魔法少女がいく~TS魔法少女は運が悪いようです~   作:ココア@レネ

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魔法少女の誘惑

「お疲れ様です」

「……ちっ」

 

 集落ことミトスで用心棒(門番)の真似事を始めて2日経った。

 

 飯は不味いし風呂すらない劣悪な環境。

 挨拶も舌打ちで返される。

 

 酷い目にあったから排他的になるのは分かるが、やっている事は自分たちが嫌っていた人間と同じだと気付いているのだろうか?

 

「調子はどう? なんて聞く必要もないか」

「どうも。今日はこのまま私と一緒ですか?」

 

 俺の監視役として付いている、元魔法少女らしいフランさん。

 この二日間でミトスの事を色々と教えてくれたが、一言で言えば酷いとしか言いようがない。

 

「ええ。あなたもこんな空気の中居るのは嫌でしょう?」

「そうですね」

 

 周りの空気が悪くてもアクマやエルメスと会話が出来るので苦ではないが、アルカナの事は伏せてある。

 

「みんな態度が悪くてごめんなさいね。言ってはいるんだけど、中々聞き入れてくれないのよ」

「構いませんよ。初めから期待などしていませんからね」

「……そう。今更だけど、あなたの能力ってなんなの?」

 

 そう言えば一度も聞かれていなかったな。

 馬鹿正直に答える必要もないし、回復魔法のことは黙っておこう。

 

「4つの属性魔法が使えます」

「――もしかして、お湯とか出せたりするのかしら?」

 

 その事に思い至る当たり、馬鹿ではないようだな。

 

 風呂について聞いて出されたのが、水の入った桶とタオルだったからな。

 女性としてはちゃんと風呂に入りたいのだろう。

 

「情報量は高いですよ?」

「チビの癖にちゃっかりしてるじゃない。何が欲しいの?」

「フランさんが魔法少女だった頃の話でどうですか? 面白い内容でしたらキンキンに冷えた水も追加しますよ」

 

 草木が生えていないせいで昼間は暑く、夜は寒い。

 砂漠ほどではないだろうが、寒暖差が激しい。

 

 こんな暑い日に入る熱々の風呂は、さぞかし気持ち良いだろう。

 

「そんなに大した話じゃないし、もう数十年も前の話だけど構わないかい?」

「はい。暇つぶしの代わりですから」

「そうかい。まあ、風呂のために話してあげるよ」

 

 フランさんが魔法少女を辞めてここに流れ着いた話。

 

 フランさんはエデン所属の魔法少女であり、魔物の討伐や資源の確保。

 アルカディア所属の魔法少女との闘いなどをしていた。

 

 エデンは5つの階級で区切られ、そこから更に魔法少女内での階級がある。

 

 資源に限りがある以上その分配には差異が出てしまうのは仕方のない事なのかもしれないが、地球再生を謳っている癖に内情はドロドロだ。

 

 贅沢をすることしか考えない支配層。それを良しとしている、魔法少女の最高戦力であるナンバーズ。

 奴隷階級を足蹴にする魔法少女。

 

 そんな生活に嫌気が差し、逃げたのが20歳の時だ。

 

 しかし、ただ逃げ出しただけでは追手によって連れ戻されるか殺されるので、フランさんは一計を講じた。

 

 どうやらこの世界では任意で魔法少女を辞めることが出来るらしい。

 つまり、魔法少女を辞めてから逃げ出し、死にかけていたところをリカルドさんに拾われたらしい。

 

 フランさんは魔法少女だった頃、中堅位にいたので、それなりの教育を受けていた。

 

 その知識を生かし、ミトスで生計を立てている。

 

 エデンにいた頃とは違った辛さがあるが、管理された糞みたいな生活よりはマシだそうだ。

 

「フランさん以外に、元魔法少女とか居るんですか?」

「他は知らないけど、ミトスには私以外に居ないわね。逃げ出しても普通は魔物に襲われるのが関の山だから、私は運が良かったよ」

 

 どちらの方が良いとは一概に言えないが、ミトスの街並みを見た感じ、結構ギリギリのように感じた。

 

 一度悪い方に転べば、そのまま崩壊してしまうだろう。

 

「あまり良い状況ではなさそうですね」

「まあね。噂だけど、アルカディアは宇宙開拓に失敗し、エデンも作れる資源の限界が近いそうだ。近い内に大きな戦いが起こるだろうね」

 

 フランさんは大きく溜息を吐き、空を見上げる。

 

 ここも僅かだが、食料や水がある。

 

 その僅かな食料などを奪うため、どちらかの戦力が襲ってくる可能性は高い。

 

 そうなれば、ほとんど戦う戦力の無いミトスは滅びるだろう。

 

「リカルドさんが言っていた、アンヘーレンとかは助けてくれないのですか?」

「ミトスに戦力があれば助けてくれるだろうけど、見ての通りさ。戦う戦力を持たない私たちは、嵐が過ぎ去るのをただじっと待つしか方法がない。たとえ、未来が無いとしてもね」

 

 アンヘーレンはエデンやアルカディアを襲い、物資を強奪しているそうだ。

 そして奪った物資は仲間たちや、仲間たちが所属しているミトスの様な集落に分配している。

 

 他にも魔物の討伐や、集落の開拓なんかもしているそうだ。

 

 その援助を受けられるのは戦力や、何かしらの援助を出来る集落だけだが、こればかりは仕方ないだろう。

 

 どこも裕福とは言えず、なんとか食いつないでいるのだからな。

 

 フランさんの話は中々為になったが、分かったのは幸せな未来を手にれるの不可能だという事だ。

   

 共倒れになるか、勝った方が全てを手に入れるのか。

 

 もしくは第三者が介入して何かを成すのか……。

 

 朧気ながら何をすれば良いのか見えてきたな。

 

(魔女が望むのは何だと思う?)

 

『エデン。アルカディア。アンヘーレン。どの勢力に加担するか、それとも独自で動くのか。この4択かな?』

 

(おそらくな。それと、残された時間は1週間もないと思うから、どれを選ぶにしても急いだ方が良い)

 

 流石にこんな所で一ヶ月も居させるなんて事は、流石の魔女もしないだろう。

 魔女は俺を殺す気では居るが、無意味に殺そうとはしていない……筈だ。

 

 ならば区切りよく、十日か二十日位で区切ってくるはずだ。

 

 なので十日を目途に行動を起こせば、とりあえず大丈夫だろう。

 

『判断はハルナに任せるよ。出来ればあまり心が痛まない判断をしてね』

 

(それは無理だろうな)

 

 どの選択をしても、やるのはただの人殺しだ。

 それもこれまでとは違い、相手を選ぶことなく殺さなければならない。

 

 ならば、俺が選ぶ道は決まっている。

 

「色々と教えていただきありがとうございました。お礼のお風呂に冷えた水を付けましょう」

「そいつはありがたい。水さえ満足に使えないから、風呂に入れるなんて機会は殆どないからね」

 

 フランさんは笑い、フード越しに俺の頭を撫でる。

 チラリと周りを見れば、俺たちの会話に聞き耳を立てていた他の門番が羨ましそうな顔をしている。

 

 さてと、本題はここからだ。

 

「フランさんは、もう先がないと考えているみたいですが、もしも助かる術があるのだとしたら…………どうします?」

 

 フランさんの手が止まる。

 

「そんなものは無いさ。抗う戦力も、戦えるような気兼ねを持つ奴も此処には居ない。昔、滅亡の引き金を引いた楓って魔法少女でも現れでもしなければ、ひっくり返すなんてことは出来ないだろうさ」

「ふふふ」

「――何がおかしい?」

 

 つい笑いが出てしまった。 

 あの楓さんがこの惨状を作り出したとは面白い。

 

 だが、もしそうだとするのならば、魔女の残した手記の意味が分かる。

 魔女も最初は平和を願っていた。だが、裏切られた結果、世界を滅ぼそうと行動を起こした。

 

 そして、この世界の楓さんもおそらく同じなのだろう。

 

 楓さんがただ世界を滅ぼそうとしたとは考えられない。

 

 しかし、楓さんがねぇ…………。

 

「いえ。その楓さんが、私の知っている楓さんとあまりにも違っていたものですから。ですが、ひっくり返す事が出来そうですね」

「何を馬鹿なことを……」

 

 門から20メートル程離れた所に、魔物が現れた。

 

 大型の狼。おそらくA級位だろう。

 

 楓さんが実際にどれ位強いかは分からないが、流石にアルカナを同時解放すれば勝てるだろう。

 あれは偽史郎も想定していなかった技だろうからな。

 

 ならば俺は、楓さんと同程度と言っても問題ないだろう。

 

「魔物か! しかも大型の狼だと! 魔法少女! 倒せるんだろうな!?」 

 

 門番のひとりが騒ぎ、フランさんは何かを察して俺から離れた。

 

氷よ。貫いて咲け(フリーズフラワー)」 

 

 8本の氷槍が狼を貫き、体内で氷の花を咲かす。

 

 花は狼の身体を切り裂きながら体外に現れ、日光を反射し虹色に煌めいた。

 

 騒いでいた門番は黙り、フランさんは幽霊でも見たような顔で俺を見つめる。

 甘言で誘い、絶対的な現実を突きつけ、本当のような嘘を語る。

 

 俺が選ぶのは、新たな勢力としての台頭だ。

 

 そのためには、使い勝手のいい駒を用意しなければならない。

 

 だから、本当の様な嘘を語る。

 

「あんたは一体……」

「改めて自己紹介を。日本の元魔法少女にて楓さんの後継とされていた魔法少女。イニーフリューリングと申します」

「そんな馬鹿な! 千年以上も前の話だぞ!」

「ええ。訳あってコールドスリープしていました。あまりにも世界が変わっていて驚いていた次第です。それで、どうしますか?」

「……どうするって?」

 

 右手をフランさんに向かって差し出す。

 僅かに後退るが、フランさんは俺の手をじっと見つめる。

 

「この手を取るのならば、あなた方に未来を提供しましょう」

「――そんなうまい話があるはずがない。一体何を考えているんだ? それに、本当に勝てると思っているの?」

「私の考えは関係ないでしょう? それに、この手を取っても取らなくても、結果は変わらないはずではないですか?」

 

 座して死ぬか、戦って死ぬか。

 それ位の差異でしかない。

 

「……俺たちは生き残れるのか?」

 

 門番のひとりが声を上げた。

 

 もしも助かるのならば、なんだってする。

 そう目が語っていた。

 

「フランさんがこの手を取るのならば、私の力を貸しましょう。それが私のやるべき使命みたいですから」

「……少しだけ時間を頂戴。リカルドとリーダーに相談してみるわ」

 

 流石に、直ぐに答えを出せないか。

 駄目だったら、エデンとアルカディアの拠点となる場所の情報を集めて。さっさと出て行くとするか。

 

「答えは夜までにお願いしますね。今の魔物で最低限の恩は返せたはずですから」

 

 防備が整うまでとの話だったが、そこまで待つ必要もないだろう。

 ミトスの様子とフランさんの話から、いくら準備しても滅びの道を回避することは出来ないだろう事が分かった。

 

 待つだけ時間の無駄だ。

 

 情報の対価としては今の魔物を倒したことで帳消しになるだろう。

 

 「分かったよ。まあ、答えは決まっているだろうけどね」

 

 フランさんは力なく笑い、魔物が残した魔石を取りに向かった。

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