魔法少女がいく~TS魔法少女は運が悪いようです~   作:ココア@レネ

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魔法少女マリンの渇望

「なるほどね。あくまでもハルナはただの少女だけど、あなたたちによって捻じ曲げられたのね」

「捻じ曲げたとは心外だけど、わたしたちが居なければ、とっくにハルナは死んでたよ?」

 

 正確にはアクマのせいで今の事態を招いているのだが、そこは誤魔化すのだった。

 

「生きていれば良いって訳じゃないでしょうに……それで、私にどうしてほしいわけ?」

「今タラゴンが進めている事だけど、もう少し早く進められない?」

「……猶予は?」

「魔女の気まぐれだから予測でしか言えないけど、2週間かな」

 

 各国で討伐に精を出しているタラゴンだが、アロンガンテとは別のアプローチで暗躍していた。

 

 各国で影響力のある魔法少女と連絡を取り、破滅主義派が問題を起こした時に連携を取れるように動いていたのだ。

 一部はアロンガンテにも報告を上げていたが、一部は上げないでいた。

 

 アロンガンテを信用していないわけではないが、別口で動ける人員を念のため用意しているのだ。

 

「それだけあれば根回しも出来るだろうけど、どう動くと思っているの?」

「世界に同時に仕掛けると思うよ。大量の魔物に、残りの幹部。魔女はどこかでハルナを待ち構えると思う」

 

 魔女に負け続けているとはいえ、行動や考えを分析して備えることは出来る。

 これまでほとんど当たってはいないが、この世界の魔女の情報はそれなりに蓄積され、3月中に魔女が行動を起こす可能性が高いとアクマは思っている。

 

 この予想は当たっているが、まさか魔女がサンドイッチを食べていたから3月13日を選んだとは、流石のアクマにも分からない。

 

「私の仕事は幹部と魔物の処理って事ね」

「そうだよ。残りの幹部で戦闘要員は3人。その3人をレン。ブレード。タラゴンを筆頭に手分けして倒すのが理想かな」

 

 アクマが言った中には桃童子も入る予定だったが、既に亡き者となってしまった。

 レンとブレードは単独で戦える強さがあるが、流石に薬を使われれば分が悪くなる。

 

 3対1で勝てたイニーがおかしいだけで、歴代のアルカナの契約者の中でも1対1で勝てれば良い方だった。

 

 それは相性が悪いのもあるが、相手が普通に強いせいでもあった。

 

「私とブレードは大丈夫だけど、レンは大丈夫なの?」

「そこはアロンガンテとタラゴンの頑張り次第かな。レンにはリリーナイトとストラーフのふたりを付ければ大丈夫だと思っているよ」

「たしかにそのふたりなら一緒に戦えそうね」

 

 ブレードとは違った意味で近接特化の魔法少女がリリーナイト。

 見た目と違って魔法特化の魔法少女がストラーフ。

 アメリカとロシアの1位であり、楓には劣るものの最強と言って良い魔法少女だ。

 

 作戦である以上アクマの考えが上手く行くとは限らないが、最上を考えるのは悪い事ではない。

 

「問題があるとすれば、テレポーターが使えなくなる可能性を考えておく必要があるね。魔女の目的は世界を滅ぼすことだけど、絶望もさせたいはずだからね」

「テレポーターが使えなくなるね……。もしもオーストラリアの時みたいに結界を張られれば、後手に回るしかなくなるわ」

 

 イニーの場合は特殊だが、転移出来る魔法少女は回復魔法が使える魔法少女より少ない。

 

 火や水と言った魔法よりも世界に対する負荷が大きいため、必要な魔力がとても多く、リソース的に戦いには向かないからだ。

 

 国から国の移動など、1日に一度出来ればマシなくらいだ。

 

 世の中には空間を切り裂いて移動するブレードや、影の中ならそれなりに自由に動けるゼアーやナイトメアなどもいるが、これらは例外だ。

 

 ブレードに関しては誰がどう見てもよく分からない。

 

「魔女が打つと思われる手は、国ごとに結界で覆うか、星ごと結界で覆うかのどちらかだと思う」

「前者と後者でどう違うの?」

「前者は国以外に転移やテレポートが出来なくなり、後者は妖精界との移動が出来なくなるね。それは前者にも言えることだけど、星を覆う規模となると、解除は不可能だろうね。おまけに、オーストラリアの時みたいに結界内の転移もさせてくれないだろうね」

 

 魔女の使っている結界は他の世界の技術と、様々な魔法を融合させて使われているため、その強度やセキュリティーはこの世界の技術レベルをはるかに超えている。

 

 結界を超えることができるのはゼアー位だろう。

 そして結界を力技で壊す場合、周りにも相応の被害が出てしまう。

 

 オーストラリアの時に楓がやろうとしたのは、結界の周りに自分の魔法では壊れない結界を展開し、空間を捻じ曲げてオーストラリア大陸ごと魔物を消し去るという荒業だ。

 

 そんな事をすれば人や魔法少女も死んでしまうが、魔物が外部に出るよりはマシだと判断していた。

 

 ならば結界だけを壊せないのかとなるが、その場合地球に多大なるダメージを与えることになり、火山の噴火や地震で他国が滅ぶ恐れがある。

 

 空間だけを綺麗さっぱり吹き飛ばすのが、一番被害が少なかったのだ。

 

「最初から決め打ちで待ち構えていた方が良さそうね。候補はどこかしら?」

「中国。アメリカ。ロシア。ミグーリア。日本。カナダ。このどこかだと思う」

「……もっと絞れないの?」

「相手はサイコロを振って攻める場所を変えるような人間だよ?」

 

 それなら仕方ないかと、タラゴンは苦い顔をした。

 この世界ではそこまで酷い選び方はしてないが、他の世界では実際にあったことだ。

 

「ならその中からの選択は、アロンガンテと話し合って決めるわ。他に話すことはある?」

「無いかな。……ああ、最後にだけど、出来れば死なないでね。ハルナはあんなんだけど、寂しがるからさ」

 

 イニーの全てを理解しているわけではないが、親しくしていた人が死ねば、誰だって落ち込んだり傷ついたりする。

 

 家の提供や戸籍の面倒を見てもらっているので、イニーはタラゴンに対して一応恩を感じている。

 もしもタラゴンが死にそうになれば、何が何でも助けようと頑張るだろう。

 

 だが、もしもタラゴンが死んだとしても、多少落ち込む程度で、涙を涙を流すことは無い。

 

 それはエルメスによって感情を抑制され、弄られた結果だ。

 人並に喜んだり悲しんだりするが、激高することはないのだ。

 

「そう……。こっちもやれるだけの事はするけど、そっちも無茶するんじゃないわよ」

「それは本人に言ってくれないかな? 私がいくら言っても聞いてくれないんだ」

 

 それもそうねとタラゴンは思い、ぬるくなってきた牛乳を一気に飲んだ。

 

「それじゃあ、後は宜しくね」

「そっちも依頼頑張ってね。応援くらいはしてあげるよ」

 

 夜の10時。本来なら寝るような時間だが、タラゴンは依頼で出かけなければならない。

 

 魔法少女には朝も夜も関係ないのだ。

 

 

 

 

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「そんな難しい顔してると、皺が消えなくなっちゃうよ?」

「……そうね」

 

 ミカとの模擬戦を終え、魔物の討伐に出たマリンだが、何かを考えこんでいるのか、眉間に皺が寄っていた。

 

 同世代の魔法少女に実質的に負けた。

 

 それがよりにもよってミカだった。

 

 負けて悔しいと言うよりは、釈然としなくて色々と考えてしまっていた。

 

 魔法少女が何かを切っ掛けに急激に強くなることは、稀にだがあったりする。

 それはマリンにも当てはまるのだが、マリンの感覚からすると、ミカは不自然であった。

 

「……変わってないよ?」

「気にしないで。それより、先に討伐を済ませちゃいましょう」

 

 スターネイルのツッコミを無視して、マリンは腰から刀を抜いた。

 

 そんなマリンの反応にスターネイルは苦笑いをする。

 

 ふたりが戦闘態勢に入ると結界が展開されて、外部と遮断される。

 

 イニー捜索隊のふたりだったが、イニーが見つかってからはアロンガンテの指示の下、魔物を討伐していた。

 

 少し強い程度だったマリンは日本でも有数の魔法少女となり、落ちこぼれだったスターネイルもマリン程ではないが、急激に強くなっている。

 

 それもこれも全てイニーのせいなのだが、本人は何も知らない。

 

 今回の討伐対象となっている魔物はS級のソードソーサラーと呼ばれる魔物だ。

 黒いローブ姿で、フードの奥には不気味な光が見える非実体型の魔物である。

 

 ソーサラー系統の魔物は複数いるが、今回は珍しい系統だ。

 

 複数の剣を宙に浮かべ、様々な属性を付与して飛ばしてくる。

 四方八方から剣が飛ばされるのでかなり戦い辛く、ソードソーサラー自身も剣を構えて攻撃してくるので、S級でも強い部類だ。

 

 普通の魔法少女が戦う場合は、最低三人編成を推奨されるが、今回はマリンだけでも事足りる。

 

 なにせ、オーストラリアでの経験により、マリンの魔力は一段と伸び、刀の切れ味が上がったのだから……。

 

「居たわね。悠長に空中を漂ってるなんて……スターネイル」

「いつものタイミングで良いよね?」

 

 マリンは頷いた後、ソードソーサラーの真下まで走り抜け、スターネイルはソードソーサラーに双銃の照準を合わせる。

 

「グラビティバレット」

 

 銃から放たれた弾はソードソーサラーが浮かべている剣に次々と当たり、地面へと縫い付ける。

 

 スターネイルに気付いたソードソーサラーは今浮かべている剣を全て消し、態勢を整えようとするが、真下からマリンが跳んできた。

 

「昇桜剣」

 

 刀から魔力の花弁を吹き出しながら、ソードソーサラーを斬り上げる。

 

 ギリギリ剣を召喚してマリンの刀を防いだソードソーサラーだが、刀から吹き出る花弁が宙に広がり、ソードソーサラーへと襲い掛かる。

 

 マリンを吹き飛ばし、剣に炎を付与して花弁を燃やそうとするが、上空からスターネイルの放った銃弾の雨が降り注ぐ。

 

 吹き飛ばされたマリンは空中で一回転し、着地しながら強化フォームへと変身する。

 

 後は身動きが取れないソードソーサラーに大技を撃てば終わり……なのだが。

 

 何を思ったか、マリンは強化フォームを解いて再びソードソーサラーへと跳んで行った。

 

(あらら。やっぱり悔しかったのかな?)

 

 スターネイルはひとりで突っ込んでいくマリンを見て、構えていた銃を下げた。

 直ぐに援護できるよう気を張っているが、マリンなら強化フォームにならなくても勝てるだろうと思っている。

 

 半年前の時点でB級を倒す事が出来ていたし、強化フォームへなれるようになった事により、魔力量も増えている。

 先手が取れている以上、そうそう負ける事は無いだろう。

 

 マリンはソードソーサラーを地上へ叩き落し、追撃を仕掛ける。

 

 ソードソーサラーが操る剣を舞うようにして避け、少しずつ斬り付けていく。

 大技を使わず、刀に込める魔力を微調整しながら戦っていた。

 

 次第にソードソーサラーが操る剣の数は増え、様々な属性が入り乱れるがマリンはその全てを捌き切ろうと奮闘していた。

 

 その様子を5分程眺めていたスターネイルだが、もうそろそろ潮時と思い銃を構える。

 

「モード:スナイプ」

 

 ふたつの銃が変形し、長いスナイパーライフルとなる。

 いつの間にか習得していた、スターネイルの新しい魔法。

 

 スターネイルの双銃は手数や機動力は秀でているものの、射程と威力は少々微妙だった。

 

 それを改善したのが、モードと呼ばれる魔法だ。

 今の所はクラリッサの下位互換だが、それでもS級に対してダメージソースとなり得る火力がある。

 

 マリンによって弱っているソードソーサラーなら、倒す事も出来るだろう。

 

 ただ、使う機会があまりないので、本番で使うのは今回が初めてとなる。

 

「変形完了。接続……異常無し。充電開始。照準セット。……10……9……3……2……1……ファイア!」

 

 スターネイルの構えたスナイパーライフルから大きなバックファイアが噴き出し、一条の赤い線を描きながらソードソーサラーの頭部に弾丸が吸い込まれていく。

 

 ソードソーサラーもマリンと戦いながら剣を何本も重ねて防ごうとするが、全てを貫いて頭部を突き抜けて行った。

 

 浮いていた剣は全て動きを止め、僅かの間の後に塵へと変わっていった。

 

「ネイル!」

 

 折角戦いに集中し、何かを掴めそうだったマリンは突然の幕引きに苛立ち、怒声を上げた。

 

「時間切れだよ。次もあるんだから、落ち着いて」

 

 悪いのが自分だと分かっているマリンは、大きく深呼吸してから刀を鞘に納めた。

 

 怪我らしい怪我はないが、戦っていた周囲はソードソーサラーの剣により、焦げていたり泥濘んでいた。

 

 その為、マリンの服は破れてはいないものの、そこそこ汚れている。

 

「……すみません。少し気が立っていたみたい」

「強くなりたいって気持ちは分かるけど、やることはちゃんとやらないと」

 

 普段はマリンがリーダーシップを発揮しているが、年の功もありスターネイルがストッパーの役割を果たしている。

 

「……そうね」

「どうせこのままだとあの子に抜かされるとか考えてるんでしょ?」

 

 マリンは苦い顔をしながら目を逸らした。

 

 もしもミカがあのまま戦えていたら……。

 その考えが、どうしても脳裏から離れないでいた。

 

 そんな様子のマリンを見て、スターネイルは悩んでいた。

 出来ることなら助けになってやりたいが、スターネイルに出来ることはあまりない。

 

 簡単に強くなれるなら、今頃世界はもっと平和なのだから。

 

 そんな時、スターネイルはニュースの事を思い出した。

 

「ねぇマリンちゃん」

「なに?」

「明日、イニーちゃんに会いに行ってみない?」

 

 その頃イニーは、珍しくくしゃみをしたそうだ。

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