魔法少女がいく~TS魔法少女は運が悪いようです~ 作:ココア@レネ
朝。食うもの食ってしっかりと寝たため、とても気分が良い。
『おはよう。機嫌が良さそうだね』
(珍しく健康状態での起床だからな)
風呂へ入る前に軽く運動して、あの栄養バーでも食べるかな。
その後は少し休んで慣らしに討伐へ行くのも良いだろう。
休日って訳ではないが、少しくらいゆっくりしても罰は当たらないだろう。
そもそも、フリーなので休日って概念が無いがな。
『うーん。気分が良さそうなら、ちょっと珍しいメールが来てるから見てみなよ』
(メール?)
端末を取り出し、受信フォルダを見ると、多摩恵からメールが来ていた。
確かに珍しいな。内容は……ふむ。相談があるからマリンと一緒に会いたい……か。
(何か情報は掴んでるか?)
『うーん。もしかしたらランカーの件じゃない?』
そう言えばそんな事を聞いていたな。ミカちゃんとマリンが候補に挙がっていると。
マリンは実力的にはギリギリランカーと名乗れるだろうが、ミカちゃんの方は分からない。
桃童子さんの能力を受け継いでどれ位強くなったか分からないが、判断したのはあのジャンヌさんだ。
最低限のラインには達しているのだろう。
正直、受け継いだだけでそれほど強くなれるとは思えないが、俺とは関係ないので、それほど気にしなくても良いだろう。
だが、多摩恵……じゃなくて、スターネイルはいいが、マリンか……。
何がどうして俺のことを好きになったのか分からないが、あの感情はやはり重い。
恋だなんだなんて今まで体験したことがないので、どう対応すれば良いのか分からない。
――まあ、アクマもエルメスも似たようなモノだが、人とは違うのでノーカウントだ。
しかし……ふむ。
珍しく気分も良いし、魔女が動き出すまでは自分を鍛える以外に出来ることがない。
後でアロンガンテさんの手伝いをしようとは思うが…………会ってやるか。
(たまには会ってやるか)
『了解。場所はどうする?』
(どうせタラゴンさんも居ないだろうし、此処で良いだろう。移動は俺が転移すれば良いからな)
タラゴンさんの家にはテレポーターで来られるが、此処から帰る場合は一度市街地まで出なければならない。
そんな面倒な事をさせる程俺も鬼ではない。
『タラゴンなら昨日の夜から居ないね。とりあえずメールを送っておくよ』
(頼んだ)
さて、どう返信が来るか分からないが、日課だけは済ませてしまおう。
身体をほぐしてから筋トレをする。
ほとんど意味がないとしても、多少は効果がある。
それに、俺が俺である事を忘れないためにも必要な行為でもある。
この世界にいる間はまだ良いが、俺が俺であるという証明は魂しかない。
……いや、フユネが居たな。
なんにせよ、俺が俺の事を忘れないようにしておいた方が良い。
アクマの煩い応援の中筋トレを終えて、アクマと一緒にお風呂でのんびりとする。
「連絡が来たよ。後30分くらいしたら来るって」
「そうですか。ならそれまでゆっくりとしてましょう」
ふたり揃って温泉で漂い、しっかりと堪能する。
残り10分位になったら出れば良いか。
1
「うっそ」
メールの送信相手はイニーだった。
マリンに提案した手前一応メールを送ったが、返信を貰えるとは思わなかった。
しかも内容は承諾。会っても良いと書いてあったのだ。
何度か内容を読み返すが、内容は最初に読んだ通りだ。
『もしもし? 朝からどうしたの?』
「イニーちゃんから返信があったよ」
『……えっ?』
スターネイルは直ぐにマリンに電話を掛け、メールの内容を話した。
(ふーん。私のには返さないで、ネイルには返すんだ)
会えることには喜ぶマリンだが、自分が送るメールには中々返さないのに、スターネイルには直ぐに返したことに少し黒くなっていた。
だが、まさかの家にお呼ばれされたので、その事に浮き足たってもいた。
『家って水上なのね。場所的にそっちに寄ってから走った方が早いかしら?』
「テレポーターの方が良いんじゃないかな? 水上でも結構奥の方だし」
『……そうね。今から準備してからそっちに行くから、一時間後位に向かう感じで良い?』
「一時間後ね。そう送っておくよ」
因みにアクマはお風呂でイニーを洗っていたため、メールに気付くのに遅れていた。
そんなことを知らないイニーは、アクマの言葉を疑わずに信じたのであった。
電話を切ったスターネイルは直ぐに布団から起き上がり、身嗜みを整え始めた。
何を思ってイニーが自宅を待ち合わせ場所に選んだのか分からないが、折角なので化粧をしっかりとしてから行こうと思った。
どうせ戦いになるとは思うが、イニーが少しでも自分を意識してくれれば良いなーと、ちょっと下心もあったりする。
るんるん気分で準備をしている間に時間となり、玄関のチャイムが鳴った。
「はーい」
元気よく返事をして玄関を開け、マリンに挨拶をする。
パッと見はいつもと同じだが、お菓子の箱が入った袋を持っていた。
自分も何か用意した方が良いかもしれないと思うも、ひとり暮らしであるスターネイルの家に気の利いた物はない。
かと言って途中で何か買っていくのは時間の無駄となってしまう。
「おはようございます。それじゃあ行きましょうか」
「うん」
家を出たふたりは近場のテレポーターのある施設へと行き、イニーに教えてもらった座標へと跳ぶ。
そこはまだ雪が積もっている山奥で、その中に大きな家が一軒鎮座していた。
奥の方からは湯気が上がっていて、僅かに匂いが漂っていた。
「大きい家だね」
「……この匂いってもしかして温泉?」
流石ランカーの家だなーと呑気に思うスターネイルと、温泉。着替え。脱がれた服と、邪な事を考えてしまうマリン。
だが流石のマリンも、今回はそんな考えを振り払う。
スターネイルとイニーが自分のためにと、折角機会をくれたのだから。
意を決して呼び鈴を押そうとすると、先に玄関が開いた。
中から現れたのは、少しブカブカなジャージを着たイニーだった。
風呂上がりなのか、微かに湯気が出ており、女性特有の甘い香りがマリンの鼻をつく。
「中にどうぞ」
マリンは理性が吹き飛ぶ前に、イニーの声で我に返る。
スターネイルと一緒に家の中に入り、リビングのソファーに座る。
家の中は豪華と呼べるような家具はなく、落ち着く色に統一されていた。
「あっ、これ良ければどうぞ」
「ありがとうございます。飲み物を持ってくるので、待っていてください」
マリンは持ってきたお菓子をイニーに渡し、イニーは飲み物を取りにキッチンへと向かった。
「なんだか普通の家だね」
「そうね。昔テレビで見た海外のランカーなんて豪邸だったのに、それに比べると普通ね」
大きな家ではあるが、それだけなのだ。
リビングにあるテレビも家電量販店で見掛ける程度の大きさで、ソファーも高いものではあるが、一般に出回っているものだ。
ランカーの家であるのでおっかなびっくりしていたが、今は落ち着いている。
「どうぞ」
イニーがキッチンから戻り、お菓子と温かい飲み物を持ってきた。
ココアがふたつと珈琲がひとつ。
流石のイニーも少女に珈琲を渡す程ひねくれてはいない。
「それで、相談とはなんですか?」
スターネイルはマリンを見て、自分で話すように促す。
「もっと強くなるには、どうすれば良いの?」
2
案の定の質問だが、俺からしたらこれ以上強くなってどうするの? って感じである。
そもそもだが、簡単に強くなれるなら俺だって強くなりたい。
魔法少女になった頃と比べれば確かに強くなっているが、成長具合で言えばミカちゃんやマリンより下だろう。
一度魔法少女となれば、能力が変わることはない。
そのため、能力次第では魔法少女としての未来は閉ざされる……なんてことはない。
回復魔法なんて例外はあるが、あれは神が定めたストッパーみたいなものだろう。
基本的に魔法少女は魔物と戦う手前、攻撃的な能力を最低限持っている。
それだけなら差が生まれてしまうのだが、魔法少女には強化フォームなんてものがある。
最初は差が有っても、強化フォームになる事さえできれば、どんな能力も使いようでは化けるだろう。
そして、既にマリンは強化フォームになれるので、これによる強化は出来ない。
後は戦いまくって経験を積むか、より一層強い覚悟……想いを手に入れるしかないと思う。
他だと、死の一歩手前まで追い詰めるのが良いだろう。
俺の場合はこればっかりだが、おかげさまで魔力量だけはかなりの量である。
「……死にかけるまで戦うか、死ぬほど戦うか。どちらが良いですか?」
俺の出せる選択肢はこれ位だろう。
ふたり揃って息を吞むが、強くなるには戦うしかないのだ。
別に脳筋って訳ではない。
「それってどう違うの?」
「魔物と戦うか、私と戦うかですね」
マリンは悩んでいるのか、視線が下がる。
魔物と戦うといっても、シミュレーション上での事だ。
設定は現実と全く一緒にして、マリンがギリギリ戦える相手を選択する。
死に掛けても俺が回復させれば、とても良い訓練となるだろう。
俺と戦う場合だが、第二形態を使ってみようと思っている。
世間にはあまり晒さない方が良いが、どこかで慣らしておかなければ、いざという時にミスを起こす可能性がある。
それに、魔女にはバレてしまっているので、今更だろう。
「……イニーと戦うって、シミュレーションで?」
「はい。前戦ったような遊びではなく、生死を賭けた死闘となりますが」
「それで本当に強くなれるの?」
(ミカちゃんとマリンの戦いって見たか?)
『メールが来た時に一応ね』
(頭に流してくれ)
『了解』
……なるほどね。これはミカちゃんが上手く立ち回ったな。
それに、自分から当てる様な攻撃をせず、カウンターに徹している。
桃童子さんの能力と、ミカちゃんの能力。厄介な能力と思っていたが、これ程相性がいいとはな。
本気の桃童子さんと戦ったから分かるが、ミカちゃんはまだ桃童子さんの能力を使いこなせてはいなさそうだ。
だが、自分の雷で無理矢理反射速度をあげて対応している。
シミュレーション上だから出来る荒業だな。
最後に自分から負けを認めているのも、マリンの気を逸らすためだろう。
もしもタネが割れれば、次戦う時に不利になるのはミカちゃんだろうからな。
それに、籠手のせいで分かり難いが、両腕から血が滴っていた。
よくもまあ我慢したものだ。
「最低でもミカちゃんには、勝てるようになるでしょう。どちらを選んだとしてもね」
「……知っていたの?」
「ジャンヌさんから軽く話は聞いていたので、なんとなくですが」
嘘です。全てアクマに聞きました。
「向こうは先輩の魔法少女や、ランカーであった桃童子さんに師事していたので、学園に居た頃より強くなっていて当たり前でしょう。一度桃童子さんとの訓練を見ましたが、酷いものでした」
誰かに師事することなく、ここまで強くなれたのはマリンの才能だろう。
たしかブレードさんに稽古をつけてもらってもいたが、一回だけなんて誤差だ。
「私としてはどちらでも良いですが、どうしますか?」
ゆっくりと珈琲を飲み、間を置く。
「――どちらの方が効率は良いの?」
「強くなるだけなら、私と戦う方が早いでしょうね。ただ、精神の方の保証は出来ませんけどね」
「イニーと戦うわ。それが一番早いんでしょう?」
予想通りだな。
「多摩……スターネイルはどうしますか? ふたり一緒でも構いませんけど?」
今の俺がどれだけ戦えるかは分らんが、ふたり程度なら問題ないだろう。
強いて言えばフユネが張り切りすぎないか心配だが、シミュレーションなら死にはしないだろう。
「その戦いってどれ位辛いの?」
「最低でもブルーコレットの時より、肉体的にも精神的にも追い込もうかと思います」
少し嫌な顔をしたが、スターネイルには俺の言いたい事が分かるはずだ。
あの後家で話したことを、覚えていればの話だがな。
スターネイルも強くなりたい。たとえ負けると、死ぬと分かっていても一矢報いたいといっていた程だ。
「……分かった。私もやる」
覚悟の決まった顔。そう答えると思ったよ。
最悪、ふたりの心が折れたとしても、ミカちゃんがいるので代えが利く。
俺程度との戦いで諦めるなら、ランカーは辞退しておいた方が身のためだ。
「決まりですね。飲み終わったら拠点に行くとしましょう」
「その前に、1つお願いがあるんだけど?」
お願い?
「なんでしょうか?」
「部屋を見せてくれない?」
…………さっさと珈琲を飲んで転移するか。