魔法少女がいく~TS魔法少女は運が悪いようです~ 作:ココア@レネ
「それは本当か?」
「私と門番の前で、大型の魔物を殺して見せたわ」
「ナンバーズやロイヤルナイツと同程度の強さと言うのにも、信憑性が出てきたな……」
イニーに少し席を外すと言って去ったフランは、ミトスのリーダーである男とリカルドを呼び出して、休憩室と使われている部屋の一室へと入り、先ほどあった魔物の襲来について話した。
本来なら死人を出しながら追い払う魔物を、会話の片手間に倒す。
この世界は技術的には進歩したが、物資や食糧難により、イニーの世界に比べると全体的に弱くなっている。
妖精は最後まで人間に魔石の加工方法を教えず、その為魔石を用いた武器は未だに発展途上であった。
A級の魔物とは言え、一撃で倒せる者はそこまで多くない。
「それと、イニーから提案をされたわ」
「提案?」
「私の手を取るのならば、未来を提供すると言っていたわ。ねえリカルド。もしもエデンとアルカディアが本格的に戦争を始めたら、私たちは生き残れるかしら?」
「――そうならない為に色々と備えている」
目を閉じたまま語るリカルドは、自分が言っている事が不可能な事だと分かっていた。
だが、それでもやらなければならないのが、防衛隊長であるリカルドの仕事だ。
たとえ嘘でも、問題ないと答えるしかない。
「リーダー?」
「魔法少女なぞ信用できん。それに、戦わないという手段も有る」
「あいつらが私たちを生かすと本気で思っているの? その信用できない魔法少女たちが居るのよ?」
元魔法少女だったフランには、いかにイニーが異常なのかがよく分かっていた。
たった一発の魔法だが、威力は勿論その美しさにも目を奪われた。
イニーは全く気にしていなかったが、誰がどうみてもオーバーキルであり、過剰な演出だった。
アロンガンテや桃童子と協力して攻略した洞窟での出来事は、イニーの魔法の熟練度を大幅に向上させ、イメージをこれまで以上に魔法へ伝達できるようになった。
口に向かって氷槍を放出すればそれだけでも倒せたのだが、洞窟では常に多数を相手にしていたため、ついつい範囲のある魔法を使ってしまったのだ。
「だが……」
「それと、嘘か本当かは分からないけど、自分を楓の後継者と言っていたわ」
「楓? 世界を滅亡に追い込んだあの楓か?」
「ええ。普通なら畏怖するはずなのに、彼女は笑ってからそう答えたわ」
この世界の住人にとって、楓は恐怖の象徴だ。文明を破壊し尽くし、世界を荒廃させた。
何故そんな事をしたのかは今となっては分からないが、諸悪の根源とされている。
リカルドもリーダーの男もそんな事はあり得ないだろうと思っているが、フランはもしかしたらと思っている。
実際に見なければ、凄さは分からない。
なにせ、見た目は顔を見せない小さな不審者なのだから。
「……一度話をしてみよう。呼んで来てもらえるか?」
「良いけど、馬鹿な事は言わないようにね。イニーなら、一発の魔法でこんな所滅ぼせてしまうんだからさ」
フランは立ち上がり、部屋を出て行った。
「……どうする気だ? リーダー」
「もしも……もしも楓の後継者なんてホラが本当ならば」
リーダーはそこで一度言葉を切り、少し濁っている水を飲んだ。
滅びるのを1分1秒でも長くするため、リカルドに防衛の準備をしてもらっている。
端から自分たちが生き残れるとは思っていなかった。
その事を住民などには話してしないが、気付いている者はいるだろう。
戦う力のない自分たちでは、戦争に巻き込まれて無惨に死に果てる。
だから……もしも可能性があるのならば。
「もう一度破壊してもらおうじゃねえか――この腐った世界を」
リーダーは獰猛な笑みを浮かべた。
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「なあ」
「なんでしょうか?」
フランさんが立ち去ってからも門の前で立っていると、ふたり居る内の片方の門番が話し掛けてきた。
「力を貸すと言っていたけど、俺たちにはエデンやアルカディアと戦える力は無いんだぞ。どうやって勝つつもりなんだ?」
当然の疑問と言えば疑問だが、力を貸すと言ったが借りるつもりは全くない。
そして、相手が魔法少女であるのならば、レンさんやブレードさんみたいなチート持ちが出てこない限り負けることはない。
「単純に真正面から戦って勝つだけですよ。戦うのは私ひとりですからね」
「真正面からって……相手は数千から数万も居るんだぞ? それに、兵器とかどうするんだ?」
「先ほどの魔物と同じく貫くだけです。射程はどうとでもなりますからね」
胡散臭そうなものを目で見てくるが、流石に舌打ちはしない。
俺の魔法を実際に見て、認めるしかないと思っているのだろう。
「俺は正直魔法少女なんて嫌いだが、ミルスの人たちが助かるのなら……頼む」
「それを決めるのはあなたではなく、あなたの上の方々です。まあ、おそらく駄目でしょうけどね」
ここのリーダーには会った事はないが、待っているのが滅びだとしても、こんな小娘に全てを託す真似をするとは思えない。
アクマが居る手前、最低限の義理を果たすべく考案したに過ぎない。
力無き者を助けるために殺すならば、そう悪い話でもあるまい。
「そう……だな。少し先走っていた。悪いな」
「気にしませんよ。この世界の魔法少女は、あまり良い存在ではないみたいですからね」
タラゴンさんの子孫だと思われる少女が、別れ際に言った言葉の意味が今なら分かる。
何も知らなかったから見逃したが、次に会う時はおそらく殺し合いになるだろう。
もしも所属がアンヘーレンなら同盟を結べるかもしれないが、最終的にどうなるかは分からない。
俺の成すべき事がどこまでかは分からないが、流石に最後までなんて事はないだろう……多分。
そうなれば、本当に滅ぼす以外の選択は時間の無駄となってしまう。
「イニー。ちょっと付いて来てくれないかい? リーダーがお呼びだ」
去ってから20分程で帰ってきたフランさんは、俺が返事をする前に既に歩き始めていた。
どうやらというか、やはりいい返事は貰えなかったのだろう。
門番のふたりに軽く頭を下げてから、フランさんを追いかける。
ミルスの中に入ると、相も変わらず蔑む様な視線を向けられる。
石を投げるような奴は今の所出てこないが、石を手に持っている奴がチラホラといる。
生活が貧しいと、心も貧しくなってしまう。古典的な例だな。
「着いたよ」
案内されたのは、こじんまりとした一件の家だった。
中に入るとリカルドさんと、リーダーと思われる男が居た。
頭はツルツルしており、左目に眼帯をしている。
歴戦を生き抜いてきた男……といった感じだ。
「お前がイニーだったか? 奇怪なフードを被っているみたいだが、人と話す時は脱げと親に教わらなかったのか?」
「生憎親の顔は知らないものでして」
最初から喧嘩腰とは……まあいいか。
「そうか……知ってると思うが、俺がこのミトスでリーダーをしているバルバトスだ。先ずは座ってくれ」
椅子へ座る前にフランさんの顔を確認するが、少し怒っているような感じだ。
この3人の思惑は分からないが……どうなるかな?
「フランから聞いたが、本当にエデンやアルカディアの連中に勝てると思っているのか?」
「さあ。一度も戦ったことがないので分かりませんが、楓さんが出来た事なら、私にも出来るはずです」
「お前みたいなチビにか? 負けたらどうするつもりだ?」
「どちらにしても結果は変わらないのでしょう? 少し早いか遅いかの差があるだけなのでは?」
リーダーとリカルドさんは揃って顔を歪ませるが、反論はしてこない。
「少女相手に何を言ってるのよ」
「ホラかどうか見定めるのに会話は必要だろう。まあ、全く分からないがな。素顔を見せる気はないのか?」
見せても構わないのだが、この姿で顔を見せると、毎回変な反応をされるので面倒なのだ。
最初と同じく、第二形態になるのが無難か。
「ほう。小さい癖に別嬪じゃねえか」
「……リーダーはこれを見ても何も思わないの?」
ニヤリと笑うリーダーと違い、フランさんは少し動揺していた。
リーダーは何のことか分からずに首を傾げるが、無理もないだろう。
「変身を解いただけじゃないのか?」
「違うわ。彼女は今も魔法少女のままよ」
「そんな馬鹿な事があるはずないだろう。ふたつの姿を持つ魔法少女なんて、それこそ…………」
「ええ。彼女……魔法少女楓位よ」
おや? どうやら俺の知らない情報があったようだな。
この感じだと強化フォームというわけではなく、本当に違う姿になれるのだろう。
(アクマ)
『既に薄々気づいてると思うけど、一応制約で話せないことなんだよね』
まあ手記の内容とこの世界。それと今の話が本当ならば辻褄が合うからな。
答え合わせは魔女と会うまで取っておくとしよう。
「――楓の後継者と言うのは本当なのか?」
「信じるも信じないも、あなた次第ですわ」
……やはりこの姿になると、心が引っ張られてしまうな。
リーダーは俺をジッと見つめ、ツルツルの頭から汗を流す。
「俺たちがお前にしてやれることは何もない。なのに、何故そんな提案をする。お前には何もメリットがないだろう?」
今まで沈黙を保っていたリカルドさんが口を開いた。
「ええ、何も無いわ。これは私の自己満足よ。楓さんのやった事を私もやるだけの事。あなたたちを助けるのは道端の小石を蹴るか蹴らないか位の差でしかないわ」
「傲慢だな……だが、俺たちは縋るしかないのだな」
「リーダー!」
リーダーは立ち上がり、俺に手を差し出してきた。
「どうか、我々を助けて欲しい。そして――この世界を壊してくれ」
どうやら決心してくれたようだ。
直ぐに手を取ってやりたいが、その前にこの姿から戻ろう。
いくら身体が女だとしても、中身は男なのだ。
この口調は好かない。
「分かりました。おそらく短い間となるでしょうが、よろしくお願いします」
リーダーが差し出した手を握り返すと、リーダーは少し笑った。
握られた手は、割と痛かった。
「俺たちがやれる事はほとんどない。だが、情報位は渡してやることは出来る。明日までに纏めておくから、準備できたらフランに呼びに行かせよう」
「分かりました」
リカルドさんとフランさんからの話からでしかこの世界を知らない俺にとっては、情報は一番重要だ。
くれると言うのなら、ありがたく貰うとしよう。
ついでに、短い間とはいえ此処で暮らさなければならないし、少しは今の状況を改善しておくとするか。
「それでは私はこれで失礼します。フランさん。この後少し空いてますか?」
「空いてるけど、どうかしたの?」
「ミトスの中央に案内してくれませんか? 面白いものを見せてあげます」
「ほう。面白いモノね。俺も付いて行って良いか?」
何故かリーダーが反応し、リーダーが行くのならばと防衛隊長であるリカルドも一緒に行く流れとなった。
魔法少女の事をあまり知らないだろうこのふたりは、別に居ても居なくても良いのだが、断る理由もないので承諾した。
フランさんの後を付いて行くのだが、俺が連行されていると勘違いしたのか、暇をしている住人が金魚のフンの様に付いてくる。
「追っ払おうか?」
「大丈夫です。見物人は多い方が、効果がありますからね」
「……何をする気か知らないけど、あまり刺激するんじゃないよ」
心配しているのか、注意しているのか微妙な言葉を受けながら歩き、フランさんが足を止めた。
「この辺りがミトスの中心だよ。そこの石碑が目印さ」
少し開けた空間の真ん中にそびえる石碑。
何を書かれているかは読めないが、千年も経ってれば文字も変わるか。
石碑の前に立ち、杖を取り出す。
ミトスの広さは最初上空から見た時に確認したので、魔法の範囲は大体分かる。
「我は春を告げる者」
トンと杖で地面を突き、魔法陣を展開する。
外野が騒がしくなるも、リーダーが怒声を上げて静かにさせる。
「破滅を願う声に誘われ、滅びの民の憎悪を血肉に、世界を壊さん」
地面に描かれた魔法陣が宙へと浮かび上がり、外円は時計回りに。内円は反時計回りに回りだす。
「温もりを、優しさを忘れ去り、虚無と化した心を喰らい、新たな世界を授けよう――
青や緑といった安らぎを与える光が降り注ぎ、ミトスに居る全ての住人を癒し、汚れを取り除く。
手足が欠損していれば新たに生やし、病に伏せる者は虫歯すらも治す。
栄養が足りない者も多いが、出来うる限り治しておく。
やりすぎるとそのまま殺してしまうからな。
魔法陣が消え、杖を消してから振り返ると、喜びで涙を流す者や呆然と立ち尽くす者。
悪い反応を示すような奴はいなさそうだ。
ひとりを除いてな。
「……ありえない。回復と攻撃を両方使えるなんて……そんなの……摂理に反している……」
そう。フランさんだけは喜びや驚きよりも、恐怖が上回っていた。