魔法少女がいく~TS魔法少女は運が悪いようです~ 作:ココア@レネ
(なるほど。あれがアンヘーレンも殺さなければならなかった理由か)
おびき寄せておいた魔法少女たちを殺し、撃ち漏らしを確認している時だった。
アクマの索敵をすり抜けて現れた、空に浮かぶ要塞。
十枚の鉄の板が傘の様に広がっており、中央には大きな砲身がひとつと、その周りに大量の突起物が付いている。
大きさは数百メートル程ありそうだな。
仮称は傘……パラソルとでも呼ぶとするか。
『……あれは不味いものだよ。星喰いの素材を使っているみたい。エデンやアルカディアよりも、根本的にレベルが違う』
(ボスとしては丁度良いだろう。だが、この姿では少々駄目そうだな)
大きさ的に中で操っている者が居るのだろうが、皮である兵器は魔法少女とは認識されていない。
第二形態で壊す事は無理だろう。
白魔導師に戻ろうと考えていると、パラソルから伸びている大きな砲身が光りだした。
『高魔力反応! 絶対当たったら駄目だよ!』
障壁で防ごうとするが、アクマに注意されて空高く跳ぶ。
すると砲身からレーザーが放たれ、大きなクレーターを作り出した。
そのクレーターは不可思議な色の空間となり、所々で見かけた魔力汚染と同じ様な状態になっていた。
短時間なら魔力汚染された場も問題ないが、そもそもあの威力のレーザーを受けていたら、流石の俺も重傷を負っていただろう。
(あれは人工物なのか?)
『私の索敵を逃れる程の隠蔽に、音すら出さない静穏性。妖精の技術力をふんだんに使わなければ作れないだろうけど、間違いなく人工物だよ。一応魔法少女の武器に近い性質を持っているけど、見ての通りだよ』
大きさも威力も、魔物で言えばSS級相当だろう。
地上に向け撃った主砲らしきものも、チャージ時間がほとんど無かった事から、他にも隠し玉がありそうだ。
足場にしていた障壁を消し、直ぐに白魔導師に戻る。
落ち始める前に翼の類をフル装備すると、パラソルから大量のミサイルと小型のロボットの様な物が大量に射出された。
M・D・Wよりもやばそうだが、ここで困った問題がある。
俺の使える手札がほとんどないのだ。
アルカナの同時解放は魔女との戦いまで取っておく必要があり、アルカナを使用できる時間は2分しか残っていない。
「
貫通力のある魔法をパラソルに向かって放つが、バリアらしきものに拒まれて砕け散る。
次の魔法を唱える前にミサイルの雨が殺到し、ロボットがビームを放ってくる。
『ミサイルの爆風には巻き込まれないようにして。ミサイルにも高濃度の魔力反応があるよ』
これ以上地球を汚染されないようにとか言っていた癖に、追い詰められてやる事は一緒とはな……。
結局同じ穴の狢だったのだろう。
ミサイルを避けながら迎撃し、ロボットを破壊していく。
人の手で作った物ならば、弾切れがあるはずだ。
仕掛けるのはそれからの方が良いだろう。
攻撃の密度も高く、避けるのには苦労するが、多少の被弾なら問題ないはずだが、高密度の魔力は身体に毒だ。
今はまだそれほどでもないが、空もミサイルの爆破で魔力が広がり始めている。
汚染された空間では動きが鈍くなり、魔法も使用するのが難しくなる。
問題はそれだけではなく、魔力が濃くなるという事は、魔物が発生する土壌が出来上がるという事だ。
そう考えると、弾切れを狙うのは悪手かもしれないな……。
最初の砲撃を避けてから空を飛んで数分間迎撃に努めるが、ミサイルの他にレーザーも追加され、徐々に火力が上がっている。
パラソルに向けて様子見で魔法も撃てなくなり、魔力も減り始めた。
(これは少し厳しいか……)
『細部まで解析できないけど、どうやら星喰いの素材を使っているせいで、エネルギーや武装は無限に生産できるみたいだね』
俺も魔力は消費に気を付ければ無限に使えるが、持久戦に持ち込もうとすると、何故か対策されているんだよな……。
アルカナを使える時間を考えれば、対策を考え付いてから使いたい。
あのバリアが無ければ良いが、バリアの耐久力次第ではアルカナを同時解放しなければならない。
そうすれば魔女との戦いに勝つのは不可能となり、バッドエンド確定だ。
だがパラソルに勝たなければそれ以前の問題だ。
やるしかないのか?
……先ずはアルカナで試してみるか。
(あのバリアの強度はどの位だ?)
『妖精の結界以上、魔女の結界以下位だと思う。ただ、遠距離系の魔法を弱める効果もあるから、一筋縄ではいかないね』
(……倒す方法はあるか?)
『アルカナの同時解放すれば確実に。単体なら私をうまく使えば多分勝てるかな。けど……』
約2分でどうにかなるとは思えないんだよな……。
魔物ならコアとなる部分を壊せばどうにかなるが、あれだけ大きい人工物となれば、ダメコンなども出来るはずだ。
最低でも3分の1を吹き飛ばす位しなければ駄目だろう。
パラソルを攻撃するにしても、ロボットやらミサイルやらもどうにかしなければならない。
全て迎撃するのは今の状態では無理であり、パラソルを壊すために一撃に特化すれば、ミサイルなどで死ぬ可能性がある。
――いや、少し無理をすれば行けるか?
愚者で一気に迎撃し、直ぐに悪魔に切り替えて両断する。
上手く行けば倒せるかもしれないな。
これで駄目だったら、魔女と戦う時は第二形態でどうにかしよう。
(先ずは愚者で全て迎撃し、その後に悪魔で一気に畳みかける)
『無理じゃないかもしれないけど、同時解放しないならそれ位しか方法が無いか……』
個人的な状況で見ればM・D・Wやマスティディザイアの時に比べればかなりマシだ。
ただ、周りの状況は既に取り返しのつかない状態になり始めている。
これが……これがアンヘーレンたちの望んだ答えだと言うならば、殺さなければならないのだろう。
「ナンバー
現れたふたつの玉を左右に展開し、位置を調整する。
「
玉から炎を噴出し、周りを薙ぎ払う。
ロボットを撃墜し、ミサイルを打ち落とす。
出来上がった道を突き進み、パラソルとの距離を詰める。
バリアの位置は把握しているので、その手前でアクマのアルカナを解放できるように距離を調整する。
最短距離で進むには汚染された空間を通らなければならないが、結構辛いものがある。
身体を異物によって蝕まれ、心が崩壊していくように黒く染まっていく。
フユネよりもマシだが、そう考えるとフユネが異常なのだろう。
「ナンバー
慣性を利用して空中を踏み込み、大鎌でバリアを斬り付ける。
少しの間拮抗した後にバリアは破れ、大きな音を立てながら爆発した。
マントに包まりながらそのままパラソルに向かっていき、爆発をやり過ごす。
ここまで大体1分30秒位だが、既に身体中が痛み始めている。
いつもの事だが、やはり無茶をするしかなさそうだ。
このままではパラソルとの距離を詰めている間に、制限時間になってしまう。
足に魔力を集中させ、一気に踏み込む。
血が噴き出し、骨が飛び出るが直ぐに回復する。
大鎌に全ての魔力を注ぎ込み、パラソルとの距離を測る。
成功すれば俺の勝ち。失敗すれば、魔女との戦いで博打を打たなければならない。
「滅天翔・顎」
魔力により刃を伸ばし、横一線する。
続いて真上から縦一線。
抵抗を感じるが、更に魔力を通して無理矢理振り切る。
腕の筋肉が音を立てて千切れるが、骨さえ繋がっていれば問題ない。
四分割にされたパラソルは形を崩し、爆発を始めた。
『貴様が……貴様が現れなければ!』
パラソルから声が聞こえたが、直ぐに大きな爆発を起こして聞こえなくなってしまった。
アルカナを解除し、爆発から逃げるようにして空を飛ぶ。
『生命反応無し。私たちの勝ちだよ』
(短いようで長い戦いだったな。最後だけはかなり危なかったが、どうにかなって良かった。ただ……)
『汚染拡大中。魔物の反応はまだないけど、時間の問題だね』
多少の予備戦力は有るだろうが、魔法少女はほとんど全員殺したとみて間違いないだろう。
この世界の人間が全員死ぬのか、それともどうにかして生き残るのか分からないが、俺がやるべきことはこれ以上ないとみて良いはずだ。
一度地上に降りて全身に回復魔法を使う。
違和感が残るが、こればかりは仕方ない。
「お疲れ様。これでこの星が死ぬのは先延ばしになったわ」
『なっ!』
後ろから声がするが、足音もアクマが映しているマップにも反応がない。
振り返ると、そこには黒いフード姿……魔女と思われる人が居た。
「誰……と聞くのは野暮ですかね?」
「残念ながら本人ではないわ。それと、私を殺しても意味は無いとだけ言っておくわね」
声は聞こえるし実際に居るはずなのだが、妙に薄いと言うか、存在を認識できない。
(魔女だよな?)
『そのはずなんだけど、反応が何も無いんだ。眼では見えるけど、あそこには何も無いことになっているよ……』
よく分からないが、魔女が現れたってことは目的は達成出来たのだろう。
「さて、それじゃあネタばらしといきましょうか」
魔女は右手を顔の辺りまで上げると、指を鳴らした。
それと同時に頭の中に大量の情報が流れ込んできた。
「おや? 失敗したかな? 普通なら泣きながら嘔吐でもすると思ったのだけど……」
「成功していますよ。全く、最悪な気分ですよ」
『これは……そんな馬鹿な……それじゃあ今までやってきた事は、ただの――人殺しじゃあないか!』
魔女の魔法で作られた世界だと思っていたが、ここは本物の世界みたいなのだ。
前の2回は認識を歪めるために、ワザと室内を選んでいた。
此処は、魔女とアルカナが存在しなかった場合の、俺の世界の未来の世界線だ。
人同士が醜く争いあい、腐敗した世界。
その最後の十日間と呼ばれる前日に来たのが俺だ。
人など力を手に入れれば直ぐに道を踏み外す。
そんな世界ならば、初めから存在しなければいい。
結果は変わらないのだから。
人には可能性など無い。
そんな世界を守る必要などあるのか?
そう、魔女は俺に問いただしているのだ。
アルカナの世迷言に惑わされず、ありのままの結果を受け入れろ。お前も世界を……人類を滅亡に追いやったのだから。
これだけの人を殺したのだ。たとえ正義のためと言っても、そんなのは戯言だ。
アルカナであるアクマたちが目指す目的とは相容れない。
……反応を外に出す事はしなかったが、流石に俺も混乱しているようだな。
(別にやった事はこれまでと変わらないさ。ただ規模がこれまでより大きかっただけだ)
『だからって! 中には関係ない人も居たじゃないか! それを仕方ないで済ますなんて出来るはずがない!』
(人が糞だなんて事は、お前が一番よく知っているだろう?)
人は常に争ってきたのだ。人が人である限り、争いの火種を消すことは出来ない。
科学なり魔法なりが発達していけば、いつか滅びるのは必定だ。
だからとそこまで気にする必要はないのだ。
始まりがあれば、終わりもある。ただそれだけの話だ。
「そう。それで、私と同じところまで堕ちた感想とかあるのかしら?」
「無いですよ。あなたが何を感じ、何を思ったか知りませんが、私には関係のない事です」
「これだけの惨劇を起こし、人の欲深さを知ったとしても?」
「変わらないですよ。全てを知った今は少々胸糞悪いですが、それで私の意思は変わりません」
結局のところ、俺は戦いを楽しんでしまっている。これだけ人を殺し血に濡れたと言うのに、割り切れてしまっている。
仕方のない犠牲ではないだろう。犠牲は……間引きは必要なのだから。
「本当に11歳なのかしら? まあいいわ。これで折れて自ら死を望んでくれれば楽だったのだけれど…………本当に変わっているわね」
「善意で世界を滅ぼしているあなたには、言われたくないですよ」
「ふふ。手記はちゃんと読んでくれているみたいね。そうそう。結界が壊れれば例の魔物が召喚されるわ。じゃあ、待っているわね」
魔女の姿が消えると、俺も足元から消えていく。
この世界の行く末は気になるが、フランさんのような人が居れば大丈夫だろう。
魔法少女同士の争いがなくなり、今度はまた魔物と戦う歴史が始まる。
そうなるはずだ。