魔法少女がいく~TS魔法少女は運が悪いようです~   作:ココア@レネ

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魔法少女と溢れる欲望

「お待たせしてすみません。受け入れで少々問題があり、遅れてしまいました……大丈夫ですか?」

 

 申し訳なさそうにしながら簡易休憩室に帰ってきたロウシェさんは目元を赤く腫らしているリンデを心配して声を掛ける。

 

「大丈夫です。ちょっと目にゴミが入っただけです」

「……そうですか。なにかあったのなら局長を頼りなさい。あの人はいつも君の事を気に掛けているからね。さて、準備は良いですか?」

「はい」

 

 大人の無駄な気遣いなど不要と言いたいが、善意なのだから言わないでおこう。

 個人的には多少の疲れなど気にせず一気にやってしまいたいが、それを無理だと捉えられてしまうのだ。

 無駄に休むことになったが、気にしないったら気にしない。

 

 簡易休憩室を出て、話しかけてくる魔法少女たちを追い払いながら歩く。

 治した中には既に普通に歩ける人も居れば、まだ動けない人も居る。

 

 動けると言っても体調の方は万全ではないので、魔物を討伐しに行く事は禁止されている。

 リハビリって程ではないが、最低でも1日は飯を食って寝るだけの生活を送っておいた方が良いだろう。

 

 幸い、レンさんが頑張っている事だしな。

 

「此方の部屋です。魔法少女だけではなく、職員や関係者も居るので結構な人数となっていますが本当に大丈夫ですか?」

「大丈夫です。中に入ってからで良いですが、全員に動かないように声を掛けて下さい」

「分かりました」

 

 部屋の中にはロウシェさんが言っていた通り結構な人数だが、どうせ魔法を使うのは1回だけだ。

 少し見渡すと、ロンドンの魔法局の医務室に居た魔法少女が見えた。

 

 何かすると言っていたが、手伝いをしているのか。

 ちゃんと有言実行しているようでなによりだ。

 

「今から治療を行いますので、その場を動かないで下さい!」

 

 ロウシェさんはマイクを手にしてそう呼び掛けた。

 多少ざわついたが、ロウシェさんの言葉に従ってほとんどの人が動くのを止め、俺たちを見る。

 さてと、やってしまうか。

 

 杖を出して床を突き、魔法陣を展開する。

 

 簡易的な診察を行い、最も効率の良い魔法を考える。

 

妖精の泉(フェアリースプリング)

 

 床に展開されていた魔法陣がせり上がり、空中で停止する。

 そして霧雨の様な光が降り始め、この場に居る全員を癒す。

 

 消費としては大体3割。

 時間的なコスパとしては悪くない。

 

「終わりです。次に行きましょう」

 

 俺の魔法を見て呆然としているロウシェさんに声を掛ける。

 俺の声に驚きながらロウシェさんは反応し、一度咳ばらいをする。

 

 後少しすれば治された人たちが騒ぎ出すだろうから、早くこの場を去りたい。

 

「分かりました。付いて来て下さい」

 

 部屋を出て向かいの部屋に入る。

 人数は此方の方が少ないが、ベッドに横になっている人や怠そうに椅子に座っている人が居る。

 

 先程と同じくロウシェさんに呼び掛けてもらい、魔法を使って終了である。

 

 因みにだが、今回の治療費を全額請求する場合、最低でも数百億円となるだろう。

 

 そんな金をポンと国が出せる訳がないので、バイエルンさんたちが困り果てていたのだ。

 

 そしてそんな金をポンと出せるのがランカーなのである。

 まあ、あくまでも口座上の金額なので、一度に引き落とすことは不可能だろうけどな。

 

 治療も終わったので部屋の外に退散し、休憩室と思われる部屋に入る。

 

「これで終わりですが、この後はどうすれば良いですか?」

「待機となりますね。魔法局の発表が本当だと分かった事により、やって来る魔法少女が居ると思われるので、3時間位様子をみるつもりです」

 

 その位が妥当か。

 これでイギリスの魔法局と魔法少女の仲は多少改善され、今よりはマシになるだろう。

 

 そしてレンさんの要求通り、問題……破滅主義派の件で国が荒れたとしても、大目に見てくれるだろう。

 

「そうですか」

「はい。それと、リンデは一度帰っても大丈夫ですよ。イニーさんも後は待機しているだけですからね」

「……はい。分かりました」

 

 意気消沈としているが、暗い目をしていないのでもう大丈夫だろ。

 しかし、待機しているだけってのも暇な訳だが、どうしたものか……。

 

「呼ばれるまではここで待っていれば良いですか?」

「はい。多少なら席を外しても構いませんが、できる限り此処で待っていて頂けるとありがたいです」

 

 だと思ったよ。

 自宅で待機出来るならその方が良かったのだが、仕方ない。

 

「そうですか。なら待っていますので、私の事は放っておいていただいて結構です」

「分かりました。何か有りましたら外に職員を立たせておきますので、よろしくお願いします」

 

 ロウシェさんは一礼し、リンデを連れて部屋を出て行った。

 

 暇だし、現状の確認でもしておくか。

 

(レンさんの様子はどうだ?) 

 

『問題ないよ。現れた魔物は瞬時に塵へ変わってるし、S級やSS級も瞬殺だね』

 

 それなら大丈夫そうだな。

 後はレンさんが間違って魔法少女や一般人を凍らせない事を願おう。

 

(破滅主義派の様子は?)

 

『影も形もないね。オーストラリアの時みたいな事にならないようにしたいけど、難しいね……』

 

 相手はアルカナと何千何万と戦っている訳だからな。

 アルカナの能力をすべて知っていても驚かない。

 

 能力を知っているって事は対策が立てられるって事だ。

 

 先手を取るのはまず無理だろうな。

 次はどんな手で攻めてくるのだろうか……。

 

 ――とても楽しみだ。

 

(日本の方で問題とかはあるか?)

 

『うーん。これと言ってないかなランカーは皆飛び回ってるし、アロンガンテも睡眠時間を削ってるね。マリンやスターネイルも変わらず頑張ってるよ』

 

 相も変わらずだが、人間である以上限界がある。

 誰かが倒れればその穴を埋める為に誰かが頑張り、また倒れてしまう。

 

 そうなれば負のスパイラルとなり、全員お陀仏だ。

 

 もしかして魔女はそれを狙っているのか?

 

 倒すのは面倒だから、過労を狙うとは珍しい倒し方だな。

 

(問題はないが時間の問題はありか。オーストラリアの様子は?)

 

『破滅主義派に対する悪感情が増してるね。それと、復興は魔法少女不足によって難航しているよ』

 

 今の世の中に魔法少女は欠かせないからな。

 

 穴を掘るのに重機はいらないし、解体もお手のものだ。

 地均しや高所作業。

 基礎なども、昔に比べれば途轍もない早さで終わらせることが出来る。

 

 一応通常の方法でもやっているだろうが、完成までにかかる時間は雲泥の差だ。

 

 まあ、人が残っていれば復興はどうにかなるだろうから、頑張ってもらうしかない。

 

(なるほどね。復興は現地の人間に頑張ってもらうしかないな。分かっていた事だが、待つしかないか)

 

『……そうだね。けど、多分後1回か2回で最後になると思うよ……』

 

(それはどうしてだ?)

 

『これ以上は地球が持たないからだよ。そして、ハルナの実力を考えればもうそろそろ試すなんて事はせず、狩りに来るはずだよ』

 

 試すなんて言っているが、どれもこれも殺しにきていた気がするんだがな……。

 

 何なら実質全敗していると言っても過言ではない。

 

 M・D・Wでは元の身体が無ければ死んでいた。

 新人研修では見逃してもらえなかったら死んでいただろうし、マスティディザイアではフールが居なければ死んでいた。

 

 オルネアスは独断だから別だが、強敵であった。

 運よく魔眼を手に入れられたが、なかった場合ナイトメアが死んでいた可能性がある。

 まあ、第二形態でアルカナを使うのは諸刃の剣なので、あんなチートな魔法少女が現れないことを願う。

 

 そしてオーストラリアでの死闘。

 ご都合主義と思わなくもないが、アルカナの1人であるエルメスと、身体の持ち主であるソラの助けにより、今一度生きることが出来ている。

 切り札を手に入れる事も出来たので、薬を使われたとしても2人同時なら勝つことは出来るだろう。

 

 流石に3人や4人となると無理だとは思うが、流石にそんな事態にはならないだろう。

 

 ランカークラスでそんな人数を使えば、向こうの人員は実質壊滅状態となるはずだ。

 

 薬を使うって事は死ぬと同意義だからな。

 

 だが、アクマの言う通りならそんな無茶振りをしてくる可能性もある。

 対策……なんて立てようもないし、その場で判断するしかないだろう。

 

 困ったものだなと悩んでいると、ドアを叩く音が聞こえた。

 

「どうぞ」

「追加の患者が到着しましたので、移動の方お願いします。患者は外傷の患者を収容していた場所になります。案内しますので、付いて来て下さい」

「分かりました」

 

 待機室を出る前に時計を見ると、此処に来てから既に1時間経っていた。

 

 思ったよりも時間の流れが速かったな……。

 

 時間的にこの1回で終わりかな? 

 

 廊下には先程と違い、人が増えている。

 

 1時間程度ではテレポーターで移動は終わらないから、皆待機しているのだろう。

 

 なるべく影が薄くなるようにしながら歩き、目的の部屋へと向かう。

 

「今回で終わりですか?」

 

 道すがら、案内をしている職員に声を掛ける。

 

「はい。これ以上待ったとしても患者の人数は増えないとの判断です。これ以上イニー様に負担を強いるのは得策ではないという判断でもありますが……」

「そうですか。終わったら後は自由にしても?」

「はい。それとですが、レン様は今日一日討伐をするとの事です」

 

『さっきレンからメールが届いてるね。適当に食べられる物を作って置いといてだってさ』

 

(了解)

 

 今更だが、レンさんはともかく、俺は普通に外食しても問題ないんだよな……。

 即効性の薬を使われたとしても治す事は出来るだろうし、アクマとエルメスが居れば多少の延命も可能だからな。

 

 だが、どうせ作るなら自分の分も作ってしまった方がお得な気がするし、今日も家で作るか。

 

「分かりました。治療の流れについては大丈夫ですか?」

「はい。今集まっている方には椅子に座って待機する様に伝えております。もし座っていなかった場合は自己責任とも伝えてあるので、先程と同じ様に治療して頂ければ大丈夫です」

 

 それは上々だな。

 さっさと終わらせて帰るとしよう。

 

 部屋に入り、見渡して大体の人数を確認する。

 人数自体は少ないが、懐疑的な視線を感じるが、俺が来ると分かっているのに、何故ここまで信用が無いのだろうか?

 

 治っている人が居るから来ているのに、よく分からないな。

 ……まあいい。やってしまおう。

 

妖精の泉(フェアリースプリング)

 

 一時間休めた事で、変身を解いていなくても魔力は全快した。

 よって、魔力が減る事による不調はない状態で、治療を終える事が出来た。

 

「終わりです。私は帰りますが、何かあったらレンさんに連絡をお願いします」

「承知しました。本日はありがとうございました」

 

 案内をしてくれた職員はそう言ってから頭を下げた。

 

 それを見てから、転移して拠点の家に帰った。

 

 

 

 

 1

 

 

 

「やあ、久しぶりだね。元気にしてたかい?」

「……うん」

 

 イニーと別れたリンデは、自宅に帰って、自室にて考え事をしていた。

 

 リンデはイニーに嫉妬をしていたが、イニーの話を聞いて迷いが生まれた。

 

 強くなりたい。出来れば今直ぐにでも。

 しかし、強さを得るには代償が必要だと、イニーはリンデに言って聞かせた。

 

 イニーが強い理由。それを聞いて臆してしまった。

 

 弱くても出来る事。

 そんな事が本当にあるのだろうか?

 そう、考えていた……。

 

 普通の幸せ……幸せとは人によって千差万別だ。

 

 そして、リンデにとっての幸せとは……。

 

 そんなリンデの所に、とある人物が訪ねて来た。

 

「そんな顔をしながら武器を向けないでくれ。私とリンデの仲じゃないか。それに、悩みがあるんじゃないかい?」

 

 リンデはそう言われて目を見開く。

 だが、今の自分の様子では当てられても、おかしくないと考えた。

 

「先ずは話でもしようじゃないか。私ではリンデにすら敵わないのは知っているだろう?」

「――うん」

「良い返事だ。イニーフリューリングって魔法少女を知っているかな? ああその反応で分かったから答えなくて良いよ。ふむ。悩みとは魔法少女としての強さについてかな?」

 

 リンデは唾を飲み込み、構えていた武器を下ろした。

 

「正解みたいだね。彼女は凄いだろう? あの小さな身でそこら辺のランカーより戦果を上げている。私やリンデが欲している力を持っている」

 

 ――失うことによって手に入る力――

 

 リンデの脳裏に、イニーの言葉が木霊した。

 

 そうだ。自分だって失っているのに、何故こんなにも力がないのだろうか?

 私が望んだのはこんなものではない。

 

 そんな想いがふつふつと浮かんできた。

 

「そんな怖い顔をするな。さて、本題に入ろうか。イニーの事を知っているってことは、あいつから世話役にでもされたのだろう?」

 

 リンデは頷いた。

 

「やはりね。確認だが、リンデはイニーにどうなって欲しいんだい?」

 

 リンデはイニーに嫉妬している。

 たが、同時に感謝もしていた。

 イニーとレンがいなければ、魔女が何かする前に滅ぶ一歩手前だったろう。

 

 国としての存続も難しくなり、祖父であるバイエルンもどうなるか分からない。

 

 だから、嫉妬していても憎んではいない。

 ならば、自分はどうしたいのか?

 

「……見てみたい」

「ほう」

「イニーの本気を見て見たい」

 

 それがリンデの望んでいる事だった。

 

 イニーが凄いのは知っている。だが、どこまで凄いのかをリンデは知らない。

 新魔大戦やオーストラリアの戦いを動画で見てはいるが、そうではない。

 リンデが知りたいのは、イニーがなにを想って戦い、その想いの結末をみて見たいのだ。

 

「ふふ。そうか。ちょっと違うが、私には好都合だよ。なら少し協力をしてくれ。これはリンデにしか出来ない事だ。結果としてイニーが死ぬ可能性もあるが、知りたいのだろう? 姉である私にはリンデの事がよく分かる。あれから8年経っていてもね」

「……」

 

 リンデは姉の言葉から目を逸らすが、否定する事が出来なかった。

 一度膨れ上がった想いを消せる程、リンデは大人にはなれない。

 

「それじゃあ説明をしようか。世界の存亡を賭けた、楽しい作戦をね」

 

 リンデの姉は、これからやろうとしている作戦について、リンデに話した。

 時々リンデは悩むような仕草をするが、作戦については了承した……してしまった。

 

「……以上だけど、何か質問はあるかい?」

「もしも負けた場合はどうなるの?」

「私が所属している場所は知っているだろう? イニーの死は世界の死と同意義だ……だが、そんなものはどうでも良いのさ。滅ぼうが生き永らえようがどちらでも構わない。あの人の本懐を遂げることが出来るならね」

 

 リンデの姉は決意するように言い、懐からメモリーカードを取り出し、リンデに渡した。

 

「これは?」

「イニーが生き残ったなら、それを渡して欲しい。そうすれば、リンデが罪に問われることはなくなる筈だ。それじゃあ頼んだよ」

「うん。バイバイ。お姉ちゃん」

「私をそう呼ぶか……。また、作戦の日に会おう」

 

 リンデの部屋に光が溢れると、リンデの姉の姿が消えていた。

 

 残されたリンデは、渡されたメモリースティックを握りしめて、暫くの間立ち竦んでいた。

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