魔法少女がいく~TS魔法少女は運が悪いようです~   作:ココア@レネ

100 / 250
本話で100話となりますね。
なろうの方では1話ズレて(感謝回のせいで)しまっていますが、この話を100話にしようと頑張ってたりしました。



魔法少女が殺した一般人

 冬の夜は早い。

 

 それは魔物が蔓延る今も変わらない。

 

 人は夜になれば家に帰り、夕飯を食べて寝るのが普通だが、夜になっても魔物が休むことはない。

 

 魔物が出現するって事は、魔法少女も働かなければならない。

 

 魔法局の魔法少女は交代で働いているみたいだが、少女が夜勤で働いてると思うと、時代の変化を感じる。

 

 出来れば体力の続く限り戦いたいが、多摩恵の家に居候している身として、夕食前に帰らないというのは、多摩恵に申し訳ない。

 

 そして、一度帰ればその日の討伐は終わりだ。

 大体18時位に討伐を切り上げて、家に帰る。

 

 まだ家の明かりは点いていないので、多摩恵はまだ帰って来てなさそうだ。

 

 変身を解くと、急激に寒さが身に染みる。

 暖房を点けた後にお湯を沸かし、ほうじ茶を淹れる。

 

(ナイトメアの件以外は、今日も問題なく終わったな)

 

『それが一番問題な気もするけど、いざとなれば排除すれば良いからね。ハルナの行動を邪魔するならいない方がマシだし』

 

 珍しいというか、アクマは俺の事となると、たまに過激になるな……。

 基本的には魔法少女は助けようってスタンスなのに、邪魔なら排除するって……極端な奴だ。

 

(明日1日だけだろう? どうせ世界中を飛び回らないといけないんだし、明日はロシアを重点的に回ると思えば、悪い話でもないだろう)

 

『そうだけど、無理だけはしないでね』

 

(了解)

 

 しかし、少女の1人暮らしで一軒家は広く感じそうだな。

 平屋ならともかく、二階建ての4LDKだから、家族で住むなら丁度良かったのかもしれない。

 

 しばらくほうじ茶を飲みながら、ソファーで寛ぐ。

 将来は縁側で珈琲でも飲みながら、本を読む生活を送りたいと思っていたが、今となっては叶わぬ夢だな。

 一応金だけはあるが、既に寿命は10年短くなり、余生を送る様な時間は無いだろう。

 

 いや、もしもそこまで生き残れたとしても、そんなつまらない終わり方は望まない。

 いっその事、魔女の代わり、俺が世界に喧嘩を売るのも面白いかもしれないな。

 

 ――そんな未来は、流石にないか。

 

「ただいまー」

 

 少しうとうととし始めた所で、多摩恵が帰って来た。

 危うく昨日と同じく、寝てしまうところだったな。

 

 少し疲れた様な、暗いような雰囲気を纏って多摩恵が入って来た。

 

「おかえりなさい。今日は大丈夫でしたか?」

「うん。ちょっと色々とあったけど、大丈夫だったよ。直ぐに夕飯を作っちゃうね」

 

 ……何だろうな、この感覚。やはり、これは完全にヒモだよな……。

 

 あるいは、介護されてる爺かな? ほうじ茶を飲んでいるし。

 

 少しすると、キッチンの方から良い匂いが漂ってくる。

 

「お待たせ。今日は親子丼よ」

「ありがとうございます」

 

 2人で「いただきます」をして、食べ始める。

 学園や、沼沼で食べたのと同じくらい美味しい。

 

 しかし、今日の多摩恵は妙に静かだな。

 

 そのまま夕飯を食べ終わり、食後になる。

 

 食後のココアを持って来た多摩恵が向かい側に座る。

 

 その顔は、覚悟したような凄みがあった。

 

「ねえ風瑠」

「どうかしましたか?」

 

「――風瑠の本当の名前って何?」

 

 ……本当ね。早瀬ハルナの事か、それとも榛名史郎の事か。

 

「私の名前は風瑠ですよ。それ以外に名前は……」

「いいの。私ね、気付いちゃったんだ。ううん、違うわ。今でも確信がある訳じゃないの。だから、正直に答えて」

 

 苦しいような、悲しいような顔を多摩恵はする。

 

 何の事と問うのは、野暮だろう。

 

「それで、何ですか?」

「9月25日の夜に、()()()はどこに居たの?」

 

 家の屋根から、雪の塊が落ちた音がした。

 

『これはバレてるね。どうするの? 私の事以外なら、何を話しても構わないよ』

 

(そうだな。本当の俺にたどり着いた褒美として、教えてやっても良いが、どうしたものか……)

 

 俺は既に死んだ存在だ。

 

 最初の頃は未練タラタラでスターネイルやブルーコレットに思う所はあったが、それも過去の事だ。

 

 俺はハルナ――イニーフリューリングとして生きると決めたのだ。

 

 ここで多摩恵に正直に話しても、暗い雰囲気になるだけで、何の得にもならない。

 

 だが、多摩恵の眼には迷いがない。言葉では確信がないと言っているが、本当は確信しているのだろう。

 

「――多摩恵が私を見つけた公園……と、言えば満足ですか?」

 

 多摩恵の目から、静かに涙か流れる。

 そして、ゆっくりと口を開く。

 

「榛名……史郎さん」

「ええ。あなたたちに巻き込まれて殺された、一般人の榛名史郎です」

 

 瞳が揺れ動き、言葉が続かないのか、口をパクパクと動かす。

 

「落ち着いてココアでも飲んで下さい。私は逃げませんよ」

「――でっでも、私は……私は!」

「私は別に恨んではいませんよ。そうでなければ、一緒にいないでしょう?」

 

 多摩恵がどれだけの罪悪感を抱えているか分らない。

 普通の人なら、どう思うのだろうか?

 

 魔法少女という理由でスターネイルとブルーコレットは軽い罪で済んでいるが、世間の目は厳しかったはずだ。

 これまでの不安定な精神も、そこに起因していると思う。

 

 そして、死んだと思っていた俺が目の前に現れた。

 

 どう……思っているんだろうな……。

 

 俺もブルーコレット――人を殺したが、罪悪感や嫌悪感も、何も感じなかった。

 強いて言うなら、少し哀れに思ったくらいだ。

 

 殺したはずの人間に殺され、その人間が忌むべき魔法少女だった。

 

 結局俺を恨みながら、あいつは死んだ。

 

「――恨んでいないんですか? 私と奈々はあなたを……」

「当時は思う所もありましたが、今は何も思っていませんよ」

 

 こんな時に笑ってやる事が出来れば良いのだが、この身体は上手く感情を表す事が出来ない。

 

「多摩恵がこれ以上気に病まなくても良いですよ。確かにこんな姿になってしましいましたが、私は生きているんですから」

 

 多摩恵に近づき、頭を撫でてやる。

 

 全ては終わった事だ。これ以上気にしなくて良い。

 

「いつ、私だと分かったのですか?」

「マリンちゃんがね、イニーの変身前の髪の事を話してくれたの。それと、コレットが最後にイニーの事をよろしくって……それで……それで」

 

 なるほど、点と点を集めて線にしたのか。そして、確信を持ったから俺に尋ねたと。

 全く、黙っていれば後数日で別れて終わるはずだったのに、馬鹿な事をする。

 

 ぽたぽたと涙が零れ落ち、跡を残す。

 

 出来れば、誰かの思い出に何かにはなりたくない。俺の事など、忘れてしまった方が良い。

 

「あの日の事は忘れてしまいなさい。もう終わった事ですから」

「本当に……良いの? 私はあなたを……」 

「ええ。ですが、もしも気にするというなら、これからも魔法少女として頑張りなさい。今の世には、まだ魔法少女が必要ですから」

 

(魔女を倒したら、魔物って消えるのか?)

 

『今みたいに異常な数の出現はしなくなるけど、完全には消滅しないと思う。それに、この世界の魔女を倒しても、まだまだ魔女は残っているからね。元となっている魔女を倒さない限り、終わりはないよ』

 

 終わりは始まりにしか過ぎないって事か。

 

 まあ良いさ。平和など、どこにも存在しないのだろう。

 

 その方が、俺にとっては都合が良い。

 

 だが、多摩恵に素性がバレてしまったし、お暇するか。

 

「さて、こんな中身が男の少女と一緒では、多摩恵も気味が悪いでしょう」

 

 泣いてる多摩恵から離れ、玄関に向かう。今日はどこかのホテルに泊まるかな。

 幸い身分証はあるので、追い出されることはないだろう。

 

「待って!」

 

 後ろから、多摩恵が俺の服を掴む。

 

「私を置いてかないで! 今あなたが――風瑠がいなくなったら私は……もう、誰もいないの……」

「どちらにせよ、後数日で出て行く予定だったのです。それが少し早くなっただけです。全て忘れてしまいなさい。ただの、泡沫の夢だったんだと思いなさい」

 

 多摩恵の手を振りほどいて……ほどいて……。

 

 俺の力では振りほどく事が出来ないか……。

 

「――はぁ。私はこんな見た目ですが、中身は男なんですよ? 気持ち悪くないんですか?」

 

 多摩恵は首を大きく振り、髪が乱れる。

 精神状態は、俺と初めて会った時位不安定になっていそうだ。

 

「そんなの関係ないよ! 風瑠の言葉が! 風瑠の思いがあったから! イニーが助けてくれたから……」

 

 多摩恵は俺にしがみ付いて、離そうとしない。

 一応だが、多摩恵を振り払う方法はある。

 

 第二形態になれば、人並み以上の力があるので、そのまま出て行くことは出来る。

 

 或いは魔法で吹き飛ばしてもいいだろう。

 

 しかし一宿一飯の恩がある手前、なるべく乱暴な事はしたくない。

 

(どうしたもんかね? このまま出て行っても良いが、今にも自殺しそうな少女を放置するのも、後味が悪い)

 

『好きにして良いよ。ハルナが許しているなら、私からは何も言わないよ。ただ、人の命はハルナが思っている以上に重いんだからね? 一度失えば、二度と戻ってこないんだから』

 

 この身体の前の持ち主や、アクマの能力を思うと、随分と重たい言葉だな。

 

 俺も命の重さはよく知っている。だが、自分の事となると、どうしても軽くなってしまうのは何でだろうか?

 別に自暴自棄って訳ではないが、あまり感情が動かない。

 

 大切なものを失い、俺自身もあの公園で一度死を受け入れたせいかもしれない。

 

 さて、どうしたものか……。

 

 多摩恵が最低な奴なら、苦労しなかったが、仕方ないか。

 

「分かりました。約束の日までは一緒に居ます。ですから、もう泣かないで下さい……」

「本当? 本当にいなくならない?」

「本当ですよ。ほら、ちゃんと座って。ココアを淹れて上げますから、待っていて下さい」

 

 多摩恵を立たせ、椅子に座らせる。随分と時間が経ってしまって、ぬるくなったココアを新しく淹れ直し、多摩恵に渡す。

 

「ありがとう……名前ってハルナと風瑠のどっちで呼べば良いかな?」

「好きな方で良いですよ。どちらも偽名ですからね。私の事を他に誰かに話したりしましたか?」

「誰にも話してないよ。それに、話しても誰も信じてくれないだろうし……」

 

 まあ、死んだと思われる人間が少女になって、魔法少女をしてると言われても、信じようがないよな。

 もしも俺が言われたとしたら、病院を紹介するだろう。

 

 多摩恵もよく信じようと思ったものだ。

 

「そうですか。――ブルーコレットを殺した私を恨まないんですか?」

 

 スターネイルの相棒であり、友達と思われる魔法少女。ブルーコレット。

 

 仕方なかったとはいえ、殺した俺をどう思ってるんだろうな。

 

 何となく気になり、聞いてしまった。

 多摩恵は悲しそうな顔をする。

 そして、一口ココアを飲み、喉を潤した。

 

「悪いのは風瑠じゃないって分かってるから、恨んでないよ。ただ、出来れば自分の手で決着を着けたかったかな……」

 

 決着ね。俺の事で悩んでいた多摩恵が、親友をその手に掛けて、まともな精神を保っていられるんかね?

 罪悪感に押しつぶされ、そのまま自殺でもしてしまいそうな気がするな。

 

「多摩恵が手を汚す必要は無いですよ。私で後悔しているなら、上の者に任せなさい」

「でも、コレットだけは……私が……最後は私がやりたかったよ」

 

 縋るような、願いを込めたような想い。

 だが、手を汚すのは常に大人の役目だ。

 その苦しみは、魔法少女としての階段を上がる、重要なカギとなるだろう。

 

 マリン。ミカちゃん。スターネイル。

 

 苦しみ、耐え抜いた者なら高みに上り、ランカーになる事も出来るだろう。

 

 どうか、いなくなる俺の代わりに、世界を守って欲しいものだ。

 

 そして、いつかは俺の前に……。

 

『ハルナ?』

 

 おっと、少し気が飛んでたな。

 

(何でもない。気にするな)

 

「でしたら、次がないように精進しなさい。ほら、ココアを飲んだらお風呂に入って、今日は寝てしまいなさい」

 

 頷いて、潤んだ目をこちらに向ける。

 頭の中がぐちゃぐちゃなら、一度寝れば良い。

 

 そうすればリセットされて、冷静な思考が出来るようになるだろう。

 

「……お風呂、一緒に入ろ?」

 

 何を言ってるのでしょうか?

 

 多摩恵はこちらを少しの間見つめた後、馬鹿な事を発言した。

 

「先程も言いましたが、私はこんな見た目ですか、男なんですよ? 年頃の少女が何を言ってるんですか……」

「風瑠は風瑠だもん。中身は関係ないもん」

「ありますよ。世間的に赤の他人の大人が少女とお風呂になんて入れば犯罪者です」

 

『戸籍上ハルナは11歳の少女だよ?』

 

(残念ながら、中身は26の男だ)

 

 いや、肉体は無いし、既に死んだことになっているが、それでも俺は俺だ。

 

「それと、今日からはソファーで寝るので、そのつもりでお願いします」

「やだ」

「やだじゃありません」

 

 1人で寂しいのは分かるが、俺の素性が分かったのだから、普通は一緒に寝たくないと思うものじゃないのか?

 良い感じに脂ののった男だぞ?

 

 多摩恵の頬が徐々に膨らんでいき、いかにも不機嫌といった態度をとる。

 

 その頬を突っついてやろうか?

 

「今までも一緒に寝てたんだから、それ位は良いじゃない」

「駄目です。今日からは1人で寝なさい。ほら、早くお風呂に入って来なさい。明日も魔物の討伐があるのでしょう?」

 

 ぐだぐだとしている内に 俺も多摩恵もココアを飲み終えたので、1人で入るように急かす。

 

 何だがマリンとは別の意味で恐怖を感じるが、最低限約束の日にちだけは守ってやろう。

 

 居場所さえ見つからなければ、寝床はどこでも構わないからな。

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