トーキョーハイロウ/魔女 vs 国連TS兵団   作:あるなし

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11 案内/光ヶ丘基地

【瞳光/単彩/赤】

命よ、汝を鮮やかに輝かせよ。ただ一つの色を発する者は純朴、一途、頑固。

赤光が表し司るは異能・自由・才能・情熱・呪い・呪言・革新・移ろう熱量。

 

 

 

 

 

 長い長い階段を下りていく。都営大江戸線光ヶ丘駅の設備だという。

 

「フフン、地上の拠点は全てフェイクなのだよ。清掃工場の記念すべき防衛タワーも、基地司令部が置かれていそうな体育館砦も、陥落したところで実のところ何一つとして困らん。多少ともガッカリはするがね?」

 

 黒甲冑姿の美女が得意げに言うから、高瀬はとりえず相槌を打っている。

 

「弟子どもなんぞは、ハッ、それで十二分に対抗しうるが……魔女は相手取れん。レギオーはともかくとして、エーテル爆撃ばかりはいかんともしがたいからな。バンブーランチャーでB29に挑むようなものさ。わかるだろう? ゆえに重要拠点は地下に構えることが正解となるのだ」

 

 彼女……彼はトオノ翼虎大隊第一中隊第三小隊の隊長、リッピ中尉だ。

 

 第三小隊四名のうち、爪刃のミソギ軍曹と弓矢のサトウ一等兵とはビル屋上の戦いで共闘している。その際、残る二名は討伐の場を整えるべくそれぞれに虫の大群を引きつけ、孤軍奮闘していた。

 

 つまりは実力者である。それがためにか、今、高瀬を護衛している。

 

「やあ、通らせてもらうよん」

 

 先導するミソギ軍曹が誰かへ挨拶した。アストラル灯に照らされる地下鉄駅のホームを、二人、いや四人の兵士が警備していたようだ。皆、特別機動猟兵……つまりはTS兵だ。常になき瞳の色をしている者はアバターなのだと教えられた。

 

 そう、アバターなのだ。時限的な活動しかできない仮初の身体である。

 

 ビル屋上の戦いが終わった段階で、ヤクモ大尉は高瀬の戦闘参加を禁じてきた。出力配分の甘さと残存稼働時間を鑑みての判断と言われては反論もできない。

 

 線路へ降り立ちトンネルを進む。深淵を感じさせる暗闇へ足音が虚しく木霊していく。

 

 ヨアに問題が起きたと、ホトリ二等兵から連絡が入っていた。

 

 戦闘があったわけではないらしいが、ヤクモ大尉が合流を急ぐほどの何かが起こったことは確実であり、説明もそこそこに第二小隊は高瀬を置いていってしまった。

 

「ヨアくんとやらが心配かね? 無事だと聞いていてもなお?」

 

 紫色の瞳を爛々とさせて、リッピ中尉はニヤケ顔だ。わざわざアストラル灯を自らの顔へ近づけての質問である。

 

「君はアレだな。子どもができたら学校への送り迎えを熱心にやり、自転車に乗る際はヘルメットの装着具合を必ず確かめ、体調を崩さぬよう上着や靴下を細かに用意するタイプの男のようだ。門限どころか、そもそも一人でどこかへ出かけさせんだろう。そして若旦那もどき、あるいはご令嬢もどきを育て上げるわけだ。揶揄されたとて却って誇らしげに胸を張ろうとも。ウムウム」

「……お子さん、お幾つでいらっしゃるのですか?」

「十七と十二だ。どちらもなかなかに気難しい年頃でなあ」

 

 どう見ても三十歳に届くはずもない女性の姿でそんなことを言う。物々しい重装備でもあるから、なお一層に違和感が強い。性質の悪い冗談に思えてならない。

 

 第三小隊の他の隊員たちにしても、そうだ。第二小隊同様、全員が見目麗しいのだから。

 

 爪刃手甲がやはり目につく褐色美女のミソギ軍曹。弓を背負った雰囲気あるワンレンロング美人のサトウ一等兵。可憐なお嬢様のような容姿でありながらも一抱えではきかない棘鉄球付き鉄鎖を軽々と扱うシオミ一等兵。

 

 ファンタジックな戦争の渦中にいるようにも、アイドルやモデルの輪の中にいるようにも感じられる。

 

「やあやあ、通るよ。お互い生き残っていて何より」

 

 線路脇の扉を幾度かくぐる。ミソギ軍曹の挨拶を聞く。幾人ものアバター。幾本ものベクター。

 

 思い返してみて高瀬は呆れた。あの病院での騒動以降、まともに男性と会話をした憶えがないのだ。皆、女性かアバターの男性だ。改めて異常なことと思う。どうしてアバターのデザインを男性にできないのか。いっそ無性別的な人間モドキでもいい。

 

 せめて……と高瀬は胸に手を当てた。

 

 耐刃繊維越しにもしっかりと伝わってくるやわらかみが邪魔だった。肩にかかる銀髪もだ。これらはやはり設計した人間の趣味としか思えなかった。パカラダ博士の自慢げな態度が思い出される。

 

 戦うと覚悟したからには、戦いへの集中を邪魔されたくなかった。

 

 男として、男らしく戦わせてほしかった。

 

 しみじみと吐いたため息を、リッピ中尉は誤解したらしかった。

 

「大丈夫だとも。ヤクモ大尉は信頼するに足る軍人だ。まず判断を誤ることがないし、E環境下における戦いも私に比肩しうる……この手のワンパクな腕自慢をできるのが、本作戦における数少ない役得であるなあ」

 

 鎧った腕で力こぶの仕草をするリッピ中尉は、ヤクモ大尉と同様、長柄直剣のベクターを使う。盾はない。

 

「君は君にやれることを精一杯にやることだ……さあ、着いたぞ。ここが真の光ヶ丘基地である」

 

 古めかしくも重厚な鉄扉へとたどり着いていた。

 

 衛兵と思しきTS兵士がハンドルを操作し、扉を開けてくれた。鉄扉は厚さが三十センチメートル以上もあって、ここがどれほどの攻撃を前提に設計されているかを教えている。

 

「大規模な核シェルターですか? 東京の端の、練馬区に?」

「ご明察だ。光ヶ丘公園はGHQ支配下における米軍居留地グランドハイツの跡地に作られたもの。米ソ間の核戦争が危惧された時代の最前線なれば、当然、それをふまえた地下施設が造られる……当時の日本政府には黙認するより他に術もなかったろう……我々が再利用することについて、アメリカ政府は実に協力的だとも」

 

 明るさ増してなお、不規則な揺らぎを伴うために水底の印象ばかり強まるそのフロアは広い。雑然と資材や何かが積まれている。

 

「もともとは地下菜園として設計されたそうだがね? 我々はアバターであるから食料を必要としない。水さえ補給すればよいが……嗜好品として炭酸水があるので次のログイン時にでも試してみたまえ。あれはいいものだ」

 

 1Fの表示から2Fの表示へと階段を下ると、一気に人の気配が濃くなった。

 

 行き交う幾色もの瞳……赤色、青色、緑色、紫色、黄色、水色……見慣れた黒色も見つけた。しかし尋常な人間とも思われない。ブラウンの髪の中から笹の葉のような形の耳が突き出ている。

 

「フムン? 彼女がどうしたという……ああ、そういうことか。私の責任で秘匿情報を一つ開示しよう」

 

 人いきれを目前とする階段の暗がりで、リッピ中尉は語りだしたものである。

 

「エーテリックという摩訶不思議は、魔女に由来するものだからか、その毒性を女尊男卑的に発揮する。男性は八割が死んで二割がオーガへ変異するところのものを、女性の場合、死に至る割合は一割にも満たないのだ。大半は変異して亜人になる。外見的特徴からエルフと呼ばれるが―――」

 

 さも周囲をはばかるとばかりに顔を寄せ、耳打ちしてきた。

 

「―――軍関係者をそう呼ぶのはやめておきたまえ。亜人化にも進行度合いがあってな? 重症化すると霧壁を越えられなくなってしまうため、彼女らは苦い苦い抵抗薬を服用しているのだよ。揶揄するようなことを言っては嫌われるぞ? 月経を軽んじた男のごとくにな!」

 

 内緒話から一転、ワッハッハと笑われ、背中をバンバンと叩かれた。

 

「このフロアにはオペレーションにまつわる指令室や兵装準備室などが、階下の三階には慰安やメンテナンスにまつわる休憩室や寝台室などが、更に降りた四階には稼動することなき沈黙の発電所がある。興味があるなら後日色々と見学してみるといい……軍曹、ログアウトを手引きしてやりたまえ」

 

 リッピ中尉は指令室とやらへ去り、サトウ、シオミ両一等兵はさっさと三階へ降りていった。

 

 肩をつかんできたミソギ軍曹は、なぜかヤレヤレという態度である。

 

「嬉し恥ずかしの変身時間も今回はここまでということです、准尉殿。それでも基地でログアウトできる喜びをかみしめるべく、さあさ、まずは兵装準備室へ」

 

 いかにも軍事的なその部屋ではベクターの点検を受けた。預けるきりかと思いきやベンチで待たされた。受付カウンターの奥では長耳の女性が何人も集まり「これが剣大王か」「重すぎワロタ」「本当にスペック通りとは」「サンプルどこやねん」「重すぎワロタ」とかしましかった。

 

「お次は洗浄室に行きましょか。ベッドを汚すのはノーマナーでノットエレガント」

 

 三階の一画にシャワー室よろしく用意された洗浄室では、お盆一杯の水と手拭いで全身を拭き、髪をゆすがされた。水が灰色に濁っていった。

 

「肌着替えはOK? ではでは寝台へ参りましょう……割と混んでるなあ。お、ここが空いてますよっと。ベクターは抱えるもよし、脇の物掛けに置くもよし。一メートル以上離さないことが基本ルール」

 

 まくしたてられるままに三段ベッドの一番下へ潜り込んだ。剣大王を設置すると片方に壁ができて、より狭く暗くなった。

 

「はい、これ」

 

 しゃがみ込んだミソギ軍曹が、サイドテーブルから一錠のカプセル剤を取り、手渡してきた。

 

「次の夢幻まで、良い現実を」

 

 皮肉なのか諧謔なのかわからない挨拶へ「ありがとうございました」と返答しておいて、高瀬は錠剤は呑み込んだ。

 

 やがて訪れた浮遊感に逆らわず、曖昧さの中へと身を投げ出した。

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