魔法少女がいく~TS魔法少女は運が悪いようです~ 作:ココア@レネ
早いもので、約束の日となった。
戦う場所はいつも通りのランカーのシミュレーターだ。
観客も居るが、戦いには関係ない。
タラゴンさんの家で起きて、パジャマからジャージに着替えてからリビングに向かう。
「おはようございます」
「おはよう。朝食は出来てるわよ。珈琲は飲む?」
「いただきます」
流石に今日はタラゴンさんも居るか。
たまに会う事はあったが、今日になるまで常に忙しそうにしていた。
アクマからの情報で破滅主義派が静かだとは聞いていたが、だからと言って暇になるわけでもないからな。
体調もほぼ全快だし、今日の夜か明日からはまた破滅主義派を探す日々に戻れそうだ。
朝食はトーストとサラダとオムレツで珍しく洋食な感じだが、珈琲には合いそうだ。
「はい、珈琲よ。体調は大丈夫なの?」
「ゆっくりと休んだので大丈夫ですよ」
雪のせいで外には出られないので、妖精界に行く以外はほとんど休んでいた。
こっそり魔物を狩りにいこうにもアクマが「ダメ! 絶対!」と言うので狩りも出来なかった。
シミュレーションでの訓練だけは許してくれたので良かったが、訓練と実戦は違うので、どうもしっくりとこない。
「対戦相手の私が聞くのもなんだけど、勝てる算段はあるの?」
1対1なら確実に勝てるだろうが、1対4だからな。
俺の制限時間まで逃げに徹するような事はしないだろうが、制限時間を過ぎた場合はその時点で負け確定だ。
それに桃童子さん以外は防御方面が優秀なので、自爆しても倒すことは出来ないだろう。
一応動画も見たが、隠している手札も間違いなくあるだろう。
ならばやる事は1つだ。
初めてタラゴンさんと戦った時の様に、初見殺しをするのが確実だろう。
特にアロンガンテさんは最初に倒しておきたい。
あの防御と機動力は脅威であり、フルチャージされたレールガンを防ぎきれる自信がない。
動画でも最大威力がどれほどか分からなかったので、アロンガンテさんが隠している手札の1枚だろう。
まあ防ぐ自信はないが攻撃魔法で押し返す事は出来るかもな。
次点でタラゴンさんだ。
集団戦では周りを活かす戦い方をするが、個人戦になると灼熱のフィールドを展開し、近づく事は勿論、下手な魔法は無効化されてしまう。
タラゴンさんを最後に残すのだけは避けたい。
「戦ってみない事には分からないですね。ですが、負ける気はないです」
「そう。精々頑張りなさい」
黙々と朝食を食べ、朝風呂に入る。
眠気を吹き飛ばして準備完了だ。
「それじゃあ行くわよ」
「はい」
タラゴンさんと共に妖精界に転移し、シミュレーション室を目指す。
「来たのじゃな。おぬし等が最後じゃぞ」
シミュレーション室の待機室には俺とタラゴンさん以外のメンバーが全員集まっていた。
これでも予定時間より多少早いのだが、遅くなった理由は俺の長風呂のせいである。
早く上がろうと思ったのだが、後少しが何回も続いてしまったのだ。
「予定より早く来てるんだから良いじゃない。小言ばっか言ってるからロリババアなんて呼ばれるのよ」
「ぐぬ。まあよい。して、これで全員かのう?」
桃童子さんは苦虫を噛み潰したような顔をしてから、直ぐに話題をそらした。
下手に言い返しても意味がないと分かっているのだろう。
「戦うメンバーと見学の2人で全員ですね。正直なぜ姉さんが居るのか個人的には分かりませんが」
「良いじゃない。実際にどれ位イニーが戦えるかは気になるのよ。あなただって来たければ来ても良いと言ったしね」
「まあ、別に良いですが、大人しくしていて下さいね」
アロンガンテさんは相変わらず、姉に振り回されているようだな。
お互い自由奔放の姉を持つと苦労する。
「設定はどうするの? 実戦と同じ感じにするのかしら?」
タラゴンさんが言う実戦と同じってのは、俺とタラゴンさんが初めて戦った時と同じ設定の事だろう。
痛覚そのままで表現もリアルのデスマッチ。
お互い本気の戦いとなれば、実際の戦いと同じにした方が面白いだろう。
「私は構いませんよ」
「イニーはこう言ってるけど、どうする?」
「構わないのじゃ。イニーが泣いて謝る姿を見られる可能性があるからのう」
「ええ。大丈夫です」
桃童子さんが了承し、フルールさんも問題無いと言う。
アロンガンテさんの方を見るとやれやれと首を振った後に頷いた。
それと、俺が痛みで泣く事は多分無いからな?
もう失った手足の数や、風穴を空けられた回数は覚えていない。
痛みにはもう慣れた。
拷問されたとしてもおそらく耐える事が出来るだろう。
まあ、拷問される前に転移で逃げる事が可能なので、そんな未来は訪れないだろうけどな。
「ついでに依頼の方は皆大丈夫なの?」
タラゴンさんの言った事で、苦い顔をする者は誰もいない。
そう長い時間ではないだろうが、ランカーが3人……ジャンヌさんを入れれば4人だが、離れれば大変な気もするが、離れても大丈夫な様に準備して来たのか。
そこら辺はちゃんとしているようで安心だな。
因みにアロンガンテさんは例外なので、人数には数えていない。
「因みに誰に頼んだの?」
「ブレードじゃな」
「ブレードちゃんよ」
タラゴンさんが額に手を当てて「あの馬鹿」とぼやく。
……どうやら駄目かもしれないな。
「少々気になる話ですが、早く始めて早く終わらせましょう。その方が良いみたいですからね」
「――そうね。あの馬鹿もそうだけど、頼んだこっちも悪いと言えば悪いし、ちゃっちゃとイニーをボコしましょう」
手を繋いで横に居るのにその言い草は酷くないですかね?
確かに2戦2敗だけどさ、普通に考えてランカーに勝つなんて普通は無理なんだからな?
じゃあ、始める為に移動しようとしたところ、タラゴンさんたちは作戦会議をするので、先に行けと言われてしまった。
あんな事を言っても、やるからには全力なのだろう。
それに、マスティディザイア戦を見られている以上は、アルカナ解放時の強さがどれ程のものか、ある程度予測することも出来るだろう。
(勝率はどんなもんだ?)
『通常のみなら0パーセント。愚者のみなら80パーセント。愚者と悪魔を切り替えて戦うならほぼ100パーセントかな。因みに悪魔のみだと少し分が悪いかな。それでも70パーセントはあるけど』
大体そんなものか。アルカナ無しで0パーセントなのは仕方ないとして、珍しく勝率が高い。
これまでの強敵との戦いの中では一番と言っても良いだろう。
だからと言って手を抜こうものなら簡単に勝率など覆る。
相手は魔法少女の頂点たちだ。踏んだ場数や気概も普通の魔法少女とは天と地ほどの差があるだろう。
一応アロンガンテさんは少々別枠だが、実力があるのはこの目でしっかりと確認している。
気を抜いていい相手ではないが、あの4人で唯一の穴と言っても過言ではない。
(そうか。珍しく負ける心配のない戦いだな)
『タラゴンとの戦いに始まり、色々とあったからねー』
(そうだな。生きているのが不思議な位色々とあったな)
戦いに魅入られたのは、いつ頃からだっただろうか?
アクマに悟られないようにしているが、バレるのは時間の問題だろう。
それ程までに、俺は渇望している。
特にこの1週間は我慢するのが苦痛で仕方なかった。
湧き上がる衝動を抑え込み、癒すことに傾注したが、こっそりと家出しようとした回数は数知れない。
やっと戦う事のできる相手が相手だが、高ぶらないように注意しないと、またとんでもない変身をすることになるだろう。
想いの強さで強くなれるのはいいのだが、いかんせん身体が持たない。
なんとなく手立ては見えてきているが、まだ現実的ではない。
もしも俺の考えている方法が可能なら、身体への負荷は劇的に減らすことができる。
その代わり違う形での代償が必要になるだろうが、今考える必要もないだろう。
予定や予測通りに物事が進むことはあまりないからな。
それに、全てが終わった後に生きていようが死んでいようが関係ないからな。
最後の時まで持ってくれれば、それで十分だ。
何はともあれ、考えるのは戦いが始まってからで良いだろう。
先にポッドへ入って目を閉じる。
さあ、楽しい