魔法少女がいく~TS魔法少女は運が悪いようです~ 作:ココア@レネ
「戻りました。体調はどうですか?」
「ただのデメリットだから問題ないさ。それに、イニーのおかげで休みももらえたからね」
ジャンヌの執務室の隣にある、仮眠室に直接転移した楓は、ベッドで横になっているジャンヌを見て気に掛ける。
ジャンヌの魔法。
使えば1日の間目が覚めず、何もする事が出来ない。
似たようなデメリットのある魔法は、イニーの
此方は使用者の魔力を全て消費するのと、死ぬほどの痛みが走る。
何かを犠牲にすることにより、強大な魔法を使う。
ランカーなら持っていて当然の諸刃の剣だ。
ジャンヌの
それもあり、今のジャンヌはただ休んでいるだけだ。
「そうですか。それで、候補者は決めたのですか?」
「だから呼んだのさ。最新ってわけじゃないが、この資料を読んでくれ」
ジャンヌは楓に用意しておいたマリンとミカの資料を渡す。
ミカについては桃童子の能力を試している時の動画付きだ。
楓は資料を見ながらじっくりと考える。
どちらもSS級の討伐履歴は無い。
しかしマリンの方は特殊な状態ではあるが、SS級を一体倒している。
更に強化フォームにもなれるので、候補として挙がるのも頷ける。
続いてミカの方だが、年齢にしては優秀。それだけだ。
この魔法少女歴でS級を倒せているのは素晴らしいが、近くにグリントやレンと言った例外が居る楓からしたら、そこまで驚くような事ではない。
だが……。
「桃童子を継承ですか……」
ジャンヌから受け取った映像を見て、楓はミカの戦いぶりに桃童子の面影を感じた。
「雷による強化ですか。強化フォームにならずこれだけ戦えるなら候補としても申し分ないですね」
「対人は桃童子の訓練で問題なさそうだし、その内強化フォームになってもおかしくないだろう」
「私も昔雷の魔法で身体強化をしたことがあるのですが、結構痛いんですよね。なのに、全く臆することなく戦えているのは高評価です」
楓は映像を見終え、資料をテーブルの上に置く。
どちらの方が相応しいか。
日本にはマリンの他にも強化フォームになれる魔法少女は居るが、そこそこの年齢だ。
先の事を考えれば、ジャンヌが選んだふたりのどちらかを選ぶのが良さそうである。
問題点は、近い将来自分が居なくなる可能性がかなり高い事だ。
そうなればジャンヌも引退するので、日本の戦力はガタガタとなる。
他国に侵略されるようなことはないだろうが、自分のせいで日本が不利な状況になるのはよろしくない。
だが、楓が抜けたとしても、日本にはレンとブレードが居る。
アロンガンテが手綱さえ握れていれば、問題ない可能性はある。
更に言えば、戦力として楓やジャンヌが居なくなるのは大きなダメージとなるが、アロンガンテに比べればまだマシな方だ。
「どちらを選ぶか当てようか?」
悩んでいる楓に、ジャンヌは言ってのけた。
「面白そうですね。どちらだと思いますか?」
楓はクスリと笑った後、そう言えば飲み物を用意していなかったと思い、冷蔵庫からジュースを2本とってきた。
「なにを考えているかなんて簡単に察する事が出来るからね。答えは……ふたり共だ」
楓は片眉を上げて、先程もってきたジュースを一口飲んだ。
ジャンヌが言った事は、なんと正解だった。
楓が悩んでいたのは、前例が無い状態で、どうやってふたりをランカーにするかだった。
無論策は考えているが、自分が居なくなったとしても問題ないようにしておかなければならない。
そこの詰めについて少々頭を悩ませていた。
「よく分かりましたね」
「そう選ぶと初めから思っていたからね。私たちの事を思えば当然だろう?」
「……それもそうですね」
ジャンヌは軽く笑い、楓が持ってきたジュースを飲む。
出来れば珈琲が良いのだが、楓に珈琲を淹れろ言うのは少々酷であった。
「他の方法は思い浮かばないのかね?」
「無いですね。目ぼしい魔法少女も見付かりませんし、私かイニーのどちらかの犠牲は必要です」
星喰いの魔力汚染。
これをどうにかして防がなければならない。
魔女を倒したらハッピーエンド。
そうならないのが現実の辛い所だ。
現状魔力汚染をどうにか出来るのは楓と、イニーのふたりだけだ。
イニーについては多分と頭に付くが、星喰いを倒し、魔力汚染を回避出来て初めてハッピーエンドとなる。
「そうか……」
ジャンヌは世界が、魔法少女が、人が嫌いだ。
身近に居る人さえ無事なら、それ以外に興味がない。
その筆頭が楓だ。
「そんな怖い顔しないで下さい。昔のあなただったら損切りとかなんとか言って割り切っているでしょう?」
「昔は昔。今は今と言ったのはそっちだろう?」
楓は「そうでしたっけ」と惚けた。
「あなたの気持ちは理解しますが、いつかは選んだ選択です。少し早まってしまいましたが、それだけでしょう?」
「分かっているさ。誰かがやらなければならない事だからね。封印も永遠には続かないのは、自然の摂理だ」
今回のような事態が起きなかったとしても、楓は星喰いを倒す気でいた。
星喰いに施されていた封印は、とある魔法少女が命を対価に施したものだ。
本来魔法少女の魔法は、術者となる魔法少女が死ねば魔法は解けるのだが、たまに例外として残る場合がある。
ソラの死体維持の魔法や、桃童子の武器も、この例外に入るだろう。
だが、永遠に続く魔法など存在しない。
封印である以上、いつかは破れる。
再び封印を施せる魔法少女が現れれば良いが、そんな希望的観測は出来ない。
幸か不幸か、楓には魔力汚染を除去し、星喰いを倒す手段がある。
封印自体の猶予はまだまだあるので、楓は魔力汚染を除去する方法を考えていたが、そんな猶予はなくなってしまった。
「私の事はいいので、先ずはふたりについてです」
「……そうだな。とりあえず候補として告知して、正式には破滅主義派との戦いが終わってから決めるとでもしておけば良いだろう。後はアロンガンテがどうにかしてくれるさ」
困った時はアロンガンテ。
申し訳ないとは思っているが、それが一番良い手なので、否定する事も出来ない。
「そうしておきますか。幸い魔法局のトップはアロンガンテですし、なんとかなるでしょう」
「こんな世界でも守らないといけないとは……魔法少女とは嫌なものだね」
「たとえ私たちが存在せず、魔法がなくても人がやる事は変わりませんよ。イニーが悪い例でしょう?」
「人型の兵器か、兵器型の人か……倫理はどこに行ってしまったんだか」
ジャンヌは人の行く末を憂いながらも、全くそうは思ってなさそうな顔をする。
人型の兵器。それは新たなエネルギーが研究される事となった原因だ。
兵器としてだけではなく、宇宙開発を始め介護やドライバーなど、幅広い分野で期待されていたのだが、一番期待されていたのは戦争だ。
ドローンなどの無人機が主体となっていた戦争だが、それはあまりにも非効率だった。
互いにドローンを使用しての戦場は終息に時間も掛かり、最終的な軍事費は嵩張るばかりだ。
宇宙に移住するための研究もあり、戦いの場を宇宙に移すことを視野に入れた場合、ドローンでは力不足だった。
だが、現存のエネルギー効率では大型化するにしても、小型化するにしても問題が多かった。
様々な思惑が交差する中、北極で始まった新エネルギーの開発。
結果として新たなエネルギーは増えたのだが、それは人類が望んだものではなかった。
魔力。
小説やアニメでしか語られない未知のエネルギー。
得られたのが魔力だけなら違っていたのかもしれないが、魔物のおまけ付きだ。
魔力をエネルギーとして使用する技術は妖精が持っているのだが、その技術を頑なに人類に渡そうとしていない。
人類に渡した場合、いつの間にか悪い方向に使われるのが目に見えていたからだ。
妖精監修の下で、インフラには使われる程度に留まっている。
魔力を用いた兵器は未だ研究段階を出ないのだが、これがいけなかったのだろう。
魔力を使った兵器が作れないなら、既に魔力が使える存在を作り出せばいい。
魔力に適応し、魔物と戦う存在。魔法少女。
その魔法少女を人為的に作り出す研究が始動した。
それから幾多の年月が経ち、イニーがその完成形だと噂されるようになった。
本人が嘘を言っただけだったのだが、その嘘は見つかった資料や本人の容姿により、周りは本当の事だと思ってしまっている。
最近ではイニーを巡って水面下で争いが起きているが、本人が表を全く出歩かないので、誰も接触出来ていない。
接触を試みようとしても、保護者がタラゴンのためその筋は使えず、イニー本人は転移で移動しているので出待ちも出来ない。
知らぬは本人。全く気に掛けていないのも本人。
深刻なのは周りだけだ。
辛い過去を持っているはずのイニーを犠牲にするのは忍びないと、楓たちは思っているので、ジャンヌもイニーを犠牲にしろとは言わない。
「倫理観や道徳があるなら、私が忙しいからと汚職を働いたりしないですよ」
「人なんていつだってそんなものだろう? いっそ滅ぼすかい?」
「そうもいかないでしょう。大分話が逸れましたが、ふたりに関してはアロンガンテを通して話をしておきます」
「頼んだよ。私は久々の休日だし、また寝るとするよ」
楓はジャンヌに無理をしないように言ってから、アロンガンテの居る拠点へと転移する。
テレポーターは経由しないため、受付の妖精とは出会わない。
先ほどみたいに、執務室に直接転移をせず、扉の前に転移して、扉を開ける。
「……あなたですか。どうかしましたか?」
「先ほどジャンヌに会ってランカー候補の話を聞きました」
「その件ですか」
アロンガンテは進めていた仕事を止め、楓に座るように促す。
「それで、どちらを選ぶのですか?」
「選ぶのは一旦保留とし、ランカー候補として登用しようと思います。ふたりともランキングは暫定で11位とし、破滅主義派の騒動が終わってから正式に決定する。如何でしょうか?」
楓の提案に対してアロンガンテは不思議に思いながらも、その理由を考える。
他国ではギリギリランカーになれるかどうかの魔法少女を10位以内にして、身代わりにしていたりする。
その事を考えれば、候補となっているふたりに迫る危機は、ランカーに比べれば少ないだろう。
ミカの事はともかく、マリンの事を知っているアロンガンテは、最低でもランカーとしてやっていけるだろうと思っている。
「なるほど。少々異例ですが、悪くない案ですね」
「他国みたいに身代わりとしてランカーを増やすのは、後程の事を考えると得策とは言えないですからね」
「ランカーの地位となり、相応の義務を果たしてくれているならば良いのですが、全員が全員そうとは限らないですからね……」
破滅主義派の暗躍により、国によっては半数以上のランカーが入れ替わったり、空席が目立ったりしている。
仕方のないことだが魔法少女の質は下がる一方であり、SS級と戦えない者も居る。
ナイトメアみたいに頑張っているのならば良いが、全体から見れば少数派だ。
日本を始め、アメリカやロシアなど比較的傷の浅い国が頑張っているが、敵は破滅主義派や魔物だけではない。
「マリンとタケミカヅチには、明日私が伝えておきます。確認ですが、お茶会はどうしますか?」
「今はその時間すら惜しいじゃないですか? 全てが終わってから開催すれば良いでしょう」
(まあ、その頃私は居ませんけどね)
そんな楓の内心をアロンガンテは察することは出来ず、「そうですね」といつもの調子で答える。
「来ていただいた序でですみませんが、イニー関係で報告があります」
「施設についてですか?」
アロンガンテは洞窟から帰って来てから、オーストラリアの外務大臣の周りを、仕事のついでに調べていた。
アロンガンテの伝手で政界を調べるのは難しかったが、ゼアーに頼んだ事により情報を得ることが出来た。
一番欲しかった情報は得られなかったが、それでも収穫としては十分だった。
資料を楓に渡し、読み終わるまでの間に仕事を進める。
いつもなら期限や緊急性の高いものを精査しながら進める仕事も、イニーが纏めた山を順番に減らしていけば良いので、スムーズに進めていく。
心なしか、アロンガンテの表情も明るい気がしなくもない。
「なるほど。魔法少女を作る研究の始まりと、最終目標。それと、魔物を人為的に育成ですか……」
「おそらく私たちが飛ばされたのは、魔物を育成する施設の成れの果てでしょう。そこを魔女が改修して利用したのだと思います」
アロンガンテの推測はほとんど当たっているが、正確には育成だけではなく作り出してもいた。
かなりの数を減らす事が出来たが、減らせたのは小型から中型までの魔物だけだ。
洞窟で戦ったSS級と同程度の大型の魔物が、残っている可能性は大いにある。
「場所が分からないのが痛いところですが、それらしい場所はこの後調べてみようと思います」
「よろしくお願いします。魔女が動き出す前に戦力を減らせればいいのですが……」
魔物の襲撃が減れば、それだけで魔法少女が休める時間を確保できる。
実際に魔物が居るとは限らないが、調べる価値はあるだろう。
「しかし、この資料を馬鹿げていると笑えばいいのか、こんな研究を実際に成功させてしまった狂人を糾弾すればいいのか……」
「イニー以外存在しないのが、唯一の救いですね」
資料に書かれている、最終的な魔法少女の規格。
そこにはタラゴンやグリントが見たものよりも、残酷なことが書かれていた。