魔法少女がいく~TS魔法少女は運が悪いようです~ 作:ココア@レネ
「私は間違っていたのかもしれない」
本の出だしには、そう書かれていた。
『私はただ平和な世界を願っていた。魔物を倒し、人のためと思って戦ってきた。それなのに、待っていたモノがこれだと言うのだろうか? アリスがスノーがクレハが……皆殺されてしまった。味方だと思っていた…………私が悪いと言うのならば、それも人々の選択なのかもしれない。それでも……それでもこの想いが本物だとするならば、私は私が守った人たちを殺さなければならない。しかし、それでは今まで犠牲になった仲間たちの想いは…………これが運命だとするならば、私はそんなものを許容することは出来ない。世界が望むと言うのならば、私が全てを破壊してやる。私はあの魔物を知ることが出来た。ならば、きっと可能なはずだ。たとえ何千何万もの年月が掛かろうとも、必ず成し遂げてみせる』
本……この場合は手記と呼べるものが読み終わった。
内容的に魔女が書いた物みたいだな。
平和を望んで戦ってきたのに、最後は裏切られて仲間も失い復讐を誓う。
ありきたりだが、その悲しみや苦しみは本人にしか分からない。
何を思い魔女がこれを俺に見せたのかは分かりやすいが、俺は端から人類の為に戦っていない。
世界には最初から絶望し、エルメスによって生かされていただけだ。
人類が俺を敵と見定めたとしても、この命が尽きるまで戦い、ひとりで死んで終わりだ。
(この手記は本当にあったことか?)
『うん。私が知っている内容と一緒だよ。始まりにして終わりを齎そうとしている魔法少女。悲しみが生まれないようにするため、全てを無に帰そうとしている悲しき人。間違っているのは私たち側なのかもしれない。けど、魔女の行いを許すことは出来ないんだ』
(そうか)
『……何も言わないんだね』
(世の中が腐っているのは、姉を殺された俺が一番良く知っているからな。理解や同情はしても、手を取る気は無い)
魔女の居た世界が此処と同じく想いの強さが反映されるなら、星喰いを倒せるレベルの魔法少女が更に強くなった事になる。
その事が正式に分かったことだけが収穫だろう。
文面的に魔女は星喰いと戦った事により得たものがあったようだが、それが戦いのキーになりそうだ。
さて、消耗は回復魔法でどうにかなったし、次に行くとしよう。
手記をアクマにしまって貰い、館の外に出る。
宣言していた通り、リンネが待っていた。
「やあ、出てきたって事はクリア出来たようだね。プレゼントは何だったんだい?」
「手記ですよ。魔女が魔女になる前に書いたと思われるね」
「あれか……人類は利己的な判断で邪魔となった者を排除する。特に特別な力を持った者は真っ先に選ばれる。英雄や勇者なんて物は、成熟した世界にとっては異物でしかない」
「だから存在そのものを、人類を滅ぼすと?」
極論だが、悲しむ人間が端からいなければ悲しみは生まれない。
その代わり人類自体がいなくなってしまうが、魔女にとっては関係ないのだろう。
なにせ、人類に対する復讐もあるのだろうからな。
「ああ。この行いがただの八つ当たりだと理解しているが、人なんてそんなモノだろう?」
「そうですね。自分の事だけを優先し、従わない者や脅威となる者は徹底的に排除する。ですが、まともな人も居ます」
「そうだね。君の所のアロンガンテが良い例だろう。さて、雑談はここまでにして、ここでイニーにひとつ情報をあげよう。他の二か所を破壊するには私が必要だよ。良かったね。私を殺さないでおいて」
…………アクマに従っておいて正解だったな。
魔女は初めからリンネを殺す気は無かったのだろう。
今になってこの情報を俺に教えたのは、ただの嫌がらせだろう。
「分かりましたが、逃げるなんてことはしないですよね?」
「そう頼まれているからね。転移はこっちでしてあげるから、近くに来なさい」
「……分かりました」
罠の可能性もあるが、今となっては疑ったところで時間が無駄になるだけだ。
リンネに近付くと地面に魔法陣が展開され、浮遊感が襲ってきて景色が変わる。
目の前には白を基調とした建物があるが、色褪せて古ぼけている。
血痕と思われる黒い汚れが微かに残っている様に見える。
「着いたよ。此処は昔の研究所。分かりやすく言えば施設だったのだが、私たちが滅ぼしたんだ」
リンネたちが自発的に滅ぼしたってことは、おそらく魔法少女の研究をしていたのだろう。
リンネが建物に触れると、建物全体に幾何学的な紋様が浮かんだ後、音を立てて崩れ去った。
どうやらリンネが言っていたことは、本当のようだな。
「解除したよ。クリア出来るかは知らないが、健闘を祈るよ」
「そうですか」
研究所らしく扉は自動ドアとなっているが、扉の前に立っても反応はない。
横に引くと思ったよりも軽く動き、中へと足を踏み入れる。
(まただね)
『ああ』
研究所の中に入った筈なのに、何故か外に居る。
一ヶ所目と同じ魔法が使われているのだろうか?
(此処が何処だか分かるか?)
『……多分、初めて私が魔女と邂逅した世界だと思う』
初めてか。今回は誤作動ではなく、正常に動いているようだ。
だが、正常だからこそ問題が出てくる。
(解除のキーは魔女側とアルカナ。どちら側だと思う?)
『――魔女の性格を考えるならば、アルカナ側だろうね』
前回はソラたちを助けるのが解除のキーだと推測すのは簡単だったが、あの手記を読んでから此処に送られたとなれば、話が変わってくる。
魔女は俺に戦う意味があるのだろうかと、問いただしてきている感じがする。
ならば、今回の解除条件はアルカナの契約者と戦い、殺す事だろう。
確証はないが、そう仕組まれている気がする。
下手にアルカナの契約者の前に姿を現せば、襲われてしまうだろうな。
何の説明もなしに放り込んでくるあたり、殺す気はちゃんとあるのだろう。
(この世界に居たアルカナは誰だ?)
『私とイブだよ。初めの頃は機械的に動いていたとは言え、能力自体に差はないから強敵だよ』
(なるほど。因みに魔女はどうだったんだ?)
『この世界では薬や破滅主義派なんてものはなかったけど、魔物の物量に押しつぶされた後、魔女に軽く殺されてしまったんだ』
無難な手だが効果的だな。
アルカナは強力だが、時間制限があり、魔法少女ならば魔力に限界がある。
アルカナによる供給があるとはいえ、俺みたいに副作用無しには無理だろう。
初めてと言っている事もあり、魔女も確実な手を選んだんだろうな。
俺が魔女だったとしても、最初の一戦は必ず勝てるように策を巡らす。
おそらく、アクマが言った魔物なんてものは存在せず、消耗の無い状態で戦わなければならないように設定されていると予想出来る。
だが、魔法少女相手ならばどうとでもなる。
手札を切ることにはなるが、代えが利くものだ。
(戦いがあった場所までの地図を頼む)
『了解』
空を飛び辺りを見渡すが、少しSFチック……俺の世界よりも科学が進んでいる様に感じるな。
背の高いビルなどがほとんどないのは俺たちの世界と同じく、魔物の被害を気にしてだろう。
建物の倒壊は二次災害を引き起こすからな。地下は地下で危ないが、空よりはマシだ。
アクマの案内に従い、空を飛んで辿り着いたのは、俺の世界で言う北極だった。
俺が知っているのは氷に囲まれた世界なのだが、この世界では何もない荒地となっている。
『此処だよ。突然大量の魔物の反応が現れてさ。私たち以外の普通の魔法少女たちも頑張ったんだけど、最後に立っていたのは私とイブの契約者だけだった。そして魔女にあっという間に殺されて逃走したんだ』
地上に降り立つが、戦いの痕跡の様なモノは見当たらない。
つまり……。
「あなたが魔女ですね」
俺の後ろにふたり分の足音が聞こえ、声を掛けられる。
まあ、そうなるよな。
ある意味、この状況は起こり得る未来の出来事なのかもしれない。
「違う……と言っても信じないのでしょう?」
「あなたからは邪な気を感じるわ。たとえ魔女じゃないとしても、敵であることに違いないわ。それに…………普通じゃないみたいだしね」
邪……
少し言葉に詰まったのは、アルカナに何か言われたからだろう。
まだ柔軟な思考が出来ない状態で、俺も契約者と言っても信じてくれるはずもないだろうな。
赤い髪と青い髪のふたりが俺を睨みつけてくる…………油断はしてくれなさそうだな。
(ふたりの情報をくれ)
『赤い髪が私の契約者で、剣を主体とした接近戦をしてくるよ。アルカナを解放すれば剣をあちこちに召喚し、使い捨てにしながら強力な一撃を繰り出してくるよ』
純前衛か。武器の使い捨てってのは躱せるのなら良いが、防ぐとなると結構厄介だ。
全力で防ごうとしたら武器を捨てられ、体勢を崩した所に違う剣でズドン。こちらが攻めている内は良いが、防戦となったら厳しい戦いとなるだろう。
(もうひとりの青い髪は?)
『イブの契約者で、ハルナと同じく様々な魔法を使うよ。アルカナを解放するとノータイムで無数の魔法を使いながら、肉弾戦も仕掛けてくるよ』
どちらも1対1ではなく、多数を相手するような能力だな。
そのくせ火力も高いのだろうから、通常時なら戦いたくない相手だ。
だが、そんな甘い事も言ってられない。
「あなたのせいで……死になさい!」
イブの契約者の後ろから大量の魔法が現れ、俺に向かってくる。
初手から殺意が高いが、俺を魔女と誤認しているのならば、仕方のない事だろう。
(仕事の時間だ。行くぞ、フユネ)
『紛い物とは言え、また殺すのね。殺されないように頑張りなさい』
白いローブが黒く染まり、ドレスへと変化する。
両手に現れた剣で魔法を薙ぎ払うと、目の前にアクマの契約者が居た。
「その目。その雰囲気。やはり魔女のようね。私たちの未来の為に、死になさい!」
殺意が身体を貫くが、それだけ強い感情の込もっている剣では、見切る事は容易い。
袈裟斬りをギリギリで避け、左の剣でアクマの契約者を吹き飛ばす。そこに放たれる魔法を右の剣で薙ぎ払った後に、右の剣で斬撃を放つ。
「これが魔女……ナンバー15。
「私の魔法が……でも、負けるわけには! ナンバー2。
おかしな単語が聞こえたが、そう言えばアクマは一度名前を変えたとか言っていたな。
(デーモンね。確かに悪魔なら呼び名はそうなるわな)
『無駄口叩かないで、ここからが本番だよ。足を止めたら死ぬと思った方が良いよ』
(はいはい)
気を引き締めた瞬間、魔法が降り注ぎ、剣が地表を覆う。
更に左右にふたりの気配を感じる。
火力も手数も凄まじいが、相手が魔法少女であるのならば、俺は十全に戦える。
「魔絶・朧返し」
適応の能力を剣に込め、イブの契約者が放った魔法をふたりに弾く。
弾くたびに魔法に込められた魔力を感じ取れるようになり、効率が上がっていく。
アクマの契約者が魔法の中を突き抜けてくる。
両手に握られた剣を振るい、憎しみが込められた目を向けてくる。
譲れないものがあり、その為に信念を貫く意志。
これを踏みにじり、魔女は勝利を収めた。
そして今、俺も同じ事をやろうとしている。
剣を弾き、新たに掴もうとする剣を斬撃で吹き飛ばす。
行動に迷いが生まれたのを見逃さず、腕を斬り飛ばす。
首には少し間合いが遠かったな。
「――――ぐぅ」
「アイラ!」
アクマの契約者はほとんど悲鳴を上げず、傷口を押さえながら距離を取った。
追撃をかけようとするも、間にイブの契約者が割り込み地面を抉り取る。
(治療は使えるのか?)
『……使えないよ。でも、魂を転化して肉体に置き換える事ができるよ』
アクマの話を聞いている内に、アクマの契約者は新しい腕を生やしていた。
なるほど。あの場で引いたのは回復出来るからか。
次は確実に止めを刺さなければな。
「来なさい。次は確実に殺しますわ」
殺気を感じることは出来るが、殺気を出すというのはよく分からない。
きっと、このふたりが感じているのは畏怖なのだろう。
殺す事は目的ではない。
俺にとってそれは、あくまでも結果なのだ。