魔法少女がいく~TS魔法少女は運が悪いようです~ 作:ココア@レネ
『接近して来てる反応が5つあるね』
門に来てから約50分。リーダーのところからだと大体1時間だから、予定通りだな。
「もう直ぐ来るみたいですよ」
「どうして分かるのか知らないけど、時間通りなら良かったよ。すっぽかされたら、後々大変だろうからね」
ニヤリとフランさんは笑い、俺の頭を叩く。
その後々が、俺が居なくなった後の事か、これから起こる戦いについてなのか分からないが、俺の頭を叩くのは止めて欲しい。
空を眺めていると、車のエンジン音の様なものが聞こえてきた。
魔法少女だから空から来ると思っていたが、怪我人の事を考えれば普通に乗り物で来るか。
「一つ気になったのですが、転移の技術は残っているのですか?」
「転移? ああ、昔の妖精の技術の奴だね。装置は残っているみたいだけど、詳細は不明だね」
ふむ。装置での転移は出来ないと考えて良いが、流石に魔法で転移出来る奴は居てもおかしくないだろう。
車が門の前で止まり、3人の魔法少女と片足を失っている少女が降りてきた。
「来たわよ。そこの白フードが話にあった魔法少女?」
3人の内、リーダー格と思われる魔法少女が前に出てきた。
どことなくアロンガンテさんに似ているが、射貫くような眼はアロンガンテさんとは似ても似つかないものだ。
他のふたりはこれと言った特徴はないな。
片足の無い少女は結構やつれているな。治して死ぬなんて事にはならないだろうが、元の生活を送れるようになるのは大変だろう。
「そうよ。治したらこちらの作戦に参加してもらうって約束だけど、良いわね?」
「胡散臭いが、此方としてもエデンとアルカディアの動きは気になっている。内容次第では乗ってあげるわ」
思ったよりもアンヘーレン側からの確執的の様なモノはなさそうだな。
門番たちの視線は険しいものだが、突っかかってこないだけマシだろう。
「そちらの片足の無い人を治せばいいのですか?」
「……ああ。ちょっと戦いでドジを踏んじまった子なんだけど、本人の希望もあって今回は連れてきたわ。治せなくても何も言わないけど、話は無かった事にさせてもらうわ」
「そうですか。
片足の無い少女の下に魔法陣が現れ、足が生えてくる。
この魔力の消費量だと、無くなってからそこそこ経っているな。
「本当に治せるのか。――なら」
リーダー格の魔法少女は驚いた表情をしてから何かを考え始めた。
こんな時に権力者などが考える事は大体決まっている。
しかもこちらは実質的に戦えるのは俺ひとりだけだ。
その事をアンヘーレンが知っているかは知らないが、どう出るかな?
「――先ずは礼を言わせてもらうわ。それと、私はアンヘーレン所属。カラーズのブルーよ」
「イニーフリューリングです。イニーと呼んで下さい。対価は払ったので、此方の作戦に乗ってくれますか?」
「先ずは話を聞いてからよ。通信では結果を見てから話し合いの場を設けるとしか決めてなかったからね」
内容が内容だから、実際に会って話す方が確かに良いのだろう。
こんな情勢では、傍受などの危険性も普通にありそうだ。
流石にこの人数をミトス内に入れるのは嫌がられそうだし、仕方ないが俺の家に案内するか。
意味もなくリビングを作っておいて良かった。
「分かりました。此処ではなんですので、座れる場所に案内します」
「魔法少女を毛嫌いしている場所に、私たちを入れて良いの?」
ブルーさんはフランさんに視線を向けるが、俺の作った家はミトスの外にあるので問題ない。
此処から既に見えているが、保護色によって見つけ難くなっている。
「ひとりだけならともかく、流石にこの人数は駄目ね」
「場所は私の家なので、問題ありません。この人数なら問題なく入れますからね」
「ああ、それなら大丈夫だね」
「イニーの家?」
ブルーさんは眉をひそめるが、俺が歩き出して少しすると納得した様な声を出した。
「適当に座って下さい。クッションが無いのは我慢して下さいね」
「気にしないわ。それで、一体何を企てているのか教えてくれないかしら?」
「はい。先に結論だけ言いますと、エデンとアルカディアの主要魔法少女全員を殺し、兵器を保存しているであろう施設を使用不可の状態にします」
「……夢物語だね。私たちがやれなかったことを、イニーたちならやれると?」
アンヘーレンたちの目的を考えれば、エデンとアルカディアの兵器はどうにかして使用不可にしたいところだろう。
そうすれば拠点に直接攻めても、報復による攻撃を恐れなくても済む。
今のままでは報復として、適当に地表を撃たれるだけでも困ることになるだろうからな。
汚染地帯を移動するのは勿論、雨などによって土壌汚染が広がれば食料を作るのも大変になる。
しかも戦力がふたつあるので、片方を倒したとしてももう片方との戦いが残っている。
戦いの最中に介入してくるか、終わったところに介入してくるか。
ともかく、三つ巴の状態で最初に動いた勢力が勝つのは難しいだろう。
まあ、それは弱者の考えだがな。
「ええ。おそらく勘違いしていると思いますが、やるのは私ひとりです。あなた方にはあくまでも囮になって欲しいだけです」
「囮……ね。馬鹿な事を言うなら、この場であなたを殺すわよ?」
緊張が走るが、回復魔法を使える魔法少女が戦えないってのは今も変わらないのはフランさんの反応で分かっている。
「まだ勘違いしているようですが、私が戦えないと思っているんですか?」
「あなたは回復魔法が使えるんでしょう? それも欠損を治しても全く問題ない程の……ね。私が今何を考えているか分かるでしょう?」
「あんた!」
フランさんが非難するような声を上げるが、向こうからしたらカモがネギを背負ってきた状態のはずだ。
この反応は想定していた。
だから、この場所を選んだ。
第二形態になれば簡単に制圧できるだろうが、手札を晒す必要もない。
「
魔法で作った家である以上、杖が無くてもそれなりに操る事が出来る。
アンヘーレンを囲むように、土槍が家の壁や天井から生えてくる。
「これは!」
「なんで! 回復魔法が使える魔法少女は他の能力が低いはずじゃあ!」
「硬いし、直ぐに壊すのは厳しそうね……」
この場にのこのこと来た時点で、アンヘーレンの奴らが俺を害することはほぼ不可能なのだ。
「先程の発言ですが、私と敵対するという事で宜しいですか?」
仮に此処でアンヘーレンの4人を殺した場合、少しだけ俺の負担が増える事になるが、後々予想外の行動をとられるくらいなら先にアンヘーレンを滅ぼした方が計画を立てる上で楽になる。
エデンとアルカディアは順序を踏む必要があるが、アンヘーレンを滅ぼすだけなら何とかなるだろう。
この世界の住人たちに、恨まれることになるだろうけどな。
「……いいえ。ちょっとしたジョークよ。気を悪くしたなら謝るわ」
「そうですか。ジョークならば先程の発言は聞かなかったことにしておきましょう」
土槍を全て消し、水の入ったコップを全員の前に置く。
今の俺は回復魔法が使えるだけではなく、最低限戦える程度の力があると認識されたはずだ。
水の魔法も使う事で、俺が普通の魔法少女ではないと、少しずつ思い始めているだろう。
「気を取り直して作戦の概要ですが、エデンとアルカディアの拠点を一つずつ攻撃します。互いに攻撃をしたと錯覚させますので、アンヘーレンの方々には争いを始めたふたつの戦力を掻き乱して下さい。私はその間に兵器がある拠点を探し出し、再起不能にします。その後、ナンバーズとロイヤルナイツの全魔法少女を殺害しますので、その後は好きにして下さい」
「聞くのは野暮かもしれないけど、本当に可能なのよね?」
「はい。仮にですが、作戦に失敗したとしても、アンヘーレンの方々は引いてもらえればほとんど被害は無いと思います」
引けば被害は無いが俺の行動が引き金となり、そのままどちらかが滅ぶまで続く、最終戦争が始まるだろうけどな。
一度戦いを止めて、新たに戦備を整えるなんて余裕もなさそうだし、俺の予想はおそらく当たるだろう。
「そんな事が出来れば私たちの被害はあまりなさそうだけど、数十人もの魔法少女を相手にして本当に勝てるの?」
「勝たなければ今度こそ、地球が滅ぶ程の汚染が広がる結果となりますからね。それに、私が提案しなかったとしても、エデンとアルカディアの戦いが始まればあなた方は介入する以外の手がないのでは?」
「確かに今の状態で大きな戦いが始まれば私たちは介入して、汚染兵器をみだりに使われないようにしないといけないわ。そして、どちらの勢力にも勝ってもらう訳にはいかない」
アンヘーレンにとっては共倒れしてもらえるのが一番良いのだろうが、下手に汚染を伴う兵器を使われても困る。
それに戦いが地球上で行われる以上、流れ弾が集落に来ないとも限らない。
アンヘーレンにどれだけの戦力が居るか知らないが、エデンとアルカディアに真っ向勝負で勝つのは難しいのだろう。
もしも勝てるのならば、もう少しエデンとアルカディアから目の敵にされているはずだからな。
「少しでも勝率が上がるのならば、私の提案に乗る方が得策なのではないでしょうか?」
「そうね。流石に私個人では決められないから一度持ち帰らせてもらうけど、おそらく今の提案に、乗ることになるでしょうね。作戦の決行日は?」
「そちらの返答次第で直ぐにですね。私は準備など必要ないので」
「分かったわ。イニーの言葉が本当である事を願うわ。――帰るわよ」
ブルーたちは帰っていき、フランさんだけが残された。
「ずいぶん強気の様に見えたけど、どうしてだい?」
「交渉の基本ですよ。それに、アンヘーレンはいなくても問題自体は無いですからね」
後はアンヘーレンごと殲滅するかどうかだが……まだ様子見だな。
だが、力で従わせるような集団の可能性があるので、おそらく一緒に殺す事になるだろう。
力ある者が力で他人を支配するのは、どうせ新たな火種を生み出すだけだからな。
火種は元から絶たなければ、完全に無くすことは出来ない。
膨大な犠牲が生まれるとしても、平和のためにはやるしかない。
それが、魔女がやろうとしている事と同じだとしてもな。