『ドラァッ!』
クレイジー・ダイヤモンドの拳が、獣人型のモンスター『コボルト』の頭を吹き飛ばす。
すると辺りにはグシャ、というグロテスクな打撃音が辺りに響き渡った。
「やりぃ!」
コボルトの死体が跡形もなく消えると、仗助はコボルトがドロップした魔石を拾う。ポケットには既にいくつか魔石が入っているが、どれも爪ほどの大きさしかない。
「こんだけ倒してもこれしかねぇのはなぁ〜……」
10体倒しても、出てくる魔石は手のひらに収まる程度。とても割にあったものでは無い。
「あっ、そうだ」
そこで仗助はある
ポケットから魔石を全て取り出すと、真上にそれらを放り投げ───────
『ドララーッ!!!』
そしてクレイジー・ダイヤモンドの拳が、魔石をひとつ逃さずに粉々に砕いた。
砕かれた魔石たちは空中で集積すると、やがてゴルフボールくらいの大きさの魔石になった。
「グレート! これくれぇの大きさならいい値で売れそうだぜ!」
我ながら妙案と言ったところだろう。これで金も手に入る上、もしかすると褒められてしまうかも?
なんて、呑気に浮かれていたが───────
・
・
「……」
「……」
現在、仗助はエイナの前で正座中である。事の発端は、スタンドでくっつけた魔石をエイナにみせたところから始まった。
魔石を見た瞬間、エイナは血相を変えて仗助に詰め寄ったのだ。そして、対応室のようなところに隔離され、今に至る。
「ジョースケ君、君のいる階層にはこの大きさの魔石をドロップする魔物はいないはず。どこでこの魔石を手に入れたの? まさか、私に無断で下層に降りたってことじゃないわよね?」
「エイナさん、怖いっスよ……」
今の彼女は、笑顔のはずなのに目が笑っていない。
ものすごい重圧を放ちながら詰め寄って来る。
「いい? ジョースケ君、冒険者は
彼女は口々にこの言葉を言う。しかし仗助には何を言っているのかさっぱり分からなかった。
「???」
「要するに、危険なところに無闇に踏み入るなってことよ」
と、エイナが補足する。
「あぁ〜、なるほど」
すると仗助も納得し、先程までの不思議顔が晴れた。
「分かったら行きなさい。今回だけは大目に見てあげるから」
「マジっスか!? あざーっス!」
部屋を飛び出した仗助は、急いで換金場へ向かって行った。
「へへっ、ラッキー!」
その後換金し終わった仗助は、いつもよりちょっぴり重い財布を持ちウキウキ気分で家路に着いた。
・
・
翌朝──────。
まるで運動した後に浴びるシャワーのように爽やかな目覚めだった。
そして流れるように身支度を整え、ドアを開ける。
と、その前に……
「行ってきま〜す」
未だに寝ているヘスティアに小声で挨拶をして、いざダンジョンへ向けて出発する──────。
街は既に人で溢れかえって活気づいていた。既に見慣れた風景を見流しながら目的地へと歩みを進める。
すると───────
「あの、すみません!」
「ん?」
振り返るとそこには、エプロンをつけた少女がいた。服装的に、どこかの店員のようだった。
「何か用スか?」
「あの、これ落としましたよ」
そう言った彼女の手のひらには、小さな魔石が乗っていた。
「うお、あぶね〜ッ! 大事なモン無くすとこだったぜ! あんがとよ、店員さん」
仗助はお礼を告げて、軽く手を振りながらその場をさろうとする。
「こんな朝早くからダンジョンに行かれるんですか?」
がしかし、またもや彼女に呼び止められてしまう。
「あぁ。ここんところ生活が苦しくて、少しでも稼がなきゃいけないんスよ」
あはは、と乾いた笑いを零しながら言う。
毎日ダンジョンへ潜ったとしても生活に余裕が出ることはなく、いつもギリギリで生きているようなものなのだ。
「もし良かったらこれ、もらってくれませんか……?」
彼女はこちらにバスケットを差し出した。
「これは……?」
「頑張る人へのプレゼントですよ。私の手作りです!」
そう言って満面の笑みを浮かべる。
さすがの仗助も、これは受け取らねば失礼と思い、ありがたく頂戴した。
「くれるっつーんなら、遠慮なく貰うぜ」
「その代わりと言ってはなんですが、私が働いているお店に食べに来て欲しいな〜って……思いまして〜……」
「そんくらいのことなら、別にいいっスよ。そんときはうちの神サマも連れて行くんでよろしくっス」
「本当ですか!? ありがとうございます!!」
彼女は嬉しそうに笑い、ペコペコと頭を下げる。
「ああ、申し遅れました、私シル・フローヴァと言います!」
「おれ、東方仗助っス。よろしくお願いします」
「それでは今夜、お待ちしておりますねジョースケさん♪」
やがて仗助は彼女と別れ、再度ダンジョンへの道のりを歩き出した。
(女の子の手作り料理……ラッキー♪)
その間、仗助は完全に浮かれきっていた。
〜〜〜〜〜
ダンジョン第5層の表層────そこが今の仗助の活動フロアだ。出てくるモンスター達はほとんど雑魚ばかりで、これといって手応えが感じられない。
そこで、仗助は5層の奥の方へと進むことにした。今日はなんだか
この時はそう思っていた……。
『ドラララッー!』
飛んでいるコウモリ型の魔物を寸分の狂いなく拳を命中させて叩き落とす。
すると、いつもより僅かに大きな魔石がドロップした。
「こりゃあいいぜ!」
すっかり気分が上がった仗助はひたすらにモンスターを狩りまくった。
・
・
無尽蔵にモンスターを狩り、しばらくたった頃。
小腹が空いた仗助はダンジョン内にどっかり座り、シルから貰ったバスケットを開けた。
「お〜! サンドイッチだ!」
中には色とりどりのサンドイッチが敷き詰められていた。
「いただきま〜──────」
手を合わせ、食べようとした時だった。
ふと、地面が僅かに振動しているのがわかった。そしてその振動は徐々に仗助の方へと近づいてくる。
「なんだ?」
不審に思って周りを見渡す。
「うぉッッッ!?」
すると仗助の背後には、猛スピードで突進してくる牛人間がいた。
轢かれる─────そう思った時には既に、仗助は真横に回避していた。
「うわっぶねぇ〜ッ! ったく、なんだってんだよ!!」
牛人間は仗助の方を向き、二三度ほど噴気する。
まるで『次は外さない』とでも言うように、仗助の方だけを一直線に睨みつける。
「あーっ!!!」
牛人間の突進により巻き込まれた仗助のサンドイッチは、見るも無惨にぐちゃぐちゃに潰されていた。
「テメェエエエッ!!! よくも俺のサンドイッチを──ッ!!」
『ブルォ──ーッ!』
激昂する仗助に、容赦なく牛人間は突っ込んでいく。角の生えた頭をこちらに向け、串刺しにするつもりだろう。
10m……9m……8m……──────仗助と牛人間の距離がみるみる縮まっていく。
(闘牛士みてぇに、ギリギリまで惹き付ける……ッ!!)
そして、接触すると思われた次の瞬間、仗助は牛人間の突進をひらりと躱した。そして、仗助のちょうど目の前に奴の横顔が来た時、一気に攻めに出た。
「『クレイジー・ダイヤモンド』ォッ!!!」
『ドラァッ!!!』
『ブォッ!?!?』
クレイジー・ダイヤモンドの拳は奴の顔にのめり込み、立派だった角はへし折れ明後日の方向へと飛んで行った。そして奴が僅かによろけた瞬間、折れていない方の角をつかみ、一気にトドメを刺す。
『ドララララララララーッ!!!』
超速度の
「食べ物の恨みは恐ろしいってことだぜ。地獄で反省してな」
そう言い放ち、蹴散らされたサンドイッチの元へと向かう。そして、未だぐちゃぐちゃになったサンドイッチのそばに腰を下ろし、手をかざす。すると──────。
「よし、治った」
あっという間に、綺麗に元通りに治ってしまった。形も崩れておらず、先程と変わらずいい匂いが伝わってくる。
「とんだ邪魔が入ったぜ……。さてと、気を取り直して、いただきまー……」
『ブルル……ッ!!!』
「あ?」
阿呆口を開けたまま、仗助は振り返った。するとどうだろう、先程ボコボコにぶちのめして消えたはずの牛人間がいるではないか。
「なんでもう一体いるんだよ! ちくしょ──ーッ!!!」
仗助はサンドイッチの入ったバスケットを抱えて走り出そうとすると、奴の体に一本、二本と一筋の線が入った。
そして突然、奴の体は線の通りにスッパリと斬れ、ただの肉塊になってしまった。仗助は唖然としていた。
細切れになった牛人間に変わって現れたのは、一人の女性。
しなやかな金髪を腰あたりまで伸ばし、蒼の軽装備に身を包んだ細身の体、そして紋章の入ったサーベルを持っていて、その切先からは先程の牛人間の血が滴り落ちている。
「あの、大丈夫ですか……?」
「助かったぜ。あんがとよ」
「ケガ、してないですか?」
「ああ、大丈夫だ」
お互いに仰々しい会話をしていると、どこからか声が聞こえた。
「アイズー、どこ行ったの〜?」
遠くから誰かを呼び探すような声。
「ごめんなさい、行かなきゃ」
「ん? ああ……」
どうやら彼女が呼ばれたらしく、別れを告げるとものすごいスピードで去ってしまった。それはさながら風のように速かった。
彼女を見届け、シルに貰ったサンドイッチをつまみながら仗助もその場を去った。
・
・
その夜────────。
仗助とヘスティアを連れて、シルの居る店『豊穣の女神』へと訪れていた。
「いらっしゃいませ、ジョースケさん! お待ちしていましたよ!」
「う〜っス、シルさん。こっちはうちの神サマっス」
「"うちの"ジョースケくんがお世話になってるね! ボクはヘスティアだよ」
仗助の腕をガッチリホールドし、さも自分のモノだと言わんばかりに言葉を強調するヘスティア。
「よろしくお願いします、神様」
しかし、そのヘスティアの体格からか、シルから見れば仲睦まじい兄妹にしか見えなかった。
「では、こちらの席へどうぞ」
シルの後ついて行くと、案内されたのは一番端の席だった。
「お、アンタがシルのお客さんかい? イカした髪型してるじゃないか! そこのお嬢ちゃんも、じゃんじゃん食べていきなね!」
着席するなり、恰幅のいい女将がカウンターから身を乗り出して言った。
若干圧倒されながらも、仗助はこの店に居心地の良さを感じていた。
「これがメニューか?」
仗助は棚に置いてあった1冊の本を手に取り開く。
それはメニューではなく、ただの本であった。読めるはずもない文字、なのに自然と内容が頭の中に入ってくる。それと同時に意識が引き込まれるような感覚。
危うく瞳を閉じそうになった瞬間、女将の声が響き渡った。
「はい、一品目お上がり!」
注文もしていないのに、大盛りのパスタがドカッと席に置かれる。
「えええっ!? いきなりっスか!?」
見た目のボリュームもそうだが、トマトソースの香ばしい香りが鼻腔を通り抜け、空腹でなくても食欲をそそられる。
既にヨダレが溢れそうな二人は、手を合わせてがっつくように食べ始めた。
「うんめぇ────っ!!!」
玉ねぎの僅かな甘みがトマトの酸味とベストマッチして、フォークが止まることを知らずにどんどんと進んでいく。
「なぁ、お前も食えよ億泰!」
「んぅ?」
仗助が隣を向くと、そこに居たのは親友の億泰ではなくヘスティアだった。仗助はそこで改めて思った──────この世界に自分の友達は居ない、と。
「どうしたんだい、ジョースケくん?」
「ああいや、なんでもねぇよ……」
「ふーん」
それだけ言うと、ヘスティアはまた食べ始めた。気を使っているのか、単に聞く気がないのか謎ではあるが。
仗助達が食事に夢中になっていると、周りの席がえらくざわつき出した。
「……おい、あれ……!」
「……おお、えれぇ上玉ッ!」
どうせ有名人か誰かでも来たのだろう、そんなことを思いながら食事をしていると───────
「なっ、おい馬鹿、あのエンブレムをよく見ろ!」
「……げっ、『ロキ・ファミリア』か!?」
たちまち周囲は不自然に静まり返った。不意に仗助が隣を見ると、ヘスティアが椅子の下に入って隠れていた。
「どうしたんだ神サマ、落し物か?」
「いやなに、気にする事はないさ。狭い場所が恋しくなってね……」
仗助は不思議そうに周りを見渡した。
すると、ゲームで見たような、まるで『勇者パーティ』のような集団がゾロゾロと店の中へ入ってきた。
「彼らは『ロキ・ファミリア』の方々ですよ。よくうちの店を利用してくださるお得意さんです」
と、いつの間にか仗助の隣の席にいたシルが言った。
「へー」
しかし、仗助はあまり興味が無さそうだ。
今はそれよりも目の前にある料理に夢中になっている。
突然、『ロキ・ファミリア』の一人──────赤髪の女性が立ち上がり、音頭をとり始めた。
「よっしゃ、ダンジョン攻略みんなご苦労さん! 今日は宴や! 飲め飲めーっ!」
その言葉を皮切りに、ジョッキがぶつかる音や騒ぎ声などが店の中に充満する。
「ふぅ〜、食った食った。神サマもいい加減そんなとこから出てこいよ。団体さん来たから帰るぞ」
「まだ! まだダメだ!」
料理を食べ終えた仗助は、未だ席の下に籠るヘスティアを引っ張り出そうとするが、なかなか一筋縄ではいかない。
「ったく……ドッ、ラァ!」
「あぁ〜!」
スタンドを腕だけ出現させ、難なくヘスティアを引きずり出す。そして、駄々をこねる彼女を小脇に抱える。
お会計を済ませ、店を出ていこうとする。
しかし、そこで思いもよらぬアクシデントが───────
「あぁ──ーっ!!!」
突然、赤髪の女性が指を指して叫んだ。指された方向には、ヘスティアがいた。
「神サマ、知り合いか?」
「うわぁーッ! 今すぐここから逃げるんだ! ジョースケくんっ!!!」
先程にもましてジタバタと暴れ始めるヘスティア。仗助は必死に落とさないように取り押さえる。
しかし、仗助にとっても思わぬ出会いがあった。
「あっ、君……!」
「あぁ、どうもッス。えっとぉ……アイズさん? だったッスよね」
「うん。私、アイズ・ヴァレンシュタイン。よろしく」
仗助とアイズは丁寧に握手を交わした。
と、それを見ていたヘスティアは頬を膨らまして仗助に詰め寄った。
「ジョースケくん! いつの間にロキのとこの子とこんな仲良くなったんだい!?」
「いつって……今日だけど……?」
するとガタン、と音を立てて銀髪の青年が席を立ち上がった。
そして、立ち尽くす仗助の目の前に立ち、こう言った。
「ははぁ〜ん? んじゃあテメェがあん時のタワシ頭かァ?」
瞬間、仗助の体がピクリと動いた。
「コイツよォ、ミノタウロスに追っかけられてビビって逃げてやんの! いかにも駆け出しクセェ、タワシみてぇな頭したノロマがよぉ!」
そしてついに、仗助の堪忍袋の緒が切れた。
仗助は青年の方に向き直ると、その怒りを爆発させるように叫んだ。
「テメェ……今この頭のことなんつったァッ!!!」