東方仗助、異世界へ行く。   作:社畜松本

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完成と照準『ロックオン』

「うちのアイズや。これで十分やろ?アイズ、こんなんでも神やから、挨拶だけはしときぃ」

 

 

「…初めまして。」

 

 

剣姫…と唇の奥で呟きながら、フレイヤはアイズを見つめる。神々の間でも殊更話題にあげられる『ロキ・ファミリア』の女剣士。

その名と武勇を轟かせる彼女の説明は、確かに今更不要の物だ。

アイズはロキに『座ってもええよ』と促され、素直にロキの隣へ座る。

 

 

「それで、どうして可愛らしい『剣姫』さんをここに連れてきたのかしら?」

 

 

「そらぁお前、せっかくの祭りや。この後はしっかりきっちりアイズたんとのラブラブデートをするためじゃあ!」

 

 

下卑た笑みを浮かべ、ロキは吠える。

 

 

「ま、それに、『遠征』が終わった〜いうて放っておくと、まーたすぐにダンジョンに潜ろうとするからなぁ、このお姫様は。誰かが気を抜いてやらんと休みもせんのや」

 

 

そう言って隣へ手を伸ばし、アイズの頭をポンポンと撫でる。

かつての天界でのロキの破天荒ぶりを知るフレイヤから見れば、今のロキの変わりようは凄まじいものだった。

 

 

「それじゃあ、そろそろこんなところに呼び出した理由を教えてくれない?」

 

 

「んぅ、久々に駄弁ろうと思ってなぁ。」

 

 

「嘘ばっかり。」

 

 

フードが作る暗がりの中から薄く笑うフレイヤに、ロキもそれまでのふざけた態度を翻し、不敵に笑う。

それまであった両者の空気とは一変した。

運悪くちょうど注文を取りに来た店員は、2人の神が放つ圧力感に頬を痙攣させ、金縛りにあったかのように立ち尽くす。アイズはと言うと、顔色一つ変えずに真横から静観していた。

 

 

「率直に聞く。なにやらかす気や?」

 

 

「何を言っているのかしら、ロキ?」

 

 

「とぼけんな、あほぅ」

 

 

動かないまま立ち尽くす店員にフレイヤは微笑みかけと、彼ははっと目を覚まして赤面し、その場から退散してしまった。

そばに誰もいなくなり視線を戻すと、ロキはその細い目を猛禽類のように鋭く光せた。

 

 

「最近動きすぎやろう、自分。興味無いとかほざいておった『宴』に突然顔出すわ、さっきの口振りからして情報収集には余念がないわ…今度は何企んどる?」

 

 

「企むだなんて、そんな人聞きの悪いこと言わないで?」

 

 

「じゃかあしい」

 

 

『お前が妙な真似をすると碌なことが起きない』─────ロキは言葉の端々からそのように告げてくる。

こちらに面倒事が及ぶようなことがあれば、叩き潰すぞという意向を暗に表すかのように視線を鋭くする。

獲物を仕留める蛇のような眼差しのロキに、それを微笑で受け止めるフレイヤ。

目に見えない剣呑な『気』同士のぶつかり合いに、気づけば店内も貸切状態になっていた。

アイズが見守る中、永劫に続くとされたそのやり取りだが、おもむろに、ロキは脱力。それまでの雰囲気を霧散させ、確信した口調で一言。

 

 

「…男か」

 

 

「…」

 

 

ロキの言葉に対し、フレイヤの返事は帰って来ない。しかし、フードの奥では微笑が浮かんでいた。

ロキはその沈黙を肯定と受け取ったようで、呆れたように大きなため息を着く。

 

 

「つまりはあれか?またほかの『ファミリア』の子供を気に入ったっちゅう、そういう事か?」

 

 

『美の神』フレイヤの多情──────いわゆる男癖の悪さは神々の間では周知の事実だった。

気に入った異性───専ら下界の子供達────を見つければすぐさまアプローチを行い、その類ない『美』を用いて自分のものとする。魔性とも言える『美毒』にかかり彼女の虜となったものは数しれない。

そして、今回フレイヤが目をつけたのは他の『ファミリア』の構成員。『神の宴』に足を運んだのもその子供の所属『ファミリア』を突き止めるため。既に他の神と契約している子を奪い取ろうとすれば、間違いなく(いさか)いが起こる。自らの損害を避けるため迂闊な真似は避け、情報収集に走った。

ロキはそう推理したのだ。

 

 

「ったく、この色ボケ女神が。年がら年中盛りおって、誰だろうとお構いなしか」

 

 

「あら、心外ね。分別ぐらいあるわ」

 

 

「かーっ!抜けせ抜かせ!男神アホ共誑かしてるくせによう言うわ!」

 

 

「彼等と繋がっておけば何かと便利だもの。色々融通が利くわ。」

 

 

『悪趣味魔女め』と遠慮なく吐き捨てるロキに対し、フレイヤはほんの僅かに、その細い肩を竦めた。

問い(ただ)すことはもうないのか、ロキはぎしっと音を立てて椅子の背もたれに体重をかける。

手持ち無沙汰のように両手を頭の後ろに回し、軽くのけぞった。フレイヤもまた冷めたカップを手に取り唇へと傾け、一問答が去ったその空間に身を委ねる。

彼女達のすぐ横では快晴の空が広がり、大通りの喧騒が耳朶を叩いてくる。開いている窓からは柔らかな風が入り、ふわりとフレイヤのローブを撫でていった。

 

 

「で?」

 

 

「…?」

 

 

「どんなやつなんや?今度自分の目に留まった子供ってのは?いつ見つけた?」

 

 

『教えろ』というようにロキは口端を吊り上げる。それくらい言えと要求する彼女は神特有の野次馬根性を全開にしていた。『言わなければ帰さない』と、その興味津々な目から伝わってくる。

 

 

「…」

 

 

「そっちのせいでうちは余計な気を使わされたんや、聞く権利くらいあるやろ。」

 

 

強引な理由を振りかざすロキに、フレイヤは顔を左手、窓側に向けた。

メインストリートを行く大勢の子供たちを眼下に置く。あたかも過ぎ去ったいつかの光景を思い出すかのように、フードの奥の銀瞳が遠い目をした。

 

 

「彼は…とても強いわ。貴方や私の『ファミリア』の子と比べても、頭一つ…いえ、それ以上にずば抜けているわ。生半可なことでは傷が付かない、とても強靭でたくましい精神を持つ…そんな子よ」

 

 

そして、と細い唇が震える。

 

 

「とても綺麗だった。透き通っていた。あの子は、今まで私が見たことの無い色をしていたわ。例えるならそうね──────ダイヤモンド、かしら」

 

 

だから目を奪われた、見惚れてしまった、と。

語り続ける彼女の声音は、いつしか熱を帯びていった。

 

 

「見つけたのは本当に偶然。たまたま視界に入っただけ」

 

 

当時の状況に心を巡らせながらフレイヤは言葉を連ねる。その相手との出会いを再現するかのように、窓の外の光景を見下ろした。

 

 

「あの時も、こんな風に…」

 

 

日の光が霞むメインストリート。

通りの向こうから、少年はこちらへとやって来て。

そう、たった今、視界の中を通り抜けて行ったように。

 

 

「────」

 

 

フレイヤの動きが止まった。

その銀の視線が、不思議な格好をした『ダイヤモンドの少年』に釘付けになった。

ひしめく人の群れをひらりと躱しながら先へと駆けていく。その足が向かう先は闘技場、『怪物祭(モンスター・フィリア)』。周囲の流れに巧みに身を任せながら少年は円形の巨大施設に進路を取る。

徐々に遠のいていくその背中を見つめるフレイヤは、ゆっくりと蠱惑的な笑みを浮かべた。

 

 

「ごめんなさい、急用ができたわ」

 

 

「はぁっ?」

 

 

「また今度会いましょう」

 

 

呆気にとられたロキを置いてフレイヤは席を立った。

ローブでしっかりと全身を覆い隠し、店内を後にする。

その場にはロキとアイズだけが残されていた。

 

 

「なんや、アイツ。いきなり立ち上がって。」

 

 

怪訝そうな顔を浮かべ、ロキはフレイヤが消えた階段をしばし眺める。と、そこで『ん?』とロキは小首を傾げた。

自分の真隣、窓際から一つ距離を離した位置から、アイズが外をじっと見つめている。

 

 

「アイズ、どないした?何かあったんか?」

 

 

「…いえ」

 

 

『何も』、と続く言葉とは裏腹に、アイズは外を見続けた。

彼女の金の瞳は、奇しくも女神の銀の瞳と同じように、見覚えのある『ダイヤモンドの少年』を追っていた。

 

 

〜〜〜〜〜

 

 

「はい、これ」

 

 

「おおぉ…!!!」

 

 

作業着姿のへファイストスから手渡された小型のケースに、ヘスティアは驚嘆の息を漏らす。目の下に大きな隈を作りながらも、彼女の顔は輝くような笑みを浮かべていた。

 

 

「ご要望には応えられたかしら?」

 

 

「うんうんっ!十分十分っ!文句なんてあるわけがないよ!」

 

 

ぱかっ、と蓋を開けてヘスティアは箱の中身を見る。漆黒の鞘に収められた、漆黒の柄を持つ短刀。

上から下まで黒ずくめで、一見簡素なつくりのこの武器は、ヘスティアも及ばずながら力添えして完成した、へファイストス入魂の作だ。

約一日かけて作り上げられた仗助の武器に、ヘスティアはこれまでにない満ち足りた表情を浮かべた。

 

 

「あっ、そうだ、この武器の名前なんてつけるんだいへファイストス!?なんだったらボクがつけていいかなぁ!?そうだね、ボクとジョースケ君の愛の結晶ってことで『ラブ・ダガー』とか!!」

 

 

「やめなさいっ、駄作臭プンプンじゃないのッ!…でも、そうね、コレは神の武器としか形容しようがないし…」

 

 

神の(ヘスティア)ナイフ』ってとこかしら、とへファイストスはこぼす。

終始ご満悦なヘスティアは頭に手をやってにやけている。頭の両サイドで結われた長いツインテールが、彼女の御機嫌を示すように波打っている。

 

 

「言っておくけど、借金ローン、踏み倒すんじゃないわよ」

 

 

「わかってるわかってるっ!」

 

 

アップしてまとめてあった髪を解きながら釘を指してくるへファイストスに、浮かれているヘスティアは笑顔で頷くだけだ。 

親友がため息を着く横で、彼女は早速この場を出ていく準備を始める。

 

 

「もう行くの?」

 

 

「ああ、悪いけど!」

 

 

居ても立ってもいられないという風にヘスティアは素早く動き、部屋の扉へと直行した。

 

 

「ヘスティア、あんた少しは休みなさいよー!」

 

 

声を背中で聞き、振り向かずにパタパタと手を振る。

工房の隣に設けられた小部屋から出たヘスティアは、そのままヘファイストスの店を後にした。

 

 

(ああ、早くこれをジョースケ君に届けたいなぁ!)

 

 

あの子はどんな顔をしてくれるだろう、と今から考えるだけで幸せな気分になる。手放しで喜んでくれるだろうか、尊敬の眼差しで見つめてくるだろうか、それとも感極まって抱きついてくるだろうか。

ヘスティアの頭の中が妄想で彩られ、自然と頬も緩んでいた。路上の真ん中で勝手に身悶え、顔一杯をとろけさせた。

 

 

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