魔法少女がいく~TS魔法少女は運が悪いようです~   作:ココア@レネ

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ここから最終章となります。


魔法少女たちの終わりの始まり

「集まったわね」

 

 椅子の数が半分まで減った、魔女が拠点にしている会議室。

 日時は3月12日の正午。

 

「前置きなんて誰もいらないでしょうし、本題に入るわね」

「本題も何も、作戦なんて必要なの?」

 

 魔女の出鼻を挫くようにロックヴェルトがちゃちゃを入れるが、魔女は無視して、作戦の資料を投影する。

 

「イニーは私が相手して、楓は例の魔物の相手をさせるわ。後は好きな所を選びなさい」

 

 魔女の作戦……と呼べるほどのものではないが、作戦はこうだ。

 結界で地球と妖精界を隔離。

 各主要都市に魔法少女と魔物を送り込み殲滅する。

 

 だが実の所、魔女が星喰いを自らの手で倒して、汚染を広げれば終わりなのだ。

 

 こんな回りくどい事をする必要などない。

 

 ならば、何故こんな事をするのか?

 

 それは、破滅主義派となった魔法少女の憂さ晴らしの為なのだろう。

 

「私は魔女を見守るとするよ。どうせ戦えないからね」

 

 2番の席に座るリンネは最後まで魔女と共に居ると告げ、一抜けを表明した。

 

「なら私は日本を貰うね。運が良ければランカーもほとんど居ないだろうしね」

 

 魔女が隔離する時間次第では、地球に居るランカーの人数が少なくなる。

 

 一部の魔法少女はその結界すら超えてくるだろうが、結界を無効化されないように術式が組んである。

 

 一部の魔法少女を除いて一番戦力的に弱いとされている日本。

 

 3番の席に座るノートレスは、その一部の魔法少女と戦う為、日本を選んだ。

 

「ならアメリカは私が。少々リリウムナイトと因縁があるので」

 

 4番の席に座るロザンヌは目を閉じたまま決めた。

 

 リリウムナイトは、アメリカのランキング1位の魔法少女だ。

 

 武器となるのは剣だが、ランキング1位の名に恥じない強さがある。

 

 楓を古い魔法少女と呼ぶならば、リリウムナイトは今風の魔法少女だろう。

 

「じゃあ私は他で遊撃するか、ジャンヌが姿を現したら倒すわね」

 

 無視された事を若干根に持ちながら、最後にロックヴェルトが決めた。

 

 実質的に日本とアメリカの狙い撃ちだが、他の国はランカーが死亡したことにより、大幅に弱体している。

 

 魔物とロックヴェルトが、ちょっかいをかける程度で問題ないのだ。

 

「サクッと決まって良かったわ。それじゃあアンヘーレンプランの最終フェイズを開始するわ。皆、ご苦労だったわ」

 

 始まる前からの労いの言葉。

 

 作戦の結果に関わらず、彼女たち全員が此処に集まることはもうない。

 

 勝てば世界は滅び、負ければ死ぬ。

 

 それ以外の道はなく、生き残る道はない。

 

 始めからこうなると分かっていて、魔女に協力している。

 

 今は全員平然としているが、その身に宿す憎しみや怒りは相応に暗いものだ。

 

 終焉の日まで、もう間もなく……。

 

 

 

 

 

1

 

 

 

 

 

 会議は終わり、いつもの様にリンネと魔女だけが会議室に残った。

 

 

「リンネ」

「なんだい?」

 

 これ以上は作戦が始まるまで何もないと思っていたリンネは、少し驚きながらも返事をした。

 

「作戦が始まってから少し準備することがあるから、イニーの案内を頼めるかしら?」

「案内?」 

 

 魔女はリンネに最後の仕上げについて説明をした。

 その内容は少々呆れるものであったが、リンネが断りたいと思うようなものではなかった。

 

「分かったが。もしもその場で殺されたらどうするんだい?」

「向こうは私以外と戦っても疲労するだけだからね。利益を示せば納得するはずだわ。そうでしょう?」 

 

 魔女はイギリスでリンネが行ったことを遠回しに指摘する。

 リンネが渡した情報は魔女個人としては全く痛くないものだが、組織としては少しだけ問題があるものだ。

 

 前科があるので、大丈夫だろうと魔女は念押しをする。

 

「仕方ないね。順番通りに攻略させてあなたの所に行かせればいいんだね?」 

「ええ。それと、プレゼントを用意してあるから、渡しといてあげて」

「了解だ」

「それじゃあよろしく。準備が終わったら私は楓で遊んでるから、何かあったら連絡を頂戴」

 

 魔女は言いたいことを全て話すと、忽然と転移して消えてしまった。

 

 世界を滅亡させようとしているとは思えない、平穏な日常がそこにはあった。

 

 そして魔女はイニーやアクマの予想とは違う行動に出る……。

 

 

 

 

 2

 

 

 

 

 

「おはよう」

 

 なんの変哲もない朝。

 

 リビングに降りるとタラゴンさんが居た。

 

 テーブルの上にはサンドイッチと珈琲が置かれており、朝食を食べていたのが分かる。

 

 タラゴンさんの家なので、タラゴンさんが居るのは当たり前の事だが、この状況を普通だと感じ始めている自分が居た。

 

「おはようございます」

「朝食を食べるなら用意するけど、どうする?」

「いただきます」

 

 椅子に座り、小さく欠伸をする。

 いつまで経っても朝は頭が働かない。

 

(動きはまだないのか?)

 

『不自然なほどに静かだね。魔物の数は微量ながら減っているし、破滅主義派に加担していた指定討伐種も軒並み楓が処理しているよ』

 

 敵の主力は残っているが、それ以外はほとんど壊滅状態。

 

 しかし魔女と星喰い。この2つの要素が揃っている限り、こちらが負けている状態だ。

 

 何かしら仕掛けてくるのは確定だろうが、あまりにも遅いと感じる。

 

「はい。サンドイッチと珈琲よ」

「ありがとうございます」

  

 タラゴンさんのおかげで家の周りに雪はないが、山奥の方はまだ雪が残っている。

 

 空も晴れて……。

 

(ハルナ!)

 

 晴れてくれていると良かったのだが、せめて後5分位待ってくれよ。

 

「この感じは……まさか!」

 

 空の変化にタラゴンさんは驚き、窓を開け放った。

 

(何が起きたんだ?)

 

『この星……地球に結界が張られたみたい』

 

 それはまた厄介なことをしてくれる……。

 結界の中と外は、基本的に行き来することは出来ない。

 

 無理を通せば転移出来る魔法少女は居るだろうが、ほんの一握りだ。

 

 特に魔女の使っている結界は、妖精の奴よりも厄介なので、魔法少女全体で見て、十人もいないだろう。

 

(つまり、妖精界と遮断されたってことか?) 

 

『そうだよ。幸い結界内の転移は問題ないけど、妖精界とは全ての接続が遮断されてるから、救援はもちろん逃げることも出来ないよ』

 

「イニー」

 

 いつの間にか変身しているタラゴンさんが、真剣な眼差しを向けてくる。

 

「妖精界と完全に遮断されたようです。それと、間違いなく魔女の仕業でしょう」

「でしょうね。どう動くつもり?」

 

(魔女はどう動くと思う?)

 

『魔物と魔法少女による各国の蹂躙。それと星喰いの解放だろうね。タラゴンには他の魔法少女と連携して防衛に当たってもらうのが良いかな。私たちは先ず結界の解除を優先しよう。あからさまに誘っている感じの反応があるから、そこに行こう』

 

(説明どうも)

 

 しかし、最後の最後で突発的に仕掛けてくるとは……やはりアクマの予想は当てにならんな。

 

「残りのメンバーと魔物を使って攻めてくると思います。お……タラゴンさんは地球に居る魔法少女と連絡を取って防衛をお願いします」

「あなたはどうするのよ」

 

 いつもと変わらない口調。しかし、タラゴンさんの声は少しだけしんみりとしているように聞こえた。

 

「魔女の動向を窺いながら、結界の解除に当たろうと思います」

 

 もしかしたら、タラゴンさんと話すのはこれで最後になるかもしれない。

 

「そう……帰ってくるのよね?」

 

 タラゴンさんも、これが最後かもしれないと察しているのだろう。

 

 別れってのはいつも突然訪れるものだ。

 心構えなどさせてくれず、冬の太陽の様にあっという間に沈んで消える。

 

 それがどれだけ苦しいかは、俺自身がよく知っている。

 

 そして、下手な希望は更なる悲しみを生むこともな。

 

「一度は帰ってくるかもしれませんね。まあ、それも生きて戦いを終わらせることが出来ればですが」

「……嫌なら嫌って、無理なら無理って泣きついても良いのよ? まだ子供なんだし、楽しい未来だって……」

「大丈夫ですよ」

 

 泣きそうになっているタラゴンさんをそっと抱きしめる。

 

 半年程度の付き合いだったが、戸籍を始め色々と世話になった。

 出会いは正直ドン引きだったが、悪くないと今は思える。

 

 少しくらいサービスをしてやっても、罰は当たらないだろう。

 

「短い間でしたが、お世話になりました」

「全く……世話のかからない悪い子だったわね。――いつまでも待ってるから」

 

 タラゴンさんは儚げに笑い、俺を強く抱き締め返した。

 

 きっとマリンやスターネイル。ミカちゃんは悲しむだろうが、振り返ることはあっても、歩くのを止めることはない。

 

「……それでは、防衛はお願いします」

「任せない。お姉ちゃんが必ず守り抜いて見せるわ」

 

 中々離そうとしないタラゴンさんを引き剥がし、変身する。

 俺を一瞥した後、タラゴンさんは笑ってテレポートした。

 

(アクマ)

 

『これが本当に最後の戦いだよ。どんな結果になっても、ハルナに輝かしい未来は訪れない…………それでも、良いんだね?』

 

 今更そんなことを言われても、全く心に響かないな。

 

 仮にアクマに嫌だと答えれば、俺は憎悪に呑み込まれる。

 魔法少女になったあの日から、平穏な未来は有り得ないのだ。

 

(構わないさ。戦いの前に、リンゴジュースでも飲むか? もう飲めなくなるかもしれないぞ?)

 

『……勝った後の祝杯に取っておくよ。ハルナが死ななければ、異空間にしまってあるものは消えないからね』

 

(そうか)

 

 ふと、タラゴンさんに珈琲を淹れてもらってたのを思いだし、テーブルに置かれている、ぬるくなった珈琲を一気飲みする。

 サンドイッチも食べて、これで一応準備完了だ。

 

(エルメス)

 

『フルで使って10分程度ですね。それ以降は保証対象外です』

 

 切り札もとりあえず使えるし、フユネもシミュレーションで確認済みだ。

 

 不安要素はあるが、動かれた以上四の五の言ってられない。

 

(アクマ) 

 

『結解の要となっている場所が三カ所あるから、そこを順番に襲撃しよう。まだ星喰いは現れていないけど、出来れば現れる前にどうにかしたいね』

 

 結界の位置を教えてくる辺り、上手く事は運ばないだろうな。

 誘い込みなのか。はたまた遊んでいるだけなのか……。

 

 魔女にとってこの世界は、数ある遊び場の1つにしか過ぎない。

 

 此処が目当ての世界ではない以上、急ぐ理由も本気になる理由もないのだろう。

 

(そうだな。それじゃあ行こうか)

 

 杖を取り出し、いつもの三点セットの翼を魔法で展開し、いつでも戦えるようにする。 

 

 アクマに転移して送られたのは、山岳にある古めかしい舘の前だった。

 

 朽ち果ててはいないのと、雑草などがほとんどないので、人の手は入っていそうだ。

 

(人と魔物の反応は?)

 

『私の感知出来る範囲では反応はないね。いや、反応が現れたね』

 

 念のため軽く宙に浮かび、杖を構える。 

 

 舘の扉が開き、ひとりの魔法少女が姿を現した。

 

(殺すか?)

 

『待って、一応様子見をしよう。戦いとなれば魔力や体力を消耗しちゃうからね』

 

 舘から現れた魔法少女……リンネはイギリスの時と全く変わらない様子だ。

 個人的にはもう殺してしまっても良いと思うのだが、ここはアクマの提案に乗るとしよう。

 

「やあ、数週間ぶりだね。元気そうでなによりだよ」

「門番でもしに来たんですか? それとも殺されに?」

「魔女に案内をするように言われたのさ。私を殺しても良いが、その場合は手遅れになるよ?」

 

 どうやらアクマの言う通りに殺さない方が良いらしいな。

 死ぬか生きるかの瀬戸際だというのに、いい気なもんだ。

 

 一旦地上に降り、構えを解く。

 その様子をみたリンネは笑みを深めた。

 

「分かってくれたようでなによりだ。気づいているとは思うが、結界の起点となっている三カ所には、君にとっての試練が待ち受けている。その試練をクリアし、結界の起点となる魔石を壊せば結界は解除される」

「何故そんな回りくどい事を?」

「本人に聞いてくれ。それと、攻略するたびにプレゼントがあるそうだ」

「プレゼント?」

 

 気にはなるが、どうせ碌なものではないだろう。

 

「ああ。中身は見てからのお楽しみだ。なにせ、私も知らないからね。話は戻して、3つの結界を解除すれば妖精界との接続が戻り、世界各地に現れている魔物が消える設定となっている。その後はフィナーレだ」

 

 案の定魔物が放たれているか……。地球にどれだけの魔法少女が居るか知らないが、この言い方では急いだ方が良さそうだ。

 それに何が本当で嘘なのかは、今の状態ではわからない。

 

「そうですか。話はもう終わりですか?」

「相変わらずせっかちだね。最後にだが、この館に入れば別空間に送られるから、頑張ってくれ。私は外で待たせてもらう」

 

 リンネが館への道を開けたので、歩き出す。

 

 鬼が出るか蛇が出るか……。

 

(行くぞ)

 

『うん。負けないでね』

 

 館の扉を開け、中に入る。

 

 そこには、俺の全く知らない景色が広がっていた。

 

 

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