魔法少女がいく~TS魔法少女は運が悪いようです~ 作:ココア@レネ
「無事に帰ってこれたようだね」
研究所の外には先ほどと変わらず、リンネが待っていた。
だが、隣にひとり増えている。
男としては、あまり直視するのはいただけない格好の魔法少女。
ついでに幾度となく相対している人物でもある。
不機嫌な顔を隠そうとせず、ブスッとしている。
「増えてるようですが?」
「ひとりで待たされるのは暇だから呼んだんだ。ジャンヌを強襲しようとしたら、リリウムナイトに邪魔されたせいでこんな感じさ」
リリウムナイトは確かアメリカの1位だったな。
薬を使ったとしても厳しいと感じて撤退したのか。
そしてリンネに呼ばれて此処に居ると。
リンネと違い喧嘩を売ってもいいが、せめて次をクリアしてからだな。
多少良くなったが、まだ頭が少し痛い。
「なによ?」
「いえ。なにも」
ガンを飛ばされるが、小娘に睨みつけられても怖くはない。
まあ、見た目から年齢を察することは出来ないが、多分20歳前半位だろう。
リンネが苦笑いしているが、此方としてはリリウムナイトに倒されてくれた方が助かったのだがな。
「此処のプレゼントは何だったんだい?」
「前と同じく手記ですね。アルカナを敵と定めたり、あなたの様な協力者が現れたことについて書かれていました」
自分が本当に正しいのかを確認するための相手。
自分が間違っていれば負けるし、正しければ勝てる。
力こそ正義とはよく言ったものだが、実際にその通りなのだろう。
この世界もだが、力がない者はいくら声を上げたとしても、力ある者に届く事は無い。
姉を殺した魔法少女たちが、処罰されること無く過ごせていたのが良い例だろう。
あの時は人手不足と言うのもあったが、あいつらの代わりになれる存在が居れば話は変わったかもしれない。
「なるほど。力無き者が語る言葉に意味は無し……だったかな。勝者が正しく、敗者が間違い。魔女のやっている事は、今は悪と判断されるかもしれないけれど、これから悲しみを背負う事になる者にとっては正義だろう。なあ、ロックヴェルト」
「……さっさと滅んでしまえばいいのよ」
リンネから貰った資料にはロックヴェルトの事も掛かれていたが、確か研究所で拾ったって書いてあったな。
能力の選別をする実験で産まれたとかなんとか。
研究所を破滅主義派が破壊し、その時に生き残っていたのがロックヴェルトだ。
恨みを持っているのも頷ける。
「ひとりで勝手にやる分には構いませんが、周りを巻き込むのは道理に反するでしょう。権力が無く、政治的に弱かった魔女の落ち度ではないですか? 力があったのならば、相応の対処も出来たはずです……って答えれば満足ですか?」
「ふっ。本音はどうなんだい?」
「当事者だけを皆殺しにして、さっさと上に立てば良かったんですよ。悩む末に周りを巻き込むのなら、耳と目を噤んで孤独に死ねば良かったんですよ」
それはそれ。これはこれ。
全てを破壊しようなど考えずに、自分たちの世界だけで完結してくれれば全員平和だったのにな。
俺としてはありがたかったが、これを言うと怒られるので黙っておく。
「そっちは困るかもしれないが、恨みを持っている者からすれば魔女は救世主さ。屑共に苦労させられるくらいならば、いっそ滅んだ方が平和だろう」
「何もない状態を平和とは呼びませんよ。それよりも次です。時間は敵でしかないからね」
世界中に魔物が現れており、さっさと結界を解かなければならない。
ここまで回りくどいことをしている理由は分からないが、遊んでくれているのならば、その間に勝ちを拾うだけだ。
「そうだね。ロックヴェルトを呼んだお詫びに、次の移動は此方でしてあげよう。頼んだよ」
「はいはい」
ロックヴェルトが手をかざすと、人がひとり通れる程度の黒い空間が現れる。
罠臭いが、現れるやいなやリンネは空間に入ってしまい、後を追う以外の選択肢がなくなる。
「……早く入りなさい。今は何もする気はないわ」
「そうですか」
急かされたので黒い空間の中に入ると、廃墟の広がる場所に出た。
その後直ぐに強い不快感が襲ってきたが、リンネが魔法陣を展開すると治まった。
(今のが何か分かるか?)
『高濃度の魔力。汚染された魔力だよ。そして此処は……』
「辛かっただろう?」
アクマが全てを言いきる前にリンネが話し掛けてきた。
「……ええ」
「此処は、かつて世界の希望があった。そして、絶望を生み出した。まあ、魔女曰く定められた運命だったみたいだけどね。ようこそ――北極へ」
風が吹き抜け、寂しい音を奏でる。
50年前と明らかに違う風景。
昔なら氷だけの世界の筈なのに瓦礫が転がり、溶岩や草木などが混在している。
普通ならばあり得ないが、魔力がもたらしたのだろう。
ロックヴェルトも現れ、黒い空間が消えた。
「そんなことはどうでも良いので、要は何処ですか?」
「普通ならば驚くと思うのだが、君は相変わらずおかしな魔法少女だね。少し移動するから付いてきたまえ」
リンネの後ろに続き、北極の氷原を歩く。
50年程前に此処では、新たなエネルギーを生み出す研究をしていた。
当時の記事は全て禁忌とされ、事故が起きてからは民間に北極の様子が知らされる事は殆どなかった。
この魔力汚染のせいで近づくことが出来なかったのも一因だろうが、こんなに変わり果てて、魔物が徘徊する状態の北極を教えても良いことは何もない。
管轄は楓さんだったらしいが、この魔力汚染の中で動ける魔法少女に一任して放置しておくのが、情勢的に見て一番マシだったのだろう。
「君はどうしてこんな回りくどい事を魔女がしていると思う?」
「さあ。私に世界を見限ってほしいからですか?」
「ふむ。小さいのによく理解しているみたいだね。君の中にもあるのだろう? 憎しみや絶望。苦しみや嫉妬といったものが」
あるにはあるが、完全に俺から分離し、既に人格まで芽生えている。
今も虎視眈々と俺の身体を乗っ取ろうと手ぐすね引いて待っている。
「確かにありますが、周りを巻き込んでまで何かをしようとは思いませんよ」
魔女が存在している間は、俺から巻き込む事はない。
「そう冷静にいられるのがそもそもおかしいのだがね……イギリスで見せた姿は随分重いようだったが?」
「あれはちょっとした気の迷いですよ。既に和解しています」
「和解……まるで話が出来るように言うが、魔女とは違うみたいだね。さて、目的地が見えてきた。あそこが、魔力が生み出された場所だよ」
建物……と呼ぶにはあまりにも悍ましい風貌。
肉と鉄が融合した壁には、人の顔の様なものが浮き出ているだけではなく、蠢いて何か言葉を発している。
当時の人か、或いはただの模様か。
(あれはなんだ?)
『……生体反応があるね。ただ、意思のようなものが感じ取れないから、魂だけを縛り付けられているんだと思う』
今一分からないが、実際に生きているわけないってことか。
「酷いものだろう? まあ、今回用があるのはこの奥だ」
薄気味悪い建物の合間を通り抜けると、光沢のあるドーム状の建物が現れ、リンネが触れると研究所の時と同じ事が起こる。
「この中に例の魔物が封印されていたのだが、楓を出し抜いて今はこちらの手の中だ。魔女が此処にどんな置き土産をしたのか知らないが、どうか戻らないことを祈るよ」
ここで無事を祈られても困るが、ここさえ終われば殺しても問題はなくなる。
もしくはクリアすると共にどこかに飛ばされるかもしれないが、その時は諦めるとしよう。
ここが終われば、後は魔女だけ……。
(星喰いはどうなっている?)
『地球上にはいないね。星喰いが解き放たれたらどこだろうと知ることが出きるから、そこは心配しないでね』
(そいつは良かった)
どこで誰が戦っているかは知らないが、最後は俺と楓さんでないといけない。
「……こんな世界を守ることに、意味なんてあるの?」
ドームの扉に手を掛ける寸前で、ロックヴェルトが問いかけてきた。
そうだな、最後になるかもしれないし、少しおちょくってやろう。
「無いですよ」
「なら!」
「正直な話ですが、私はどうなっても構わないんですよ」
振り返ると薄く笑っているリンネと、怒りを露わにしているロックヴェルトの顔が目に入る。
「世界が続くなら続くでいいし、滅ぶなら滅ぶで構わない。魔女との戦いで私が死ぬとしても、それはそれで面白い」
面白い戦い……心が震える様な、楽しい戦いが出来るのならば結果など何でも構わない。
死んで欲しくない人や、恩位は返しておきたい人も居る。
しかしそれらの人が死んだとしても、細事でしかない。
俺の欲望が、心が満たせるのならば、なんだってしてみせよう。
最低限の良心とエルメスやアクマの戒めはあるが、俺の本質は変わらぬままだ。
「ただの自己満足か……魔女よりも酷い動機だね」
「そんな理由で…………」
「魔女や楓さんの様な動機は私には何もないんですよ。私は、ただ戦えればそれで満足なんです。私があなたたちの敵なのは、この方が沢山戦えるからです」
若干嘘も交じっているが、これが全てだ。魔女側では勝ったとしてもそこで終わりだが、アルカナ側なら負けるまで戦い続ける事が出来る。
アクマが居なければ魔法少女になることはなかったが、そのことは置いておく。
「お前は!」
ロックヴェルトは剣を取り出すが、リンネが手で制した。
「此方から手を出すのはいけないよ。それよりも、早く入った方が良いんじゃないかい? 時間は敵にしかならないんだろう?」
ロックヴェルトと違い、リンネは随分と落ち着いたものだ。
年の功か、俺がおちょくっていることが分かっているのだろう。
「……そうですね。それでは」
扉を開けて中に入ると、見たことの無い場所に出る。
床は氷原から荒地となり、扉も消えて戻る事も出来ない。
これまでと一緒ならば、何かしらの解除条件があるのだろうが……。
(どこだかわかるか?)
『直ぐに該当する場所は出てこないね』
建物や目印になりそうなものは見えず、岩くらいしか見えない。
流石に分かる筈もないか。
先ずは移動するか。方向は……適当で良いや。
空を飛び、太陽を見て方角を確認し、ザックリと北の方に進む。
あくまで地球ならばとなるが、仮に間違っていてもその時はその時だ。
(……瓦礫はあるが、人の気配がないな)
体感で10分程飛ぶが、風景は何も変わらない。
人の住んでいそうな場所も見つからず、魔物が跋扈しているだけだ。
『うん。それと、魔力濃度も汚染までとはいかないけど、かなり高いね。索敵はやっぱりほとんど出来ないけど…………待って。魔力の反応があったよ』
(とりあえず向かってみるか。方向は?)
『10時の方向だね。視界に矢印を出すから、その方向に向かって』
(了解)
進路を変更して、言われた方向に飛んで行く。
出来れば人であって欲しいが……。
数分程飛んでいると、魔法と思われる炎が遠目で確認できた。
『人みたいだね。どうする?』
(どうするも何も、先ずは話を聞くしかないだろう。攻撃を仕掛けてくるなら、その時は殺さない程度に痛めつけてからだな)
殺しさえしなければ、大体どうにかなるのが回復魔法の良い所だろう。
下手な手加減もしなくて済むし、怪我をさせることに対して罪悪感も殆どない。
とは思ってみるものの、どう声を掛けるかな……。
先ずは上空に魔法でも撃って、俺の事を知らせるか。
「
ポップコーンが弾ける様な音が出る炎弾を放つと、此方に勢いよく振り向いた。
敵ではないことを知らせるため、両手を上に上げながら地上に降りる。
赤い髪に鋭い目つき。武器は大剣が……。
見た目が誰かに似ている気もするが…………先ずは話を聞くしかないか。
「少し話を聞きたいのですが、よろしいでしょうか?」
「その前に所属と名前をお願いします。言えないのなら……」
大剣をこちらに向けて威嚇してくるが、問答無用で攻撃をされなくて良かった。
しかし、所属と名前か……
(どうする?)
『そのまま言うしかないんじゃないかな。妖精局所属のイニーフリューリングって』
それしかないか。これで言い返されると面倒だが、黙っているよりは印象は良いだろう。
「妖精局所属のイニーフリューリングです」
「妖精局? そんな局は存在しないわよ。嘘を言うならもう少しマシな嘘を言いなさい!」
「……妖精局が無い?」
妖精がいない世界なのか……もしくは無くなったのか。
初手から下手を打ってしまったな。
「そうよ。もう何百年も前に人類との争いでこの世界からいなくなったらしいわ。まさか、過去から来たとか言わないわよね?」
「その前に質問ですが、あなたは魔法少女と呼ばれる存在ですか?」
「見れば分かるでしょう。それで、そんな怪しい風貌をして嘘を言ってるって事は、倒されても文句はないわよね?」
妖精界は無くなり、魔法少女は居る。俺の世界と似た世界なのか、それとも違う世界線なのか、あるいは……。
(どう思う?)
『まだ何とも言えないけど、それより目の前の魔法少女をどうにかした方が良いんじゃない? やる気満々みたいだよ?』
面倒だが、相手をするしかないか。
強者特有の圧もないし、第二形態になってさっさと倒してしまおう。