魔法少女がいく~TS魔法少女は運が悪いようです~ 作:ココア@レネ
楓は資料を返そうとするが、アロンガンテは拒否して燃やすようにお願いする。
原本は既に焼却してあり、楓へ報告するために纏めたこれが無くなれば、アロンガンテが知る範囲で資料は無くなる。
こんな物は世界から無くした方が、人のためなのだ。
楓はその場で燃やし、資料に書かれていた事について考察する。
「……この方法なら、回復魔法と攻撃系統の魔法が両立出来る可能性はありますが……」
「必要となる魔法少女の厳選。素体の厳選。託せる魔法少女も厳選。気が遠くなる話です」
最高の魔法少女の条件と方法。そう書かれた項目には、次のような事が書かれていた。
素体となる魔法少女を用意して、英才教育と負の感情を抱きやすい教育を施す。
完成する前に魔法少女となった場合は破棄を推奨。
素体に必要なのは回復魔法を使えることであり、それ以外の魔法が使える場合は破棄する事。
素体となる魔法少女を育てるのと並行し、継承元となる魔法少女も育成する。
なるべく素体と良好な関係を築ける、歳の近い者が良いだろう。
準備が最終段階に入った場合、素体の仕上げを始める。
筋力は投薬により最低限まで落し、殺しに対して忌避感を持たないようにする。
精神が壊れるようなら、破棄する事。
全てが上手くいった場合、兵器への加工を始める。
魔物と人間に対しての理解を進め、壊し方を教える。
そして、最後に継承元となる魔法少女を素体に殺させ、継承させる。
失敗した場合、素体は即時破棄する事。
最終段階での破棄は、決して躊躇ってはならない。
魔法少女とは兵器なのだから……。
「もしもこの方法でイニーが作り出されたのでしたら、あの精神性にも納得が出来ます。ただ、正気を保てているのは驚愕の一言ですね」
「この件はタラゴンに頑張ってもらうのが良いでしょう。単純な破壊なら一番向いてますからね」
現場の仕事はタラゴンが一番向いており、イニー関係の仕事ならば喜んでやってくれるだろう。
そんな思惑と、先の事を考えて提案した。
「確かに彼女なら喜んでやってくれそうですね」
アロンガンテが頷いたのを確認して、楓は立ち上がった。
「それではふたりの事をお願いします。何かありましたら緊急回線で連絡を下さい」
「分かりました。お気を付けて」
次に楓が向かうのは、先程の資料に書かれていた魔物の研究をしている可能性がある場所だ。
魔女がいつ動き出すか分からないが、残された時間は少ないのだろうと、楓は覚悟を決めた。
1
最近、夢を見る事が増えた気がする。
まだ幼かった頃、公園で遊んだ夢。
姉の自慢話を素っ気なく返していた日常の夢。
生きるだけ以外の事を忘れ、無機質に生きていた頃の夢。
そして、魔法少女となった日の夢。
過去とは生きていた実証であり、今を形作る楔だ。
辿ってきた道がなければ今はないが、道があるせいで縛られてしまう。
とは言ってみたものの、誰が魔法少女になるなんて今を、想像できただろうか?
『おはよう。良い朝だよ』
目を開けると、アクマが挨拶をしてきた。
今日の夢は中学に上がった頃の夢だった。
周りに馴染もうとせず、最低限の勉強をしていたな。
ほとんどの成績は平均より少し上位だったので、これと言って問題もなかった。
思い出らしい思い出はないが、おそらくこの頃にはエルメスが巣くっていたのだろう。
(今何時だ?)
『朝の8時だよ。珍しく遅い起床だね』
(昨日は模擬戦や書類仕事をしたから疲れていたんだろう)
昔は散々やっていた書類仕事も、久々にやれば疲れるものだ。
もしくはこの身体では、書類仕事も肉体労働に入るのかもしれない。
結構体力も付いてきたと思うのだが、まだまだだな。
このまま布団に包まっていたいが、アクマが煩くなるので起きるとしよう。
『今日はどうする? 討伐に行く? それともマリンたちのランカー祝いにでも行く?』
…………うん?
(どういうことだ? 空いてる枠は桃童子さんの一つ分だろう?)
『そうなんだけど、破滅主義派の騒動が終わるまでは保留にして、ふたりをランカー待遇にするみたい』
片方を選ばず、ふたりとも残すか……。
(もしかして、提案したのって楓さんか?)
『そこまでは分からないね。アロンガンテのメールを盗み見ただけだし』
アロンガンテさんが魔法局のトップなので、通達をするのはアロンガンテさんだが、良くも悪くもアロンガンテさんは、型にはまった考えをする人だ。
こんな前代未聞な判断を、個人でするわけがない。
ならば、楓さんしか有り得ない。
星喰いとの戦いで死ぬ気なので、この後空きが更に増える予定だ。
ならばふたりとも仮採用しておいて、終わった後にふたりともランカーにすれば無駄がない。
あるいはジャンヌさんが提案とかしていそうだが、真相は調べなくても良いだろう。
(そうか。公式に発表されたら、祝いのメールでも送っといてくれ。それと、今日は何日だ?)
『了解。今日は3月3日だよ』
――もうそろそろと思っていたが、もうこの日か。
(今日は用事があるから、何をするにしても午後からだな)
『用事? なんか予定してたっけ?』
流石のアクマも分かるわけないか。
去年まではちゃんと準備していたが、今年は色々と有りすぎて何も準備出来なかった。
それでも、忘れずに今日を迎えられて良かった。
(墓参りだよ。姉のな)
『あーなる程ね…………慰めようか?』
(いらん。ただの自己満足だし、もう十年以上経っているんだ。それに墓参りと言っても形だけだしな)
俺の姉は魔法少女として結界の中で死んだ。
しかも死体も囮として使われたため、魔物に喰われてほぼ全て分解されてしまっている。
俺たち家族の下に届いたのは、血に濡れた衣類と指先の骨だけだった。
本当に色々とあったが一応形だけの墓を作り、納骨してある。
親は俺が高校を卒業する位には心労がたたって死んでしまったし、親戚の類は此方から縁を切っている。
姉が死んだ時に、魔法局から見舞金としてかなりの額を貰ったのだが、砂糖に群がる蟻の様に群がって来たのだ。
宝くじに当たって知らない親戚が増えるってのは聞いたことがあったが、あの時の両親の顔は中々に酷いものだった。
俺も人の事を言えた義理ではないが、世界に絶望していた。
まあ、金が有ったおかげでフリーランスでも問題なく食って行けてたし、高いCADのソフトも一括で買えた。
最低限の人脈や宣伝も出来たので、生きる上で困ることはなかった。
最初の数年は憎しみを忘れないために墓参りしていたが、いつからか姉を忘れないために墓参りするようになった。
これにも間違いなくエルメスが関与しているのだろうが、今更気にしても仕方ない。
ともかく、墓参りに行き、ついでに掃除を済ませよう。
朝の日課をさっさとやり、風呂に入る。
墓石の掃除はイギリスへ行った時に収納しておいた奴で問題ないだろう。
(妖精界隈にある魔法少女用の霊園に転移してくれ。なるべく物陰にな)
『了解』
大きな木の陰に転移し、辺りを見回す。
そうそう人など居ないとは思うが、念には念をだ。
目当ての墓に向かい、姉の名前と魔法少女の時の名前が書かれた石を見る。
『魔法少女アヤメ……ね。エルメスが見定めた魔法少女か』
(契約していれば死ななかったのに、我ながら馬鹿な姉だ)
まあ、契約していたらとっくに世界は滅びているだろうけどな。
アクマに掃除用品を出してもらい、拭いたり掃いたりと綺麗にする。
お供え物なんてしてもゴミになるだけなので、線香だけ立てておく。
一時は実家で毎日嗅いでいたが、線香の匂いは嫌いではない。
寂しさや虚しさを感じるが、今を強く認識させられる。
過去の選択にどうこう言う気はないが、何かを思わずにはいられない。
線香の白煙がゆっくりと空に昇り、溶けていく。
アクマもエルメスも話しかけて来ず、いつの間にか半分ほど線香が燃え尽きていた。
…………帰るか。
最後に軽く頭を下げ、線香を消す。
もう二度と来る事は無いだろうし、香炉の中身も掃除する。
(待たせたな)
『別に待ってなんていないさ。私たちに時間は関係ないからね』
前にも数百年だかなんだと言っていたな。
長生きなくせに、面倒な性格をしている。
「やっぱりイニーね」
――しくじったな。どうせ誰も来ないだろうと、長居したのが間違いだったな。
流石にバレてから逃げると後々面倒だし、今回は諦めるか。
出来ればアクマに来ている事を教えてもらいたかったが、毎度役に立たない。
振り返ると、マリンとスターネイルが居た。
手には掃除用具を持っているので、誰かの墓参りか?
「奇遇ですね。こんな所で出会う事は流石にないと思っていました」
「そうね。どうして此処に?」
……どうするか。全く言い訳が思い浮かばない。
「アヤ……メ?」
「榛名?」
墓石に刻まれている名前を見て、マリンとスターニルは別の反応をする。
マリンは俺が使っていた偽名についてだろう。
俺の本名を知っているスターネイルは、本名と魔法少女の関連性についてだろうな。
さて、どうしたものか……。
今から十数年前に死んだ人間と俺の関係性。
公式上11歳となっているので、俺が生まれる前に死んでいることとなる。
しかも、姉の本名まで書かれているので、言い訳次第では自分の首を絞めることになる。
割と詰んでいる気がしないか?
「……知人に頼まれて墓の掃除をしていました。それよりも、ふたりはどうして此処に?」
「コレットちゃんの墓参りだよ。マリンちゃんが一応ランカーになったから、その報告にね」
「一応は余計ですが、私はただの付き添いです。スターネイルがどうしてもと言うので」
マリンは不機嫌そうにそっぽを向くが、出来ればそのまま帰ってくれても良いんだぞ?
だが、誤魔化せたようで何よりだ。
後々多摩恵が何か言ってきそうだが、後の事より今だ。
「そうですか」
軽く頷き、マリンたちの横を通り……。
「イニー?」
サッとローブをマリンに掴まれ、後ろに少しのけ反る。
今まで一度として、出会い頭の逃亡に成功していない。
俺の相手は全員ボスか何かなのかな?
「……なんでしょうか?」
「こんな時間に此処に居るってことは、暇なのよね?」
マリンの後ろで、スターネイルが苦笑いしていた。
助けてくれる気は全くないみたいだ。
「暇じゃないと言えば帰してくれますか?」
「いえ。帰さないわ」
じゃあ疑問形にしなくても良いじゃないか……。
いかんな。少々思考がナイーブになり始めている。
こうなってしまったら仕方ないし、気を取り直していこう。
「仕方ないですね……。ですが、討伐などは大丈夫なんですか?」
「昨日の事をアロンガンテさんに話したら、今日も休んで良いって言ってたわ。それと、無茶をしないようにって怒られてしまったわ」
一歩間違えたら廃人になるか、ショック死する可能性もあったからな。
一応注意をしていたが、事故はいつだって突然だ。
スターネイルについては完全に巻き添えだったが、強化フォームになる事も出来るようになったので、結果として良かったことにしよう。
「そう言えば、スターネイルはシミュレーション以降も強化フォームになれましたか?」
「今朝試してみたけどなれたよ。昨日のが夢じゃなかったんだって改めて思えたよ」
「それは良かったです」
「私昨日の夜悪夢見たんだけど?」
あんだけ死ねば悪夢を見るのも無理はないか。
だが、俺は一切悪くないので、謝る気はない。
「でも、得るものはあったのではないですか?」
「そりゃそうだけど……ねぇ?」
マリンはスターネイルに同意を求めるが、スターネイルは曖昧に笑うだけだった。
「気持ちは分かるけど、もうお墓に着くから話は後にしよ」
魔法少女ブルーコレット。
本名は
もうずいぶん前に感じられるが、俺が初めて殺した
墓を前にしても、やはりこれと言った感情は何も湧いてこない。
殺さなければ殺される。此処はその集大成だろう。
此処に埋葬されているのは全て魔法少女だった人だ。
魔法少女用の霊園。その名はワルプルギスの箱庭。
歴史の傷跡たちだ。