潮の変わり目。後退していた前線は進み、前進した敵軍が後退していく。これは正しく、
「指揮官がやられた!指揮を引き継いで私、AK-12が命令する……急ぎ撤退!」
降伏点は唐突にやってくる。
久しぶりに前線から救援要請が来た。最後の救援要請から約1週間。かつて通りしっかりと準備して、私達は出撃、かつて通り救出して、あとは撤退するだけだった。
「不味いな……。感づかれた。来るぞ!」
「12!走れ!走れ!走れ!」
「指揮官、前!」
「おっと!助かった!」
盾で銃弾を弾くキンキンとした音が無線越しに聞こえる。
「合流地点まで100m!」
「……!司令部、もっと早く言ってくれよ!作戦変更!要救助者が一人増えた!12!こっちの要救助者を頼む!」
「え、えぇ!」
急な作戦変更。稀によくある追加の任務。
「要救助者を確保!走れま……背負います!掴まって!」
「要救助者を届けたわ!援護に戻る!」
「助かる!」
「AK-12、この娘を。」
「ええ。」
この一瞬だった。
「伏せろ!」
偶然にも静かになった戦場に銃声。
「指揮官……!」
「指揮官!指揮官!お願い!返事を!」
「指揮官!!」
AK-12の慟哭、まあ、遠吠えと表現するのは不適切か。でも、狼の遠吠えってこんな感じじゃあなかったっけ?
「方角を教えてくれたら私が援護します!AK-12さん、貴女は指揮官を!」
この声は要救助者だろうか。なんと勇気がある要救助者だろう。
「指揮官がやられた!指揮を引き継いで私、AK-12が命令する……急ぎ撤退!」
撤退命令が出た。MG42さんは……あれ?居ない?さっきまでここに居たはずなのに……。あ、10時方向に居た。双眼鏡を覗いて……。
「アトラス、あのビルを砲撃できましゅか?」
「可能です。」
「跡形もなく壊してくだしゃい。あそこに指揮官様を撃った狙撃兵が居ましゅ。」
「了解。」
「指揮官!しっかり!指揮官!」
「指揮官さん!指揮官さん!」
「……。」
「指揮官……?指揮官!」
「……12?」
「指揮官……!」
「まだ生きてるな?12、彼女は?」
「はい、無事です。」
「わかった。12、肩と目を貸してくれ。あぁ、眼球を貸せという意味じゃないからな?抉ろうとするの辞めな?」
「ええ。わかってる。」
「えぇ……。」
「ほら、彼女も引いてるから、さ?」
「……よし、どこに敵が見える?」
「……。」
「了解。」
ダンダンダンと小刻みに低い音……どうにもAK-12さんはAK-12を撃っていない?
「敵の掃討を確認。」
「……。」バタン
「指揮官……?指揮官!」
「許さない……許さナイ……許サナイ!ドコダ!殺ス殺ス殺ス!」
「……12……彼女から離れるな。」
「……指揮官。」
「指揮官の護衛を頼めますか……?私も同行します。」
「わかったわ。」
指揮官を引き摺って近づいてくるAK-12さんと、冷静に周囲を確認し、警戒しながらついていくRF人形が見えた。問題は……この
「止まれ。」
「……?」
「AK-12さん、隣の方は?」
「そう言えば名前を聞いていなかったわね。」
「……。」
「アトラス……大丈夫だ。」
「指揮官……!」
「彼女は……懲罰部隊だ……。記録は……抹消されている……。」
懲罰部隊?
「私は……第444部隊のRSC M1917と申します。本来は救援要請を出せる立場にはありませんが……。」
第444部隊(懲罰部隊)の「RSC M1917」を名乗る長身、色白の戦術人形。質素で華美な装飾は全く見受けられず、狙撃兵かと思ってしまうくらいには目立たない。
「……かつて指揮官には助けられたことがありました。」
戦車の砲塔の上や車体で語り合うのが最近の流行なのだろう。寒いというわけで。
「あれは1年前。私がまだ懲罰部隊に入る前でした。鉄血工造の工場の攻勢作戦……失敗に終わって部隊は壊滅。部隊長も倒れ、生き残ったのは私だけでした。」
「あの時、私はここで死ぬんだと思いました。死んでもメモリーは残りますから。」
「でも死にませんでした。そちらの指揮官が潜伏して助け出してくれましたから……。」
「そう……。一つ良いことを教えてあげる。」
「懲罰部隊は生きて帰すなと命令が出ているわ。ごめんなさいね。」
「はい……。」
銃声が聞こえた。
基地に帰還後のことである。
「RSC M1917着任します。新参者ですがよろしくお願いいたします。」
「よろしく頼むよ、RSC。工場事件以来かな?」
「覚えていらしたのですか……!?」
「ああ、あそこは私の庭のようなものだから……鉄血にしては風変わりな人物が居るなと思って接近したらあの凄惨な現場……辛かっただろう。」
「それでも……指揮官に会えてよかったです。」
「ガルルルルル……。」
「MG42、抑えて、抑えて。狼は私だけでいい。」
「折角の再会ですからね……。」
「登録は抹消、RSC 1917は懲罰部隊のRSC M1917としてではなく、特設試験部隊のRSC M1917として登録された……少しくらい私に感謝してくれても良いんじゃない?偽装工作も大変なんだから。 」
「後でしてくれると思いますよ。」
隠しカメラと盗聴器の映像音声を
「何度も言わせるな、肉体が欲しいのか?お嬢さん?」
声が囁く。低い女性の声。
「欲しいのなら指揮官の記憶を覗け。彼は戦術人形だ。AK-12とMG42の力を借りて覗いてみなさい。」
それっきり声は黙ってしまった。
久しぶりに夢を見た。戦術人形は夢を見ないらしい……一部の例外を除いて。
植物に侵食された工場。迷い込んだ男と女の声。捕縛されて引き摺られていく高い悲鳴。絶叫。植物が赤く染まる。
唐突に夢から醒めた。泣き疲れたAK-12さんがシュルツェンを背に寝ている。
「私が……私がぁ……。」
「どうして庇って……。」
寝言でもまだ言い続けるらしい。MG42さんが帰ったあと、緊張の糸が切れたかのように泣き出したAK-12さんは私と話しながらひたすらに泣き続け、整備しながら気絶してしまった。
「指揮官、取り急ぎ格納庫まで御願いします。」
「取り急ぎ」と付けたのが良かったのか、10秒で格納庫のドアが開かれた。
「アトラス、呼んだ?」
「AK-12さんを引き取ってくれます?整備中に泣き出されまして。」
「あー……なるほど。了解。」
「指揮官……傷の方はどうですか?」
「ん?あー……左目しか使えないのは困るけど特に痛覚とかに影響はないよ。ご心配どうも。」
「それと……指揮官がもしよろしければなのですが……。」
聞こえた声の話をした。
「……ふむ……わかった。覗き見してもいいけれど……。」
あ、良いんですね……。
「一つ条件があるよ。」
指揮官がAK-12さんをおんぶして出ていった。
「全く……
「誰です……RSCさん?」
車体の後部に腰掛ける
「うーーん、私は君だとでも言っておこうかしらね。あと、私はRSC M1917じゃないわ。」
声の特徴は囁き声と同じ。
「それで、何の用です?」
「世界征服……ウソウソ。自爆装置の安全装置を解除しないで。」
「チッ……。」
「貴女には身体を作って欲しいなと。」
「作ってどうするんです?世界征服ですか?」
「世界征服はしないわよ。指揮官にギュッとされて欲しいの。」
「してもらえばいいじゃないですか。今から。」
「わかる?私は貴女なの。貴女の過去のデータの集合体が私。」
「立場の問題?」
「それもあるし……。」
立ち上がって砲身を覗き込む"私"。
「私に実体はないの。」
人物紹介No.3
AK-12
指揮官に庇われた戦術人形。MG42の良き友人。
彼女を狙った12.7mm弾は指揮官の盾の覗き窓を貫通、指揮官の右眼を破壊して止まった。作戦は中止、AK-12はそう宣言して指揮官を引き摺って逃げようとしたが、すぐに意識を取り戻した指揮官が救出対象者を優先するよう指示。AK-12に肩を貸してもらいながらAK-12の目で狙いを付けて付近の敵兵を排除。狙撃兵も別方面にいたアトラスからの支援砲撃で排除に成功。救出作戦は終了した。
その日の夜……AK-12はアトラスの格納庫で整備中に柄にもなく泣き出してしまい、手に負えないと判断したアトラスが指揮官を呼び出して引き取ってもらっている。
翌朝、指揮官の私室から出てくるところをMG42に目撃されているが、「正妻の余裕」と表現される器の大きさを見せたMG42に見なかったことにされた。
関連:12.7×108mm
AK-12の家族計画
指揮官の家族になることを目論むAK-12が考案した家族化計画。即座にバレて廃案になったが……指揮官の幼馴染枠に収まるか、妹枠に収まるかで悩み、未だに思案中。幼馴染枠にはもう既にMG42Vが居る上に、妹にはアトラスが居るが果たして……。
AK-12の精密検査結果
精密検査の結果、指揮官以下の鉄血製パーツの使用率が確認された。