巨人が人間になるまで   作:イエローケーキ兵器設計局

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 それは興味本位だった。指揮官の記憶を覗いてみたい、MG42さんとAK-12さんを誘うのは意外と簡単だった。ハッキングによる記憶の盗聴……人の記憶を覗くことは視野狭窄(Tunnel vision)に繋がることだと理解はしていたのだけれど……。



Tunnel vision

 データスワローを起動。合流。合意……準備。出撃。

 

 指揮官にハッキングしたAK-12さんの情報処理を私が担当、セキュリティはMG42が対処を遅らせているらしい。指揮官のメモリーのセキュリティは非常に強固で、急いで情報処理をする都合上、戦闘機に乗って戦うゲームのような描写処理になった。機体は過去のデータベースと照合して……最大速度3300のSR-71及び、YF-12の改良型と推測。装甲コックピットとかいう構造をしているから、外部視界はカメラとそのディスプレイ頼みというわけで。

 

「海、島……トンネル?」

「それ以外になにかみえましゅか?」

「あっ……蝶。」

「アトラス、この速度帯で蝶?」

「下方20°、蝶のマークを尾翼につけた航空機が見えました。」

「なるほど、追いかけてみましょう。」

「あら、トンネルに。」

「追いかけるわ。」

 例えて言うなら機長はAK-12さん、火器管制官がMG42さん、私は……各種アビオニクスといったところでしょうか?

「くっ……狭い!」

「シャッターが!」

「左が早く閉まって右がゆっくりと閉まる……増速、追いかけるわ。」

「正気の沙汰じゃないでしゅね。壁にでも突っ込んだら3人纏めて棺桶送りなのを忘れないでくだしゃいね。」

 よくもまあ、こんなにもぐるぐるしてるのに空間識失調(バーティゴ)にならないものだ……。左、左、右、左、左、右、左……。

「道が二手に別れたわ。」

「あの機体は左へ。」

「見るからに狭くて危険そうね……。追いかけてみましょ。」

 慣れてきたのかスロットルが開かれてマッハ2を越えるようになってきた。

 大きな起伏を伴うトンネルをマッハ2〜3で駆け抜ける機体。安定性が低いからか横滑りを続けているので制御する方も大変。

「おっとっと!危なかったわ!」

「機長、頼みましゅよ!」

「一番頑張らないといけないのは私なんですが……。」

 前方を先導する機体はおそらくTu-128の改造機。同様の改造を受けているのであちらもカメラで見ているのだろう。

 また広いスペース。シャッターが3つに増えた。減速の必要あり。

「げ、減速を……!」

「まだしないわ。」

「この機体、エアブレーキが……!」

「効きは良くないでしょうね。安心して。」

「今の私はNemo。フィーとやってみせるわ。」

 Nemoというと……某フライトシューティングゲームの3作目主人公……大丈夫かなこのAI。ちなみにフィーは同作の「元凶めっ!」の人。今回、先導している機体はデ○ジョンもレ○も乗っていないのだけれど……撃墜しないよね?

(機体の位置関係的にはどっちかと言えばこっちがフィーなんだけどこれに関しては黙っておこう。)

「右。」

「左……。」

「左。」

「中央。」

「右。」

「右。」

 二手に別れた。

「左へ。」

 六角形の通路を通過する2機。5秒ちょっとで通過。マッハ2.4近くだから……この六角形の通路、4kmもあったの?

 暗くて広い区画を抜けてまた左の六角形。

「うわ!」

 緑色の柱と梁が乱立する地帯を通過していく。

 右を通り、軽いピッチアップで上を通って壁の際を縫い、下。左へ行って今度も壁の際を縫い上。右、上々上、右右、上上……また六角形(4km)。さっきの柱乱立地帯は約(22.5km)と推定。潰した六角形のような通路を通過して辿り着いたのは……。

 

 

 

 とてつもなく広い空間に出た。天井は雲をイメージしているのか黄土色……。支柱らしきものがざっと見えた範囲で20程度……。

「広い……。」

「上下の高度差はおよそ2000m程度と目算しています。」

「あ、居た。」

「複葉機と一緒に居ましゅね……レーザー!?」

「複葉機と交戦中の模様。どうします?」

 

 そう言えば……昨夜、指揮官に相談したら一つ条件をつけてではあったがハッキングの許可が降りた。

「多分、私のメモリーにウイルスが入り込んだかもしれない。だから、可能ならそいつを破壊して欲しい。頼めるか?」

 メモリー内の掃除……つまりこの複葉機がそういうことなのだろう。

 

「助ける以外に選択肢は無い。でしょう?」

「でしゅ〜。」

「了解。複葉機を敵機と識別します。」

「機会を作る。MG42、火器管制よろしく。」

「了解〜。」

 複葉機のすぐ近くを飛んで注意を引き付けて反転、加速して逃げる。ある程度距離を取ったらまた反転、ヘッドオンでミサイルを撃ち込んでいく。

「命中でしゅ?」

「目標、未だ健在。」

「再攻撃の必要ありね。」

「加速して〜加速して〜。」

「反転、今!」

「目標、被弾。あ……!蝶のマークの機体が複葉機に攻撃!撃墜を確認!」

 翼を大きく左右に振る蝶。まるで一緒に降りろと言わんばかりに降着装置を出してまっすぐに降りていく。

「着陸します〜。衝撃にご注意ください〜。」

 そっと降りる機体。両機ともに示し合わせたかのようなタイミングでドラッグシュートで減速。

「さて……と。あの機体には誰が乗っているのでしょうね?」

「分からずについていったんです?」

「それしか無いでしょう?」

「指揮官様だと嬉しいでしゅね。」

「指揮官だと思いますよ。」

「アトラス?」

「昨日、約束したんです。コンピュータウイルスを排除するのと引き換えに記憶を覗くという約束を。」

「それで……。アトラスも策士ね。」

「すごいでしゅ。」

「……どうやって降りましゅ?」

「そこを考えてなかったわね……。」

「とりあえずコックピットを開きます。」

 横並びに着陸していたTu-128Mのコックピットが開放され、見慣れた姿が飛び降りた。

「あ、指揮官様!」

「こら、飛び降りようとしないの。」

「おーい!受け止めるから一人ずつ降りておいで!」

 側面から降りるよう指示が出されてMG42さんが一番手で降りた。指揮官に受け止められた時、お姫様抱っこの姿勢になって暫くお互いに見つめ合っていたのをAK-12さんの咳払いが解消してしまう。

「私も降りるわね。」

「おう。」

 AK-12さんもMG42さんと同じ目にあった。少し時間が長かったような?それこそMG42さんが咳払いしてなかったらずっと見つめ合っていた(AK-12さんはずっと閉じていた目を開いていた)んじゃないかと思うえるくらいには。

「アトラス、着いてきて。」

 Tu-128Mと私の両機の間、いや、前か?に立った指揮官は両腕を振ってある方向へ歩き出した。着いていく。ふと左右を見れば指揮官の乗っていたTu-128Mが無人のまま着いていっている。どういう技術なのだろう……。

「あ、減速せよ、か。」

 ゆっくりと減速。同じ地点に2機が並んだ。

「アトラス、今から君のアバターに意識を転送する。急いで作った身体だからあまり出来は良くないけれど我慢してくれ。」

「アバター……?」

「荒削りだけど許してくれ。」

 意識が転送される感覚はとても形容し難い。VR訓練が終わって世界が崩壊していく感覚とも違うし、身体はそのままに意識を失うような感じとも言える。

 

「これが……私?」

 人間の身体とは不思議なものである。いやまあ、人間ではなくて戦術人形なのだろうけれど……ちょっと待って?

「ようやく逢えたね、私。」

「はぁ……。また貴女ですか。」

 

 

 格納庫は意外と広かった。大型な2機をしまってもまだ余裕がある。その一角にスクリーンを展開して指揮官の記憶を覗くことになった。仮説ベッドで眠る指揮官。おやすみなさい。

 

「よう、指揮官、元気にしてたか?」

「元気にしているけれどさ、処刑人姉さん、そっちこそどうなのさ。」

「あー……まあ、こっちはぼちぼちってとこか。狩人と最近、農業を始めてな。」

「戦闘と訓練しか頭にない姉さんが?農業?」

「今度会ったら部品単位までバラすぞ!」

「ごめんごめん。それで、農業を始めたって?」

「植物工事をグリフィンの土地に作って、野菜やら果物やらを供給してる。」

「あー……食堂の野菜ってそうだったのか。ありがとう、謎が解けた。」

「なにか文句でもあるのか?」

「いや、合成のサラダにしては味が良いなと。」

「じゃあ、今日はサラダ記念日、ってか。」

「「ハハハ!」」

「ハハハ……はぁ……。妹は元気か?」

「ええ。元気にやっていけてます。42や12、そしてRSCのお陰です。」

「そりゃあよかった。」

 

 

 指揮官が……私の兄さん……?

「これが直近の鉄血との会話記録のようでしゅね。二日前……。」

「肌の白さ、左太腿付け根の刺青、人間どころか戦術人形にしても異常すぎる耐久性……怪しいとは思ってたけれど……鉄血の戦術人形だったのね……。」

 指揮官が私の……兄さん……。

「どうするんです?AK-12。」

「何もしないわ?指揮官は指揮官だもの。私は彼についていく。彼と一緒に居ると興味が尽きないわね。」

 ちょっと待って?私が指揮官の……妹……?

「私達の指揮官様は人間でも戦術人形でも、指揮官様は指揮官様でしゅものね。あ、でも……正妻の座は渡しましぇんよ!」

「ハイハイ。まったく……指揮官も女誑しね。あと、正妻は指揮官が決めること。」

「指揮官様も、良い女3人と可愛らしい妹様も従えておいて何が人間関係が怖い、でしゅか……。」

「今、良い女って……RSCは別じゃない?あの人……。」

 私が指揮官の妹……?




人物紹介No.4
指揮官

 MG42の初恋。AK-12の依存先。RSC M1917の保護者。アトラスにとっての皇帝(tsar)。
 3話でAK-12を庇い、右眼を失った中性的な指揮官。全くと言っていいほどデータが無い。分かっているのは身長くらい。その身長は170cm。
 戦場での武器は基本的にRSC SMG(8×50mm弾仕様)。SMGタイプであることから回避型のタンクと思われがちだが、盾を展開して素の耐久と装甲で耐えるタイプである。システムでの登録名もRSC SMG。指揮官とは?
 AK-12を庇った際に傷口を見たAK-12によって戦術人形だと判明(即座にこのことは部隊内の秘密事項とされた)

 蝶のシンボルが左太ももの付け根内側に小さく描いてあり、アトラスの追加装甲の下にも同じマークが描いてあることが確認されている。なお反乱軍の四足大型歩行兵器のヘッドパーツにも類似したものが描き込まれており、関連が疑われている。

 最近、躁うつ病と診断されて悩んでいるらしい。機械が病む時代か……と苦笑していたが医務官は真剣な顔をしていたという。座右の銘は「全ては土になって海に還る」。

関連:人間サイズの軽戦車構想

 人間サイズの軽戦車構想と指揮官計画
 指揮官とは端的に言えば鉄血のハイエンドモデルである。正確には鉄血の子会社のハイエンドモデルであり、鉄血の人形達からは親戚として認識されている。本人もそれは理解しており、任務も意識的に鉄血との交戦が予想されるものは避けている。
 アトラスとは兄妹(機)であり、どちらも元人間から作られている。指揮官の姉に当たる1号(軽戦車サイズの無人指揮戦車)は構想がドクトリンに適合せず、計画中止(後に一部パーツをMG42Vに流用)とされ、2号(指揮官本人。迷い込んだ孤児を利用した指揮官クラスの戦術人形)、3号(アトラス。同じく迷い込んだ孤児を利用した重戦車)が計画続行とされた。なお、計画の進行中に一人の研究員(保護した二人の継母役だった)が焼身自殺したが計画は続行とされた。

 蝶のシンボルは社章(AK-12調べ)、指揮官とアトラスが珍しい蝶(証言から推測される特徴からしてモルフォチョウ)を追いかけて施設に入ったことにも関係している。

 グリフィンに来る前はどこに居たのか、本人の口からは語られないが、AK-12が調べた限りでは……どうにも襲撃事件後、アトラス共に鉄血の方で保護されていたようである。

 関連:モルフォチョウ
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