魔法少女がいく~TS魔法少女は運が悪いようです~   作:ココア@レネ

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ランカーたちのコーヒーブレイク

 アクマと情報のすり合わせを終わらせ、現状はギリギリまで休むという話になった。

 

 身体の調子で言えば、これまでで一番酷い。

 

 戦うにしても、先ずは休むしかないのだ。

 

 タラゴンさんが来るまでは寝ることにして、来たら起こせとアクマに言ってから布団に潜り込んだ。

 

『来たよ』

 

(……ああ。もうか)

 

 仮眠程度の時間だとあまり気にならないが、少し長めに寝ると身体が重い。

 

 布団から出る前に扉が開き、懐かしい顔が目に入った。

 

「生きてるかしら?」

「なんとか。報告は聞いてますか?」

 

 タラゴンさんは椅子に腰掛けながら「ええ」と答えた。

 

「よく生き残れたとしか言えないわね。犠牲がひとりだけで済んだのは奇跡よ。まあ、どうせ報告と実際にあったことは別なんでしょう?」

「それは楓さんかアロンガンテさんに聞いてください」

「聞く気はないわ。聞いたところで、結果は変わらないもの」

 

 そりゃそうだが……いや、俺から言えることは何もないか。

 

「それより、帰って来られそうなの?」

「帰るだけなら明日には帰る事が出来ます。流石に、戦うのは数日無理ですがね」

「少し位休みなさい。流石に戦いすぎよ」

 

 討伐数だけで見れば、魔法少女数十人分から数百人分位は倒しているからな。

 

 それにしても、今日のタラゴンさんは妙に優しい感じがするな。

 

 いつもはもっと溌剌とした感じなのだが、今日は覇気がない。

 

 楓さんやジャンヌさん。ブレードさんが異常なだけで、多少でも気落ちするのが普通だろう。

 おそらくタラゴンさんは外では気を引き締めているが、俺の所だから気を抜いているのだろうな。

 

「ところで、その袋は何ですか?」

「ジャンヌからよ。こんなものじゃなくて、お腹が空いてるなら何か作るわよ?」

「栄養を取るならそれが一番良さそうなので、料理は帰ってからお願いします」

「あんたって子は……」

 

 タラゴンさんは額に手を当て、溜め息を吐いた。

 

 言いたいことは分かるが、今は仕方ないのだ。

 

「明日のいつ頃帰って来る気なの?」

「ジャンヌさん次第ですが、昼くらいには帰ろうかと」

 

 そう言えばミカちゃんと出て行ったきり、戻ってきてないようだが、大丈夫だろうか?

 ミカちゃんの事だから、帰る前にあいさつへ来ると思ったが、継承で雰囲気も変わっていたし、何か起きているのだろうか?

 ジャンヌさんも一緒なので問題ないと思うが、若干不安である。

 

 まあ、心配したところで意味もないし、何かあれば緊急の連絡でも来るだろう。

 

「昼ね。なんとか時間を空けられるようにするわ。何か食べたいものでもある?」

 

 食べたいものか。

 

 甘くなければ何でも良いが、せっかくならあれだな。

 

「カレーでお願いします。甘口で」

「ふふ。分かったわ。とりあえず元気そうな姿が見れて良かったわ。また明日ね」

 

 タラゴンさんは、持ってきた袋をテーブルの上に置き、俺の頭を軽く撫でてから部屋を出て行った。

 怒られたり、拳骨を貰わなくて良かった。

 

 もしも拳骨をされたら、そのまま気絶する自信がある。 

 

 だが、これで全ての事後処理が終わった。

 

(緊急の用事があれば、起こしてくれ) 

 

『分かったよ。おやすみ』

 

 後少し。

 

 後少しで…………始まる。

 

 

 

 1

 

 

 イニーの居た仮眠室からタラゴンは、貼り付けていた笑みを消し、ランカーに相応しい真面目な顔になった。

 

(あの様子だと、間違いなく無理をしているわね。それに、公開された報告書は別に良いとして、イニーの事だけは聞いておこうかしら)

 

 事件が事件だったため、既にアロンガンテは楓と打ち合わせをして、報告書を出していた。

 

 それから直ぐに各国に根回しし、ニュースとなっている。

 

 幸いアロンガンテたちと帰ってきた、要人たちは誰も目が覚めておらず、ニュースとなって広がった以上撤回など出来ない。

 

 勿論報告書やニュースは一部を除き真実であり、どのように喚かれても、覆すのは不可能だろう。

 

 タラゴンは端末でジャンヌに連絡を取り、何処に居るかを聞いてから向かった。

 

 因みに、何故拠点に居るアロンガンテを選ばなかったかについてだが、行ったら最後、空いてる時間は手伝いをさせられるからだ。

 

 イニーがこんな状態でなければ行っても構わないが、タラゴンは心の中で、少しだけアロンガンテに謝った。

 

 タラゴンはテレポーターで商業地区に跳び、ジャンヌが居る店に向かう。

 

 そこは沼沼の裏側に位置する店であり、ジャンヌが贔屓にしている喫茶店だ。

 沼沼と同じく、全て個室となっているため、安心して利用ができる。

 

 強いて言えば店員の妖精が、たまに煩いのが難点だ。

 

「やあ。会うのは久し振り……って程でもないか」

 

 個室でゆっくりと珈琲を味わっていたジャンヌは、ノックもせずに入ってきたタラゴンに軽口を叩く。

 

「たかが数日でしょう。それで、話してもらえるのかしら?」

「うちの魔法少女たちは全く……良いさ、話そう」

 

 魔法少女はその性質上、誰もが秘密を持っている。

 

 それは個人の能力もそうだが、今回のような事件があった場合、改竄したりもしている。

 

 そしてそれを知るのは極一部の者だけだ。

 

 ジャンヌはジャンヌで秘密もあるし、それはタラゴンにも言える事だ。

 

 態々秘密を聞かないのは魔法少女、特にランカーの間では暗黙の了解だった。

 

「おっと、話はまだ始まっていないようだね」

「グリント?」

 

 ジャンヌがやれやれと諦めた所で、新たな人物が、訪ねてきた。

 

「久しぶりね。どうしたの?」

「知り合いの妖精から情報を貰ってね。もしかしたらと思って来たら、ビンゴだったのさ」

 

 グリントの知り合いの妖精とは、ミリーの事である。

 ミリーはアシュリーの部下であり、洞窟であった事を話すような事はしない。

 

 だが、ちょこっと端末をハッキングして、情報を流す程度は出来てしまう。

 

 勿論違法行為であり、バレたら相応の刑罰はあるのだが、相手が相手なので問題ないと思い、情報を渡した。

 

「タラゴンもグリントも、法を何だと思ってるんだ……話すが、他言無用で頼むよ」

 

 この中で一番常識があると思っているジャンヌは、これだから日本の魔法少女は非常識だといわれるのだと、内心で愚痴をこぼす。

 

 だが、そのジャンヌも周りからは、非常識な存在だと思われている。

 

 残念な事に、端から見れば日本のランカーは全員、五十歩百歩なのだ。

 

「報告書については既に知っているものだと判断して、書く事が出来なかった事を話すよ。まあ、それはイニー関係と桃童子関係だけどね」 

 

 ジャンヌはアロンガンテから教えてもらった事と、イニーから聞き出した桃童子の事をふたりに話した。 

 

 ふたりは口を挟むことなく、ジャンヌが話し終わるまで、静かに聞いていた。

 

「なるほどね。本人は何も言わないし、聞かなかったけど、そんな秘密があったのね」

 

 天使が倒された当時のタラゴンは、桃童子が何故倒せたのか不思議に思っていたが、聞くことはしなかった。

 色々と不審な点もあったが、藪を突いても良い事は何もないからだ。

 

 強化フォームより更に上の強化。

 デメリットも大きいが、力が手に入るとするならば、安いものだと考える。

 

 詳細も気になるが、それよりも気になることがあった。

 

「つまり、イニーは桃童子に勝ったのか?」

 

 グリントはなるべく動揺を気取られないように聞いた。

 

「ああ。どう戦ったかは濁されてしまったが、証拠はあるから、間違いなくね」

「その桃童子だが、強さで言えばどれ位なんだ?」

「レンには勝てるだろうね。本気の楓とも、それなりに戦えると思うよ」

 

 魔法少女界の二強。

 それと同程度の強さがあるだろうと、ジャンヌは思っている。

 

 実際に試すことは出来ないが、レンは能力の特性上、桃童子に勝つことは出来ない。

 楓には同じ事をされれば勝てないが、安全志向の楓は博打を打つような事をしない為、戦いは成立するだろう。

 

 結果は、楓が勝つとしてもだ。

 

 その答えを聞いて、タラゴンは嫌な顔をしてしまった。

 

「つまり、最低でもイニーの奥の手はそれ程って事なのね?」

 

 実質的に、イニーは世界で2番目に強いと言うことになる。

 勿論相性などの問題はあるだろうが、そう言っても過言ではない。

 

「タラゴンはさっき見て来たと思うが、その結果があれだよ」

「あんたから見た体調はどうなの?」

「見た目と数値が一致してないね。何らかの手で、誤魔化しているんだと思う」

 

 イニーがやっていた誤魔化しは、当たり前のようにバレていた。

 

 いくら付け焼刃で回復魔法を使おうとも、瀕死の状態まで陥った身体は中々治らない。

  

 ジャンヌの診察で出た数値は健康体よりそこそこ悪い程度だったが、浅い呼吸に、僅かばかり動く心臓。

 

 脈も弱く、何かがおかしいとジャンヌはすぐに察した。

 

 問い詰めようとも思ったが、一旦好きにさせる事にした。

 

 その後妖精バーを食べていた事には驚いたが、栄養面だけで見れば最適解であった。

 

「そう。だからってあれを食べるのはどうかと思うけどね……」

「あれとは?」

「昔、軍や魔法少女用に開発された栄養バーだよ。イニーはあれを食べて早く身体を治そうと頑張っているんだ」

「…………ああ」 

 

 グリントは、あのとても人が食べるものではない。妖精バーの事を思い出した。

 

 ここに居る三人も妖精印の栄養バーこと、妖精バーを食べたことがあるが、お世辞にも美味しいとは言えるものではなかった。

 

「とりあえずイニーについては、明日叱っておくわ。本人は帰る気満々みたいだから」

「あのタラゴンがねぇ」

「なによ?」

 

 グリントはタラゴンに睨まれ、軽く笑う。

 魔法の特性上単独行動が多いグリントだが、他のランカーとも上手くやれていた。

 

 他国ではランカー内で順位を争っているため、集まるのはお茶会の時くらいだ。

 日本の様に連携したり、たまに一緒に食事をしたりしているのは稀である。

 

「いいや、何でもないさ。それより施設とイニーの関係は、つまりそう言う事なのかい?」

「そう言えばグリントには教えてなかったわね……どうする?」

「構わないんじゃないかな? どうせ既に噂は流れているしね」

 

 イニーが普通の魔法少女ではないのは一目瞭然なため、とある噂が流れていた。

 それは、非合法の研究によって作られた存在というものだ。

 

 特に能力の構成は、その事を物語っていた。

 

 回復魔法が使える魔法少女は、それ以外の能力が低くなる傾向にある。

 だがイニーの場合は、身体能力以外は全て高水準となっている。

 

 その身体能力も、アルカナや第二形態の時は問題なくなる。

 

 タラゴンはイニーが話した、施設での生活や、魔法少女になった経緯をグリントに話した。

 

 それらは嘘なのだが、洞窟で死んだ実験の考案者や、イニーの生き方からして本当だと思われている。

 

 イニーから話を聞いたものは、全員信じてしまっているのだ。

 

「なるほど。私も施設の破壊には行ったことはあるが、やるせない話だね。だが、あれだけの能力があるのなら、納得のいく話だ」

「強化フォームにはまだなれないが、魔法を唱える時間があればSS級を倒すことが出来るらしいからね。まあ、例のあれを使えば、ほとんどのSS級は瞬殺出来そうだがね」

「オーストラリアが良い例でしょう。オーストラリアを滅ぼして良いなら同じことは出来るだろうけど、あれだけの被害に抑えるのは誰にもできないでしょう」

 

 被害を度外視すれば、オーストラリアに現れた魔物を倒せる魔法少女は居るが、イニーみたいに被害を抑えながら殲滅するのは不可能だ。

 

「洞窟関連はこれ位かな。それとランキングについてだが、イニーはこのまま不明のままだよ。アロンガンテが約束しているので、無理矢理も駄目だからね」

「分かってるわよ。補充はどうするの?」

「まだ楓には話していないが、私から候補をふたり出そうと思う。もうそろそろ新しい風を入れた方が良いだろうしね」

 

 ジャンヌは一口珈琲を飲んでから、胡散臭そうに笑う。

 ランカーは強さで決まるが、現ランカーと魔法局の人選で決定されている。

 

 ナイトメアやジャンヌが良い例であり、強さが全てと言う訳でもない。

 

「ほう。誰を推薦するんだい?」

「マリンとタケミカヅチという魔法少女だよ。マリンの方は知っているだろう?」

「元北関東支部の魔法少女でしょ? 会った事があるわ。もうひとりはどんな魔法少女なの?」

 

 新米ながらも強化フォームになれるマリンは、日本では結構知名度がある。

 S級を単独で討伐する事ができ、オーストラリアではナイトメアと協力して、大型のSS級を倒して見せた。

 

 だが、ミカの方は全くの無名であり、タラゴンたちはピンと来なかった。

 なにせ、桃童子はミカの事について、何も話していなかったからだ。

 

「桃童子の意思を受け継いだものだよ」

 

 少し誇張したジャンヌの言葉に、タラゴンとグリントは口角を上げた。

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