数年前に更新が止まったやつのリメイクです。昔過ぎてどう進めてたか全然思い出せなかったので、いっそ最初から書き直すことにしました。
※以前の奴はもう見れません。残念。
自分は生まれた時から精神が成熟していた。
俗に言う転生やら憑依やらといったものなのだろうか。
生前に自分は事故にでもあったのだろうか。所謂カミサマと呼ばれる高次の存在に出会い、特典でも貰ったのかもしれない。
だが、自分に前世というものが本当にあったかも定かではない。
自分には記憶というものがなかった。
生前が男だったのか女だったのかも分からず、ただ漠然と何十年も生きないと身につかないであろう知識だけが詰め込まれた赤子。
ただ願わくば転生の類であって欲しいと思った。元々あった自我に憑依するなど、その人を殺すようなものだ。
母と思しき女性は自分を抱えながら愛おしそうに名前を呼ぶ。
「千早……」
産婦人科の人だろうか。
まるで自分のことかのように喜び、呼ぶ。
「良かったですねぇ!如月さん!」
神などいないらしい。
私立秀知院学園。
かつて貴族や士族を教育する機関として創立され、200年の歴史を持つ由緒正しい名門校。貴族制が廃止された今もなお、富豪名家に生まれ、将来国を背負うであろう人材が数多く就学している。
……まっっったく私の思っていた物語ではなかった。
芸能プロダクションに入り、時にぶつかり合い、時に励まし合いながらも仲間と共に成長していく……
幻想だった。妄想だった。そもそも765プロなんてなかった。
時代がズレてるのかとも思ったが、日高舞の日の字もなかった。
ここはアイドルマスターの世界ではない。
きっと前世の私が「来世では如月千早みたいに美人で歌も上手いクールビューティーにしてくれ!」とでも頼み込んだのだろう。
決して! 憑依して元々あった精神を追い出したりなんてしてないのだ(現実逃避)
そしてこの私立秀知院学園。
前世の私……私が如月千早な時点であなたがPだったのは容易にわかる……
でも……
(せめてアニメ見るなり原作を読むなりしておきなさいよっ!)
そう!この世界は「かぐや様は告らせたい」という漫画の舞台!
総資産200兆円!ゆうに千を超える子会社を抱え!4大財閥の1つに数えられる四宮グループ!その長女、なんでもできる天才「四宮かぐや」!
そして!質実剛健、聡明英智を地で行く努力の天才!外部生でありながらも学内模試では学園1位をもぎ取り、勉学1本で畏怖と敬意を集める「白銀御行」!
他にも曲者揃いの貴族学校で繰り広げられる、天才達の恋愛頭脳戦を描いたラブコメ学園ギャグ漫画である!
……とまぁ私の頭にはここまでの知識しかない
何故かなんてわかってる。前世ではどういうわけか対象外だったからだ。こんなに面白そうなのに……なぜ読んでないの!前世の私!
どうしよう!これジャンプの漫画らしいし、急にバトルものになったりして危険な目にあったら!
身体的なチートなんて貰ってないし、超能力だって持ってない!
今後の展開がさっぱりわからないから、どう立ち回ったらいいのかもわからない……!
「とりあえず生徒会には近付かないようにするのが吉ってところよね」
主役級はみんな生徒会役員。流石にそのくらいの知識はあるわ。
「と、いうわけで会長。合唱部の活動に専念したいので、そろそろ生徒会役員を辞職させていただいてもよろしいでしょうか?」
「何が『と、いうわけ』なんだ如月庶務……」
知ってた。
そもそも合唱部辞めてるし、何も知らずにこの学園に来て生徒会に入った時点で手遅れ……。
だってしょうがないじゃない……かぐや様の世界だって思い出したのつい最近なんだもの。
………………。
いや!! 決して手遅れではない。これはそう。私とこの世界との頭脳戦なのだ。
例え、突然学園に能力者が現れて戦闘になっても……
例え、宇宙から侵略者が地球にやってきたとしても……
例え、誰かが殺されてサスペンス路線になったとしても……っ!
私は! 如月千早は! 運命を覆してみせるっ!!
「な、なんでもいいが、とりあえず辞めないでくれよ……?」
この秀知院学園での私の立場というのは良いか悪いかと言われると多分悪いほうだろう。
私は中学からの混院生(中等部や高等部からの外部入学者)だし、プライドの高い純院生(初等部からの秀知院生)を歌のコンクールでボコボコに打ち負かしてしまったこともある。
合唱部に入っていたけど、部員のやる気と私のやる気が全然噛み合わなくて部員と衝突。そして退部。
自分で言うのもなんだがクールな見た目も相まって、クラスメイトもあまり近寄ってこない……気がする。
そもそも私がコミュ障であるから、自分から話しかけにも行けない。
たまにこっちを見てコソコソ何か言ってる人も見かけるし、陰口だったら泣くこと必至ね。
別に「如月千早」をロールプレイしようとは全く思っていないのに、妙に性格が寄ってしまうのよね。何か魂的な因果関係みたいなものがあるのだろうか?
しかし、そんな私にもちゃんと友人はいる。
「映画のチケット……?」
「そうなんですよ千早さん!応募したのが当たったみたいで!」
「千花は運がいいのね」
「えへへ。でも家の方針でこういうのは見に行けないんですよねぇ」
(じゃあなんで応募したのかしら)
ご覧の通り私と藤原千花の仲は悪くない。
私が秀知院に転入してきた時に初めてクラスメイトになった女の子。初対面から既に凄くしつこく仲良くなろうと付きまとってきていた。
はっきり親友と呼べるくらい1番仲良くなったきっかけは、確か数年前の音楽コンクールの時だろう。その話はまた後々。
彼女はピアノの才能の持ち主で、有名なピアノのコンクールで金賞を取ったこともあるのだとか。
校歌斉唱の際の指揮者も担当しているし、歌を歌う私としては音楽の話でウマが合う数少ない人物の1人として結構好印象。
ちなみに性格面では……まぁ変わった子、かしらね。
「で、それはどうするの?生憎だけど私はどっちもあまり興味ないから……」
「そっかぁ~。じゃあ会長とかぐやさんに聞いてみようかな!」
……一波乱ありそうね。
~生徒会室~
「そういえば千早さんにもお話したんですけど、映画のペアチケットが当たったんですよ!」
「でも私、家の方針で禁止されてるので……お2人はご興味おありですか?」
「映画のチケット……か。確か週末は珍しくオフだったな……だったら四宮、俺達で」
「なんでもこの映画を男女で見に行くと結ばれるジンクスがあるとか!」
「な!?」
へぇー……そんなジンクスあったのね。2人で行ったらさぞかし盛り上がるんでしょうね。それもおかしな方向で。
「あら?もしかして会長、私を誘いましたか?男女で見に行くと結ばれるジンクスのある映画に、この私を。それではまるで……」
2人で行ったらどころかチケット受け取る前から始まった……。
まぁ、よく考えたら素直に2人で行こうなんてなるわけがないわよね。
「……そうだ四宮を誘った。俺はそういう噂は気にせんからな。だがお前はそうではないらしい」
「四宮、お前は俺とこの映画を見に行きたいのか?」
帰りたい……。
千花はまったく気付いてなさそうだけど、ここでは高度な駆け引き(笑)が行われている。
と言っても私も『知識』がなければ気付かなかったかもしれないけど。人の色恋沙汰には私も疎い方だし。
四宮さんと白銀君はお互い好き合っている様だけど、自分からは絶対告白しないという謎のプライドによる自分ルールで毎度のように牽制し合っている。
昨日妙にテンション高くって「覆す!」とか言ってしまったけど、これがあるからバトルとかサスペンスに路線変更した線は結構考えにくいのよね。
この恋愛頭脳戦(笑)から別路線にするのは流石に難しすぎるんじゃないかしら……?
「私だって恋のひとつもしてみたい年頃なのです……」
「(すっごい純粋ぶってる……)」
それにしても、あの四宮かぐやがこんな可愛らしいことになるなんて、3年からとはいえ中学の頃から秀知院に通っている私としては本当に感慨深い。
「あ、恋愛モノがお嫌いなら、とっとり鳥の助のチケットもありますよ!」
千花、後出しジャンケンは卑怯よ……。
まぁ私は映画が2種類あることは知っていたけれど。
ほら、完全に2人の思考が停止してしまっているわ。
それはそうよ。意識外からの攻撃すぎるもの。
まぁでも、一先ずこれでお開きかしらね。
って……ん?白銀君はまだ頭がオーバーヒートしてるみたいだけど、四宮さんが凄い私をチラチラ見ているわね。うわぁ、状況を打開する一手をとても期待している目をしているわ。
そのまま思考停止していれば良かったのに……。
しょうがない。
「千花、そのチケットは私が貰うわ」
「え?でも千早さんあんまり興味無いって」
「興味が無いのは本当だけど、最近は歌の練習ばかりだったから息抜きがてら、こういうのを見て表現を豊かにするのも悪くないと思って」
「千早さんは相変わらず努力家だなぁ……いいですよ!じゃあ、はい!」
「……えっ?」
はいと渡されたのは恋愛ものの方。違うの千花!それを受け取ると私の命が危ういかもしれないの!
「表現を豊かにするならやっぱり恋愛モノ!千早さん結構恋愛的な曲歌うし、あんなジンクスが出来ちゃうくらいの映画だったら絶対参考になりますよ!」
「いや、でもその私としてはその鳥……」
「そーんな遠慮しなくていいですってばぁ!じゃあ会長とかぐやさんは鳥の助ですね!これもちっちゃい子どもに大人気らしいのできっと楽しめますよ!あっ、もう午後の授業始まっちゃいますね!千早さん!行こ!」
す、凄い怒涛の勢い……四宮さんが白銀君と映画には行けそうで嬉しいけど見に行く映画が鳥の助になってしまった事でとてつもなく微妙な顔をしている……。
そして睨まれる私!
えっ!?私は悪くないわよね!?後で交換するから勘弁してちょうだい!
「え、えぇ……と、会長、四宮さん、それではまた放課後」
「また放課後にー!」
あ、交換するついでにいつ映画見に行くのか聞いておきましょうか。
見に行く時に2人と鉢合わせたらたまったものじゃないもの。
それにしてもチケットどうしましょう。2枚あるのよね?
石上君なんて誘っても来てくれないだろうし……。
鳥の助を1人で見に行く女子高生……。
…………。
この運命を覆すことは出来なさそうね。残念だけど。
~四宮邸~
『 目と目が逢う 瞬間好きだと気付いた
「あなたは今どんな気持ちでいるの」
戻れない二人だと 分かっているけど
少しだけこのまま瞳 そらさないで 』
〜♪
「かぐや様、音楽をお聞きになっているのですか?」
「えぇ、如月さんのをね」
「…………。……そ、それ私にも」
「ダメよ。これは生徒会のメンバーにしか配られていない由緒正しいCDなのよ?」
「でも千早ちゃん学園でライブしてもCDなんて出されないじゃないですか!」
「あくまでも素人だからって遠慮してるんでしょうけど、とっくに素人の域なんて超えてるわよね。普通に地元のお祭りの余興なんかにも頻繁に招待されてるみたいですし、順調に歌手としての道は邁進しているみたいね」
「私は学祭のライブをスマホで録音したものでしか聞けないのに……レコーディングスタジオで録音したやつのしかもCDなんて……」
「まぁ貴女も欲しいなら、彼女から信頼される立場になりなさい?そんな非公認のファンクラブなんてやってないで、素直に仲良くすればいいのよ」
「(素直に仲良くすれば……ってどの口が言うのか)」
早坂愛!学校でのギャルは擬態した仮の姿!
その正体は四宮かぐやに仕える近侍にして、会員数は1,000をゆうに超える非公式団体『蒼の歌姫ファンクラブ』会員No.0001のクラブ会員限定カードの持ち主である!
というかファンクラブを作った張本人こそ早坂愛その人であるっ!
「でも話しかけたら緊張して死にます」
「如月さんの身辺調査は余裕綽々だったじゃない」
「彼女のことを知れば知るほど、胸が締め付けられるんです」
「あー、はいはい」
ファンから積極的に歌姫に関わりに行くのは御法度!彼女は日々四宮かぐやの命令に忠実に従いつつ、遠巻きに如月千早を観察しながら対象Fに嫉妬の炎を燃やしているのだ!
「(せめて千早ちゃんが同じクラスだったら……!)」
いつの日か憧れの千早ちゃんにファンとして気持ちを伝える……これが早坂愛のささやかな夢の1つである。
千早「千花、最初にあんなジンクスのある映画のチケットを私に譲ろうとしたの、意外と鬼畜よね。そんな相手いないの知ってるくせに……」
千早「鳥の助、面白いわ」ホロリ