「アトラスの影に隠れろ!」
機関銃の弾が装甲に弾かれて、とても煩い。貫通されないと分かっていても煩いものは煩い。
「弾幕が濃すぎて顔が出せないでしゅ!」
「指揮官!敵
「今、爆薬を投げ込んだ!
数十m先の火点が内部から破壊されて機関銃が黙った。前進指示を待つ。
「アトラス!前進!」
「了解!」
数時間前。
「えーと……君がアトラスさん、かな?」
「はい!T-35"アトラス"、着任します!」
「うん、よろしく頼むよ。遠路遥々お疲れ様ですわ……。」
「それでその……。」
「あー……うん、言いたいことはわかる。」
格納庫が宿舎になるのは理解している。理解しているが……。
「すまない……何分、君の着任に関して昨日聞かされてね……。準備が間に合わなかった……。」
「あ、いえ、お気になさらず!」
「整備員も居なくて、整備作業できるのが私と、MG42……まあ一応、AK-12 も手伝ってはくれるらしいが……人員が足らないんだわ……。」
項垂れる指揮官。確かに不満はあるがこればかりはしょうがない。
「3時間後に演習なのでそれまで待機していてくれ。」
「了解。」
「初陣に期待している……とは言わない。無理しすぎないように。」
無理しすぎないように、かぁ……。前に居た部隊では大変な目にあった。整備マニュアルも無しにバラされそうになったり、対戦車地雷を踏まされそうになったり……挙句の果てにはバラバラにされてもう戻らないかとも思った。たまたま立ち寄った今の指揮官に見つけてもらって助けてくれたのだけれど……。
「はぇー……これが指揮官様が仰ってた"戦車"でしゅか〜。」
「どなた……?」
「しゃ、喋ったでしゅ!?」
「へー……そんなことが……。」
「あの時、指揮官が居なかったらと思うと……。」
「あの朴念仁な指揮官様にもそんな側面があったのでしゅね……。」
今、朴念仁って言いました?言いましたよね?
自分の上司を朴念仁って呼ぶ人初めてみましたけど朴念仁って呼びましたよね!?
数時間後。話は冒頭に。自動装填装置のお陰で誰かに再装填してもらうことなく火砲が使える……使えるのですが……。
「あれ……あ、砲閉鎖機が故障!」
残念ながら中に誰も居ないので修理は誰かに頼むしかなかったりします。なので撃てない時は指揮官に頼んで時間稼ぎをしてもらい、サポートに入れる人員が私のメンテナンスハッチから侵入、修理を開始します。まあ、現にMG42さんが内部で弄ってくれているのですが……
「えーと……ここをこうしてこうで……。」
「本当に申し訳ないです……。」
「いえいえー。あたしも指揮官様におんぶしてもらって帰ったりしてましゅから〜。」
そんな仲なんですね……それならまあ、朴念仁と冗談を言うのも分からなくは無い……?
「これでどうでしゅか〜?」
「確認したいのですが、危ないので退避して……おっとっと!今はまだ出ないでください!危険すぎました!」
敵火点が機関銃を乱射して威嚇している。メンテナンスハッチから脱出するのは危険。かといって動作確認や再装填には砲塔内のスペースが足らないし、車体前部へ移動する通路もない……流石に私も恩人を自動装填装置で磨り潰すのは私もどうかと思う。
「指揮官!火点を!」
「あー……了解!肉薄する!」
そして火点の発破に繋がる。
前進している間に撃たれていないタイミングでMG42さんには飛び降りてもらって(着地に失敗したのか派手にずっこけて友軍に助け起こされていた)、再装填。
「要塞の攻略も大変ですね……。」
「模擬戦でこれだ。実戦だったらもっと大変だろうな。」
「指揮官様、指令でしゅ!」
「拝見しよう……総員傾注!」
「内容を伝達する!我々第35大隊は
「出撃は5分後。解散!」
嘘で固められた世界が崩壊し、私は格納庫に戻ってきた。
トムスク-7……ここからおよそ2時間……この距離で?
トラベリングロックで砲身を固定し、時速40km前後で走行を続ける。砲塔を後ろに回して居るので接敵前にはロックを解除しないと危ない。まあ……外し忘れはないと思うけれど……。
「排気が暖かくて助かる……。」
「指揮官、どうするつもり?」
「あたしも気になりましゅね……」
「作戦なぁ……」
「情報がなぁ……」
エンジングリルの上に簡易ベンチを固定して作戦会議をしている指揮官達。カメラでホログラムを覗き見るに、現地を襲撃しているのはE.L.I.Dではないらしい。
「今回は2人の戦術人形の確保、保護が任務だ。」
「依頼者はグリフィンPMC。」
「保護対象の名前は
「指揮官様、質問がありましゅ。」
「MG42、なんだい?」
「2人の確保後はどうなりましゅ?」
「グリフィン本部からの輸送部隊に渡して送り返すことになると思う。」
「……きな臭くないでしゅか?」
「そうだな。確保したら目を離さないように。」
〜〜〜〜
「あと2分で交戦地域に到着します。」
「うーーーん……あれは……?」
「指揮官様、双眼鏡を……!」
「二人共、どうしたのよ……えっ!」
「どうかしましたか?」
「交戦準備!総員降車!戦闘配置へ!」
「りょ、了解しました!」
砲塔を前に。ズームオプティクスでかくだ……なっ……!?
照準の先には戦車に追いかけ回される赤と黒の少女が2人。
「あの塗装は……。」
「ああ、データベースと一致する。
「撃ちましゅか?」
「仕事だもの。アトラス、HEAT-FS。」
「装填済みです。同志に撃つのですか?」
「同志にしては様子がおかしい。距離2000〜3000、やれるか?」
「やってみましょう。」
照準を調整。ターゲットのサイズを改めてデータベースと照合。同定確認。
「
左側を発砲。右側は第2射に置いておく。
「着弾!修正、左5°、俯角10°。」
かなりズレてしまったらしい。緊張故だろうか。
「
「着弾!ターゲットの履帯を破壊。お見事。一旦逃げて砲身を壊すぞ!」
撃っては陣地を変え、また撃っては陣地を変える。自走砲のような事を繰り返す。それはあくまで装甲は最後の盾に過ぎないから。
少女達をMG42達が確保した模様。
「着いてきてくだしゃい!」
「アトラス、わかるな。」
「はい!前進!」
それにしても指揮官はいつから砲塔上に……?
「ぜーはー……ぜーはー……助かった……。」
「死んだと思った……。」
「何があった?」
「
「正規軍、か。」
「君たちは?名前は?」
「アストラ……。」
「MP41です。」
「そうか……。」
「君たちを保護するよう本部から伝達されている。我々はグリフィンPMCだ。」
「おかえり、よく逃げたね。」
安堵する2人。指揮官が注射器をバックパックを取り出すまではと追記しておこう。
「な、何を……。」
「規則なもんで。君たちには眠っていてもらう。MG42、AK-12 、拘束。」
「了解でしゅ!」
「了解。」
「離して!」
「あっ……ぁぁ……。」
「アストラ!アストラに何をした!」
「鎮静剤だよ。ほら、すやすや眠っているだろう?」
AIの私が倫理観を説くのもどうかと思うけれど……もう少しやり方はあったのではないかと思う。
「MP41、君にも眠ってもらわないといけない。許せ。」
「ぐっ……ぅぅ……。」
「作戦終了。帰るぞ。」
指揮官が二人を担いで私の車体後部に登る。
「指揮官、あれで良かったんです?」
「もう少し良い方法があっただろうって?あったかもしれないな。でも、私達の部隊は本来知られてはいけない。」
「面倒事に巻き込まれるのは嫌よ。」
「隠された部隊である間は起きたまま連れ帰るわけには行かないんだ。」
渋々納得することにした。
「……はっ……ここは!」
「お目覚めかな、お嬢様方?」
「先程はすまなかった。規則上、保護した人形は眠らせることになっているんだ。」
「それで……移動中のようですが何故起こしたんです?」
「規則上……眠らせることになっているが、事情聴取のために起こすことは禁止されていない。」
顔面に張り付けた笑顔でそう語る指揮官。うーん……人物評価点は上がりませんね……。
「君たちが寝ていたのは……30秒だ。あの建物を見ろ。まだ見えているだろう?」
指揮官は戦闘用ではない対人スキルを身に着けるべきだと私は思います。
「なるほど……君たちの指揮官は偵察に君たちを送り出した、と。」
「はい。目的の情報は撮影できたのですが……正規軍に見つかってしまいまして。」
「正規軍?正規軍とは敵対していないはずだが……。」
「それに関しては私から。正規軍がある兵器の実地試験を行っています……これです。」
「……大型の四足歩行兵器?」
「はい……。」
「……よく話してくれた。正規軍ももっと……うーん……大人しくやればいいのに。」
「指揮官、本部からメッセージです。」
なんとなく嫌な予感がするタイミングでメッセージを受信したので指揮官に丸投げする。
「拝読しよう………………ふむ。」
「MP41、アストラ、ありがとう。ゆっくり本部で休むといい。どうやら正規軍の一派が試作兵器を持ち出して離反したらしい。君たちが見つけたのは離反した奴らだろうな。」
「アトラス、もう少しだけ急げるか?」
「言われなくても!」
やや増速。これ以上は駆動系が壊れてしまう。
「そこのグリフィン部隊!止まれ!」
後方からの声。元正規軍か。
「誰が止まれと言われて止まるものか!走れ!」
「くそっ……!撃て撃て!」
「不味いな……アトラス、軽車両が追いかけてきている。その数3。前進を続けて。アストラ、MP41、トラベリングロックが外れたら車体前部に回ってくれ。」
「了解。」
「了解です。」
「MG42、弾幕を張って敵のエンジンを破壊。」
「了解でしゅ。」
「AK-12 。」
「なに?」
「いつもありがとうな。」
「急に何よ?」
「ガンナーを撃てる?」
「急に何かと思えば。当たり前じゃない。」
「その言葉が欲しかった。」
「トラベリングロック、解除。」
「撃って撃って〜。」
「今だ!ゴー!ゴー!ゴー!」
砲塔をよじ登って上を走り、車体前部に移動する足音2つ。さっきの2人だろう。
「深度演算モード。」
電動ノコギリのような音に紛れて単発で静かに撃つ音。
「2人とも、よくやった。アトラス、止めを刺してやって。」
「了解。」
先ずは進行方向12時に対して4時の車両。初弾で炎上、減速を確認。再装填しながら次は7時。これも破壊。そして9時。
「3台の破壊を確認。他に追跡無し。よくやった。」
基地に無事に帰還。本部から回収に来ていた連中も話を聞いていたのか規則の抜け道を見つけて今回の件は不問としてくれたらしい。
「2人とも、君たちの指揮官には私達のことを話すなよ?」
「了解しました。」
「えっ……。」
「話がややこしくなるからな。じゃあな。2人とも。」
トラックの荷台に座って去っていく2人を格納庫から見送った。
「さて、と。お前さんを整備せにゃならない。少し痛むかもしれないが、我慢してくれ。」
(次回に続く)
人物紹介 No.1
T-35"アトラス"
某軍需産業複合体が開発、グリフィンが導入した新型の攻撃型無人戦車。図体が大きいので指揮戦車としての運用や、歩兵部隊に随伴しての作戦投入が検討されていたものの、開発会社が鉄血の襲撃を受けて壊滅。試作車と関係書類のデータのみが残され、ドクトリンの問題から厄介者として指揮官の部隊に預けられた。
預けられた部隊でも資源消費の大きさや整備困難であることから一度は送り返すことも検討されたが、本人の意志の強さ、矛と盾としての性能、運用部隊の士気向上に役立っていたことを勘案され、この部隊にのみ正式に配備となった。
全長およそ10m 。10.5cm連装砲を装備し、砲塔上面にマウントされたバンブルビー複合火炎放射器がトレードマークの超重戦車。自慢の装甲は速度を捨てて得たものであり、105mm HEAT-FSの直撃に耐えてみせた。もっとも、機動性も極端に悪いものでもない。この時代の戦車としては遅いだけで重戦車としては……。