……」

 

全く、いい加減にしてくださいと口に出す直前、アレが何なのかを理解します。銀行、奪う、そしてシロコ先輩の目が異様に元気。ああ、これはそうか、そういうことか。

 

「……だとしたら、やるしかないですね」

「ウレイさんまで……アレって一体なんなんですか?」

 

シロコ先輩が静かに、しかし高らかに言います。

 

「銀行を襲う」

 

……覆面まで装備して。

三拍子ほど遅れて、ヒフミの絶句。

 

「はいいいい!?」

「ということは、覆面持ってるアビドスの方々が主戦力ですね。私は用意してないので、先生と一緒に客のふりをします」

「ちょ、えっ、ウレイさん!?どうしてそんなにノリが良いんですか!?」

「頭捻るの、苦手なので」

 

そう、これこれ。やはり実力がモノを言うのです。先日の便利屋戦?次会った時はギャフンと言わせます。それまでは雌伏の時です。

 

「他の皆さんは良いんですか!?」

「こうなったらやるしかないし」

『止めても止まらないでしょうから……』

 

ヒフミの絶句は止まりません。良い気味。

 

「ごめん、ヒフミ、あなたの分の覆面の準備はない」

「うへぇ、ってことはバレたら全部トリニティのせいだって言うしかないねえ」

「それでは可哀想すぎます。とりあえず、これでもどうぞ☆」

 

ヒフミに渡されたのは、たい焼きの紙袋。あんこの匂いが詰まってそうですね。というか私抜きでたい焼きを堪能したんですか?私抜きで?皆さんで?

 

「……先生、私にもたい焼きください」

「そう言われると思って、別に買ってあるよ。あとでね?」

 

紙袋を被ったヒフミを煽て揶揄うホシノ先輩とノノミ先輩。そのまま流れで銀行強盗団……いえ、『覆面水着団』のリーダーに担ぎ上げられたヒフミは、こうなりゃヤケだと言わんばかりに作戦開始の合図をしました。

 

 

----

 

闇銀行の中は、取り立てて他の銀行と大差ありません。ただ、お客さんにガラの悪い人が多いだけで。チンピラの他には、ゲヘナの生徒もちらほら見られます。

 

「融資の承認は降りませんでした。お力になれず申し訳ございません」

「えっ!?ちょ、ちょっと待ってよ!」

 

そんな融資の言い争いも聞こえてきますが、まあキヴォトスではあるあるです。……ちょっと待って、この声普通に聞き覚えがあるんですけど?

 

その声の方を見ると、居ました。便利屋68。まさか融資の話で断られているという情けない場面に遭遇するとは。いえ、あの方々は知らない人です。知らない人。気のせいですよやだなあ便利屋が銀行で融資を断られるわけ……融資の話でリーダーのアル先輩以外全員寝てるわけ……

 

「どうしたの?ウレイ……あ、便利屋だ」

「今必死に現実から目を逸らそうとしてたのに……」

 

闇銀行からすら融資を受けられない事務所に実質負けたの、こっちの格まで下がってすごく嫌なんですけど!?

と、勝手に傷ついているのも束の間、銀行の照明が消えて、電源が一斉に落ちたことを知らせます。

 

「……先生、時間です」

「そうだね、目一杯演技するとしますか」

 

銃声、シロコ先輩のアサルトライフルです。

 

「全員その場に伏せなさい!持ってる武器は捨てて!」

 

流れるように、ごく自然に、それがまるで日常のように、初めての銀行強盗とは思えないシロコ先輩の動きに感嘆します。イメトレでここまでできるという計画の緻密さとイメージの精度、好きなものがあると強いですよね。

 

「言うこと聞かないと、痛い目に遭っちゃいますよ⭐︎」

「あ、あはは...みなさん、怪我しちゃいけないので...伏せててくださいね...」

 

対するヒフミは遠慮がちです。……悪の親玉とは思えないその様に笑っちゃいます。ですが、まあ、乗ってくれるとは思いませんでした。あの場で帰ってトリニティに報告して、ゲヘナの立場を悪くすることもできるはずなんですけどね。それをしなかったのは、ヒフミの頭が悪いのか、底抜けのお人よしなのか。

 

とにかく、銀行の中は軽くパニック状態。お命だけはと金なり書類なり何なりを鞄に詰めて、シロコ先輩へ差し出す行員の姿も滑稽でした。先生は覆面水着団に目配せをして撤退の合図。するとサササッと彼女たちは出て行きました。それを確認した行員は手のひらを返して、マーケットガードを呼びます。ここまでは計画通り。あとは、私たちの番です。

 

「さて、と。ウレイ、次いける?」

「もちろん」

「いいね、じゃあ今日のシャーレの活動はこれでおしまい。解散」

「失礼します」

 

----

 

覆面水着団は、シロコ先輩の計画したルートの通りに逃走します。それを支援するのが、「ゲヘナ学園1年生」の有馬ウレイです。覆面水着団の後を追うマーケットガードを「偶然」見つけて、「少し揶揄ってみたくなったから」そのお尻を叩きます。地下下水道のマッピングは既にやっていますから、逃げ道もバッチリ確保済みです。

 

さて、時間ですね。あらかじめ覆面水着団の逃走経路に仕込んでおいた地雷を起爆します。わずかな混乱、叩くチャンスを逃さず、追加で手榴弾をありったけ投げ込みます。

 

「あいつも銀行強盗の仲間か!?」

「お兄さんたち、何やってるんですかー?お祭りですか?私結構むしゃくしゃしててぇ、爆発とか、吹き飛ぶ人とか、欲しいんですよー!」

 

先生の指示したポイントに、グレネードランチャーで火力投射です。

 

「たい焼きの恨み、お前らで晴らす!!」

「いや、銀行強盗じゃない、ただの虫の居所が悪いゲヘナ生だ!マーケットガードに喧嘩売るとか正気か!?」

「こんな奴に時間を割くな!1番、2番、3番隊は強盗を追え!4番隊で対処する!」

「させるか!」

 

無誘導ミサイル、アサルトライフル、サブマシンガン、あとは装甲車両?豊富な武力を前に、下水道を伝ってモグラのように飛び出ては撃ち、飛び出ては撃ちを繰り返します。

 

「先生、次はどこ狙えそう?」

「そこを左に曲がったところにあるマンホール」

 

まあ、このように。翻弄と消耗を累積して、15分。そろそろ疲れてきた頃です。先生から、ポイント提示ではない指示が来ました。

 

「アビドスの生徒たちは逃げ切れたみたい。ウレイも気をつけて帰ってね。ナビゲートはしておくから」

「了解。先生、お疲れ様でした」

 

……これで捕まれば、銀行強盗幇助という立派な前科が履歴に残るでしょう。流石にゲヘナはその程度では矯正局送りになんかしませんが、それ相応の罰が待っています。……まあ、捕まらなければ良いんですし、先生のナビもあるので、何事もなく逃げ切れたわけですが。当分、ブラックマーケットには立ち寄れませんね。

 

----

 

「は!?お金、置いてきたんですか!?」

 

アビドスに帰り、シャワーで下水の臭いを落としたあと、アビドスの皆さんから話を聞いて、絶句しました。

 

「まあね〜」

「なんて勿体無い……」

「よね!ウレイもそう思うよね!?」

「委員長命令だし、仕方ない」

 

曰く、必要なものは確認書類だけで、お金ではないようです。しかし、目の前の1億を捨てるだなんて、私には到底できません。1億あったら何ができますか?私は……何しましょう?やりたいこと全部やっても多分お釣りがきますね!……アビドスの借金は、尚も返し切れないようですけどね。

 

「まあ、置いてきたものは仕方ないです。ヒフミは何と言ってましたか?」

「ティーパーティに報告するって」

 

ホシノ先輩の気の抜けた報告に、少し頭を回す。

 

「……したところで無駄では?」

 

ゲヘナもトリニティも、他校のことなんて知ったこっちゃないでしょう。それがゲヘナやトリニティの政治的問題に直結するものでもない限り、注視するにとどまると思います。言い方は悪いですが、泡沫学校をダシに悪徳企業を糾弾したとして、何の得にもなりません。というか、得があったらこうなる前に解決しているでしょう。

 

「そう言ったんだけどね、まあ応援はしてくれるってさ。優しいね〜」

「……少し、トリニティのことを誤解してたかもですね」

 

ヒフミ。私の見かけたトリニティ生の中でも特にトリニティらしくない、私のようなゲヘナ生を馬鹿にしなかったトリニティ生。

 

……覚えておいた方が、良いかもしれませんね。

 

 

 




「────以上が、有馬ウレイに関する調査結果になります」
「ご苦労様でした。下がって良いですよ」
「失礼します」

ゲヘナ学園、運動場。戦車操縦演習の監督である彼女は、ため息をつく。面倒ごとに遭遇すると、いつもこうだ。

「シャーレのためにここまで動かなければいけないとは……連邦生徒会長が失踪しなければ、こんなことする必要はないんですけどね」

有馬ウレイ、ゲヘナで唯一のシャーレ専業部員。トリニティでなかっただけマシだと、彼女は思う。それにしてもこの少女は、見かけによらず大胆なことをすると感嘆した。ブラックマーケットのマーケットガードは、風紀委員会や便利屋でも及び腰になる相手だ。喧嘩を売るとは正気の沙汰ではない。しかし、何の理由もなしに、シャーレ専業の部活動生がそんな行動を起こすはずがない。その理由も、詳しく調べる必要がありそうで、彼女は肩をますます落とした。

「はあ、めんどくさい」

生徒たちが戦車の片付けを終えたところを見届けて、彼女は自分の所属する戦車に乗り込む。

「さて、ブラックマーケットへ謝りに生きますよ」

『万魔殿』という組織のロゴが入った戦車は砲塔に「巡回中」の札を下げて、ゲヘナ学園の校門を出た。
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