魔法少女がいく~TS魔法少女は運が悪いようです~ 作:ココア@レネ
マリンやミカなど、知人と会いそうになると逃げようとするイニーだが、別に嫌いなわけではない。
女性など母親と姉位としかまともに話す事がなく、精神的な歳が離れているせいで、どう接すれば良いのか分からないのだ。
ミカやスターネイルならまだ良いが、マリンに限っては好き好きオーラが滲み出ており、過激なスキンシップが多いので反応に困っている。
好意が嫌な訳ではないが、応える事の出来ない想いが苦手なのだ。
他愛のない会話をしている内にブルーコレットの墓に着き、軽く拭いたりした後に花を添える。
ブルーコレットの死は大々的にイニーが殺したとテレビ等で放送されたが、その後魔女の策略で魔法局の上層部や巻き添えで政治家が死に、アロンガンテが舵取りを始めてから誤報だったと発表された。
なら誰がブルーコレットを殺したとなるのだが、事実ブルーコレットを殺したのはイニーなのだ。
いくらブルーコレットが魔女に誑かされたからと言っても、世間の目はあまり好意的ではなかった。
だが、オーストラリアでの活躍によりイニーの評判は上がったが、一部からは畏怖されるようにもなる。
圧倒的な魔法による魔物の蹂躙。
その様子を映した映像は世界に多大なる影響を与えていた。
国1つをひとりで救うなど楓以来の快挙だが、その事を褒め称える様な報道はほとんどなかった。
それにはイニーにまつわる噂や、あまりにも戦いぶりが異質だったからだ。
それだけではなく、常に顔を隠すようにフードを被っているのもあり、話題にすれば簡単に炎上するのは目に見えていた。
世間的には今も尚あまり良い印象はないが、世界にとっては欠かせない魔法少女だ。
そんな魔法少女を世に解き放つきっかけを作ったのがブルーコレットなのだが、その事を知っているのはこの世界の住人ではただひとりだ。
その魔法少女は現在眠っているブルーコレットに、最近会った出来事を語りかけていた。
イニーとマリンはその様子を後ろで、静かに見守っていた。
「――それじゃあ帰ろっか」
「はい。それでは失礼します」
「逃がさないわよ?」
スターネイルの話が終わり、しんみりとした空気に便乗して帰ろうとするイニーを、マリンが捕まえた。
少しでも隙を見て逃げようとする辺り、イニーの中身は汚い大人なのだろう。
墓参りが終わり、お昼を食べるのに丁度良い時間になった所で、イニーはふたりからのプレッシャーに屈し、手料理を振舞う事となった。
中身が男である以上、やはり少女には弱いのだ。
イニーは元々ひとり暮らしだったので、多少なら料理を作れるが、スターネイルに比べれば下手の部類に入る。
下手に手の込んだものを作ろうとすれば、行程のどこかで失敗するだろう。
そんなイニーが選んだ料理は、火の加減以外で失敗のない親子丼だ。
しかし米を炊くところから始めるので、少し時間がかかってしまう。
一応客人であるマリンたちを、お茶も出さず数十分も放置するのは大人としての常識を問われる。
だがここで、イニーはミスを犯してしまう。
いや、単純に諦めただけなのだろう。
「30分程掛かるので、おなかが空いているようなら軽くお菓子でも摘まんでいてください」
「分かったわ。その間イニーの部屋を見て来て良い?」
マリンの言葉を許してしまった。
「……好きにして下さい。ああ、クローゼット服ならいくらでも持ち帰って良いですよ」
それどころか服を好きなだけ持って帰って良いと言ってしまう。
イニーはマリンの変態性を舐めていた。
一応スターネイルが居るから変な事をしないだろうと考えていたが、スターネイルもイニーの事が好きだ。
マリンと違い家族愛の側面が強いが、それだけではないのを察する事は容易かった。
「此処がイニーの部屋ね」
イニーの部屋は少女の部屋にしてはシンプルなものだが、かなり広かった。
私物と思われるものはほとんどないが、タンスと異様な雰囲気を放つクローゼットが目を引いた。
「うわー。これ空間拡張されてるよ。それに、服の数が凄い事になってる」
「これがランカーの財力なのね」
見渡す限りの服。
そのほとんどが、魔法少女用に作られた通常よりも高い服だ。
マリンは、表面上はスターネイルに合わせているが、狙いは別にあった。
(下着は何所かしら?)
服は勿論持って帰る気だが、出来ればそれ以上の物が欲しかった。
学園に居た頃と比べるとイニーと居られる時間が減り、マリンは悶々とした日々を過ごしていた。
少し位羽目を外しても罰は当たらないだろう。
「貰って良いって言ってたし、試着してみない?」
「うーん、本当に良いのかな?」
貰って帰れと言われたが、本当に貰って良いのか、スターネイルは悩んでいた。
常識的に考えればただの社交辞令が、これだけの服を目の当たりにすると、本当に持って帰って良いのだろうと思ってしまう。
「着られないまま死蔵される位なら、私たちが着た方が良いでしょう。二、三着見繕ってから集合しましょう」
「うーん。うん」
スターネイルは釈然としない様子ながらも頷き、マリンとクローゼットの中へ入った後に別れた。
それから数分してマリンはこっそりクローゼットから出て、部屋の中で目当ての物を探す。
今のマリンの表情を知り合いが見れば、思わず本人かと疑う程酷いものだったろう。
イニーの部屋の中にあるタンスは3つ。
マリンは端から順番に素早く開け、サッと漁っていく。
そして見つけた。
純白や漆黒。色とりどりの桃源郷。
マリンは思わずガッツポーズをして、どれをもって帰るか物色を始めた。
持って帰るのは1つだけ。バレる恐れもあるが、これだけあるのだから大丈夫だろうと、至高の1枚を探す。
だから気付かなかったのだろう。
クローゼットの入り口から、スターネイルが見ていることに。
「マリンちゃん?」
「ひっ!」
マリンは思わず悲鳴を上げ、ゆっくりとクローゼットの方に振り返ると、じっとりとした視線を向けるスターネイルが居た。
「前の時から怪しいとは思ってたけど、それは駄目だよ」
「ナ、ナンノコトカナ?」
スターネイルはマリンの手を指差す。
「その手に握っているのは何?」
マリンの手には、純白のヒラヒラした布が一枚握られていた。
言い逃れは不可能だろう。
「どうすればいいか、分かるよね?」
マリンは渋々持っていた布……パンツをタンスへと戻し、スターネイルと共にクローゼットの中に戻って行った。
残念がるマリンだが、実はこのタンスは全てダミーなのだ。
イニーが普段使いしている下着や服などは、ベッドの下の収納箱に入れてるので、タンスの中身はいくら取られても問題なかった。
そんな事を知らないマリンは、ただただ悔しかった。
それから軌道修正されたマリンは、スターネイルと共に数着選んで着たり脱いだりと楽しんだ。
途中でイニーが乱入してくる事故もあったが、イニーが親子丼を作り終えるまでの時間を楽しんだ。
マリンたちがリビングへ降りると、いい匂いが広がっており、テーブルの上には親子丼やサラダなどが置かれていた。
「親子丼になります」
「美味しそうね」
「うん」
椅子へと座り、いただきますと言ってから三人は食べ始めた。
パクパクモグモグとマリンとスターネイルが食べる中、イニーだけは無表情でゆっくりと食べる。
イニー本人としては100点中75点位の出来なので、美味しいと言うほどではないが、決して不味くはなかった。
尚、イニーの100点の親子丼は、沼沼の親子丼であった。
「頼んだのはわたしだけど、普通に料理できるのね」
「スターネイル程ではないですが、人並みには」
イニーがスターネイルの家で厄介になっていた頃、イニーはスターネイルの手料理を食べていた。
正に家庭料理と呼ばれるような料理を作るスターネイルの腕前は、大したものだった。
それに比べれば男ひとり暮らしの手料理など、 肉じゃがとパスタ位の差がある。
「そう言えばスターネイルは、お弁当を食べている事が多いわね」
「料理を作るのは好きだからね。自分で作るから健康にも良いよ」
この時イニーは自分の発言の失敗に気付いたが、その事をマリンに指摘されなくて良かったと胸を撫で下ろした。
何故スターネイルの料理を知っているのかと聞かれたら、イニーには答えることが出来なかった。
実はスターネイルとしばらくの間一緒に暮していたとマリンが知れば、どんな反応をするか想像もできない。
冷静なフリをしながらも、イニーは冷や汗を流した。
「ごちそうさま。とても美味しかったわ」
「うん。ダシもしっかりと効いてたし、美味しかったよ」
出された料理を綺麗に平らげた後、温かいお茶を飲みながら食後の休憩を取る。
「分量さえ間違わなければ、ほとんど失敗はしませんからね。それと、服は選んでもらえましたか?」
「選んだには選んだけど、本当に良いの?」
「勝手に買われて増やされているだけですからね。少しでも減ってくれるならありがたい限りです」
仮に毎日イニーが着たとして、2回目が回ってくるよりも、増える量の方が早い。
それだけタラゴンは買い漁っている。
イニーもこれだけ有っても困ると提言したが、笑ってはぐらかされて終わった。
「タラゴンさんってわりと厳しいイメージがあるけど、家じゃあ違うのね」
「…………そうかもしれませんね」
マリンはM・D・Wとの戦いの時にタラゴンと少し話したが、ランカーらしく凛々しい人物だったと記憶していた。
紅く燃えるような髪に、我を通す強い精神。
様々な層から支持をされている反面、後ろめたいものがある権力者からは煙たがれている。
そんな人物が、家では義妹と一緒にお風呂へ入ろうと、奮闘しているとは思わないだろう。
なので、イニーはとても頭を痛めながら答えた。
「服で思い出したけど、イニーちゃんの部屋ってあんまり物がないよね」
「確かに服以外はほとんど何もなかったわね」
服だけは大量にあるイニーの部屋だが、それ以外のものはほとんどない。
学園の寮に居た頃はほとんど貰い物ではあったが、多少彩のある、少女らしい? 部屋であった。
その寮にあった物は全てアクマの異空間に収容され、取り出されることなく放置されている。
「あまり欲しい物もありませんからね。基本的に部屋は寝るためだけに使っているので、物は置かないようにしているんです」
「学園の寮にあった奴はどうしたの?」
「全部持ち帰って倉庫に置かせてもらってます」
イニーは流れるように嘘を吐き、マリンの質問を受け流す。
他意は無いのだが、アルカナの事をマリンたちに話す気はないのだ。
それからも他愛ない会話をしている内に時間は過ぎ去っていき、日が傾き始めた。
「あっ、もうそろそろ帰らないとだ」
スターネイルは時計を見て、夕飯の準備をしなければいけない時間になっていた事に驚いた。
「結構時間が経っていたわね……このままずっと居たいけど、帰れる時は帰ってくるように言われているのよね……」
マリンは溜息を吐き、スターネイルと一緒に帰り支度を始めた。
ふたりの手には服の入った袋がぶら下がっており、結局イニーに押されて持ち帰る事となった。
マリンは再びこっそりと下着を盗もうとしたが、スターネイルに睨まれてすごすごと諦めていた。
さっさと帰ってほしかったイニーは、まさかこんな時間まで居座られるとは思ってもみなかった。
男だった頃を含めて、初めて友人を実家に招いたイニーだったが、想像以上に疲れ、若い子の活力に驚くばかりだった。
「テレポーターまで距離があるので、送っていきます。転移なら一瞬ですからね」
「助かるわ」
マリンはスターネイルに目配りをし、何も言うなと牽制した。
まだイニーは知らなかったのだが、マリンはランカー待遇となったため、タラゴンなどのランカーが持っている簡易テレポーターを支給されているのだ。
なので、送ってもらわなくても問題ない。
だが1秒でも長くイニーと一緒に居たいマリンは、その事を言わないでいた。
マリンを家へと送り届け、別れ際にフードを取られて頬にキスをされるも、なんとかやり過ごす。
「今日はありがとうね」
「……はい」
ため息が出ないようにマリンの家から、今度はスターネイルの家に転移する。
「ねえ、少し良いかな?」
「なんでしょうか」
やっと楽になれると喜んでいるイニーを、スターネイルが小さな声で呼び止めた。
後で聞けば良いと思っていたが、なんとなく悪い予感がして、呼び止めてしまったのだ。
「イニーちゃんが墓参りしていた人って……誰なの?」
「姉ですよ。運悪く死んだ、何処にでも居る魔法少女です。それでは」
イニーはそれだけ言ってさっさと転移してしまった。
「死んだ……か」
スターネイルの脳裏に、ブルーコレットの顔が過る。
普通に考えれば、魔物との戦いで死んだのだろうと考える。
しかし、イニーの言い方にスターネイルは違和感を持った。
きっと魔物以外に殺されたのだろう。
そう思わせる何かがあった。
そして、この日がイニーにとって平穏と呼べる最後の日だった。