魔法少女がいく~TS魔法少女は運が悪いようです~ 作:ココア@レネ
「なるほどのう。こやつが破滅主義派の……お姉ちゃんの仇か……」
東北支部所属の魔法少女。
桃童子の意志を受け継いだ弟子にして妹。
自らに神の名を付けた珍しい少女。
そんな彼女の前には、魔物の群れとひとりの魔法少女が居た。
魔物の討伐を終えて帰ろうとした時に、地球を覆う結界が展開され次々と現れる魔物を倒している時の事だった。
魔女の3番の席を預かる魔法少女――ノートレス。
「あなたが桃童子の意思を継いだ魔法少女ね。分かっていると思うけど、破滅主義派の者よ」
「その様な者がわらわになにか用かえ?」
これまでのミカならば、格上を相手にすれば弱腰となっていたが、今は油断なく自分の武器である円月輪を桃童子の籠手で握り締めている。
ノートレスの元々の目的は桃童子と戦うことだったのだが、当の本人は既にいない。
ならばと選ばれたのがミカだった。
一応ミカはどこにでもいるような魔法少女なのだが、命を狙われるのはこれで二回目だ。
一回目は同じ東北支部の魔法少女から依頼を受けたロックヴェルトが。
そして今、桃童子の意思を継いだことにより、命を狙われている。
イニーとは違った意味で、ミカは運がないのかもしれない。
「戦いたかった桃童子の意思をあなたが継いだ。ならばやることは1つだけでしょう? あなた自身には恨みはないけど……死んでちょうだい!」
ノートレスはアロンガンテと同じ様な格好をしており、強化骨格の様なドレスにスラスターや銃口が付いている。
手には、刃の部分がビームとなっている大剣を持ち、魔物と共に襲い掛かってきた。
ミカは円月輪を振るって雷を放射線状に放ち、周りの魔物を一気に倒す。
倒せるのはB級程度までだが、それでも数を減らす事が出来る。
ノートレスは雷をシールドを展開して防ぎ、大剣をミカに振り下ろした。
ミカは身体を半身にして避けた後、ノートレスのドレスに付いている銃口から放たれた弾を避けるために距離を取り、近づいて来ていた魔物を斬り伏せた。
「雷円葬!」
円状にした雷を三つ身の回りに出し、回転させながら周りに放つ。
湧き始めていた魔物は真っ二つになったり、避けてたのもいるが、放っている雷によって感電して動きを止める。
ランカーと同等と言われている魔法少女を相手にしながら、魔物とも戦わければならない。
焦りが顔に出ないようにしているが、圧倒的に自分が不利だと理解している。
ノートレスはミカへと向かう魔物の間を縫うようにしながら接近して、大剣を振るう。
そしてミカが反撃をしようとすると、ドレスから魔法の弾を発射して反撃を封じる。
周りに魔物が居なければ、弾は籠手で弾いて、そこから反撃も出来る。
しかし、常に周りの魔物に気を配らなければいけない現状では、そんな深追いは自らの死を招く。
このままではジリ貧となり、近くない未来でミカはノートレスに斬り殺されるだろう。
(多少の無茶はやむを得まいか……)
ミカの奥の手。
それを使えば一時的にランカーと同等クラスの火力を手に入れる事が出来、更に桃童子の能力を使えば、一方的に嬲る事が出来る。
その分使用している間は常に身体中を焼かれ、長時間使用すれば命の危険すらある。
ノートレスを相手に温存して勝てるとは思っていないが、覚悟を決めなければ痛みで気が狂いそうになる。
「招雷・鬼神喪衣」
籠手に雷が迸り、ミカの全身に伝播する。
文字通り身を焼かれる中、ミカの目に映る世界が変わる。
視覚が聴覚が思考が。全てが人間としての限界を超え、ミカに全てを教える。
現在周りに居るのはS級が4体とA級が10体。
それ以外は放置しても問題ない。
下手にミカに攻撃すれば、ミカから溢れる雷によって焼かれるからだ。
振り下ろされる大剣を潜り、ノートレスの後ろに回り込む。
ノートレスはスラスターを起動させて、後ろに回ったミカと対峙しようとするが、その場にミカは見つからず、辺りを見渡す。
すると、次々と魔物が塵へと変わっていき、身の前に雷が落ちた。
つまらない戦いになると思っていたノートレスが口角を上げ、強化フォームになる。
辺り一面にビッドやシールドが現れ、ノートレスの周囲にも銃や剣と言った武器が宙に展開された。
「兵装展開。フルファイア!」
ミカの目がカッと開かれ、全方向から様々な攻撃が放たれた。
雷の様な速さでミカは攻撃を避けながら、ノートレスと斬り結ぶ。
周りの建物は次々に破壊され、爆発を起こす。
ノートレスはアロンガンテとは違い、接近戦を得意としている。
手数で追い詰めて逃げ場を塞ぎ、ビーム状の大剣や、ビームソードで斬り殺す。
このビーム系の攻撃は、切れ味は勿論の事、防御すると相手の魔力を減らす効果がある。
それを一度斬り結んで理解したミカだが、だからと言って攻撃の手を緩める事はしない。
ジリジリと焼ける身体の痛みを我慢し、好機となるタイミングを待つ。
「つまらない戦いになると思ったけど、中々やるじゃない!」
「やらなければ死ぬだけだからのう」
純粋に強い。
流れる汗を身体に走る雷が分解し、周囲へ四散する。
隙を作りたいが、ノートレスは隙らしい隙を見せない。
周りからは勿論、ノートレスのドレスからも魔法が飛んでくるため、接近しても攻撃を続けるのは難しい。
更に、周りから飛んでくるビームを防御しても魔力が減るので、ミカは動き続けることを強要されていた。
ミカひとりでは荷が重く、このままでは負けるのは必定だった。
逃げるだけなら可能だろうが、ノートレスを野放しにした場合の被害は計り知れない。
相打ちを狙うか、被害を諦めて逃げるか。
嫌な予感が脳裏を過り、戦える時間の限界が迫っている時だった。
空から三日月の形をした何かが飛来し、ノートレスが展開していたビットなどを次々と壊す。
「誰だ!」
「随分と楽しそうな遊びをしてるじゃぁないか」
空中から降りてきた人物はミカの前へと降り立ち、剣を鞘に納め、刀をノートレスへと向ける。
「ちっ。まさかあなたが現れるなんてね」
「南に居たなら違ったが、こっちを頼まれちまったからね。大丈夫かひよっこ?」
「……一応のう」
魔法少女ランキング7位にして、技量のみで空間すら斬り裂く境地へと至った異端の魔法少女。
ブレードがミカの窮地に現れた。
妖精界から次元を斬って地球に来たブレードは、アロンガンテから渡された地球に残っている世界各国の魔法少女が書かれている資料を渡した後、どう防衛するかタラゴンと話し合った。
そしてタラゴンは南から、ブレードは北から強力な魔物を優先して倒していこうと決めた。
北の方に移動している最中にミカを発見してちょっかいをかけたのだ。
ノートレスは追加で武装を展開するが、苦虫を噛み潰したような顔をしていた。
死ぬことについては既に覚悟を決めているが、何も傷跡を残せずに死ぬのは認められない。
今の状態でいくら魔物を使っても、ブレードに勝つのは不可能に近い。
「ブレード……あなたの求める物はもう無いのに、戦うと言うの?」
「私はあんたらみたいに、諦め切った奴らが嫌いなだけさ。それに、私にも戦い以外の趣味はあるんだぜ?」
圧倒的強者の余裕か? それともただの慢心か?
ブレードは自分から攻めようとせず、ノートレスが動き出すのを待つ。
――今のままでは勝てない。
ならばやることは一つだけだ。
(さてと、予定は変わったけど最後に大きな花火でも打ち上げましょうか)
ノートレスは魔女の薬を取り出し、一気に飲み干した。
何も知らないミカは勘でそれが危ないものと看破し、知っているブレードは片眉を上げた。
ノートレスの展開されていたビットが黒い四肢のあるロボットになり、ノートレス自身も黒い装甲が覆い尽くす。
「ほう、これが噂の薬か。ひよっこ。離れてな。いまのあんたじゃあ足手纏いだ」
「……分かったのじゃ」
ミカは先程よりも濃厚な死の香りが漂ってきたのを感じ、今のままでは足手纏いにしかならないと理解した。
出来るならばこのまま戦いたいが、既に身体の中はボロボロになり始めている。
ミカは招雷・鬼神喪衣を纏った状態で一気に距離を取り、戦いを見渡せる高所で休み始めた。
そして休み始めてすぐに、更に距離を取った。
ブレードやノートレスを侮っていた訳ではない。
だが、結界外でランカーが戦うと言う事を理解していなかった。
ミカが戦って居た時でさえ周りの建物はほとんど倒壊していたが、瞬く間に複数のクレーターが出来上がり、跡形もなく吹き飛んでいった。
ミカは目だけを強化してふたりの戦いを見守るが、少しずつブレードの異質さを理解していった。
今のノートレスは魔女の薬で強化され、普通の魔法少女では数百人束になっても勝てない位強くなっている。
それに対してブレードは、強化フォームにならず相手をしていた。
流石に自分から攻められるような状況ではないが、ほとんど傷を負うことなく攻撃を捌いていた。
(この人が、お姉ちゃんのライバルだった人……)
ミカは自分が魔法少女になる前、桃童子からライバルとなる魔法少女について聞いていた。
自分と同じく接近戦が得意な魔法少女であり、戦い以外に興味がないおかしな女性。
戦いとなれば全てを斬り裂く刃となり、それ以外では掴み所のない馬鹿。
出来るならば、本気で死合いたい相手。
最後のは小さく呟いただけなのでミカには聞こえていなかったが、今も笑いながら戦っているブレードを見ていると、胸の奥で燻る何かを感じた。
1
ノートレスの相手をしながら周りのロボットを壊していたブレードは、楽しんではいたが、面倒な相手だと内心思っていた。
逃げ場を塞ぐように弾やらビームやらが飛んできて、命を刈り取ろうと剣やロボットが突っ込んでくる。
防御したり攻撃をするたびに魔力を僅かながら抜き取られるので、このまま戦い続ければ先に倒れるのはブレードの方だろう。
(流石にこのままじゃあ無理か)
このまま強化フォームにならず勝てる見込みが全くないと、ブレードは溜息を吐いた。
「
ブレードの強化フォーム。
背中に八本の刀剣が現れ、ブレードの服が着流しに変わる。
元々装備していた剣と刀には文字の様なモノが浮かび上がり、まるで心臓の様に脈動していた。
「さて、久々に本気を出すか」
ブレードの姿が一瞬だけブレると、背中にあった刀剣が全て消え失せ、ノートレスが展開していた全てのロボットが爆発を起こした。
「本当に、私たち以上に狂ってるわね」
あまりの非常識な状況にノートレスは装甲の中で冷や汗を流す。
直ぐに新しいロボットを展開するが、全ての武装を遠距離のものに変えて、手数で攻めるように変えた。
そんな事はお構いなしに、ブレードは一息でノートレスの近くまで接近し、無造作に剣を振るう。
ノートレスは脚部の装甲からアームに繋がった剣を振るって対抗するが、吹き飛ばされてしまう。
スラスターで体勢を整え、装甲から魔法を放つが、ブレードは澄まし顔で剣を薙ぎ払い、全てを吹き飛ばしてしまう。
強化フォームに魔女の薬。
これほどの強化をしているはずなのに、不利なのはノートレスの方だった。
本気……とまではいかないが、これ以上は自我を保てるか怪しくなってくる。
「やるしか……ないか」
纏っていた装甲に幾何学的な紋様が浮かび、それが展開しているロボットにも伝播する。
禍々しい魔力が辺りに渦巻き、ブレードは少し不味いかもしれないと思い、果敢に攻め込む。
空間をも両断する一撃に対し、ノートレスは四本の剣を装甲から展開して応戦する。
先程の様に吹き飛ぶことはなく、剣は拮抗し、その間にブレードを魔法が襲う。
ブレードも八本の剣で応戦するが、一撃で壊すような真似が出来ず、ブレードはさっきまで戦っていたミカと同じく、攻め切ることが出来なくなってしまった。
だがこの程度ならば、まだ何とかなってしまう。
「神斬り」
心・技・体。全てを合わせた神をも殺せるかもしれない一撃。
距離を無視し、斬った結果のみを与える不条理の剣。
ノートレスは反応する間もなく横に真っ二つになる。
周りに浮いていたロボットは糸の切れた人形のように落下し動かなくなった。
ブレードは剣を鞘に納めず、ノートレスの死体だった物を眺める。
「……面倒な相手だ」
ブレードが再びノートレスに剣を振るおうとすると、周りのロボットが一斉に襲いかかった。
掠り傷を受けるも、全てのロボットを瞬く間に破壊するが、その間にノートレスは何事もなかったかのように復元していた。
魔女の薬を飲んだものの末路。
前情報があったから見破れたが、知らなければ手痛い反撃を受けていただろう。
今のノートレスの死とは塵になることだ。
死体が残ることはあり得ない。
ノートレスとブレードの戦いは、新たな局面を迎えようとしていた。