東方仗助、異世界へ行く。   作:社畜松本

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怪物祭『モンスター・フィリア』

 しばらく歩いていると、ある店の前で足が止まった。

 ショーウィンドウ越しに見えるキラキラと光る防具や武器。そこは、『ヘファイストス・ファミリア』が運営する武具屋だった。

 

 

(なんか武器っつーよりもゲージュツ品みてぇだなぁ〜)

 

 

『ヘファイストス・ファミリア』が手がける武具は、機能性、デザイン性共に優れており、値段もそれ相応のものとなっている。

 しかし、仗助にはスタンドがあるため、武器の活躍の場がないのだ。

 年頃なので、そういったものに憧れがない訳では無いが……。

 

 

 〜〜〜〜〜

 

 

 仗助が『とある店』のショーウィンドウを覗き込んでいた同時刻。

 

 

「あんた、いつまでそうやってるつもりよ……」

 

 

「……」

 

 

 その店内に、紅髪の女神ヘファイストスの呆れたような呟きが零れた。

 彼女の視線の先には、床に跪いてこれでもかと頭を下げる丸い物体────もとい、女神ヘスティアである。

『ヘファイストス・ファミリア』、北西のメインストリート支店。

 かの大ブランド鍛冶店の3階は、なんとも言えない空気に包まれていた。

 

 

「私、これでも忙しいんだけど?」

 

 

「……」

 

 

「騒いでなくても、そこで虫みたいに丸まっているだけでも気が削がれて仕事の効率が落ちるの。わかる?」

 

 

「……」

 

 

「ちょっとヘスティア?」

 

 

「……」

 

 

 いくら声をかけようと、ヘスティアはその頭を一ミリもあげることは無い。

 

 

「……はぁ」

 

 

 押し黙ったまま同じ体制でいる小さな親友にため息が漏れる。

 丸一日────────その時間こそ、ヘスティアがヘファイストスに頭を下げ続けている時間だ。

 

 

 数日前────『神の宴』が行われた後、ヘスティアはヘファイストスに、「自分の子に武器を作って欲しい」と懇願をしたのだ。しかし、ヘファイストスはその申し出をバッサリと断った。

『ヘファイストス・ファミリア』に所属する上級鍛冶師の作品は、同業者の間でも誉高いものとなっている。いくら一流の冒険者だろうと、そう簡単には手が出ない代物にある。

 ヘファイストスは、あのヘスティアがこのファミリアの品を買えるほどの大金を持ち合わせているはずがないと思ったのだ。

 友人のよしみで格安で譲るなんていうのは元から論外。

 構成員達が汗水垂らして作り上げた物を軽率に扱うなど、神ヘファイストスにとっては究極のタブーだ。

 しかし、どれだけ突っぱねても、ヘスティアは何度も何度も頭を下げて頼み込んできた。ヘファイストスの方が先に弱りきってしまうほどに、だ。

 それならば諦めるまで好きにさせようと、ヘファイストスはとことん放置した。

 腹が空けば帰っていくだろうと考えて。

 しかし、ガネーシャの宴から二日……未だにヘスティアはお願いし続けていた。

 

 今までヘスティアに頼られることは散々あった。

 しかし、今回は様子が違う。ここまで頑なになることはなかった。それだけが何か引っかかり、ヘファイストスは彼女本人に理由を問うことにした。

 

 

 

「ヘスティア、教えてちょうだい。どうしてあんたがそこまでするのか」

 

 

「ボクは……あの子の力になってあげたいんだ……!」

 

 

 ヘスティアは、土下座をしながら声を絞り出す。

 

 

「ボクはあの子の神なのに……まともに神様らしい事をしてあげられていない! ……ボクはあの子に助けられてばかりなんだ! 何もしてあげられないのは……嫌なんだよ……」

 

 

 半ば吐き出すような気持ちで胸の内を明かすヘスティア。

 その言葉を聞いて、ヘファイストスは深くため息を着く。そして、椅子から腰を持ち上げ立ち上がると───────

 

 

「わかったわ。作ってあげる、あんたの子にね」

 

 

 やれやれと困り顔をしながらそう言った。

 その言葉を聞いてバッと顔をあげるヘスティアに、ヘファイストスは肩をすくめて見せる。

 初めて眷属を持った彼女が、その子のために『何かをしてあげたい』と本気で思っているのなら、応えてあげなければヘファイストス・ファミリアの名折れだ。同時に、そこまでしてあげたいと思えるような眷属ができて良かったと、心の中で少し安心するヘファイストスだった。

 

 

「私が頷かなきゃ、あんたは梃子(てこ)でも動かないでしょうが」

 

 

「うんっ! ありがとう、ヘファイストス!」

 

 

 そう言って立ち上がろうとしたヘスティアだが、長時間の土下座の反動か、よろめいて四つん這いになってしまう。頬を染めて笑うヘスティアに、形だけのため息をこぼした。

 

 

「で、言っとくけど、ちゃんと代価は払うのよ。何十年、何百年かかっても、きっちり返済してもらうわよ」

 

 

 いくら仲のいい間柄でも、ケジメはきちんとつけるのだ。まさに『親しき仲にも礼儀あり』である。

 

 

「もちろんさ。ボクだって、やる時はやるんだ! ジョースケ君へのこの愛が本物だって所を見せてあげようじゃないか!」

 

 

 先程とは打って変わって、胸を張り自信満々に意気込むヘスティア。

 

 

「ハイハイ、楽しみにしてるわ」

 

 

 その言葉を話半分に聴きながら、ヘファイストスは壁に取り付けられた飾り棚の方へ向かう。そこには、新品同然に磨きあげられたショートハンマーが並べられている。

 

 

「あんたの子が使う得物は?」

 

 

「え? え〜っと……ナイフ?」

 

 

「なんで疑問形なのよ……」

 

 

「だ、だってあの子が戦ってるところ見たことないし……たまーに武具屋のナイフをジーッと見ているから、ナイフを使ってるのかな〜って……」

 

 

「なるほどね……わかったわ」

 

 

 そう短く告げると、紅緋色のハンマーを取り出し、腰のポーチにしまい込んだ。

 そして次は透明なショーケースの方へ歩み寄り、その錠を解く。その中にあるのは、どっかりと鎮座している金属塊の数々────武器素材だ。

 その中から白銀色に輝く『ミスリル』を選択する。

 鉄よりも硬く、金属的性質も優れたインゴットだ。

 

 

「まさか、ヘファイストス……君が打ってくれるのかい!?」

 

 

「ええ、そうよ。あくまでこれはプライベート。構成員達を巻き込む訳にはいかないわ」

 

 

『何か文句ある?』とでもいうように、ジロリと一睨みする。

 

 

「まさか! 天界でも神匠と謳われた君に打って貰えるんだ、大歓迎だよ!」

 

 

「ここは天界じゃないのよ。私は一切『力』は使えないのよ?」

 

 

「それでも、ボクは君に打って貰えることが嬉しいんだ!」

 

 

 まるで子供のようにはしゃぐヘスティアに、『まったく、調子がいいんだから』と呆れ混じりに零すヘファイストスだが、不思議と悪い気はしなかった。

 

 

「これからやる作業、あんたにも手伝って貰うからね」

 

 

「もちろんだよ!」

 

 

 ヘファイストスの名に恥じぬ一品を作ってみせよう。

 そう意気込んだ彼女は、目の前の『ミスリル』の塊に向き合う────────。

 

 

 〜〜〜〜〜

 

 

 ヘスティアがいなくなってからもう三日が過ぎようとしていた。この頃暇を持て余していた仗助はダンジョンに入り浸っていた。

 今日もまたホームを出て、ゆっくりとした足取りでダンジョンへ向かう。

 

 

「おーい! 待つニャ、ジョースケ!」

 

 

 いきなりそんなことを言われ、振り返ると『豊饒の女主人』の前で、獣人の少女が手をぶんぶん振っていた。

 彼女はキャットピープルという種族の『アーニャ』だ。先日の一件以来、この店の店員には顔と名前を覚えられてしまった。

 仗助はウエイトレス姿の彼女の方へ駆け寄っていく。

 

 

「おはようございます、ニャ。いきなり呼び止めて悪かったニャぁ」

 

 

「どーもっス、アーニャさん」

 

 

 ぺこり、と頭を下げた挨拶につられ、仗助も頭を下げて挨拶をする。

 

 

「悪いけど、ちょっと面倒事を頼まれてくれないかニャ?」

 

 

「えぇ〜……まぁ別に暇だからいいっスけど……」

 

 

「そう来なくっちゃニャ♪ じゃあ、はいこれ」

 

 

 そう言って渡されたのは、がま口の小さな小銭入れのようなものだった。

 可愛らしい見た目をしていて、いかにも女性が好きそうな物だ。

 

 

「ジョースケはシルのマブダチニャ。あのおっちょこちょいにこれを届けてやって欲しいんだニャ」

 

 

「は、はぁ……?」

 

 

 届け物をしろと言われるが、肝心なところが全て省かれており、仗助の頭は『?』で埋め尽くされる。

 すると今度は、エルフの店員が姿を見せた。肩あたりまで伸びた淡い緑色の髪の彼女は、『豊穣の女主人』の店員の一人『リュー』だ。

 

 

「アーニャ、それでは説明不足です。ジョースケさんも困っていますよ」

 

 

「リューはアホニャぁ。店番サボって祭りを見に行ったシルに財布を届けて欲しいなんて言わなくてもわかるに決まってるニャ」

 

 

「という訳です。言葉足らずで申し訳ございません」

 

 

「あぁ、なるほど」

 

 

 そこでやっと仗助は情報を飲み込んだ。

 

 

「彼女は怪物祭(モンスター・フィリア)の会場にいるでしょう。今頃財布がなくて焦ってるはずです」

 

 

怪物祭(モンスター・フィリア)……?」

 

 

 数日前も、街の通行人がそんなことを言っていた気がする。しかし、こちらの世界に関しての知識は並以外。そんな行事があることなんて知る由もなかった。

 

 

「どうやらよく分からニャいって顔してるニャ。ニャら、ミャーが教えてやるのニャ!」

 

 

 先程までとは打って変わって、「名誉挽回のチャンス!」と言わんばかりに鼻息荒く話し出すアーニャ。

 

 

怪物祭(モンスター・フィリア)は、年に一度『ガネーシャ・ファミリア』が主催するどデカいお祭りニャ。格技場を丸々占領して、ダンジョンから引っ張り出してきたモンスターを調教するんだニャ」

 

 

「あんなヤツらを調教なんて出来るんスか?」

 

 

「まぁ、モンスターを調教すること自体はおかしいことじゃないのニャ。それに、ジョースケも一度はある筈ニャ〜。ぶっ倒したモンスターがむくりと立ち上がって、仲間になりたそうな視線をミャー達に送ってくるあの瞬間を……!」

 

 

「んな事ある訳ねーだろっ!」

 

 

 思わず仗助はツッコミを入れた。

 そもそも仗助の場合、仲間になりたそうな視線を送る前に潰してしまうので本当にそんなことがあるのか尚更疑問である。

 

 

調教(テイム)という技術自体は確立されています。素質に依るところも大きいのですが、モンスターに自分を格上だと思わせることで従順にさせてしまうようです」

 

 

「本来、ダンジョンのモンスターどもは調教(テイム)を受け付けにくいから地上のモンスターを使うことが多いんだニャ。でも、『ガネーシャ・ファミリア』は実力が半端じゃニャいからダンジョン育ちのモンスターでも調教(テイム)してしまうんだニャ」

 

 

「手懐けるまでの過程を見世物にすんのか」

 

 

「そうそう、そんな感じニャ。まぁぶっちゃけサーカスみたいなもんニャ」

 

 

「なるほど」

 

 

 この世界にも大衆娯楽があるのかと、仗助は少し驚いた。ダンジョンの猛獣相手によくやるなぁと呆れ半分というところもあるが。

 

 

「本当はミャーたちも見に行きたかったんだニャ。でも母ちゃんが許してくれねーのニャ。シルは土産買ってくるって意気揚々と出ていったけど、この有様だしニャぁ〜」

 

 

 アーニャはやれやれと肩をすくめて言った。

 

 

「アーニャ、あなたが言えたことではないと思いますが?」

 

 

「まぁ、何となく事情はわかりましたよ。要は急いで届けろってことっスよね」

 

 

「東のメインストリートに出れば既に人がたくさんいるはずです。人波に着いていけば現地に辿り着けるでしょう」

 

 

「シルはさっき出かけてったばっかだから、今行けば追い付けるはずニャ」

 

 

「ま、とりあえず探しながら行ってみるっスよ」

 

 

 そう言って、仗助は歩き出した。

 未知の催し怪物祭(モンスター・フィリア)の会場へ──────────。

 

 

 〜〜〜〜〜

 

 

 時刻は朝の9時を回る。

 多くの冒険者がダンジョンヘ向かうこの時間帯、東のメインストリートは多くの人で埋め尽くされていた。

 通りそのものは飾り付けられ、多くの露店も建ち並び、いつもよりも華やかな雰囲気になっていて、明るい印象を受けるようになっていた。いわゆるお祭り模様だ。

 

 

「……」

 

 

 メインストリートを進む人の流れは都市の東端の格技場へと続いている。

 怪物祭(モンスターフィリア)に向かう群衆を、銀色の双眸が一つ高い位置から見下ろしていた。

 大通りに面する喫茶店、その2階。木目調で落ち着きのある店内の窓際、彼女は大通りを一望できる席に一人でいた。

 その顔を、いやその白皙の肌を極力人の目に晒さないよう、長い紺色のローブを羽織っている。しかし、そんな一枚の布では彼女の『美』を抑え込むのは到底無理な話だ。フードを深被りしているのにも関わず、店内の視線という視線が彼女の元へ向けられる。

 何をする訳でもなくその場に居るもの達を魅了してしまった『美の神』フレイヤは、視線を窓の外に起き続け静かに時を過ごしていた。

 

 

「……」

 

 

 通りを埋め尽くす沢山の下界の者────多くの子供たち。様々な種族の波には、市民に紛れて冒険者なども見受けられる。

 フレイヤがその顔を一つ一つ確認するかのように彼らを眺めていると、ギシリと床が軋む音と共に、こちらへ近づいてくる複数の気配があった。

 音の方へ顔を向け、待ち人の姿を瞳に映す。

 

 

「よぉ〜、待たせたか〜?」

 

 

「いえ、少し前に来たばかり」

 

 

 手を上げ気軽に声を掛けてきた神物(じんぶつ)に、フレイヤはフードの下で浅く笑った。

 黄昏時を彷彿とさせる髪を後ろで結わえる彼女は、くたびれたシャツにパンツという服装でどこかだらしない印象を受ける。

 

 

「なぁ、うちまだ朝飯食ってないんや。ここで頼んでもええ?」

 

 

「お好きなように」

 

 

 その言葉を聞き、ロキは「やりぃ」と言ってメニューを取った。そんな彼女の素行に微笑を浮かべたまま気にも止めないフレイヤ。

 彼女達の間にあるのは、お互いのことを知り尽くしたかのような旧知の仲を感じさせる空気だった。

 

 

「宴の後、随分と寝込んでいたそうじゃない。一人で自棄酒して、酔いつぶれて」

 

 

「オイ、腐れおっぱい。お前はそういうことをどっから仕入れて来るんや」

 

 

「あなたの可愛い団員たちが騒いでいたそうよ? 誰かさんを話の種にしてね」

 

 

「かーっ! あのヤンチャどもめ、やってくれるわァ〜!」

 

 

 フレイヤを呼び出したのはロキで、待ち合わせ場所を指定したのも彼女だ。

『神の宴』から数日後、こうして集まった理由は単なる雑談のためなのだろうか。

 

 

「それで、いつになったらその子を紹介してくれるのかしら?」

 

 

「なんや? 紹介がいるんか?」

 

 

「一応初対面よ?」

 

 

 フレイヤの元へ来たのは、ロキを除けばもう一人。

 鞘に収めた剣を携え、ロキを護衛するような位置で立っているのは、美の神と称されるフレイヤでも目を細めてしまいそうな、綺麗な金髪の少女だった。

 

 

 

 

 

 

 




明日からまた一週間が始まります。
憂鬱な月曜日ですが、ほどほどに頑張っていきましょう。
皆さんにも、頑張ったことが裏目に出てしまったり、思わぬ壁に直面した時があると思います。
そんな時に、恐れ多くも僕の小説が『ほっと一息つける場所』になれればなと思います。
私事ながら、僕はこのサイトで投稿を始めて一年と少し経ちます。
色々な人に支えられたり褒めていただいたりして、ここまで来ることが出来ました。
皆さんの頑張りは、この松本が空から見守っています。

頑張る皆さんにこの言葉を送ろう。


『pluck』──────《勇気を!》


長文失礼しました。
では、また明日〜
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