魔法少女がいく~TS魔法少女は運が悪いようです~   作:ココア@レネ

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魔法少女は格上に挑む

 ランカー。10位以上にしないでほしい。

 それが俺のお願いだ。

 

 将来いなくなる人間がランカーになるのは困るだろうし、アロンガンテさんみたいに働くのはごめんだ。

 

 憂いは今の内に断っておいた方がいい。

 因みに俺のランキングは現在、不明となっている。

 

「――それは何故でしょうか?」

「私の地力はまだランカーに相応しくない……て事で良いでしょうか?」

 

 アルカナの力のおかげで戦果を出せているが、俺単体ではS級がやっとである。

 言い訳としては問題ないだろう。

 後は年齢だったり、適当な嘘を並べれば何とかなると踏んでいる。

 

「……個人的には、次世代のランカーとして頑張ってほしいですが、一応は納得しておきましょう。私からイニーがランカーにならないように話をしておきます」

「ありがとうございます」

 

 俺の分は、マリン辺りが頑張ってくれるだろう。

 駄目ならミカちゃんや、スターネイルなども居る。

 魔法少女だけで見れば、日本の将来は明るい方だろう。

 

「出発は明日の朝7時となります。最低限準備が必要なものは、この後直ぐに端末に送っておきますので、準備をお願いします。それと、寝ているレンの事を宜しくお願いします」

 

 静かだと思ったら、寝ていたのか……本当に大丈夫なのだろうか?

 

「私からの依頼は以上になりますが、何か聞いておきたい事はありますか?」

「1週間経っても現れない場合は、どうしますか?」

「イギリスの状況次第ですが、そのまま引き上げようと考えています。レンを残す可能性もありますが、イニーは気にしないでいただいて大丈夫です」

 

 何があったとしても、1週間で帰ってこれるなら問題ないな。

 

(アクマから何かあるか?)

 

『大丈夫だけど、ハルナが頑張る必要はあるんだろうね~』

 

 笑っている辺り、イギリスは余程大変なのだろう。

 流石に必要な事は教えてくれるだろうし、アクマの事は無視しておこう。

 

「後は大丈夫ですが、レンさんはどうするんですか?」

 

 俺とアロンガンテさんが話している間も、レンさんはすやー、といった感じで寝ている。

 

「……いりますか?」

 

 いるかいらないかならいらないんだが、少々気になることもあるので、預かっておくか。

 ついでにアロンガンテさんのレンさんへの対応が雑なのはなんでだろうか?

 

「ちょっと気になる事があるので貰っていこうと思います」

「そうですか。運ぶために妖精を手配するので、少しだけ待っていて下さい」

 

 アロンガンテさんが机に備え付けられているボタンを押すと、数分して妖精が入ってきた。

 

「なんでしょうか?」

「そちらの魔法少女に従い、そこの置物を運んで下さい」

「承知しました。何処に運びますか?」

「空いてるシミュレーター室に運んで下さい」

 

 元気に答えた妖精は魔法でレンさんを浮かべると、出て行ってしまった。

 回復魔法をアロンガンテさんに使い、その後妖精を追いかける。

 

 会う度に、アロンガンテさんへ回復魔法を使っている気がするが、魔法に頼らず休んでほしいものだな。

 金を払うとも言っていたが、勿論断っている。

 

 妖精を追いかけると、第三シミュレーター室に入って行く。

 

「そこに座らせて下さい。運んでいただきありがとうございました」

「いえいえ。それでは失礼します」

 

 運ばれている間も起きないとは、中々凄い人だな。

 ここはアロンガンテさんを見習って叩くか。

 

 頭に数度チョップをすると、若干嫌な顔をするだけで、起きる気配がない。

 俺が殴った程度は痛みも殆ど無いだろうし、あれを使うか。

 

 あまり暴力的な事はしたくないが、起きない方が悪い。

 

 杖を取り出し、大きく振りかぶる。そしてレンさんの腹に思いっきり振った。

 流石に頭は俺の良心が咎めたので、腹にフルスイングだ。

 

「おお……中々酷い起こし方をするのね」

「そこまで痛くないでしょう?」

 

 音的にはポスン程度だ。魔法少女には爪のささくれを取った程度の痛みだろう。

 

「私を起こしたと言う事は、何か用ですか?」

「はい。良かったら一度戦いませんか?」

「構わないけど、何故かしら?」

 

 別に理由などないが、折角なら日本のランカー全員と戦っておきたいなと、思っているだけだ。

 ガチで戦う事は出来ないので、シミュレーションでだがな。

 

「理由などないですが、レンさんと会える機会も少なそうなので、折角ならって奴です」

「ふーん、なるほどね、どの程度まで能力を使用するの?」

「そちらは強化フォーム無し。私はアルカナ無しでどうでしょうか?」

 

 強化フォームがなくても強いだろうが、お互いに何でもありにすると、どうなるか分からない。

 ならば初期状態での戦いが一番良いだろう。

 

「分かったわ。ですけど、勝ち目がないと分かっていても、やるのかしら?」

「はい。不満ですか?」

「いえ。構いませんよ。ですけど……久しく魔法少女とは戦っていないから、手を抜くことは出来ないわよ?」

 

 手を抜かれるよりは全力で戦ってもらった方が、俺としては嬉しいのだが、この人に限っては難しいところである。

 

 それは主に能力のせいなのだが、レンさんの能力は凍らせる事だ。

 これだけならそこまで強い能力とは言えないが、凍らせる対象は全てだ。

 

 人。物。時間。

 一定の条件を満たせば正に理不尽の権化となる。

 つまり、場合によっては俺も瞬殺される可能性がある。

 

 確かにレンさんと今戦う理由はないが、もしもの事を考えて一度戦っておきたいのだ。

 

 初見でなければ、なんとかなる可能性があるからな。

 

「大丈夫です。それに、短い間とは言え一緒に行動するのですから、少しはお互いの事を知っておいた方が良いでしょう」

「そうね。それじゃあやりましょうか」

 

 ポッドに入り、シミュレーターが起動する。

 設定はデスマッチだが、それ以外は学園の時と一緒だ。

 

(一応聞いておくが、勝率は?)

 

『驚きの0パーセントだね。普通の状態じゃあ奇跡が起きても勝てないね』

 

 中々辛辣だが、俺も同意見だ。

 俺が調べた限りでは、レンさんと戦う最低条件を、俺は満たせていない。

 そもそもその条件を満たせている人の方が少ないのだが、とりあえず俺の勝ち目はないのだ。

 

 杖を構えて始まるのを待つ。

 レンさんも杖を持っているようだが、距離的によく見えないな。

 

 音が鳴り響き、戦いが始まる。

 

 その直後、俺はポッドに戻された。

 

 

 

 

 

1

 

 

 

 

 

「日本からかね?」

 

 イギリスのロンドンにある魔法局本部で、男は疲れた顔で報告を聞いていた。

 その報告は、アロンガンテがレンとイニーをイギリスへ送るため作った、表向きの依頼書についてだった。

 

 内容は被害の拡大に伴い、国から魔法少女を送る。互いに譲歩し合い、早急に態勢を整えてほしいと言ったものだ。

 

 言い方を変えれば、これ以上醜態を晒すなら、うちの魔法少女が何か仕出かすぞと言った脅しだ。

 

「はい。表向きは救援となっていますが……」

「分かっている。来るのは誰なんだ?」

「2位のフリーレンシュラーフになります。それから……」

 

 報告をしていた男は言い淀み、二度三度と手元の報告書を見る。

 いつもなら早く言えと促すのだが、フリーレンシュラーフ――レンの名前を聞いて頭を抱えていた。

 

 レンの活動は主に魔物の討伐だが、彼女……と言うよりは日本に所属しているランカーは何かしらやらかしている。

 

 そのやらかしの後始末は巡り巡って、アロンガンテの仕事となるのだが、その中でもレンのやらかしは一部の魔法少女や関係者にとっては悪夢に近いものとなっている。

 

 レンは魔物専門であり、その強さから単独で任務に当たっている。

 だが、とある魔物の討伐に当たり、複数の魔法少女と共に行動することになった。

 

 そこで悲劇……惨劇が起きた。

 

 誰が悪いかと責任を追及した場合、悪いのはレンなのだが、一概に責めることも出来なかった。

 

「単独の方が良いと思うけど、本当に良いのかしら?」

 

 レンは討伐の作戦会議で、そう発言していたのだ。

 しかしその発言は挑発と受け取られ、レンを含めて20人の魔法少女により討伐が行われる事に決まった。

 

 結果として、全員生きた状態で魔物の討伐は終わる事となった。

 

 しかし……。

 

 レン以外の魔法少女は、全員氷漬けとなっていたのだ。

 

 確かにレンは強いのだが、性格や魔法の特性上無差別の攻撃になりやすい。

 命は無事だったものの、歴史に残る大事件となった。

 

 それ以降レンが誰かと組むことはなく、日本以外の国に出向くこともほとんどなくなった。

 

 そんな無差別兵器を、日本はイギリスに送り付けたのだ。

 頭を抱えてしまうのも仕方ないだろう。

 

「それとですが、イニーフリューリングも一緒に同行するようです」

「イニーフリューリング?」

 

 頭を抱えていた男は顔を上げ、何処かで聞いたような名前だなと思案する。

 そして驚きの声を上げた。

 

「イニーフリューリングとはあのオーストラリアのか!」

「はい。現在ランクは不明となっていますが、事実上のランカーと考えてよろしいかと」

 

 男が驚いた理由は様々だが、その表情から良い感情ではないのがうかがえる。

 

「なあロウシェ」

「何ですか局長」

「俺、辞めてもいいかな?」

「私も出来る事なら辞めたいですね」

 

 イギリス魔法局本局長。バイエルン・エーリッヒ。

 副局長のロウシェ・テイラー。

 

 2人共アロンガンテ側の人間なのだが、魔法局や魔法少女の改革は全く進んでいなかった。

 様々な要因があるのだが、一番の問題は局長たるバイエルンの求心力が全くなかった事だ。

 

 汚職に関係していた職員や魔法少女はどうにかなったものの、それ以降全く上手くいってなかった。

 

 魔法局と魔法少女の不和は加速し、一般人からは突き上げをされ、支部の局長からは無視をされ、散々な状態だ。

 

 それでも頑張っていたが、とうとうアロンガンテが動き出してしまったのだ。

 

「来るのは明日の午前中となっていますが、いかがなさいますか?」

「ランカーたちはどういった状態だ?」

「10位から8位までの魔法少女は現在選定中。7位と6位は療養中でして、それ以外は討伐に追われている状態です」 

「2人を出迎えるのに、妥当な者は居るかね?」 

 

 ロウシェは端末で確認をするが、レンたちを出迎えるのに良さそうな魔法少女は見つけられず、首を横に振る。

 

「そうか……職員はどうだ?」

「おそらく全員断ると思いますね。イニーフリューリングに治療を頼めれば、色々と改善するかもしれませんが……」

「――無理だな」

 

 バイエルンはバッサリと切り捨てた。

 なんて事はない。頼むための金が無いのだ。

 

 多少の事なら頼めるが、欠損や魔物による毒などを治すにはそれ相応の金銭が必要となる。

 

 1人や2人なら大丈夫だろうが、魔法局1つ分は流石に無理であり、下手に頼めば俺も私もとなり、手のつけられない事態になるのは目に見えていた。

 

「ですね。諦めてイギリスでの権限を明け渡しますか?」

「それが出来れば苦労せんよ。向こうも嫌がるだろうし、そうなれば完全にイギリスの魔法局は機能不全に陥る」

 

 バイエルンより下は、ほとんど人がいない。

 政府も市民との摩擦があり、まともに機能しているとは言いがたい。

 

「それに私の可愛い孫が魔法少女として頑張っているのだ。ここで降りるなんてことはせんよ。まあ、最後は俺の首を対価に交渉するか……」

「あなたと言う人は……。あっ」

 

 ロウシェはため息を吐いてから、何かに思い至ったのか声をあげた。

 

「局長のお孫さんに出迎えをさせるのはどうですが? 魔物の討伐からも離す事が出来ますし、運が良ければ多少の恩情を掛けてくれるかも知れませんよ?」

「お前は俺の孫を、猛獣の檻に放り込めと言うのか?」

 

 ロウシェの案は悪いものではないと、バイエルンは分かっている。

 だが、危険人物とされているレンと幼いながらも強力な能力を持ち、不気味なイニーに可愛い孫を託したくないのだ。

 

「しかし、誰かが生け贄にならなくてはいけませんし、後がないのですから、賭けてみるのも悪くないのではないですか?」

「分かってはいるのだがな……」

「それに、イニーフリューリングの方は慈悲の心があるようですから、悪い結果にはならないと思いますよ?」

 

 ロウシェは報告をバイエルンにする前に最低限情報を集めていた。

 悪い噂もあるイニーだが、新魔大戦やオーストラリアでの戦いでは無償で怪我を治したりしていた。

 その事から大丈夫だろうとロウシェは考えている。

 

「はぁ…………分かった。あいつに話しといてもらえるか? それと、くれぐれも粗相の無いように言っておいてくれ」

「承知しました。それでは失礼します」

 

 ロンシェは一礼してから部屋から出て行った。

 残されたバイエルンは涼しくなってきた頭を搔いてから、仕事を始めた。

 

 イギリスが破滅するのか、それとも救われるのか。

 

 それは、誰にも分からない。


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