ブラック・ブレット Monsters:Rulers of Earth   作:アマナットー
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千寿夏世「私事ですが、わたくし千寿夏世の声優を務めている潘めぐみさん、『怪獣娘~ウルトラ怪獣擬人化計画~』でもキャラ声担当しているんです」

 ――うん。

千寿夏世「そのキャラ、『ウルトラセブン』の怪獣、エレキングの擬人化なんです」

 ――うん。

千寿夏世「結構キャラがかぶってて、冷静沈着で何事にも動じないクールなおねえさんキャラなんです」

 ――うん。

千寿夏世「もっとも、体格は私と違って普通にないすばでーで、せくすぃーなのですが。あ、これ別に嫉妬じゃないです」

 ――うん。

千寿夏世「ついでに腐女子なんです」

 ――うん




 ――……




 ――うんんッ!?





千寿夏世「腐女子なんです(迫真)」








千寿夏世「 腐 女 子 な ん で す ( 迫 真 )」








 ――おk、素材ネタ提供ありがとう。


迎撃準備

 海底にたまった汚泥を薙ぎ払いながら『それ』は進んでいた。重い体重のせいで砂に沈み、もつれそうになった足を無理やり引き出してまた大きく、そしてすばやく踏み出す動作を延々と繰り返す。背後の常闇に覆われた海中の中で、舞い上がった砂が後方の景色を完全に覆い尽くし、そこから自分を探す獰猛なケダモノの怒り狂った咆哮が分厚い水の層を押しのけ、当たり一面に轟いた。立ち止まって後方に目を凝らすと、竜巻のように海中を渦巻く無数の血流で真っ赤にぼやけた視界の彼方、複雑な起伏を築いた海底のはるか遠くで――『それ』にとっては恐ろしいほど近いと思っている距離で、揺らめきながら発光する青白い光を見て全身に怖気が走った。

 喉の奥から叫びだしそうになるのを必死にこらえて、ステージV『スコーピオン』は砂を掴む足に力を込める。

 もう何度転倒して己が身の最後を覚悟しながら起き上がったかわからない。ケダモノはこちらの存在を感知してはいるがいまだ居場所には気づいていないようだが、ばれるのは時間の問題だ。その前に、この限界を知らないはずの身体もいつかは動かなくなるかもしれない。それでも、あの怪物から完全に逃げ切るためには一刻も早くここから遠くへ離れなければならない。

 全身にたまる疲労のせいで、一つ一つの動作が非常にぎこちないうえに、身体全体が見るも無残かつ醜悪な傷で彩られ、耐えがたいほどの激痛がスコーピオンを蝕んでいた。

 怪物の豪腕から振るわれる怪力で数本ほどの触腕が吹き飛ばされ、使い物にならなくなった。目玉が数個ほど抉り取られ、目の前で握りつぶされた。スコーピオンの身を焼いた青白い暴力の嵐は、いつもはすぐに終わるはずの自然治癒が困難になるほどの火傷を負わせた。

 再びケダモノの唸り声を耳にした。世にも恐ろしい声は海底の岩礁にあちこちを跳ね返って複雑なこだまとなり、さらに大きく聞こえるように響き渡る。

 

――逃げたい。殺されたくない。死ぬのは嫌だ。逃げろ。

 

 スコーピオンは、血と異なる液体を眼窩から滲み出しながら、海底の砂泥の中で懸命に、痛む体を引きずるようにしながら一歩大きく踏み出す。もはやスコーピオンは『取り返す』という当初の目的などすっぱりと切り捨てて、ただひたすらその怪物から逃れようと込み上げる衝動のまま前進していた。

 突然、キーン、キーンと金属同士を打ち合わせたような甲高い音が耳に入り、スコーピオンは思わず足を止めた。聞き覚えのない音の持ち主はケダモノの仲間かもしれないと警戒したからだ。

 そう遠くない距離にいることを悟ったスコーピオンは身を隠そうとめまぐるしく周囲を確認するが、海底にはどこにもスコーピオンの巨体を覆い隠すほどの峡谷は存在しない。このときばかりは自身の馬鹿でかい図体を恨めしく思った。

 やがてスコーピオンの超感覚は不快な音の主を感知した。全身を黒一色に染めた鋼鉄の魚が何十匹も、艦尾に据え付けられた一軸のスクリュープロペラで海水を無遠慮にかき回しながらゆったりと回遊している。頭から発せられる金属音と腹の中からかすかに響く、命ある物たちが発するものとは異なる人工的かつ非生物的な音は、鋭利な殺気となってスコーピオンを威嚇した。

 その時、ドーン、ドーンと断続的に遠雷のように響く地鳴りのような音と同時に、足元から鈍い振動が這い上がってくる。全身が凍りつき、心音が高ぶるのを感じる。ケダモノが海底に足をつけて歩き始めた瞬間だった。まずい、見つかった。同時に鋼鉄の魚群から甲高い音が鳴りやみ、それに続いて腹の中の音が野獣のような唸り声を上げて一層の迫力を増し、聴覚器官をぶるぶると揺らす。軋むような金属音と、大量の水泡がはじける音がほぼ同時に聞こえた。スコーピオンには未知の音だったが、何をされるかは真っ先に理解できた。攻撃だ。

 前門の怪魚群、後門のケダモノ。

 挟み込まれたスコーピオンはパニックに陥る。巨大魚はケダモノの仲間でないことはなんとなく理解できたが、あの怪物と同じく自分を排除しようとしていることは明白だ。

 スコーピオンは一声で小さく鳴くと、痛む体を必死によじらせて両足に力を込めた。ほとんど力を失いかけた状態でどこまでいけるかわからなかったが、やらないよりははるかにましだ。

 小刻みで甲高いプロペラの音が吐き出されるのと、地獄から這い上がるようなケダモノの咆哮が聞こえるのと同時に、スコーピオンは脚部の力を解放し浮上した。

 

 

 

 

 

 

 里見蓮太郎・藍原延珠のペアと芹沢友幸が蛭子影胤を撃破した時、日本国家安全保障会議は歓喜に沸いた。官僚の多くは成果に喜び、木更と菫に握手を求める者もいる。うら若いオペレーターが肩を抱き合って喜んでいた。なにしろ、この作戦は失敗したら東京エリアに未来はないのだ。ステージVが現れるのだ。

 

「……どうにか、やりすごせましたね」

 

 菊之丞が聖天子を見てつぶやいた。聖天子は静かにうなずく。いつの間にかこわばらせていた身体の力を抜いて背もたれに身体を預け、ふっと息をついた。

 その直後、唐突に鳴り響いたアラームによって歓声が打ち消された。

 

「東京湾に浮上する物体を確認!!」

 

 聖天子は猛烈な勢いで顔を上げ、立ち上がった。モニターを通して肉眼でそれを見る。海上自衛隊のヘリが空撮していると思われる映像から、海面が気泡で白く煮え立っている東京湾が映し出されている。三十、三十五、二十……と、スピーカーからノイズの混じった自衛官の震えている声が、浮上する物体の深度を淡々と、しかししっかりと読み上げていく。

 滞空するヘリコプターからの探照灯を浴び、海面がゆっくりと盛り上がるのが見えた。すると、その間を縫うように、触手が一本、また一本と持ち上がり、海上でゆっくりと揺らめいた。

 

「間に合わなかったのか……?」

 

 片桐の声が震えていた。送られた映像はヘリコプターの音で満ちていて、あまりその場の音が聞こえない。スタッフの何人かは映像から発せられる威圧感に気おされ、自然によろよろと数歩ほど後ずさっていた。誰もがコンソールの前で立ち尽くしていた。呼吸は小刻みになり、動悸が激しく上がっていく。体温は頭頂から冷や水をかけられたようにすうっと引いて行った。

 この場にいるだれもが思い出していたのだ。十年前の『それ』の暴虐を。それによって植えつけられた絶対的な恐怖を。

 日本国家安全保障会議は、文字通りパニック一歩手前の状態に陥っていた。

 

「……聖天子様」

 

 肩に手を置かれ、聖天子はハッとした。振り返ると、菊之丞の巌のような顔がじっとこちらを見つめていた。

 既にスタッフは全員持ち場につき、東京エリア各方面への通達、情報の確認、展開している自衛隊の問い合わせなどに忙殺されている。だが、そのうちのいくつかはこちらにすがるような視線を送っている。

 それを見て、聖天子はいま自分が何をすべきか思い出した。彼らは、命令を待っているのだ。

 

「只今より、ステージVの迎撃を行います。自衛隊は現時刻を持って全ての武器の無制限使用を、フルメタルミサイル等一部の特殊兵器を除き許可。総力を持ってこれを迎え撃ちなさい。同時に東京エリア全域に大規模災害警報を発令。警察庁に連絡し、市民の避難誘導を本格化するよう伝達してください。これは、東京エリアの存亡をかけた決戦です。各員一層の努力を期待します」

 

 全員が返事をすると、迅速に行動を開始した。

 東京エリアにステージVの襲来という事態は十年前から幾度となく警告され、シミュレーションを重ねてきた。対策マニュアルも多数発行され、それを完全に暗記するほど読んでいない人間はここにはいない。だが、いくら危機意識を持っていたからと言って完全に対応できるわけではない。むしろ起こってほしくなかった事態に恐怖感を覚えている。そして、かくいう聖天子もその一人なのだ。エリア統治者という立場に就任して以来一度も経験したことのない危機と、それに重圧が両肩にのしかかり、今にもつぶされそうだ。

 だが、ここで自分がつぶれるわけにはいかない。いまが一番の踏ん張りどころだ。

 

「……幕僚長」

 

 心中の緊張を振り払うように、聖天子は尋ねた。

 

「スーパーXは?」

「只今発進いたします!」

 

 

 

 

 

同時刻

東京エリア 某所

自衛隊 機密駐屯地

 

『出動命令発令! スーパーXはこれより発進体制に入る! 各員、所定の位置につけ! パイロットは速やかに搭乗せよ!』

 

 スクランブル発進を促すアナウンスが流れ、基地内を作業員たちが走り回る中、パイロットスーツを着込んだ黒木翔三等特佐は地下に設置された機密格納庫へ足を踏み入れると、すでに専用スーツを着込んでいた他の搭乗員が一斉に敬礼する。黒木もそれに答礼し、いくつかの報告を交わすと長居は不要とばかりに駐機するスーパーXに走り寄り、乗組員もそれに続く。

 数分後、彼らはこれまで行っていた訓練と同じように短時間で出撃準備を整えた。

 機長席に腰を下ろした黒木は懐から一枚の強化プラスチック製のカードを取り出すと、パネル下のスキャナーに差し込む。これはスーパーXに設けられた機能解除コードであり、聖天子からスーパーXの使用承認を受けた直々の許可証だ。スーパーXが対ガストレア戦闘以外の戦闘行為に用いられることを危惧した聖天子が勅命で作らせたものであり、数時間ごとに更新されるパスワードは彼女の指紋と網膜反応によって停止、自動的に発行される。これがなければスーパーXは動かず、またその力をふるうこともない。

 特にエラーもなく、正常に解除されたことを確認すると、黒木は計器のスイッチを入れる。メインパネルや大型液晶ディスプレイが次々に点灯し、薄暗い機内を鈍い蛍光色が照らしていく。

 

「スーパーXより管制塔、システムオールクリア。オクレ」

『管制塔よりスーパーX。了解、これより発進シークエンスに移行する。オクレ』

「スーパーXより管制塔。了解、こちらの準備は完了した、始めてくれ。オクレ」

『管制塔よりスーパーX。了解した。通信オワリ』

 

 管制官はマイクのボタンを押すと直ぐに作業員たちに退避を促し始め、それを聞いた作業員の全員がスーパーXを固定している整備台の真横に移動する。

 それを見た管制官はコンソールのボタンを押した。

 重厚な金属音が整備室内に響き、同時に整備台を固定していた留め具が解除されると、スーパーXを載せた台車は両側のレールに導かれ移動を開始した。

 巨体が動き出すと、作業員達は一斉にスーパーXに向けて敬礼する。心血を注いで建造し、これまで整備してきた彼らの機体に対する思い入れは非常に強かった。

 黒木たちもキャノピー越しに答礼する。どれほど優れた装備も、その状態を万全に整えてくれる者たちがいなければ意味がない。彼らは彼らで、作業員たちに尊敬の念を抱いていた。この後自分たちがしてあげることは、なるべく無傷で任務を遂行してこれを連れ帰ることだ。

 やがて整備台が速度を落とし、発進位置へ滑るようにおさまった。整備台からボルトが差し込まれ再び留め具が固定されると同時に、機体全体の最終確認としてセンサーからのレーザーが機体全体に照射される。人間の目だけでこの巨大な機体全てを確認するのは難しいからだ。

 

『ガントリーロック解除。発進に備えて隔壁下ろせ』

 

 管制官の合図でロックが解除され、スーパーXは整備台から切り離される。続いて障壁を兼ねた格納庫への入り口が静かに閉まった。

 

『発進ゲート、オープン。ゲート周辺の立ち入りは一時禁止』

 

 はるか頭上に位置する発進ゲートがきしみ音とともに開き、差し込んだ月光が発進口を照らしていく。

 黒木たちはステージVの進行をリアルタイムで追跡しているディスプレイを見ながら各リンクの出撃前の点検を各種行った。すべて正常だ。

 

「メインエンジン、点火」

 

 黒木が告げた数秒後には、スーパーXの核融合エンジンが轟音と共に出力を上げていった。

 パネルに映し出されるゲージが増すごとに莫大なエネルギーが振動となってあたりの空気を揺らしていく。それはまるで、スーパーX自身が発進できることに歓喜の雄叫びをあげているかのようだった。

 乗組員がパネルを操作し、目的地をナビゲーションシステムに入力する。

 すべての動作が完了した時、黒木は号令した。

 

「スーパーX、テイクオフ」

 

 黒木の言葉を合図に操縦士がレバーをゆっくりとおろした次の瞬間、機体下部の原子炉直ジェットスチームターボファンエンジンから超高温の爆炎が炎の柱となって轟音と共に噴き出し、猛烈な噴煙と暴風をまき散らしながら機体が上昇していく。

 やがて安全高度まで達すると後部のターボファンエンジンが唸りを上げて膨大な熱量を噴射し、一気に加速する。スーパーXは二条の噴煙を残し、雲の中へと姿を消した。

 

 

 

 

 

東京湾。

 護衛艦隊 旗艦『あいづ』戦闘指揮所

 

「東京湾沖合にて急速に浮上する物体あり」

 

 そう言った後にレーダー要員が正確な方位を告げる。

 一足早く現場に到着した哨戒ヘリからの報告を中心に、本部や東京湾全域に張り巡らされた何百もの遠隔操作センサーから送られてくる情報をスキャンし、統合する。

 ガストレア特有の赤目の発光現象と、いびつな形状。質量反応も大きい。

 

「波間に漂う触手の大きさからしてみても、ステージVでほぼ間違いないかと」

「本部は何と言っている?」

 

 艦隊司令である立花泰三一等海佐が、静かだが威厳ある声で尋ねる。

 副司令官は通信係の話を聞き、伝えた。

 

「目標はステージVと断定。自衛隊は現時刻を持って特殊兵器を除く全火器の無制限使用を許可。総力を持ってこれを迎え撃つ、とのことです」

 

 特殊兵器とは、つい数か月前に実用化されたフルメタルミサイルと三十式推進搾孔誘導弾、通称D-30ミサイルのことだ。貫通する兵器としては絶大な威力を誇ってはいるものの、弾薬の絶対数が少ない以上その使い時は非常に限定されている。使うときは、ステージVを通常兵器で疲弊させた後に、本部からの一斉統制射撃によってとどめを刺す時だ。

 

「よし」

 

 立花は命じた。

 

「艦隊はこれより対潜、対水上戦闘に入る。総員、所定の位置につき、命令あるまで待機せよ!」

 

 

 

 

 

 同時刻

 東京エリア 沿岸部

 

 東京エリア沿岸地域ではステージVへの火力攻撃のために陸上自衛隊が特科部隊を集結させていた。

 海上を視認できる内陸部には九九式一五五ミリ自走榴弾砲と二〇三ミリ自走榴弾砲の混成部隊が鎌首のように砲身をもたげて海上を睨んでいる。

 さらに数キロ距離を開けた地点には数十両の多連装ロケットシステムと八八式地対艦誘導弾、一二式地対艦誘導弾が縦一列に、等間隔で並んでいる。

 上陸阻止砲撃用として、また広範囲の敵陸上部隊への面制圧砲撃のために開発されたこれら長射程砲は二度の関東大戦でもガストレアの大群を削ることに多大に貢献し、陸上自衛隊の中でも縁の下の力持ちとして愛着を持つものが増えていた。

 海岸を視認出来る地域には隠蔽陣地を設けて一〇式戦車や九〇式戦車を主力とした戦車隊が陸上への最終防衛ラインとして展開している。本音を言えばここまで接近を許してしまえばもはや東京エリアの命運は尽きたと言ってもいいが、これは可能な限り、そしてわずかでも希望を失わないため、何より将兵たちの士気高揚のための心理的効果を狙ったものであった。

 現時点で投入できる戦力はこれぐらいだ。これぐらいで、やらなければならないのだ。

 

「来るなら来い。叩きのめしてやるからな」

 

 戦闘指揮所で現場指揮を執る師団長の坂東萬長陸将は低い声で静かに言うと、敵がいるだろう海上を睨んだ。








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