『銃 可愛い 青春』
ストリートオブヤンキー1巻
ウェーブキャットの枕
どうも、こんにちは。有馬ウレイです。今は紫関ラーメンに居ます。というのも、今日のアビドスはオフな日ですし、おそらくまた来るであろう便利屋との再戦で少しでも優位が取れるようにとアビドスの地形を理解しておきたかったのです。あ、それと、シャーレでの業務はお給金が出るようで、いつの間にか口座に貯まっていたお金で少しばかり贅沢ができるんですよね。アビドスの自治区は紫関ラーメンの他に主だったお金の使い先がないというのが困りものですね……それはともかく、今日は紫関ラーメンを思う存分、一人で堪能したいと思います。
「よう、ウレイちゃん。今日は一人かい?」
「はい。皆それぞれ好きなことをやってるので、私も私で好きな所でお昼を過ごそうかなと」
「嬉しいこと言ってくれるねえ、注文は?」
「紫関ラーメンの大盛と餃子のセットで!」
「あいよ!」
さて、大将さんが醤油のいい香りを湧きたたせて私のお腹を刺激する静かな時間に、戸の開く音が乱入します。
「セリカさん、早いですね。バイトの時間はまだd……」
「……」
ちゃんちゃかちゃんちゃんちゃんちゃかちゃん……
セリカさんが来たのかと思ったら~
便利屋68でした~……
チクショー!!さよなら私の平穏なラーメンの時間!時間が金じゃ買えない世の中は(規制音)です!
「あ、シャーレの後輩ちゃんじゃん!おっ久ー!元気してた?」
「お陰様で」
「どどどどうしましょうアル様、消しますか?爆破しますか?」
「ハルカ、落ち着きなさい!……ごきげんよう、シャーレのゲヘナ生」
なんというか、そちらの表情を見ていると、逆に落ち着いてきます。動揺がにじみ出ていますよ先輩。
「アビドスからは出て行ってくれないんですね」
「仕事だもの、おめおめと逃げだすのは、ハードボイルドなアウトローとは言えないわ」
「ここのラーメンだって美味しいし、なかなか帰る気にはならないよねー」
それは、そうですけど。
「……まあ、美食研究会も認めたラーメン屋さんですし」
「美食研究会も来てたんだ……結構ゲヘナからは遠いのに」
カヨコ先輩は少し面倒なことを予感した顔になっています。
「まあまあ、ここは停戦しようよ。私たちだってラーメン食べに来ただけだし。ハルカちゃんも肩の力抜いて?」
「ムツキ一人で抑えられる戦力だけど、戦いはない方がいいしね」
何も言い返せないのが悔しすぎる。あちらも敵意はない様子ですので、私は肘をついてラーメンを待ちます。
「……何頼むんですか」
「紫関ラーメンの4人前よ」
「ちゃんと人数分のを頼めるお金は持ってきたんですね」
「憎まれ口しか言えないの!?」
「まあまあ、ウレイちゃん。あの子らもアビドスさんのお友達だろう?替え玉が欲しけりゃ言いな」
「お友達」
確かに、仲良く話したこともありましたけど、その後見事に裏切ったんですよこいつら。まあ、派手に負けるので言い返せませんけど。と、思ったら。アル先輩の様子がおかしい。
「……じゃない」
「?」
「友達なんかじゃないわよぉーーー!!」
ダン!机を思い切り叩いて立ち上がるアル先輩。
「そうよ、何が引っかかってたのかわかったわ!問題はこの店、この店よ!」
「え?」
「!?」
「ど、どうしたの?」
アル先輩の演説は、やれあったかくてやれほんわかした雰囲気でと、あげつらう要素は全部褒め言葉です。私含め皆があっけに取られています。仲良くなるのも、それはそれでいいんじゃないですか。ムツキ先輩すら押されているこの演説、ヒフミのあの剣幕の雰囲気に似ているのが何とも……。
「私が求めているのは、冷酷無比、残酷、無慈悲なアウトロー!一人前の悪党には、こんなお店必要ないわ!」
「……そう、ですか……?」
「考えすぎじゃない?」
そんな中、一人だけ合点の行った顔をする人が一人。
「……伊草さん?」
「それって、こんな店ぶっ壊してしまえ……そういう意味ですよね?」
「……へ?」
ごそごそとカバンから何かを取り出していますね。起爆装置ですね。正気か?
「起爆装置?なんでそれを……」
「柴関さん、伏せて!」
「?」
「これでやっとアル様のお役に立てます……」
「ハルカ、ちょ、ちょっと待っ……」
厨房に乗り込んで、全速力で大将さんに覆い被さって……爆風が、目の前を覆いました。
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次に目が覚めた時、そこに広がっているのは瓦礫でした。
「う、ウレイちゃん、大丈夫か……」
「え、あ、うわ!ごめんなさい!」
「それより、ありがとな。おかげで怪我なく済んだよ」
一瞬意識が飛んで、そのまま大将さんを下敷きにしていたみたいです。辺りを見回すと、オロオロしている便利屋の皆さん。泣きそうなアル先輩。なんでオロオロするだけで済んでるんですか?こちとら全身が痛いっていうのに。それはそれとして……これは完全に伊草さんの暴走ですね。アビドスのみんなには説明する必要がありそうです。伊草さん、なんというか、極端ですね……ここまで来ると逆に怒りよりなんか憐れみが増してしまいます。
と、そうこうしているうちにアビドスの皆はこちらへ到着。先生もいますが……ホシノ先輩はいません。
「ウレイ!?どうしたの!?」
「爆風から大将を庇ってるように見えますね……」
「あんたたち……あんなに良くされておいて……許さない」
セリカさんの怒りはごもっともです。正気の沙汰ではありません。さて、開き直るアル先輩、無理に強がって声が震えています。多分根は善良なんでしょうね。かわいそうに……
「はぁ……仕方がない。どうせいつかは白黒つけなきゃいけなかったし。待機させていた傭兵を呼んで。あと……ウレイはそこでじっとしてて。爆風だけじゃない、熱湯を被って火傷してる。軽いけど、動くともっと酷いことになるから、これで冷やしてて」
痛くて詳しい感覚がわからず、言われて初めて気づきました。痛いだけじゃない、熱い。背中に熱湯を被っていたようです。これは水脹れも覚悟しなきゃいけないやつだ。カヨコ先輩はアイシング用の袋を私に投げ渡します。
「どうして、敵に……」
問いたかったのですが、既に先輩の姿はなく……便利屋とアビドスの再戦が、始まりました。
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『戦いは数だよ姉貴』……昔のアニメで、そういうセリフを聞いたことがある。まさに今の状況がそれだ。前回の襲撃ではできる限りバイト傭兵を
雇っていたが、今はその三分の一にも満たない。そんな状況だと、できる戦術は最初から限られている。
アビドスの欠点は人がいないこと。逆を言えば、数的有利を常に取らないとこちらが負けることを意味する。もちろん、勝算はある。でも、それは限りなく薄い。なぜなら、アビドスには先生が付いているから。
ウレイが戦いに参加できず、ホシノがこの場に居ないという絶大なアドバンテージを持っているけど、やっぱりキツイ。
あの銀髪の子、先生から常に指示を受けていて、私のカバーを妨害してくる。私がカバーできないと、あの黒髪の子が社長に向かうし、後方からのミニガンこそ私たちにとって脅威だ。罪悪感か、ハルカの動きもキレが悪い。傭兵もあの金額だと質が悪い。動きがよくないし、簡単に倒されてしまう。あれじゃあ勝敗は見え切っている。
「社長、撤退した方が……」
これじゃあ、いくら戦っても仕方がない。そう感じて撤退を具申した瞬間。
私たちに、砲弾が降り注いできた。
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「今度は何!?」
『確認できました、多数の擲弾兵です!50mmの迫撃砲、所属は……確認できました!ゲヘナ学園風紀委員会、一個中隊規模です!』
私が背中を冷やしながら、先生の指示で柴関の大将さんをシェルターに誘導した戻り道で、いきなり起きた爆発で便利屋の皆さんが吹き飛んでいるのを見ました。急いで物陰に隠れました。あれを食らったらタダじゃ済みません。というかアヤネさん今ゲヘナの風紀委員って言いました?
「便利屋のためにそこまでしますか?一個中隊って、100人ですよ!?というか……」
公認の武力集団が、他自治区での武力活動って……大丈夫なんですか?ゲヘナにしても横暴すぎますけど……
『ウレイ』
「先生、これはどういうことですか」
『よかった、無事だったね。説明は後で委員会に直接聞くとして、体は大丈夫?』
「ああ、はい。もう大体治りました。多少なら動いても大丈夫そうです」
『じゃあ、無理しない範囲ですぐに来て欲しい。風紀委員会と正面衝突するからね』
まあ、そんなことだろうとは思いました。
「こんなにも早くお世話になるなんて、考えもしなかったなあ……」
たちまち聞こえる多数の銃声と、ひっきりなしに響く爆発の音。『火砲による面制圧の後、歩兵が乗り込み蹂躙する』……ゲヘナの音に聞こえし風紀委員会の戦術は、洗練された軍隊のそれです。しかし、意外にもその秩序だった音が聞こえないので、おそらく対策委員会や抵抗する便利屋さんが肉薄しているのでしょう。マジで?傍目から見て一方的な蹂躙だったアレを掻い潜ったんですか?私はヤバい方々と対峙していたのかもしれません。
そんな不思議な畏怖は本筋ではありません。私は走ります。幸い、私のことはノーマークなので、意外にも時間をかけずに先生のもとへ追いつくことができました。
「すみません、ご心配おかけしました」
「うん、無事でよかった。……さて。事情の方なんだけど」
ドローンに映っているのは、天雨アコ先輩。風紀委員の行政官、実行部隊のナンバー2。
「改めて聞かせてくれないかな、アコ」
その時、先生の目は至って真剣でした。