ブラック・ブレット Monsters:Rulers of Earth   作:アマナットー
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 空前絶後の変態淑女が登場。部屋に入るシーンはカットしています。

 ちなみに今回は不謹慎ともとれる記述がありますので、ご了承ください。



 


 青年は変態淑女と会話するようです

「どういうことですか? それ……」

 

 そう言ってから、ずず、とコーヒーを一口すすった友幸は持っていたマグカップを置いた。

 先の仕事から数日後、友幸はある場所にいた。

 今日は良く晴れた日だったが、そこはそれなりに広さもあるが薄暗く、鼻にツンと来るようなミント系の芳香剤の香りが漂っている。床は緑色のタイルで固められ、なんとも不気味だ。

 蛍光灯がバチバチと点滅して光が『二人』に降り注いでいる。何かの資料で埋まった白くて四角い机の上に、無理やり作ったスペースに置いたコーヒーカップが『二つ』ある。

 

 友幸は、向かい側に座っている人を見ながら、胡散臭そうに座っていた。

 そんな彼の気持ちを知ってか知らずか、向かい側に座っている人はやけにフランクな態度で話しかけてくる。

 

「言った通りさ。きみが倒したフナムシっぽいガストレアはステージIIじゃない」

 

 その椅子には白衣を着込んだ女性が座っていた。

 肌は病的なほど白く、伸び放題の髪の間から除く目元には濃いクマができているが、その素顔はよく見なくても美人だということがわかる。本人は不健康を通り越して今にも死にそうだが。

 室戸菫。友幸が今いる勾田病院の法医学教室の室長にしてガストレア研究者。地下に増設されたこの部屋に長年居座っている重度の引きこもり。深夜、病院の外に出たところを幽霊と勘違いされたことがあった。

 そして信じられないことに、友幸たちの後見人を務めている人物でもある。

 

「ですが、ステージIIIにしては小さすぎますよね? じゃああのガストレアは、もしかしてステージIだったってことですか?」

「もしかしなくてもそうだ。だいたい、たかが二メートル弱の大きさでステージIIという君の仮定自体がそもそも間違っているよ」

「仕方ないじゃないですか。ステージIにしても吸血するフナムシなんて聞いたことないですから、フナムシにエビかタガメの因子が混ざったステージII以降のガストレアってほうが仮定しやすかったんですよ」

 

 まぁ、そう思うのも無理ないだろうね。菫は苦笑する。

 ガストレアウイルスに感染した初期の生物、ステージIは地球上の生物を単純にスケールアップさせただけだ。だが、あのガストレアは現在確認されている生物のどれにも似ていなかったため、判断を誤ったのだろう。

 

「考えられるのは、大戦以前から未確認だった生物がガストレア化した、ですかね」

「ま、それがベターな回答だろう。まったく、地球上の生物はあらかた狩りつくされているものとばかり思い込んでいたよ」

 

 そう言って菫は傍らに置いてあるテレビに目を向け、「……ついこの間まではね」と自嘲気味に言った。そこに映っていたのは、海上を優雅に進む『アレ』の映像だった。

 

「……『ゴジラ』ですね……」

 

 友幸はぽつりとつぶやいた。

 

 聖居をはじめとした各国エリア統治者からのゴジラの公表から、はや数週間が経過した。ガストレアとは全く異なる未知なる巨大生命体の存在。その情報は、世間を震撼させるには十分なインパクトを持っていた。

 

 開示された情報を総合すると、先史時代に絶滅したはずの巨大生物がいまだにこの地球に生息しており、近年になって活動を再開した。その巨大生物の名は『ゴジラ』と呼ばれており、太平洋を中心に多くのエリアで目撃情報があるという。

 絶滅していたはずの生物が実は生きていた。

 これだけ聞けば一部を除いて大半の人間は大発見だと思いながらも、それほど気に留めることはなかっただろう。だが、ハワイ真珠湾沖で撮影された『ゴジラ』を見た多くの人は度胆を抜いた。公開された映像のゴジラは海中を泳いでいる最中で、鋭くとがった背びれが海をかき分けてすすむ様子が映し出されていた。確かにそれだけでも驚きだが、さらなる驚きは別にあった。上空で撮影されたゴジラは、追跡のためなのかある程度離れた位置を並走していた航空母艦と大きさがほとんど同じだったのだ。ジェラルド・R・フォード級航空母艦と呼ばれるその原子力空母は全長が三百三十三メートルもあるそうだ。

 映像から推測されたその数値によると、その全長は数百メートルはくだらないという、ステージVのガストレアに引けを取らないぐらいの非常識極まりない大きさだった。しかもゴジラは陸に上がって活動することもできるらしく、直立姿勢での体高は推定で百メートルをゆうに超え、その重量は少なくとも九万トンに達するらしい。

 

「このゴジラとやらを見たときは久しぶりに驚愕したよ。この世のあらゆる法則にケンカを売るような存在が、ガストレア以外にも存在したってね。思わずテレビにしがみついて、そんなもん物理的にあり得るか!! って怒鳴ってしまったよ」

 

 菫は椅子の肘掛に肘をついて顎を乗せるとくつくつと笑う。

 

 住民の反応は実に様々だった。

 当初は聖天子をはじめとした各国エリア統治者には『ガストレアだけでも戦々恐々としている市民をさらに恐怖に陥れた』といった批判が少なからず集中した。テレビをつければ、ニュースでそのわけのわからない存在に恐怖の声を上げる民間人が取材され、各分野―――おもに生物学の専門家たちがゴジラについて討論をしていたのを思い出す。しかし、それはすぐに終息した。

 なぜなら、古生物学と生物学の世界的権威である山根英二博士が聖居へ招致され、そこで堂々と『ゴジラはガストレアのように人類と敵対しない』と言い切ったからである。

 聞けば、ゴジラは地球の生態系を崩壊させているガストレアを『自分のなわばりを荒らす邪魔者』とみなしており、その防衛本能でガストレアと敵対している可能性が高いそうだ。太平洋を中心とした各地で目撃されることが多いのはガストレアを殺し回っているからで、ガストレアがほとんど接近しない各国エリアに来る可能性はまずありえないらしい。

 

 この発表は、ゴジラの存在を危惧していた人の多くの恐怖心をいくらか和らげることとなったが、その後ゴジラを『世界の救世主』と崇める非公式団体を誕生させる遠因となってしまった。

 

 ゴジラの存在によって生じたこの一連の社会的混乱は、その後『Gショック』とよばれることとなる。どこの腕時計だよ。

 

 

 

「つくづく、私たちが住むこの地球には驚かされるばかりだ。常識なんてものは、なにかあれば簡単に覆る。『七賢人の一人』なんて呼ばれている私も、ほかの人間よりちょっと頭がいいってだけだったってことを思い知らされるよ」

 

 まぁそれはおいといて、だ。菫は話題を切り替えた。

 おもむろに立ち上がると大型の冷蔵庫からトレイと、何やら金属製の大型の箱を取り出し、机の上の物を無理やり振り払って置いた。最初にトレイの水滴が付いたラップを取る。節ごとに分かれバラバラになったエビのような甲羅に、赤黒く濁った半球形状の目が照明の光を不気味に反射している。ブヨブヨとした内臓らしきものがいくつか黄緑色のドリップに浸り、わずかに腐臭が漂っている。友幸が倒したフナムシっぽい生物のガストレアの成れの果てだった。うひょ~。

 

「コイツを解剖してみたが、現在のカニやエビなどの甲殻類なのは間違ない。足の数は十四本、フナムシとかの等脚類の一種で、構造は非常に原始的だった。おそらくコイツは生きた化石だったのだろうね。だがその臓器に、既存の生物では有り得ない、驚くべき機能を持つモノが見つかったのだよ」

 

 そう言って金属製の箱を取り出し「この中に入ってる」とふたを軽くたたいた。

 

「その臓器って一体どこが驚くべき機能を持っているんですか?」

「それは消化器官にあたるものなのだがね、内部から微量ながらも放射線が検出されたのさ」

「放射線?」

 

 菫は頷き、言った。

 

「この臓器からは一〇〇〇〇マイクロシーベルト、つまり十ミリシーベルトもの放射線が含まれていたんだよ」

 

 ここで菫はホワイトボードを取り出し、ペンでなにか書きこみ始めていく。

 

「これは生物としてかなり異常だ」菫は続ける。

「自然界に存在する放射線は年間四百八十マイクロシーベルト程度と少ない。あまり知られていないことだが、人が日ごろ口にする水や食物にも極微量の放射性核種が含まれている。地球に存在する生物は常に体内被曝しているといえるが、人間でもその量は年間で年間二百九十マイクロシーベルト程度だ。ガストレア戦争で核兵器が大量に使用され、地中、海中、大気中の放射能濃度もわずかに上昇したが、それでも身体に影響を及ぼすレベルには至っていない。だからこのフナムシと同様の放射線量を体内に取り込む方法は三つ。それこそ自然放射線を含んだ生物を年中休みなしで食べ続けるか、生物濃縮で放射性物質を取り込んだ生物を食べるか、このフナムシ自らが放射性物質を取り込むか、だな」

 

 うーん?

 君はどう思う、と菫に聞かれ友幸は眉をひそめた。

 

「ですが先生。ガストレアはバラニウムだけでなく放射能にも耐えられな――」

 

 言い終わらないうちに「その通り」と菫は言った。

 

「バラニウムの磁場以外に存在する、ガストレアのもう一つの弱点。それが放射能だ。高濃度のそれを浴びるとほかの生物と同じく細胞が破壊されやがて自壊する。ウイルスも破壊され二度と再生しない。これが先の大戦で核兵器が使用された理由の一つなのは知っているだろう」

 

 友幸は頷いた。もっとも、細胞単体ならまだしもガストレア化した生物を自壊させるほどの効果を発揮させるには、ステージIでさえ致死量の何倍もの放射能が必要なのだが。

 

「私が今まで解剖してきたガストレアもここまで放射性物質を取り込んだ個体はいなかった。それもそうだ。食い続ける? いくらガストレアが暴食でもそこまで取り込むには限界がある。なら直接接種? それも違う。第一、自分から毒を喰らう生物がどこにいるというのだ。ありえない。絶対にあり得ない。だが――――このガストレアはその毒である放射性物質を取り込んでいるのに、私が確認したその細胞は特に弱った様子がなかったのだよ」

 

 これを見てくれたまえ。

 菫が封筒から数枚の写真を取り出し、蛍光板に張り付けた。

 

「この写真の細胞はフナムシのもので採取したばかりだ。見てのとおりウイルスに侵されていて再生能力も高い状態になっている。私は病院の加速器を借りてガンマ線を細胞に照射してみた。その結果が二枚目の写真だ。

 ウイルスはガンマ線の影響で完全に崩壊し、そしてなぜか寄生される前の細胞だけが残ったのだ。気になった私はさらにガンマ線を細胞に照射した。すると何が起こったと思う?」

 

 白衣の美女は怪しい笑みを浮かべていったん言葉を切った。友幸はふるふると首を振って先を促す。そんなものは彼の専門外だった。

 

「活性化だよ。細胞の活性化だ。細胞は放射線を吸収しエネルギーに変えてしまったのさ。これがあらわすのはつまり、このフナムシは寄生される前から放射線をエネルギー源にしていたのだよ。だとすると、ウイルスに寄生される前も運動能力が高く、推定一メートル弱の大きさだった可能性がある」

 

 友幸は目を見開いた。もしそれが本当なら、生物学の常識を根本からひっくり返す発見になる。

 放射線は簡単に言うと莫大な運動エネルギーを持って空間を飛び回っている素粒子である。それが高濃度で生物の身体を通り抜ければ、細胞やDNAはその勢いに耐えられずに崩壊してしまう。分厚い鉛の板で保護すれば幾分か防げるが、自然界にそんなものはないため、地球上の生物の細胞は放射線には絶対に耐えられないとされていた。

 

「等脚類の最大種はダイオウグソクムシだが、こいつはそれを遥かに上回るサイズだ。その上、フナムシやダンゴムシと違って、体節の大きさが不均一だ。君に飛び掛かってきた事を考えると、筋肉も随分と発達している」

 

 ゴム手袋をはめた菫は、フナムシの頭を持ち上げて何かを引っ張り出した。手の中に管状の構造がある。根元が口に当たるだろう場所に伸びていた。

 

「そしてこの口器、他の等脚類とは異なる吸血という生態を持っていることを意味している。感染前のコイツは寄生生物だと仮定していいだろう。寄生なら体液をするのが一番有効な栄養摂取の方法だからね。白い粘液は宿主へ付着しやくする接着剤の役目を果たしているんだろうな」

 

 それならば、移動の速度に対しての跳躍力も納得できた。生物の外皮への寄生をする際、ノミの様に飛びつくのが一番簡単だからだ。

 ふと友幸は俯かせていた顔を上げた。「寄生生物」という単語が妙に引っかかる。

 

「先生……もしこのフナムシが寄生生物だとしたら………前はどんな生物に寄生していたんです?」

「そうさねぇ」

 

 菫はペンをくるくると回し、視線を宙にさまよわせた。

 

「これはあくまでウワサだけどさ、ゴジラが生息していた何億年前という古生代の地球は、大戦以前の十倍の放射能で満たされていたらしいぞ」

 

 こともなげに言う菫に、友幸は押し黙った。

 このフナムシはほかの生物に寄生し、放射能を餌にする。だとすると、宿主も放射能を餌にして生きている可能性が高い。

 

「そういえば、数週間前に太平洋側の日本近海でクジラより巨大な生物の影を確認されたらしいな。しかもその海域から微弱な放射線が検出されたそうだ」

 

 思い出す。

 フナムシは日本の病院にいた。その病院は、海に近いところに建てられていた。

 寄生生物は、瞬発的な運動能力こそ高いが長期間行動することはできない。寄生生物は、基本的に宿主の移動能力を借りるため、自らの移動能力を使うことがほとんどないからだ。このフナムシも例外ではないだろう。だとしたら、宿主がこの日本の近く、または日本にやってきていたのだろう。

 

「放射能を餌にする寄生生物、放射能で満ちた太古の地球、そしてその時代に生きていた甦った古代怪獣………別に私が推論をわざわざ言わなくても、それがなんなのかはすでに君の中ではなんとなく答えが出ているんじゃないかい?」

 

 からかうように訊いてくる菫に、友幸は天井を見上げた。蛍光灯の光が、網膜に突き刺さる。

 

 間違いない。フナムシの宿主は――――――

 

「案外ゴジラは、この日本の近くにいるのかもしれないね」

 

 菫は目を細め、ニヤリと笑みを浮かべた。

 

 

 

 友幸はその後も菫と一言二言ぐらい言葉を交わしたあと、ふっとため息をついて彼女に告げた。

 

「それじゃ、そろそろ帰りますね」

 

 お~う、と菫は間延びした返事を返すとあくびをかみ殺した。

 

「あ、そうそう。今日私の所に来た民警がだね、モデルスパイダーの感染者ガストレアを倒したのだがその元となる感染源のガストレアの情報がまったくないと嘆いていたな。おそらく感染源もモデルスパイダーだろうね」

 

「ちょっと待て、そういうことは最初に言うもんでしょうが!?」

 




 す、進まねェ………。本当は終盤にあの狂人親子を出す予定だったのですが、切りがよかったので次回にします。本当に出せるかどうかは疑問ですが………。
















~~没ネタ~~






「コイツを解剖してみたところ、構造は現在のカニやエビなどの甲殻類に似ているが、非常に原始的だった。おそらくコイツは生きた化石だったのだろうね。だがその臓器に、既存の生物では有り得ない驚くべきモノが見つかったのだよ」

 ここで菫がロッカーから二着のレインコートのようなものと手袋を取り出し、友幸に投げ渡した。
 生地がやけにごわごわしていて重い。肩の部分をもって広げれば、でろりと垂れ下がった。
 なんか胸元に見てはいけないマークが見える。恐る恐る、顔をひくつかせて聞いた。

「………一応聞きます。これは?」
「放射線防護服だ。これから扱うのはソウイウモノだからな」
「なッ!?」

 あっけカランと告げられた言葉に、友幸は思わず防護服を取り落としそうになった。

「まぁ着たまえ。反応は非常に微弱だったから人体に影響が出るほど被曝するなんてことはまずないが、念には念を入れてだ」

 そう言いつつ白衣を脱いだ菫はその長い髪を束ね後頭部で結んで素早く防護服を身にまとう。しぶしぶと友幸もそれに続いた。保護素材が重ねられているのか動きづらい。
 パカリと菫によって箱のふたが開けられると、隙間からドライアイスの蒸気が漏れだしてきた。





『うっふん♡ スミレちゃんの楽しいショッキラスの臓器授業♪(仮)』で、本物を交えた放射線吸収機能を持った臓器の説明シーンを考えたけど難しいうえに不謹慎すぎたのでやめました。







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