魔法少女がいく~TS魔法少女は運が悪いようです~   作:ココア@レネ

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魔法少女の虐殺

 アルカディアの方はあまり時間を掛けるのは悪手だが、普通の状態で数千から数万キロも先にある物を完全に破壊するのは少々厳しいものがある。

 

 時間を掛ければ可能だが、その時間が駄目なのだ。

 

 更に言えば、この後予定している拠点の破壊の事もある。

 一々探し回るのは面倒だし、アルカディアの方は距離的な問題がある。

 

 そして死が(エンド・)最後にやってくる(オブ・デス)と同じ要領で、一度の魔法で終わらせた方が楽だろう。

 

 まあ、こんな時のためのアルカナだ。

 

 恋人を解放し、身の丈を優に超える巨大な砲身を空に向かって構える。

 

 撃ち出すのは魔法なので、見た目は若干飾りだが一応意味はある。

 

 数十メートル以上ある砲身には大量の突起物が生えているのだが、この中には魔法陣が展開されており、魔法を送り出す力場を発生させている。

 

 確かムカデ砲とか呼ばれていた大砲と、同じ形状をしているはずだ。

 

 ガッツリと魔力を奪われ、砲身が淡く光りだす。

 

 チャージ時間は約三十秒程。

 威力もさる事ながら範囲もこれまで以上だ。

 

 何かに特化した能力を使える恋人だから出来る事だろう。

 

 やろうとすれば愚者でも出来るが、時間はお察しだ。

 

 覗いているスコープの先には、隠蔽されている筈のアルカディアの拠点がしっかりと映り、照準を合わせる。

 

 場所とどんな魔法か分かれば、隠蔽の意味などない。

 

嘆きの空(ヘル・ジャッチメント)

 

 全てを滅ぼす引き金を引いた。

 

 発射された魔法は数秒でアルカディアの拠点を飲み込み、破片も残さず爆発させる。

 

 魔法は宇宙で四散し、アルカディアの他の拠点を壊し、エデンの拠点へと降り注ぐ。

 

 結果を見届けて、直ぐにアルカナを解除する。

 

 これでどれだけの人を殺したことだろうか……。

 

(花火なんて何十年振りだろうねぇ?)

 

『テレビ以外で見たことあるの?』

 

(一度だけな。まだ姉が生きていた頃さ)

 

 魔物が跋扈している関係で、地球で花火なんて上げれば魔物をおびき寄せる事となる。

 

 なので、上げるとしたら妖精界となるのだが、上げるのは夏の一度のみだ。

 

 そのため、一般人が直で見るにはバカ高く競争率の高いチケットが必要となる。

 

 魔法少女の関係者なら多少融通が利くので、一度だけ見に行ったことがあるのだ。

 

(これで終わりか……)

 

 これでエデンとアルカディアの生存者は、現在アンヘーレンと戦っている者位だ。

 再起はもう不可能だろう。

 

 これで計画は予定した流れとは少し異なるが、一応終わりとなる。

 

 だが、俺の視界はいまだ変わらない。

 

 つまり魔女はアンヘーレンの奴らも、世界を壊す敵と判断しているのだろう。

 

 別に味方だとは思っていないし、約束もしていないが、仕事を頼んでいる手前、申し訳ない気持ちはある。

 

(駄目そうだな)

 

『……そうだね。ここまでさせておいて、まだ足りないなんて……』

 

 (予想していたことだろう。今更だが、偽物とは言えこれだけの虐殺はアルカナ的に問題ないのか?)

 

『解釈で言えばシミュレーションと一緒の扱いだよ。あの血の海の感触が本物と一緒だとしてもね』

 

 シミュレーションね……。

 俺がこの世界で感じた感触は、本物と変わらなかった。

 

 飯を食べた時の味覚も、寝起きに感じだ眠気も…………人を斬った時の感触もだ。

 

 偽物と理解していても、心は本物と告げている。

 

 人類を殺し、地球を守る。

 

 本当にこれが正解なのだろうか?

 

 …………まあいい。先ずはアンヘーレンの奴らと、残っているエデンとアルカディアの魔法少女を殺すとしよう。

 

(行くぞ)

 

  

『うん。気を抜かないようにね』

 

 

 

 

 

 

1

 

 

 

 

 イニーの魔法によりアルカディアは壊滅し、降り注ぐ光がエデンを滅ぼす。

 世界中で見られる光の雨は、ほんの一部の人間にとっては希望の光であったが、大半の人にとっては死の雨だった。

 

「今のは……イニーか?」

 

 イニーから依頼を受けていたブラックは、空から降り注ぐ光を見て動揺を隠すことが出来なかった。

 

 いや、ブラックだけではなく、イニーの指定した盆地で戦っていた魔法少女たちもだ。

 光の雨が魔法だと気づいた魔法少女たちだったが、それが誰の手によって使われたかを知るのは、ブラックとブルー位だった。

 

 だが、誰が使ったなんてのはほとんどの魔法少女にとってはどうでも良かった。

 

「本部? 本部! 応答せよ!」

「司令!? どうかなさいましたか!」

 

 イニーにとっては運が良い事に、イニーの放った魔法は地図に載っていない拠点も含め、全てを破壊した。

 

 そのため、拠点との通信が出来ない事にエデンとアルカディアの魔法少女は焦燥していた。

 

 それは大きな隙となり、アンヘーレンの魔法少女たちは一気に攻勢に出た。

 

「今の内よ! 一気に倒しなさい!」

 

 ブルーの号令でアンヘレーンの魔法少女たちは、エデンとアルカディアの魔法少女たちに襲い掛かり、一気に数を減らしていく。

 しかし攻勢に出られたのはほんの一瞬の出来事であり、直ぐに三つ巴の戦いとなってしまった。

 

 気を持ち直したエデンとアルカディアの魔法少女たちは、撤退を選択しなかったのだ。

 通信が繋がらない原因と、魔法による光の雨。

 

 それから導き出された答えに行きついてしまったから。

 

 もう、撤退できる……帰る場所は無いのだ。

 

 生き残るには、この戦いに勝ち、細々と暮らしているミトスなどの集落を襲うか、管理下に置くしかない。

 

 そんな想いのせいで死に物狂いとなり、アンヘーレンの魔法少女たちは苦戦していた。

 しかしそんな時間は、長く続かなかった。

 

 上空から降ってくる無数の赤い火の玉。

 

 盆地の中央に飛来したそれは地面にぶつかると爆発し、辺り一面を火の海にした。

 突然の出来事に、各勢力の指揮を執っていた魔法少女たちは驚き、ブラックとブルーは激怒した。

 

 こんな事が出来る魔法少女を知っているからだ。

 

 後々イニーを殺すか、それとも良い様に扱う予定だった。

 あれ程の回復魔法が使え、それと当時に攻撃魔法も使える。

 

 仲間となれば頼もしいが、敵になったらばただの災害でしかない。

 

 先手を打たれたと言えばそれまでだろうが、今になって自分たちが罠に嵌められたのだと理解した。

 

 盆地故に、逃げるには一度山を越えなければならない。

 遮蔽物が僅かな木と岩くらいしかいため、着弾地点周辺で火から逃げられた魔法少女は殆ど居なかった。

 

 火自体は直ぐに終息したが、そこに残されたのは黒い塊と所々赤くなった地面だけだった。

 

 そんな地面に翼をはためかせながら降り立つ、白いローブ姿の魔法少女がひとり居た。

 

 今起きた惨劇を招いたのが、誰なのかを皆理解した。

 

 魔法少女イニーフリューリング。

 

 ありえたかも知れない未来にやってきた、過去の異物。

 

 世界を救う使命を受けたアルカナの契約者。

 

 勿論その事を知るものは此処には居ない。

 

 ただひとつ分かっていることは、この魔法少女が敵であるということだ。

 

 イニーは第二形態となり、剣を構える。

 

 その姿を見て最初に動き出したのはアンヘーレンの魔法少女たちだった。

 

 エデンやアルカディアよりも魔法少女間の繋がりが強く、無惨に仲間が殺されて黙っていられなかった。

 

 そんな無謀な行動をブルーは止めようとするが、間に合うことはなかった。

 

「……ブラック。待機している仲間を全員呼んでおいて。多分あいつの本当の目的はエデンやアルカディア関係なく、全ての魔法少女を殺すことよ」

「分かった。会った時は眉唾だと思ったが、あれはまさしく楓の、世界を滅ぼした者の後継者だな…………私たちはまんまと誘き寄せられたのだな」

 

 イニーにとってはアンヘーレンはどうでもいい存在だった。

 それはアンヘーレンの表向きの理由しか知らなかったからだ。

 

 だから、殺さなくてもいいと思っていた。

 

「それと、例のあれも起動準備しておいた方が良いかもね」

「――本気か?」

「エデンとアルカディアの抑止力である兵器が使えないのならば報復は恐れなくてすむわ。それに、あれだけの魔法を使えるイニーに、私たちだけで勝てると思う?」

「……やるしかないのか」

 

 エデンとアルカディアが何故アンヘーレンを滅ぼさずにいたのか? 

 その理由は、アンヘーレンもエデンやアルカディアと同じく兵器を持っているからだった。

 

 エデンとアルカディアを国とするならば、アンヘーレンはテロ組織だ。

 潰せるならば潰したいが、兵器の存在を知っているせいで、下手に手出しをできなかった。

 

 アンヘーレン内で兵器の存在を知っているのは一部の者だけなので、そうそうミトスなどの集落に話が漏れることはない。

 

 皆表向きの理由に騙され、アンヘーレンの本質を理解していなかったのだ。

 

 エデンやアルカディアの兵器……いや、武器とは違う、本物の兵器。

 空を飛び、破壊を待ち散らす過去の遺物。

 楓を倒すために開発していたが、試作段階で止まっていた、人類の叡知の結晶。

 

 それを改修したものを、アンヘーレンは持っている。

 

 ただの兵器ならば、恐れる程のものではない。

 

 アンヘーレンの持っている兵器も、エデンやアルカディアと同じく、地球を汚染して破壊するものなのだ。

 

 ブラックはブルーの進言通りにアンヘーレンのリーダーに話をした。

 

 その直後、イニーが放った斬撃によりブラックは命を落とした。

 

 ブルーは少し離れていたため無事だったか、イニーの斬撃に反応出来なかった事に冷や汗を流し、ブラックが通信するために持っていた端末を拾い上げた。

  

「ブラックが死んだから代わったわ。私たちは多分助からないわ。だから……頼んだわよ」

 

『……了解した』

 

 イニーは誰も逃がす気はない。

 その事をブルーは感じ取っていた。

 

 今もこの場に居る魔法少女は減り続けている。

 

 近づけば剣で殺され、魔法を放てば障壁で防がれる。

 後方にいても飛んでくる斬撃は、気付く間もなく命を刈り取っていく。

 

 その姿は正に死神だ。

 

 質が悪いことに、イニーは能力の関係で殺せば殺すほど強くなる。

 それはフユネを解放してなくてもだ。

 フユネと契約したことにより、イニーの無意識下で能力が発動しているのだ。

 

 仮初めであるこの世界でも…………イニーとアクマが偽物と思っているこの世界で発動しているのだ。

 

 どうして能力が発動しているのか、イニーには自覚がないし、アクマも理解出来ていなかった。

 

 その事を知るのはもう少し先の事だ。

 

「巻き込んでしまってすまなかったわね」

 

 イニーの提案を呑み、今の惨状を作る一因となったブルーは他の魔法少女と共にイニーへと特攻する。

 

 そんなブルーを見付けたイニーの眼は、相も変わらないままだ。

 

 淡々と役目を全うする機械と同じだ。

 

 遺言も、怨み節も言わせず、イニーはブルーを斬り裂いた。

 

 情など、一欠片もない。

 

 三つ巴となり、激戦だった盆地での戦いはたったの三十分で終戦となる。

 立っているのは、ひとりの魔法少女だけ。

 

 傍らには、赤い髪が印象的な魔法少女だった少女の首が落ちている。

 

 イニーは欠けた月が照らす光の下で血に濡れ、辺りをゆっくりと見渡す。

 

 その眼は少しだけ寂しそうにしていた。

 

 

 

 

 

 

 しかし、直ぐにその眼は見開かれる事となる。

 

 

 ブラックとブルーの置き土産。

 アンヘーレンの最後の頼みの綱であり、奥の手。

 最悪にて最凶の機動兵器…………最後の希望であり、絶望がイニーの上空に姿を現した。

 

 

 

「撃て」

 

 

 

 アンヘーレンがリーダー。

 リンネが兵器の中で命令した。

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