すると、仗助の肩部あたりからスタンド『クレイジー・ダイヤモンド』の腕が現れる。そして、拳を固く握りこんだと思われた次の瞬間──────────
その拳は、弾丸の如き速さで青年の顔面へ叩き込まれた。
「うぐッ!?!?」
苦悶の声を上げ、席を薙ぎ倒しながら青年は後方に勢いよく飛んで行く。
「なっ、なんや今のは!?」
「ベートが吹っ飛んだ!?」
「……!!」
『ロキ・ファミリア』の面々は驚きの声を上げる。
すると吹っ飛ばされた青年がよろつきながら立ち上がり、壊れた席を押しのけながら仗助の元へと向かってきた。
「テメェ……よくもやってくれたなぁッ!」
殴られた顔面から出血は無い。それは単に青年が頑丈なだけか、それとも……
「ちょ、ベート、どうしたのその顔!?」
「な、なんかおかしくないか!?」
青年ことベートの顔を見た面々は皆、ひどく慌てふためいていた。それもそうだろう、なぜなら彼の顔は文字通り『変わっている』のだから。
それにより、先程までお祭り騒ぎだった宴会も、今や軽くパニック状態に陥っていた。
「ベートッ、鏡見てみろ鏡ッ!!」
「あぁッ!?」
ファミリアの一人がハンドミラーを取り出して、ベートの顔に向ける。それでやっと自分の状態に気づいたのか、青年は驚いたように目を見開き、確かめるように自らの顔をぺたぺたとさわる。
「俺の、俺の顔がァ──ッ!!?? なんだこれ! どうなってんだァ!?」
仗助は、驚き狼狽しているベートに向かって口を開く。
「俺のこの髪型にケチつけるやつァ、何モンだろうと許さねぇぜッ!!!」
人差し指を突き立て、決めゼリフのようにそう言い放った。
「クソがァッ! さっさと治しやがれ!!」
べートは逆上し、仗助に掴みかかる。
「それぁ、人にもの頼む態度じゃねぇ〜よなぁ〜???」
しかし、仗助はなんのことかとそっぽを向いて知らんふりをする。
すると一連の騒ぎを聞きつけて、店の奥から大柄な女店主が現れた。まさに鬼のような形相をしており、その場にいる全員が、その恐怖のあまりに硬直していた。
「おいおいアンタら……これ、どうしてくれるんだい???」
まるで怪獣が迫り来るような足音を鳴らしながら、ドスの効いた声で問いかける。彼女の手は仗助とベートの肩をがっしり掴んでおり、『絶対逃さん』とでも言うようだった。
「あっ……」
そこでようやく、壊れた座席や壁などが仗助の目に入って来た。
仗助の顔はたちまち真っ青に染まり、額や背中からは脂汗が滲み出てきた。
「こっここ……こ、この東方仗助がキッチリバッチリグレートに治させていただきますッ!!!」
ビシッと敬礼を決め、女将の前に出る。
そして───────
「『クレイジー・ダイヤモンド』ッ!」
その掛け声に応えるように仗助の背後からスタンドが出現する。そして、壊れた物に向かってその拳を叩き込んだ。
『ドララ────ッ!!』
その時、誰もが思った。『治すのに殴ってどうするんだ』と。しかしそれは、クレイジー・ダイヤモンドの能力を知らないが故のことだろう。
たちまち殴られた物達は全て元あった場所へと戻っていき……
「な、なんだ!? 壊れた部分が……!」
「すげぇ、どんどん治ってく……っ!!」
瞬く間に、壊れた物はすべて元通りに治ってしまった。
まるで
「女将さんっ、治りましたぁっ!!」
仗助は腰を90度曲げて頭を下げる。
これではまるで舎弟である。
しかし、当の女将は口を開けて呆けていた。目の前で起こったことに頭が追いつかないのだろう。
「あら、本当に治ってるっ……! 折れてた椅子の足も、ヒビ入ってた壁も……全部元通りだ……!? 一体どんな手品を使ったんだい……ッ!?」
女将は壊れていた壁や椅子をコンコン叩きながら言う。
どうしても目の前で起こった現象が理解出来ていないようだ。
「この『クレイジー・ダイヤモンド』は、壊れた物ならなんでも治せるんスよ。死んじまったり、病気とかは無理だけどな……」
仗助は己のスタンドを指刺しながら言う。
すると今度は、それを聞いたアイズは躊躇いながらも、仗助の方に寄っていき口を開いた。
「お願い……ベートのことも治してあげて……」
アイズは、その頭を下げて仗助に言った。それには思わずヘスティア含め『ロキ・ファミリア』全員が目を剥いて驚いていた。
「あー……ったく、今回はアイズさんに免じて許してやるからなッ!」
何よりも、アイズに助けてもらった恩がある故、『嫌です』ということはできるはずもなかった。
『ドラァッ!』
クレイジー・ダイヤモンドの拳は再度ベートの顔を撃ち抜いた。すると、あっという間にベートの顔も元通りに治った。
「ありがとう、ジョースケ」
「あぁ、はい……」
真正面からまともにお礼を言われ、頬を染めて照れる。全く、変なところでウブなやつである。
ふと仗助は、『何かを忘れている』ような気がしてハッとする。
「あれ、そういえば……」
先程からヘスティアの姿を見ないと思い仗助が周りを見ると、なんと彼女は酔いつぶれて席に突っ伏して寝腐っていた。見た感じ、席にあった酒を盗み飲んだのだろう。
さすがの仗助も頭を抱えた。
「ったく……しょーがねー人だぜ、全く。よっこらせっと……」
仗助は寝ているヘスティアを背負うと、『ロキ・ファミリア』の面々と、店員達に向かって頭を下げる。
「そんじゃ、ご迷惑おかけしましたっス」
そう言って店を後にした。
・
・
次の日。
やることが無い仗助は、特に意味もなく街をぶらついていた。既に見慣れた街は、なんだかいつもより浮き足立っているように見えた。まるで、学校行事を心待ちにする小学生のようだった。
「なぁ、今年もやるのか……アレ」
「あぁ、『
歩きざまに聞き耳を立てると、どうやらこのざわつきは街の催しのための準備だそうだ。
仗助が周りをチラチラ見ながら歩いていると、大きな馬車が後ろからどんどん接近してくる。しかし、仗助はまだそれに気づいていない。馬車には布の掛けられた箱のようなものが積まれており、衝突してそれが降ってくればタダではすまないだろう。
「にぃちゃん、危ないよ〜」
「わぁっ、すんません!」
操手の声に気づいて、ギリギリ道の端に避ける。
馬車に乗った荷物もまた、催しに使うものだろうか。
すれ違いざまに荷物にかけられた布が
「なんだったんだ、今の……」
走り行く馬車を目で追っていると、ふと見覚えのある人物が目に入った。
スーツに身を包んだエイナだ。話しかけようと近づくが、彼女は何やら仕事中で手一杯のようだった。
(また今度にすっか〜)
仗助は踵を返してその場から去っていった。
・
・
とは言っても、暇を持て余しているには変わりない。ヘスティアは数日前に「用事があるからあとは頼んだよ!」と言ったきり顔を見せない。
「おや、ジョースケではないか」
背後から何者かに声をかけられる。振り返ると、両手いっぱいに荷物を抱えた青年が立っていた。
「どーもっス、ミアハさん。買い物スか?」
この人は、『ミアハ・ファミリア』の主神───────ミアハ。仗助が、ヘスティア以外で親交のある神だ。見た目は物腰柔らかそうな青年で、温厚な性格をしている。
「うむ、
「おれは暇つぶしっスよ。うちの神サマが留守にしてるんで……ミアハさんはなんか知らないスか?」
ヘスティアと同じ神であるミアハならば、彼女の行方を知っているだろうと問うてみる。
「う〜ん、皆目見当もつかんなぁ。すまんが力になれそうもない。すまないな、ジョースケ」
「あぁいえ、全然ダイジョブっスよ。そのうちひょっこり帰ってくると思うんで」
どうやらミアハも知らないようだ。こうなると少し心配にもなってくるような気がする。
「そろそろ行くとしますよ。じゃあな、ミアハさん」
そう言って仗助は去ろうとすると、再度ミアハに呼び止められる。
振り返ると、液体の入った小さな小瓶を渡された。
「良き隣人に胡麻をすっておくのも損はあるまい? 受け取ってくれ」
「あ〜、どうもっス」
小瓶をポケットにしまい入れ、今度こそその場を後にした。
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