魔法少女がいく~TS魔法少女は運が悪いようです~   作:ココア@レネ

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魔法少女の授業参観?

「今回のステージは荒野ですか。タラゴンの方が有利になりそうですね」

 

 待機室に設置されているモニターを見て、楓が呟く。

 

 タラゴンの爆弾発言から始まる、今回の騒動。

 

 楓もイニーフリューリングの実力を実際に見たことはない。

 本人の戦闘動画は投稿されておらず、他の魔法少女の動画に映る場合も、全て戦闘終了後のものだ。

 

 強いて言えば結界内の動画はあるが、肝心なところは撮影魔法の故障により、見ることは叶わなかった。

 

(勝つのは間違いなくタラゴンだろうけど、これで折れないでいてくれるかしら……)

 

 タラゴンはエクスプロ-ディア(爆炎姫)の異名で呼ばれており、その名の通り爆発を操る魔法少女である。

 

 爆発をこよなく愛する彼女の戦闘は、兎に角派手だ。

 戦闘一辺倒に見られがちな彼女だが、実は防衛戦や指揮者としての能力が高い。

 

 だが、上記の事は今は関係無い。関係あるのは彼女の戦闘時の()()についてだ。

 

 彼女はシミュレーターでも模擬戦でも、回復手段が用意されている場合、当たり前のように重傷を負わせる。

 最後にはちゃんと回復するが、タラゴンの扱きに堪えられずに魔法少女を辞めた者は多い。

 今回の設定もデスマッチになっており、こちらが変更する前に始めてしまっていた。

 

 シミュレーションとは言え、死んだら本当に死んだ様な感覚があるし、痛みも現実と変わらない。

 魔法少女は常に死と隣り合わせだ。だから死なない程度の痛みに慣れた方が良いのも分かる。それを周りにも強要するのがタラゴンの悪い所だ。

 

 

 3つのモニターの内2つはイニーフリューリングとタラゴンを個別に映し、もう1つは全体が映るようになっている。

 

 3人が思い思いに待っていると、モニターに2人が現れた。

 

「あまり距離が離れてないな」

 

 渋い顔を隠そうともせず、グリントが呟く。

 モニターに映る二人は200メートル程しか離れておらず、遮蔽物の無い荒野だと直ぐに見つかるだろう。

 

 先に気付いたであろうイニーフリューリングが杖を構えて炎の槍を発射するが、指を鳴らした事によって生じた爆発で消されてしまう。

 

「お互いに小手調べか。イニーフリューリングの魔法も早いが、タラゴンの能力には相性が悪いな」

 

「予備動作も有って無い様なものですからね。隠れる場所のない荒野では……まぁ!」

 

 

 反撃としてタラゴンが放った爆発を、イニーフリューリングは間一髪、空に飛んで避ける。

 その一撃は、当たれば良くて重傷。場合によってはそのまま死ぬ様な一撃だ。

 

 タラゴンと戦った魔法少女の8割は最初の一撃で終わってしまう。

 避け様にも、見てからでは間に合わず。たとえ避けきっても爆発の余波でダメージを受けてしまう。

 

 初見で爆発を見切るのはあまりにも難しいのだ。

 

「見た感じ、咄嗟に避けたのだろうな。だがタラゴン相手に、足場の無い空中は悪手だ」

 

 ニヤリと笑ったタラゴンは足元を爆発させて、一気にイニーフリューリングに距離を詰めていく。イニーフリューリングも地面を割ってタラゴンの妨害をするが、タラゴン相手には意味を成さない。

 

「地面を割るのも、氷の槍を飛ばすのも悪くないが……経験の差だな」

 

 グリントの目から見てもイニーフリューリングの手は悪くはない。だが、歴戦を生き抜いて来たタラゴン相手には、ぬるいとしか言えない。

 

 資料上のイニーフリューリングの能力は多彩だ。その能力のせいで、魔法の威力に制限がついてるのだろうか? 若しくは、何か理由があって小出しで魔法を使っているのかを考える。

 

 グリントが考察している間にもタラゴンは距離を詰めていき、重い一撃をイニーフリューリングの腹に叩き込む。

 

「相変わらず容赦が無いな。あれは内臓がやられてるぞ」

 

 黙って見ていたブレードがここでやっと声を上げる。

 単純に殴るだけならまだしも、爆発を併用して殴るのは流石にやり過ぎだと思ったからだ。

 

 彼女はタラゴンと違い、ちゃんと手加減するので下位の魔法少女から人気があった。

 もしもタラゴンの相手をしてるのが他のランカーや、ベテランの魔法少女なら何も言うまい。

 

 だが、相手は魔法少女になって一年どころか半年すら経っていない新人だ。年齢も見た目同様幼いだろう。

 

 普通の魔法少女なら、あれだけで降参するだろうと考えながら、モニターを見続ける。

 

 吹き飛ばされる中、イニーフリューリングの腹部が緑色の光に包まれ回復されていくのが見えるが、吹き飛んだ彼女はそのまま落下を始めた。

 

「先程から妨害の様な魔法ばかりだが、何を企んでいる?」

 

 最初の炎の槍以外、イニーフリューリングの魔法は殺傷性が低い。当たれば人の身体を貫通する様な氷の槍も、吹き荒れる氷の礫もタラゴンを狙って放たれてるとは思えなかった。

 

 まるで……そう。まるで()()()()事が本命のように見えた。

 

「あれはもしかして、今までばら撒いてた魔法を使ったのか?」

 

 どのモニターでからも映る、果ての見えない氷の塊。我が名の下に、命の息吹よ終われ(エンドオブアイス)がその姿を現した。

 

「魔法を触媒に魔法を使用する。よく考えたものだな」

 

 威力の高い魔法(能力)は発動に時間が掛かる物が多い。それを他の魔法を下準備に使用することで、大規模な魔法をノータイムで使用したのだろうとブレード(剣王)は考える。

 

「それにあのまま落ちていけば、自分で作った裂け目に隠れられると言うわけですね」

 

「タラゴンに殴られるのも、計算の内だったのかもな」

 

 急に現れた氷の塊から逃げるタラゴンを見ながら三者三様にイニーフリューリングを褒める。

 

 イニーフリューリングを飲み込んだ裂け目は閉じていき、タラゴンは氷と地面に挟まれて終わり……とはならない。

 

 タラゴンが地面に降り立つと、苦々しい顔をしていたが、急に全身が光りだす。

 

 氷と地面に挟まれると思われたタラゴンは、自分を中心に爆発し、氷を砕いてしまったのだ。

 

「もう終わりで良いと思うのですが……」

 

 あのタラゴン相手に一歩も引かず、追い詰める事すら出来たのだから、もう良いのではないかと楓は思う。

 

 それよりも、この戦いのせいで魔法少女に嫌気を持たれ、そのまま辞められてしまうと困ってしまう。

 

 楓にとってイニーフリューリングは希望の星(新人)だ。

 それをタラゴンなんぞの性癖(悪癖)でお釈迦にされるのは困る。

 

「無理やり止めると後が面倒だからな。設定もデスマッチだからどちらかが死ぬまで終わらない」

 

 タラゴンへのヘイトが高まっていく中。氷の塊が消えて地面からイニーフリューリングが派手に現れる。

 

 少しだけ交わされた言葉の後に、タラゴンの髪が輝き始めた。

 それはタラゴンが本気を出す姿でもある。

 今までも初手で爆散しようとしたり、血を吐く様な攻撃(腹パン)すらも温く感じる程の、確実に殺すための力を解放する。

 

「あいつ、新人相手に本気を出してるぞ」

 

「あの人今年22歳でしたよね?」

 

「私の『リンド』も、一度あの状態のタラゴンに爆破されたな……」

 

 見事に反感を持たれるタラゴンであった。

 直後流星のようにイニーフリューリングが逃げ出し、それを容赦無しの爆発が追い詰めていく。

 

 もしもここでイニーフリューリングが諦めれば、この後の惨状が起こることは無かったかもしれない。

 

 たが彼女はシミュレーションとはいえ、諦めずに戦い続ける。

 

 イニーフリューリングもこれまでの牽制程度ではなく、確実に殺すための水弾を放つ。

 タラゴンを囲むように現れる無数の魔法陣。

 

 逃げ場の無い波状攻撃がタラゴンを襲うが……。

 

「悪くない手段ではありますが、今のタラゴンには悪手にしかなりませんね」

 

 楓の呟きに他の二人も頷く。

 

 タラゴンの周囲は空間を歪める程熱くなっており、如何に威力のある魔法でも、ただの水ではあっと言う間に蒸発してしまう。

 

 ならば岩や風ならどうかと問われれば、効果はあるだろうが、決定打にはなり難い。

 岩は爆破か溶かされ、風も似たような感じでほぼ無効化されてしまう。接近戦をしようにも、熱によって近づく事が出来ない。

 

 その上タラゴンの目視圏内なら、爆発が飛んでくるので手の打ちようが無い。

 正に本気と言った所だろう。

 

 そこでイニーフリューリングがやったのは、空から大量の氷柱を降らせてタラゴンの妨害をし、その間にタラゴンの頭上を目指すことだった。

 

 だがここでタラゴンが魔法(能力)を使う。

 

 

シミュレーション(模擬戦)と分かっていても、酷いものだな」

 

「あの、これ、あの子大丈夫ですよね? 本当に大丈夫ですよね?」

 

 イニーフリューリングの左腕が爆発し、鮮血が飛び散る。ほんの少しだけ軌道がぶれるが、イニーフリューリングは回復をしながらも、そのまま進み続ける。

 

 タラゴンも攻撃の手は緩めず、幾度となくイニーフリューリングから血が舞う。

 

 綺麗だったローブは赤く染まり、常に被っていたフードは吹き飛び、普通の少女だったらショック死しても可笑しくない状態でもイニーフリューリングは進み続けた。

 

 フードが無くなったことで晒されるイニーフリューリングの顔は、無表情ながらも笑っているように見えた。

 

 その惨劇を見ていた3人は、無言でモニターを見ることしか出来なかった。

 

 駄目押しとばかりに片足が吹き飛ぶが、目的の場所に着いたであろうイニーフリューリングはタラゴンを上から見下ろす。

 

 そして地表が輝き始めた。

 

 氷槍を起点として描かれる極大の魔法陣。それはイニーフリューリングの詠唱に呼応する様に輝きを放ち、杖の先に収束していく。

 

「あの子。まだ諦めていないのね」

 

 そう呟く楓だが、恐らくあれではタラゴンを倒すことは出来ないだろうとも思った。

 如何にイニーフリューリングが期待の新人と呼ばれたり、結界に侵入できる能力があったとしても、ランキング5位とはそんなに軽いものではない。

 

 特にタラゴンはその攻撃性の高い能力が目に付くが、何方かと言えば防衛戦の方が得意なのだ。

 

 守りに一家言あるタラゴンを倒すのは、並大抵の事ではない。

 

 だから……。

 

 そして光が放たれた。

 

 俯瞰視点のモニターは光で染まり、個々のモニターには無表情のイニーフリューリングと余裕とまでは言えないが、魔法を耐えるタラゴンが映し出される。

 

 ()()()耐えるか。同じことを3人は思う。

 

 後は魔法が切れると共にイニーフリューリングの死亡をもって、戦いは終るだろう。

 

 帰って来たタラゴンにどんな罰を与えるかをそれぞれが考えていると、イニーフリューリングの口が動いた。

 

 血涙を流し、治りきっていない脚からは血が滴り落ちる。

 

 そして濁った目から感じる強い意志。

 

 これはただのシミュレーション(模擬戦)だ。わざわざ痛い思いをしてまで勝ちに拘る必要はない。

 

 そもそもランカー(5位)に勝とうとするなど、一介の魔法少女には無理な話だ。

 

 

 なのに彼女は足掻く。勝ち目など端から無かったと言うのに。

 

 真っ赤な円形の魔法陣がタラゴンを囲む様に展開される。

 それはモニターで見ているから分かる事であり、当の本人であるタラゴンは気づいていないだろう。

 

 魔法陣はタラゴンを中心に縮小していき、神撃を吞み込むように爆発を起こした。

 

 地に伏してビクともしないイニーフリューリングと、両腕を失っても何とか立っているタラゴン。

 

 勝負としては確かにタラゴンの勝利となるだろう。だが、一介の魔法少女がやり遂げたこの惨状は、勝った負けたで表せるような代物ではない。

 

 10歳前後の少女が命を、身命を賭したとは言え、敵う筈も無い相手に重傷を負わせたのだ。

 

(やはり、彼女は何かが壊れているのでしょうね……)

 

 腕が吹き飛んでも叫ばず、勝てない相手から逃げようともせず。その癖、生に固執している様に見えて、命を簡単に投げ出す。

 

 これが魔法少女イニーフリューリング(始まりの春)なのだ。

 

 ただ本人は、死なないなら何しても良いだろう位にしか考えていなかった。

 

 少しの間を置いて、イニーフリューリングの死亡をもってシミュレーション(模擬戦)は終了した。

 

 

 シミュレーションを終えたタラゴンは上機嫌で待機室に向かう。

 

 殆どの魔法少女との戦闘(模擬戦)が初撃で終わってしまうタラゴンにとって、今回のシミュレーションは久々に満足ができるものだった。

 

 それどころか、こちらの本気に対して抵抗を見せるイニーフリューリングが、愛おしくて仕方なかった。

 

 攻撃も多彩であり、使われる魔法の殆どは次の攻撃への布石となり、何をしてくるのかワクワクさせられた。

 

 最後の魔法(神撃)も本気を出していなければ殺されていたかもしれない。その後の爆発は、何が起こったのか分からなかったが、とっさに両腕を犠牲にしていなければ負けていた可能性すらあった。

 

 自分がイニーフリューリングと同じ位の頃はどうだったかをふと、タラゴンは思い返す。

 

 あの狂気と呼べるような事を自分では出来なかったろう。

 あの子はこれから先、魔法少女の未来を変える存在になるだろう。

 渇ききっていたタラゴンの魔法少女人生に、一滴の雫が垂らされたのだった。

 

 この思いを他の3人と共有する為に、タラゴンは待機室の扉を開けた。

 そして3人に盛大に非難され、土下座させられるのであった。

 

 またイニーフリューリングの許可次第ではこの戦闘動画(模擬戦)を公開予定だったが、あまりにもグロテスクなため、発禁となるのだった。

 

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