魔法少女がいく~TS魔法少女は運が悪いようです~   作:ココア@レネ

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魔法少女と妖精たち

 後どれ位続くのだろうか?

 本当に出口はあるのだろうか?

 あの分かれ道は反対側だったのではないか?

 

 誰が悪い。お前が悪い。

 腹が減った。身体が重い。

 

 もう……駄目だ。

 

 などど煩い男たちを無視して、俺たちは戦い続け、歩みを進めていた。

 通路すら簡単に進むことは出来ず、速度は徐々に落ち、俺の回復魔法では癒せないほどの疲労が溜まり始めた。

 

 今は40カ所目の広場であり、アロンガンテさんと桃童子さんが広場で戦い、俺は通路で、襲ってくる魔物たちを倒している。

 

 煩い男たちと広場の結界を背にして、わりと本気で戦っているが、状況はよろしくない。

 

 後3つ位広場を越えれば、犠牲無しで戦いを終えるのは無理になりそうだ。

 

凍てつく龍の涙(コフィンティアーズ)撃ち出せ(ショット)

 

 待機させている魔法を撃ち出し、追加で魔法を唱える。

 更に翼から魔法をばら撒き、何とか凌いでいるのが現状だ。

 

 一応魔力の回復速度が普通の魔法少女より早いといっても、流石に限度がある。

 

 せめて後ろの馬鹿共……まあ、全員が屑ではないが、守るべき対象がいなければ、苦労は減る。

 

『魔力が5割を切ったよ。後10分が限界かな』

 

(こんだけバカスカ魔法を使っていれば、そうなっちまうよな)

 

 魔物が前から来るだけなら良いのだが、頭上に湧いたり、俺と馬鹿共の間に湧いたりするので、対処が難しい。

 

 まさか詠唱をしなければ魔法を使えないってデメリットがこんなにも辛いとは思わなかった。

 

『桃童子たちの討伐が終わったよ!』

 

(報告どうも)

 

「結界がもうすぐ解けるので、解けたら直ぐに入って下さい」

「わ、わかっている!」

 

 魔物たちが死体となって残ってくれれば、死体の壁が作れるのに、全部塵となって消える。

 

 魔物に殺された場合、死体を食われるが、魔物が欲しいのは血肉ではなく、血肉に含まれている魔力だ。

 

 どうやっているかは知らないが、食われると分解され、形がなくなってしまう。

 

 魔法少女が手足を欠損した後に、欠損した部位を持ち帰れないのはその為だ。

 

 もしも持って帰れたら、通常の医療で接合出来るのだが、そんな運が良いことはそうそうない。

 

 そして、何を言いたいかって事だが、ここで死んだ場合、死体が残らないのだ。

 

 魔法による轟音の中、後ろで足音が聞こえた。

 

「イニー!」

 

 どうやら広場には入れたようだ。

 

 こちらも、もうそろそろ幕引きといこう。

 

「静寂なる音色が響き、白霧が包み込む。幼子は息を止め、死者は地へと縛られる」

 

 広場に魔物が来ないとはいえ、下手に背中を向けると、広場に入る前に攻撃をされる恐れがある。

 

 下手な防壁では、消費魔力と耐久値が釣り合わず、壊される可能性がある。

 

 なので、やるのはいつもと同じだ。

 

 高火力で殲滅し、リポップする前に逃げる。

 

 まあ、高火力と言っても、少し毛色が違うがな。

 

氷狼の咆哮(フェンリル・ロアー)

 

 風が吹き抜け、全てを凍らせる。

 あれ程煩かった魔法の音も、魔物の鳴き声も消え去り、静寂が場を支配する。

 

『残り2割。全回復まで2時間は必要だね』

 

 2時間か。

 普通に考えれば早いのだが、アルカナの魔力パスがしっかりと繋がっていれば10分も掛からないだろう。

 何なら変身を解けば、5分で回復できる。

 

(丁度40回目で休憩予定だし、問題ないだろう)

 

 10個目以降は5回広場を越えるごとに休憩を取っている。

 25個目の広場辺りまでは結構言い争いなどがあったが、今はそんな余裕もなく、ランカーの本気を目の前で見せられたせいか、休憩中は静かなものだ。

 

 その代わり、俺が戦っている時は煩い。

 

(今回桃童子さんたちが戦っていたのは、どんな魔物だったんだ?)

 

『通称はベルフェゴアス。2体で出現する魔物で、魔法特化と近接特化に分かれているよ。片方を倒すと、もう片方が強化されるから、かなり手強いね』

 

 面倒な敵だな。

 2体とも一緒に倒すなんてそうそう出来ないから、実質3体分の魔物と戦わなければならない。

 

 時間が掛かるし、今は戦いたくない相手だ。

 

「お疲れ様です。大丈夫ですか?」

 

 戦いを終えたアロンガンテさんと桃童子さんは、怪我こそ少ないが、顔色があまり良くない。

 魔力も既にギリギリなのだろう。

 

「大丈夫と答えたいですが、結構ギリギリですね」

「睡眠が取れても、飯を食えないのが辛いのう」

 

 休めても、飯が食えなければ力は出ないし、魔力の回復も遅くなる。

 

 精神的にもストレスになるだろうし、判断を鈍らせる要因となる。

 

「此処で40回目ですが、後何回広場を越えれば良いと思いますか?」

「敵の強さを考えれば50じゃな。もしもそれ以上あれば、詰みじゃ」

「そうですね……」

 

(どう思う?)

 

『私も桃童子と一緒だね。この感じだと50個目の広場で最後だと思う。けど……』

 

(そもそも今の状態でそこにいけるか……だな)

 

『うん』

 

 残り10回。されど10回。

 

 既に2人掛かりで戦って、ギリギリなのだ。

 

「また3時間で?」

「はい。時間的にも余裕がありませんし、長く休んだところで回復するわけでもないですからね」

 

 約2日経ったわけだが、これだけ動けば想像以上に腹が減る。

 

 そして、腹が減っている状態で寝るのは結構辛い。

 

「今回は私が3時間見張りをするので、アロンガンテさんたちは、しっかりと休んで下さい」

「しかし、イニーも魔力が……」

「私は休まなくてもそれなりに回復できるので問題ないです。ここで2人に倒れられては、それこそ詰みですからね」

「あまり負担はかけたくないのじゃが、すまぬのう」

 

 俺はアロンガンテさんや桃童子さんとは違い、戦闘中に動く事がほとんどない。

 精神的な疲れは多少あるが、この程度なら全くないのだ。

 

 後10回ある戦闘で、もし2人が負けてしまったら、その時点で詰みとなる。

 俺1人なら運次第では切り抜けられるかもしれないが、そうすれば、要人たちは全員死ぬことになるだろう。

 

 ミリーが居るせいで下手な事は言えないが、思うだけならただである。

 

「その前に、怪我を治します。治れ(ヒール)

 

 桃童子さんたちの怪我と汚れが無くなり、綺麗な姿となる。

 出来ることなら魔力も回復させたいが、この後休むためのベッドを作るための魔力が必要なので、これ以上魔力の消耗は出来ない。

 

「ありがとうございます」

「助かるのじゃ」

 

 後はベッドを作って休む……だけではなく、要人たちと打ち合わせをしなければならない。

 

「50か……そもそも、そこまで本当に辿り着けるのかね?」

「今からでも魔女に掛け合った方が建設的では? 私は死ぬなんて真っ平ごめんだぞ!」

 

 自分だけは絶対助かるなんて、根拠の無い自信を持つものは既にいない。

 

 なにせ、目の前であれだけの戦いを見せられているのだ。

 中には、一度大怪我をした奴も居る。

 

 死は常に隣に居る。

 

 全員その事が、分かっているのだ。

 

「生きたいのなら、無駄口を叩かず、わらわたちの背に隠れることじゃな」

「だが、それも安全とはいかないのだろう? 既に怪我をした者も居るのだぞ!」

「死ななければどうにかなる。それを身をもって体験出来て良かったではないか」

 

 因みに、大怪我の理由は独断専行である。

 死にたくないと叫びながら通路を走り、罠に掛かって両足をバッサリ切られてしまったのだ。

 

 直ぐに治療したので出血はあまりなかったが、今も顔色は良くない。

 

「今一度言いますが、嫌なら付いて来ないで頂いて構いません。絶対に守れるなんて甘言は、言えませんからね」

 

 出来れば必要ない人間は置いて行きたい。

 あるいは、事故に見せかけて殺してしまいたい。

 

 しかし、アロンガンテさんも桃童子さんも、魔法少女としてそこら辺を弁えているのだ。

 

 殺して良い相手でも、緊急時を利用して殺すなんて、外道な事はしない。

 

 俺はやろうとしたら、アクマに駄目と言われてしまった。

 

「……糞が」

「皆さん疲れて気が立っているのでしょう。先ずは休んで、それからもう一度話し合いをしましょう。イニー、お願いします」

「分かりました」

 

 これまでやってきたように、ベッドと、小さい小屋的なものを作る。

 俺と妖精以外の全員が小屋へと入り、3時間ばかりの休憩となる。

 

「お疲れ様です」

「少しずつ繋がりが強くなり始めましたー」

「繋がり?」

「ミリーが言いたいのは、外が近くなって来てるという事ですね」

 

 それは朗報だが、後いくつ広場を越えた先なのかは、流石にわからないのだろう。

 

「そうですか。なら、あと少し頑張ればなんとかなるかもですね」

「守るべき者が居なければ、3人で広場の魔物と戦えるのに……すみません」

 

 アシュリーが謝る必要はないが、負担になっているのは確かだ。

 

 まあ、3人で戦うとなっても、今の俺では足手纏いとなってしまうので、現状とさして変わりはないだろう。

 

 せめて魔力に煩わされることがなければ良いのだが、魔女は俺の弱点をしっかりと攻めてくる。

 

「居ても居なくても、そんなに変わらないでしょう。私ではS級以上の魔物と戦えませんからね」

「ですが、魔法を唱える時間があれば、倒せるでしょう?」

 

 そう言われればそうなのだが、広いとは言えないこの広場ではそれも難しい。

 流れ弾でも飛んで来ようものなら、あっという間に死んでしまうだろう。

 

 流石の俺も、即死では回復も出来ない。

 

 ついでに、声が出せなくなっても何も出来なくなるので、相手によっては何も出来ないでやられてしまう。

 

「これ位の空間では流れ弾で死ぬ危険がありますから、私は役に立ちません。それに、アルカナを使った場合は時間制限がありますからね」

「なるほど……」

「私個人はまだまだ弱いですからね」

 

 正確には少々違うが、SS級の魔物と闘わなければいけない現状では、俺は弱い方に分類されるだろう。

 

 その代わり、防衛の方を頑張っているがな。

 

「アルカナが居るとは言え、既に総討伐数が歴代ランキングのトップ10に入っていますが?」

「逆に言えば、アルカナが居れば、誰だってその位できますよ」

 

『いや、普通無理だからね?』

 

 アクマの突っ込みが有った気がするが、アルカナの種類によっては可能だろう。

 ほぼ無限に使える魔力に、強化フォームを超えるパワーアップが出来る解放。

 

 俺は出来ないが、強化フォームと解放の合わせ技なら地球さえ壊せるのではないだろうか?

 

「……そうなのでしょうか?」

「嘘の匂いがするけど、ノーコメントですー」

 

 個人的には本当だと思っているが、アクマのせいで断定出来ないのだろう。

 

 しかし、それなりに妖精たちの事を教えてもらったが、実に不思議な生き物である。

 

 妖精には大まかに分けて2種類存在しており、片方は自然的に産まれた存在で、もう片方は人間と同じく出産で産まれる存在だ。

 

 優劣が有る訳ではないが、自然的に産まれた存在の方が、妖精女王との繋がりが強いそうだ。

 

 繋がりによって強くなるわけではないが、妖精女王のわがままを聞かされることがあり、デメリットの面の方が強いそうだ。

 

 わがままと言っても可愛いもので、どこどこのお菓子が食べたいや、新作のスイーツが食べたいとかだ。

 妖精女王は、妖精界の管理を1人で行っているため、とても多忙らしい。

 

 わがままを言われた妖精は、やれやれと呆れながらも、頼まれたものをデリバリーしているらしい。

 

 ついでに戦闘の出来る妖精も数は少ないが、それなりに居る。

 

 魔法少女と同じく魔法が使えるが、身体能力は身体の大きさ通り低い。

 肉体派の妖精は居ないそうだ。

 

 当たり前だが、妖精女王は戦闘が出来る妖精であり、妖精界に居る限り、無類の強さだそうだ。

 

 魔女が妖精界ではちょっかいを掛ける程度にしているのは、妖精女王のおかげなのだろう。

 

 後は妖精固有の魔法があるが、妖精によって使える種類が違うとか、俺たち人間が思っているほど妖精は神秘的な存在ではない等、様々な事を教えてもらった。

 

「嘘ではないんですがね。まあ、確かめたくても、残るアルカナは実質ひとりだけなので、確かめるのは難しいですがね」

「無理だと分かっていますが、そのアルカナが来てくれるとありがたいのですが……」

「外と隔離されているここでは無理でしょうね」

 

 俺の魔力供給がされているので、完全には隔離されてはいないが、アクマが転移出来ないってことは、同じアルカナである女教皇(イブ)にも無理って事だ。

 

「しかし、こうやって会話していると、11歳には思えませんね」

「一応11歳ですよ。年齢の偽装なんて出来ないでしょう?」

「まあ、そうですよね……」

 

 俺の身体は11歳だ。誰がなんと言おうと11歳だ。

 

 少々犯罪臭いが、今の俺の身体は11歳の少女である。

 

 嘘ではない。

 

「そう言えば、あの中の内、何人が黒だったんですか?」

「あまり公にしない方が良い情報ですが、10人が黒ですね」

 

 半分以上と言うか、ほとんど何かしら悪さをしているのか……。

 

「一応、落しどころのある方も居ますが、ほとんどは入れ替わることになるでしょう。此処で死ななければですが」

「死ぬ時はみんな一緒ですー」

  

 3人居る魔法少女の内、誰が欠けても此処から出る事は出来なくなるからな。

 

 ミリーの言う通り、死ぬ時は全員一緒だ。

 

 しかし、この3人ってのが中々嫌らしい所だ。

 

 もしも俺とアロンガンテさんだけだったり、俺と桃童子さんだけだった場合、絶対にこの洞窟の攻略は無理だ。

 3人居るせいで、ここまで来る事が出来てしまっている。

 

「そうならないと良いですね」

「私たちは応援することしかできません。どうか、頑張って下さい」

「頑張ってですー」

 

 魔法少女としての責務。

 そんなものに興味はないが、戦うことはやぶさかではない。

 

 それどころか、俺としては有難い限りだ。

 

 人を守りながら戦うのは少々難しいが、その制約すら楽しんでいる自分が居る。

 

 しかも、死んだとしても心が全く痛まない連中だ。

 枷としては上物である。

 

 一部死なれると困る奴も居るが、その時はその時だ。

 

 後は……まあ……なんだ。

 この2人位はしっかりと守ってやるか。

 

 色々と情報をくれた対価としては、妥当だろう。

 

「ええ。せめてあなた方位は、しっかりと守りますよ」

 

 おそらく、50回目の広場にはこれまでとは比較にならない魔物が配置されているだろう。

 

 その時、俺たちはどの様な選択をするんだろうな?

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