魔法少女がいく~TS魔法少女は運が悪いようです~   作:ココア@レネ

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魔法少女と腹の音

 重傷者6名と、その他の治すのが大変な魔法少女と魔法局関係者を治し、次の魔法局へとテレポートする。

 

 先程とは違い出迎えはない……と思ったが1人の男が慌ててテレポーター室に入ってきた。

 

「お待たせしてすみません!」

「いや、予定よりも早く終わったから仕方ないさ」

「そうですか…………あの、そちらの少女は?」

 

 ジャンヌさんが気にしなかった事に胸を撫で下ろした男は俺を発見して何とも言えない表情をする。

 

「こちらの方はジャンヌさんの弟子になるリリーさんです。私の目を治してくれた恩人であり、この国のどの魔法少女より回復魔法が使えるでしょう」

「はぁ……」

 

 その表情はこんな小娘が回復魔法をねぇ~? と言っている感じだ。

 何故俺の事を持ち上げたんか知らないが、こんな小娘が回復魔法を使えると言われれば、普通疑うだろう。

 

 ついでに肩車されている幼女をどうやって信用すれば良いのだろうか? 俺には無理だ。

 

 飯田さんが若干不機嫌になったのを感じたので、軽く頭を叩いておく。

 

「挨拶はこれ位でいいだろう。先ずは怪我や病気の者を治さないとだからね」

「おお! そうですな。どうぞよろしくお願いします。飯田も頼んだぞ」

 

 男はジャンヌさんに頭を下げ、テレポーター室を出て行った。

 

 飯田さんは少々居心地悪そうにしているが、気にする程ではないと思うんだけどな。

 

「すみません」

「大丈夫ですよ。それより、行きましょう」

 

 因みにだが、テレポーター室にはそれなりの数の職員が居る。

 その人たちが、どの様な視線を此方に向けているかは語らないでおく。

 

「今回の重傷者は4人となります。内1人は完全隔離となっています。この隔離されている1人については……無理そうなら諦めていただいても大丈夫です」

「それ程までなら、早めに私を頼っても良かったんだけどね……」

「それについては弁明のしようもありません。国の、魔法少女の意地などがありまして……」

 

 何やらまた人間関係の拗れがあるみたいだな。

 オーストラリアの時もそうだが、どんな時でも人は人と争うのだ。

 

「容体は?」

「両足の切断と体の一部が変異を始めているようです。この国の魔法少女では誰も治すことが出来ません……それと、ランキングの関係もありまして……」

 

 ランキングね。要はそこまで強くない魔法少女の為、見捨てるのも仕方ないって判断だろう。

 

「成程。診ないことには判断できないが、先に他の3人を治療してからって事で良いのかな?」

 

 飯田さんは黙って頭を下げ、俺とジャンヌさんの目が合う。

 

 この人本当に俺の事を忘れて居るのだろうか?

 

「まあ、トリアージについてとやかく言うつもりはないさ。これは仕事だからね。分かってるとは思うが、私は命についてなんとも思っていないからね」

 

 当たり前だが、ジャンヌさんの闇は相当深い。

 そんな人間が命に対して何か思うわけないのだ。

 

「はい。ついて来て下さい」

 

 テレポーター室を出てからしばらく歩き、先程と同様に部屋に入る。

 濃い目の消毒液の匂いと、隠し切れない血の匂い。

 

「これはなんとも……。これは報告済みかね?」

「――いえ、報告書には片腕と片足の欠損だけでした」

「お願いします! 私たちの事は良いので、せめてクリスをお願いします」

「ふーむ」

 

 3人の内2人は確か重症と言った感じだが、もう1人は更に酷かった。

 

 植物人間。いや、人工心臓や他の機械を見る限り、無理矢理生かされているのだろう。

 

「正直な話だが、内臓の再生。特に心臓や脳と言ったものは治すのは不可能に近い。それに、君たち以外にも治さなければならないものが居るからね」

 

 腹に大穴の空いた俺を治しているのだから、ジャンヌさんなら治せないこともないだろう。

 

 しかし、簡単なことではないのは誰にだって分かる。

 

「お願いします! お願い……します!」

 

 ベッドに横になったままの魔法少女が泣きながら懇願する。

 大切な人なのか、それとも庇った結果なのか……。

 

 ジャンヌさんはやれやれと言った感じで髪を搔き、飯田さんの手は強く握りしめられている。

 

 もう1人も同じ様に懇願し、頭を下げるが…………仕方ないか。

 

(エルメス)

 

『はいです。私とアクマの能力を使えばやれるです。多少負荷はあるですが、昼飯を沢山食べれば無問題です』

 

 大丈夫そうだな。

 

(アクマ)

 

『はいはい。ハルナはお節介だねー』

 

「ジャンヌさん。少し良いですか?」

「なんだね?」

 

 飯田さんの肩からジャンヌさんの方に移動し、一旦部屋の外に出る。

 そして俺なら特に代償もなく治せる事を話すと、ジャンヌさんは何とも言えなさそうな顔をする。

 

「私としては君の自由意思に任せるが、助ける事によって降りかかる悪意がある事を知っているのかね?」

「勿論です。個人的には死んでも構いませんが、一応ジャンヌさんの弟子ですから。救える者は救った方が、株が上がるでしょう? それに、私は存在しませんからね」

 

 今の俺はイニーフリューリングではなく、ジャンヌさんの弟子のリリーだ。

 ジャンヌさんの世間体を守るのも仕事の一部だろう。

 

「君も頑固だね……分かった。念の為釘を刺しておくが、なるべくバレない様にやりなさい」

「分かりました」

 

 俺だって無駄に働きたくないが、円滑に進めるためには多少の仕事は仕方ない。

 

 例えるなら就業前の掃除と言ったところだろうな。

 俺はしたことないけど。

 

 部屋に戻り、声を出そうとする魔法少女たちをジャンヌさんが手で制す。

 

「先に言っておくが、これから起こる事は決して話さないと誓えるなら、その魔法少女を助けよう。ただし、もしも話が洩れたら……分かるね?」

「勿論です! 何でもしますから、どうか……どうか……」

「分かった。とは言っても治すのは私ではなく、こっちだがね」

 

 ジャンヌさんは肩の上に居る俺を指差す。

 泣いていた魔法少女たちはキョトンとするが、ジャンヌさんは話を進める。

 

「飯田も他言無用で頼むよ」

「……承知しました。それと、今回の事は本当に申し訳ありません」

 

 飯田さんが謝るが、知らなかったのならどうしようもない。

 それに出迎えた男が此処の局長だと思うが、何故こんな馬鹿な事をしたんだ?

 

 ジャンヌさんを嵌められる何かがあるのだろうか?

 

「――本当に治せるんですか?」

 

 半信半疑って感じだが、論より証拠だ。

 

「勿論です。それでは……」

 

 飯田さんがひょいと俺を持ち上げクリスと呼ばれた魔法少女のところまで運ぶ。

 

 さて、先ずは解析だ。

 

 頭を触り、魔法を発動する。

 

 片腕と片足。ついでに心臓も無し。肺も片方無くて胃も似たり寄ったり。

 毒にも侵されてるが、これのおかげで生き長らえている感じか。

 脳にも損傷がみられるし、よくショック死しなかったものだ。

 

(そんじゃあ頼むぞ)

 

『です』

『了解。魔力が漏れないように結界を張っておくよ』

 

 先ずは治すための代償を悪魔の能力で拝借する。

 寿命で言えば約5年だが、死ぬよりはマシだろう。

 

 次に俺の回復魔法と恋人の能力を併用して再生と治療を行う。

 じっくりと治していくが、少々もどかしい。

 

 一気に治せれば良いのだが、内臓なんて繊細なものを適当に治せば死ぬ可能性もある。

 

 汗が額から流れるのを感じると、飯田さんがハンカチで拭いてくれた。

 地味にありがたい。

 

『ほら、吐き出すです。早くしろです』

 

 なんかエルメスの幻聴が聞こえた気がするが、無視しておこう。

 大方ソラから代償を掠め取っているのだろう。

 

 今日の昼は何を食べようかと、思考が飛び始めたところで治療が完了した。

 ついでに邪魔な機械や管を全部飯田さんに外してもらう。

 

「終わりました。起こそうとすれば起こせますが、どうしますか?」

 

 本当に治ったのが信じられないのか、魔法少女は呆然としながら頷く。

 俺がクリスを治している間に、ジャンヌさんも治していたみたいだな。

 

起きなさい(ナノライトニング)

「ぎゃーー!!」

 

 電流を流してやると、全身がビクンと反応した後、叫びながら起きてくれた。

 どうやら心臓も脳も、問題なく再生出来たようだ。

 

「クリス! ……クリス!」

「よがっだー!」

 

 何が起きたか全く理解していないクリスに2人が抱き着き、ワンワン泣いている。

 

 魔力の消費自体はそこまでではないが、集中したせいで少し疲れた。

 

「大丈夫かね?」

「はい。お昼ご飯をしっかりと食べれば問題ないです」

「ふっ。そうか。それじゃあ、ここも手早く終わらせて、ランチにでも洒落込もうじゃないか」

 

 声を掛けられる前に部屋を出て行く。

 この後は軽傷……って程ではないが、治すのが面倒な奴らを纏めて治し、例の魔法少女を確認する感じか。

 

「――失礼を承知で聞きますが、リリーさんとは一体何者なのでしょうか?」

 

 廊下を歩いていると唐突に、飯田さんがジャンヌさんに聞いた。

 

「どうせ今日だけの付き合いなんだし、知らない方が良いよ。死にたくなんてないだろう?」

「……」

 

 妙に重い空気が流れるが、そんなに気にすることかね?

 ここは小粋なジョークの1つでも言って和ませた方が良いのだろうか?

 

 ぐぅ~。

 

 悩んでいると、誰かの腹が鳴った音が聞こえた。

 

 ……まあ、俺なんですけどね。

 

「ふふ。そうですね。彼女が何であろうと私を治し、彼女たちを救ってくれた事実が有れば、それで十分ですね。お昼はしっかりと準備してありますので、楽しみにしていて下さい」

 

 そうですか。それは良かったです。

 

 今回も先程と同じ要領でこんにちは。治れ。さよならとやり、有無を言わさず退散する。

 

 直ぐにジャンヌさんと合流し、例の魔法少女の所に向かう。

 

「到着の前にカルテを渡しておきます」

「ありがとう。……成程。厄介そうだし、後数日すれば本当に死んでいそうだね。ある意味運が良いとは思うが、これは流石に無理な気がするよ」

「現在有志の方が何とか一命を取り留めようと頑張っていますが、それを止める意味も込めて一度診て欲しいとの事です」

 

 見殺しにすることも、一種の救いである。

 そして頑張っている者たちを止めるのも、上の人間の仕事だ。

 

 ジャンヌさんがする仕事ではないが、回復魔法の権威であるジャンヌさんの言葉なら、信じられるって事だろう。

 

「言ってはなんだが、新人に魔法少女を割くくらいなら、さっさと楽にしてあげるのが仕事だと思うんだがね。国か魔法局か知らないけど、少々危うくないかね?」

「――仰る通りです」

 

 上からカルテを覗き見ると、もはやグロ画像と化した写真と、名前が書かれていた。

 

 ――アクマが言っていたのはこれの事か。

 

(アクマ)

 

『四肢と内臓が徐々に腐っていってるみたいだね。おまけに頭を強く打ったのか意識不明みたいだよ。変身が解けていないから死んではないけど、後2日でドロドロになるだろうね』

 

 ドロドロとは嫌な死に方だな。

 

(治す事は出来そうなのか?)

 

『諦めるのも肝心だよ。まあ、ジャンヌと同じく診ないことには何も言えないね』

 

 別に博愛主義ではないので、何がなんでも助けようとは思っていないのだが、アクマの言葉には妙に棘がある。

 

 他の部屋よりも奥まった場所に向かい、少々厳重な部屋の前まで来た。

 守衛も居るし、感染の心配とかしているのかな?

 

「お疲れ様です。通して貰っても?」

「話は聞いています。大丈夫ですが、何かあった場合は自己責任でお願いします」

 

 守衛が扉を開けると、奥の方にもう1つ扉が見える。

 その扉を開けると透明なガラスで仕切られた部屋があり、その先に件の魔法少女――ハブランサスと、魔法を掛けていると思われる魔法少女が居た。

 

 仕切りの端に扉があり、そこから中に入るのだろう。

 

「念の為、飯田はここで待ってなさい。行くよリリー」

「はい」

 

 飯田さんの肩から飛び降りようとすると、ジャンヌさんに持ち上げられて、肩にドッキングさせられた。

 

 さてはジャンヌさん、結構楽しんでいるな?

 

「やあメルセデス。久しぶりだね」

「……お久しぶりです聖女様」

「君は相変わらずって感じだね。容体は?」

 

 何やら知り合いらしいが、ジャンヌさんが聖女呼びされると妙な違和感を感じる。

 多分詐欺師とかの方が、違和感がないだろう。

 

「毒により四肢から腐っていってます。治すことは叶わず、交代で延命してますが……」

「ふむ。感染の恐れはないが、末恐ろしい毒だね。既に腸や胃は腐ってるし、このままいけば心臓まで達しそうだ。それに複数の混合毒か……彼女1人を延命する魔法で、どれだけの人が助けられるのだろうね?」

「私たちの行いが愚かなのは重々承知しています。だからって……」

 

 ジャンヌさんはやれやれと首を振る。

 

 何とも珍しいタイプの魔法少女だが、もうそろそろ限界に達しそうだ。

 顔を青白いし、少ない魔力をなんとかやり繰りしているのだろう。

 

「何度も教えたが、救える命には限りが有り、私たちの能力も同じだ。選ばなければならないんだ」

「……はい」

 

 悔しそうに俯くも、魔法の手は止めないでいる。

 

「どうだねリリー?」

 

 そこで俺にパスするか。

 

(ジャンヌさんと共同作業すればいけそうな気がするが、どうだ?)

  

『厄介なのはこの毒だけだし、ジャンヌが毒を消し去るまでハルナが回復し続ければ助けられるかもね』

 

 ジャンヌさんが診察するついでに俺も解析してみたが、ジャンヌさんが言った通り、複数の毒がハブランサスの身体を蝕んでいる。

 

 厄介なのは毒ごとに解毒方法が違い、下手に解毒しようとすれば他の毒が活性化する。

 かと言って全ての毒を同時にやっても身体の腐る速度が増すので、せめて5人は居ないと治すのは無理だろう。

 

 特に被害が増している現状で、新人の魔法少女にそんなに割くなんてのは愚策だ。

 さっさと切り捨てるのが、せめてもの情けだったのだ。

 

 まあ、心臓や脳を治すよりは簡単なので、さっさと終わらせて飯を食べよう。

 

「私とジャンヌさんなら問題ないですね」

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