魔法少女がいく~TS魔法少女は運が悪いようです~   作:ココア@レネ

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魔法少女と流星

 シミュレーター。

 

 一番小さい物ではヘッドギア型があり、最も大きな物は人が入るポッド型まである。

 

 このポッド型も専用のサーバーを繋ぐかどうかで大きさが変わるが、基本的に大きい方が性能は良い。

 

 ついでに拠点と呼ばれる施設にある奴は、アルブヘイムの次に性能が良いらしい。

 

 アルブヘイムのはランカーのデータと戦うことが出来る特別製なので、それより劣るのは仕方ないことだろう。

 

「設定はデスマッチのリスポーン有り。痛覚は現実より割増し。終わりは私が許可を出すか、ふたりが諦めるまで。それで良いですね?」

 

 受付の妖精に怪訝そうな顔をされたが、ふたりを盾にしてシミュレーション室まで来て、設定を終えた。

 

「ええ」

「うん」

 

 ここまで来てやっぱ無しとはならないか。

 

「それでは始めましょう」

 

 ポッドに入り、シミュレーターを開始する。

 

 試合ではないので、始まりのブザーなどは設定していない。

 

 ふたりも現れたので、始めるとするか。

 

「ひとつ言い忘れていたことがあります」

「えっ?」

 

 不思議そうな顔をするふたりを尻目に、第二形態になる。

 

 二振りの剣と、黒いドレス。

 

 フユネの笑い声が頭に響き、黒い感情が湧き上がってくる。

 

 俺の変化にふたりは警戒心を抱き、武器を構えるが、最初に言った通り終わりは決めているが、始まりは決めていない。

 この一瞬だけが、ふたりが俺に勝てる唯一の瞬間だ。

 

「その姿は……」

「イニーちゃんがあの……」

 

『やりすぎないようにね。それと、あまりその姿に慣れちゃ駄目だよ』

 

(了解)

 

 剣を引き抜き、一息でふたりと距離を詰め、スターネイルを両断する。

 

 これで一回目。

 

「もう、始まっていますわよ」

 

 マリンの目が一瞬揺れ、動揺している間に殺した。

 

 

 

 

1

 

 

 

 

 

 憎悪にフユネと名前を付け、完全に卸したイニーの強さは、対魔法少女に限っては最強と言っても過言ではない。

 

 身体の限界を無視して戦うので、戦闘時間は長くないものの、シミュレーション内では関係無い。

 

 マリンとスターネイルの死から始まった戦いは、あまりにも一方的だった。

 

 防御すればその上から殺され、避ければ死角から剣が飛んでくる。

 

 ならばと攻撃を仕掛けるも、後の先を取られて殺される。

 

 これまでの努力を、全て否定するような暴力がふたりを襲った。

 

 死んでは生き返り、1秒をもぎ取るために命を捨てていく。

 

 ふたりの死が3桁に届く頃、ようやく一太刀以上生き残れるようになってきた。

 

 しかし死の痛みは、ふたりの心に多大なストレスを与えていった。

 

 シミュレーターにはあまり知られていないが、緊急時に使用者を守るために止まる機構が備え付けられている。

 

 使用者のバイタルが一定以上振れた場合や、ポッドに誰かが危害を加えた場合などが当てはまる。

 

 既にふたりの状態は、緊急停止してもおかしくないのだが、アクマによって停止しないように弄くられていた。

 

 どれだけ壊れようとも、本人の意思以外で止めるのは不誠実だとイニーが思ったからだ。

 

(力も速さも技術すら届かない……けど!)

 

 強くなるため、イニーを守るためと自分を鼓舞し続けながらマリンは気丈にも死にに行く。

 

 攻撃に気付いた時には斬りつけられ、片方の剣をどうにかしても、もう片方が飛んでくる。

 

(あー。これが、イニーちゃんが体感していた世界なんだ)

 

 そんなよく分からないことを思いながら、襲い来る死と絶望の中、スターネイルは銃を構える。

 

 身体能力はマリンに劣るものの、経験はスターネイルの方が上である。

 生き残るだけならば、スターネイルの方が上手い。

 それでも、イニー相手には誤差でしかなかった。

 

 理不尽な範囲攻撃は無いものの、確実に命を削ってくる。

 致命傷を負うたびに声を上げていたが、途中でそれは無駄だと悟った。

 

 もう嫌だ。今すぐ逃げたい。こんなの耐えられない。

 

 そう何度も思った。

 

 音を上げたいが、ブルーコレットの最後の顔が思い浮かび、スターネイルを奮い立たせた。

 一撃必殺だった攻撃は、マリンとスターネイルの成長に合わせ、嬲るような攻撃へと変わっていく。

 

 腕が、脚が斬り落とされ、苦しんだ後に殺される。

 この戦いを誰かが見ていたら、間違いなく吐いてしまうだろう。

 

 そして、恐怖するだろう。

 

 これ程までの惨劇を起こしているイニーの表情が、全く変っていない事に。

 そんな戦いの中だと言うのに、ふたりに比べてイニーの精神は落ち着いたものだ。

 

 マリンやスターネイルを殺すことになんの感慨も抱かず、目的を遂行する為に両手の剣を振るう。

 

 能力として戦えても、経験がなければならない。

 通常時は身体能力が最下位のイニーにとって、今の戦い方はいつもと真逆である。

 

 先ずは慣らしで殺戮をし、次は一撃で殺さないように技術を磨いた。

 マリンたちが戦いの中で成長するのと同時に、イニーも成長しているのだ。

 

 戦い開始から1時間。

 

 ふたりの精神はボロボロであり、気力を振り絞っている様な状態となっていた。

 それでもイニーへと立ち向かい、己の武器を突き立てる。

 

 この戦いに、意味なんて有るのだろうか?

 苦しむ事に、意味なんて有るのだろうか?

 諦めても、良いのではないだろうか?

 

 そんなぐちゃぐちゃ感情がスターネイルの中で渦巻き、精神を崩壊させていった。

 

 スターネイルを構築する要素が剥がれ落ちていき、あと一息で心が折れる。

 そんな時だった。

 

『あいつを……イニーを頼むわね……』

 

 ブルーコレットの最後の言葉。

 きっとあの時ブルーコレットは、イニーの正体が誰だか分っていたのだろう。

 だから、共犯者である自分に託したのだ。

 

 何故。どうしてなんて陳腐な問いかけは要らない。

 

 戦うと決め、託されたのだ。

 

 何より、ここで挫けるのを許せるわけがない。

 

「寄り添え"流星"」

 

 自然と、スターネイルの口か言葉が紡がれた。

 言葉の意味なんて理解できる様な状態ではない。

 しかし自分の身に起きた変化により、身体が意味を理解した。

 

 何故自分が至れたのかは分からない。

 

 ただ、今はこの戦いを1秒でも早く終わらせたかった。

 

 そんな中、スターネイルに起きた変化に、イニーは口角を上げた。

 

 スターネイルが強化フォームになった所で、今の戦力差を覆す事は出来ないだろう。

 

 だが、イニーが楽しめるようにはなるだろう。

 未熟とはいえ、強化フォームの魔法少女がふたり居るのだから。

 

 スターネイルは強化フォームになった事により、自在に操る事が出来る4つのビットと、腰に複数の短剣が増えた。

 

 マリンの様な圧倒的な火力ではなく、手数で攻めるような強化だ。

 

 だが、シミュレーション中に強化フォームになるのは前代未聞であり、シミュレーターにも少なくない負荷を掛けていた。

 

 それはイニーも似たようなものだが、そこはアクマがバックアップをしていたので問題ない。

 

 少しずつ。着実にふたりが生きられる時間は増えていくも、イニーには攻撃が届くことはない。

 

「終ノ太刀・天幻」

「エクスレゾナンス」

 

 絶望の最中、抗うための力。

 

 必殺の居合がマリンから放たれ、スターネイルにより、四方から弾丸や短剣がイニーへと襲い掛かる。

 

 そこに手加減や、殺しへの忌避感などない。

 殺らなければ、殺られる。

 

「双月・蓮華」

 

 マリンへと距離を詰めながら、左の剣で居合を打ち消し、右の剣でスターネイルの魔法を捌く。

 

 抜刀した状態から返すが、イニーはするりと避けて、スターネイルが居る方に、マリンを蹴り飛ばす。

 

 マリンは空中で体勢を整え、イニーに向かって斬撃を放つ。

 スターネイルはマリンが飛んでくる射線から避け、イニーの脚に向かって弾丸を撃つ。

 

 どうにかして機動力を殺さないと、戦いにすらならない。

 

 しかし、ふたりは知らないが、この状態のイニーは怪我を修復する事が出来る。

 更に腕や脚が千切れても、隙を作るなんて事はない。

 

 なにより、防げる攻撃をイニーが受ける義理なんて無い。

 

 また、死がふたりに送られた。

 

 

 

 

 

 2

 

 

 

 

(どんな感じだ?)

 

『良い感じに吹っ切れてるね。特にスターネイルは驚きの一言だよ』

 

 まさか強化フォームになるとは思わなかった。

 何故なれたのかは分からないが、これだけ死ねば何かしらの覚悟が決まってもおかしくないか。

 

 やはり、俺が強化フォームになるのは骨が折れそうだ。

 

 最初は少々感情に引っ張られてしまったが、今は軒先で日向ぼっこをしている時と同じくらい落ち着いている。

 

 まあそんな状態で、シミュレーションとは言え何度も殺しているのだから、我ながら狂っている。

  

(なるほど。頼んだのはこっちだが、廃人にはならないだろうな?)

 

『死ぬほど痛いだけで、実際に死んでるわけじゃないから大丈夫だと思うよ。私としては、ふたりよりハルナの方が心配だけどね』

 

(安心しな。身体の限界を超えるような戦いはしていない)

 

 憎悪ことフユネとは正式に契約をしたので、この形態での能力を俺が自分の意思で使う事が出来る。

 使う事が出来ると言っても、やれることはこれまでとあまり変わらない。

 

 強いて言えば、いざと言う時の切り札が増えたくらいだ。

 

 その切り札もふたり相手には出番はない。

 

 マリンの振り下ろした刀の間合いに一歩踏み込み、身体に当たる前に腕を斬り飛ばす。

 背後から飛んでくる短剣を剣で弾き、十字の斬撃をスターネイルに飛ばす。

 

 その後マリンにとどめを刺し、また死が積み重なる。

 

 この短期間で連携は勿論、個々の強さは異常な程上がっている。

 死の淵。死の間際は人の本能がむき出しとなり、生きるために身体の機能を活発化させる。

 

 脳のリミッターが外れ、躊躇いが無くなる。

 

 ただの魔法少女なら耐えられないだろうが、色々と覚悟を決めているふたりだから出来る事だ。

 おそらくミカちゃんも耐えられるだろうが、ナイトメアなら直ぐに音を上げるだろう。

 

 リスポーンして直ぐに襲い掛かってくるふたりの攻撃を、強化した目で捉え、最も効率の良い避け方を選ぶ。

 右の剣で愚直に斬り、左の剣で死角から突く。

 

 そうしてまた命が失われる。

 

 約2時間。もうそろそろ潮時だな。

 

(もうそろそろ終わりにするか)

 

『ハルナの好きにすれば良いさ』

 

(了解)

 

 念入りに魔力を込めた障壁をふたりの四方に展開し、動きを止める。

 

 突然の事態に揃って動揺するも、俺が剣を消して両手を上げると抵抗を止めてくれた。

 

「終わりです。お疲れさまでした」

 

 気が抜けたのか、ふたり揃って強化フォームが解け、その場に倒れこんだ。

 

 アクマに設定を弄ってもらい、地面に染み込んでいるおびただしい量の血を消して貰う。

 

 俺自身も返り血で血が滴っていたが、一緒に消えた。

 設定で色々出来るので、やはりシミュレーターは便利だ。

 

「うーあーううぅ」

 

 スターネイルが鳴いているが、感情の整理をしているのだろう。

 

 本当によく諦めなかったものだ。

 

 マリンも今は目を閉じて、微かに震えている。

 

 戦いでハイになっている時は良いが、終わって冷静になったことで、痛みや恐怖が襲ってきたのだろう。

 

 脳裏に焼き付いたものは、消そうとしても消えないからな。

 

「……私は強くなれたの?」

「試せば分かることです」

 

 適当に魔物と戦わせれば、身に起きた変化に気付くだろう。

 

「スターネイルは大丈夫ですか?」

「私はなんで此処に居るんだろうね……」

 

 ……うん、大丈夫そうだな。

 

 設定用のディスプレイを呼び出し、魔物の一覧を見る。

 

 魔物は……オーストラリアの時に、マリンとナイトメアが戦った奴で良いか。

 

 SS級だが、ナイトメアよりも強くなったスターネイルが居れば、サクッと勝てるだろう。

 

 魔力量は変わっていないとしても、戦い方1つでどうにかなるのが、戦いの面白いところだ。

 

「それでは呼び出しますので、頑張って下さいませ」

 

 ディスプレイのボタンを押した後、その場から離れる。

 

 この姿でも少しは魔物と戦えるが、勝つことは不可能だからな。

 しかしフユネと契約したせいか、この姿だとどうも女性の面が強く出てしまうな……。

 個人的にはあまりよろしくない。

 

 そんな事を頭の隅で考えていると龍が現れ、咆哮を上げる。

 

 眷属も現れ、ふたりに攻撃を始めた。

 

 一方の俺は空中に障壁を出し、文字通り高みの見物をしている。

 

 眷属は強化フォームになったスターネイルが散らし、龍はマリンが対処する。

 

 スターネイルの強化フォームは万能型だが、それなりに高火力の攻撃も出来るのだろう。

 

 ファンタジー的に例えれば、ガンナーとレンジャーを足したような感じだ。

 

 ネックだった接近戦……正直ネックでも何でもないと思うのだが、短剣で接近戦が出来るようになった。

 

 更に投げても腰に戻ってくるので、使い勝手は良さそうだ。

 四属性のビットも増え、攻撃の幅も広がっている。

 

 動きを見る限り、ビットも手動で動かしているようだな。

 常に自分が有利になるように立ち回っている。

 

 データでは眷属のランクはB級なので、ひとりで戦えれば上出来だ。

 

 マリンの方も特に問題なさそうだな。

 

 遠からず、倒す事が出来そうだ。

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