魔法少女がいく~TS魔法少女は運が悪いようです~   作:ココア@レネ

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魔法少女と狭間での語り合い

「減るどころか増える一方ね。なぎ払えれば楽なのに……」

 

 スターネイルと別れ、シェルターの防衛に努めるマリンはひとり愚痴る。

 シェルターにさえ一般人を避難させることが出来れば、他の魔法少女に託して次に向かえるのだが、避難は遅々として進まない。

 

 所狭しと現れる魔物。建物のせいで大技の使えない魔法少女。

 なにより、その魔法少女の人手不足。

 

 マリンは空に跳びながら弓の弦を振り絞り、狙いを定めてから矢を放つ。

 矢は風を切りながら無数に分かたれ、魔物の頭を撃ち抜いて塵に還していく。

 

「ありがとうございます!」

「礼はいいので急いでください!」

 

 基本は刀で戦うマリンだが、大量の雑魚を相手するのならば弓の方が、効率がいい。

 周りへの被害も抑えられ、魔力の消費も少なくてすむ。

 

 現れる魔物が常に格下ならばここまでマリンが気を張らなくても良いのだが、A級やS級もわらわらと湧いている。

 

 今のところマリンの近くにはSS級が現れていないが、もしも現れれば壊滅は免れない。

 

 SS級を相手にするとなれば、マリンも本気を出さなければ戦うことは出来ない。

 

 ブレードの様に一太刀で倒せれば良いのだが、そんな芸当はマリンには無理だ。

 

 早く終われとマリンは思うが、そんな時に限って悪いことが起きる。

 

 地面が揺れ、大きな影がマリンや避難している一般人を覆う。

 

 その正体はSS級の魔物。ギガントと呼ばれる魔物だった。

 

 身長が30メートル程あり、右手には棍棒が握られている。

 

 SS級の中では弱い部類に入るが、巨体に見合った破壊力があり、再生能力も持っている。

 

「全員急いでください! 踏みつぶされれば助かりません!」

 

 マリンは構えていた弓を消しながら呼びかけ、刀を抜きながらギガントへと駆けて行く。

 

 なるべく魔力を節約していたため、今のマリンは全力を出す事が出来る。

 問題があるとすれば、周りへの被害だ。

 

「裏伝の太刀・隼!」

 

 斬り下ろしと斬り上げを瞬時に繰り返し、ギガントの右腕を斬り刻む。

 棍棒が地面に衝突し、家を破壊する。

 

 ギカントの腕によって振られるよりはマシだろうと、マリンは自分に言い聞かせて被害を見なかったことにする。

 

 しかしギガントの腕は直ぐに再生を始め、数秒で元通りになってしまう。

 

 マリンに攻撃されて激昂したギガントは棍棒を拾い上げて、マリンを攻撃しようとするが、再び腕を斬り刻まれて棍棒を落とす。

 

 何故マリンがこんな意味の無い事をやっているのかだが、ここで戦えば避難中の一般人を巻き込んでしまうので、時間を稼いでいるのだ。

 

 シェルターにさえ入ってくれれば、魔物が暴れようが倒れようが問題なくなる。

 後で復興が大変になるが、死ぬよりはマシだろう。

 

 ただ、マリンがギガントを倒す場合は大技を使うことになるので、ギガントが暴れ回るのと同じくらい被害が出てしまうのだが、こればかりは仕方ない。

 

 なるべく空中を動き回ることにより、腕を振り下ろさないようにさせ、棍棒を使おうとすれば腕を刻む。

 

 時間を稼いでいるだけなので消耗はあまりないが、マリンの表情は険しいものだった。

 

 現在このシェルターの避難誘導をしている魔法少女は、マリンを抜いて5人。

 強さでいえばB級は倒せてもA級は難しい程度だ。

 

 年齢は全員マリンよりも上だが、マリンが抜けた穴を埋められず、避難はあまり進んでいなかった。

 

 マリンが負けることはないだろう。だが……。

 

(面倒ね……)

 

 マリンの鬱憤は溜まる一方だった。

 

 注意して大技を使えば大丈夫だろうかと、マリンが考え始めていた時だった。

  

 空から一条の光が差し込み、ギガントを両断したのだ。

 

 ギガントの再生能力をもってすれば直ぐに再生するはずなのだが、ギガントはそのまま塵となり消えてしまった。

 

 こんな芸当が出来る魔法少女を、マリンが知る中ではひとりしか居ない。

 

「面倒なのが居たねぇ。被害はないかい?」

「助けていただきありがとうございます」

 

 魔法少女ブレード。

 

 ミカを東北支部に放り投げ、再び魔物を狩り始めていた。

 

「マリンだったか? お前ならあれ位倒せたんじゃないか?」 

 

 ブレードは剣を納め怪訝そうにした。

 反応を拾ってから直ぐに殺してしまったが、ランカーの候補に挙がっているのならば、この程度は倒せてもおかしくないのだ。

 

「私が倒す場合周りへ被害が出てしまうので、避難が終わるまで時間を稼いでいました」

「なるほど。お利口さんだね」

 

 魔法少女としては当たり前。だが、上に立つ者としてはまだまだだな。

 ブレードはそう評価した。

 

 次に向かおうかとブレードは考えるが、ふと天啓が下りてきた。

 

「マリン。強くなりたいか?」

「はい」

 

 マリンは即答した。イニーとの戦いで更に強くなったマリンだが、それでも日本のランカーを名乗るのにはまだ弱く、イニーの横に並び立つには遠く及ばない。

 

「いい返事だ。ちょいと待ってな。少し手を貸してやるよ」

 

 ブレードはニヤリと笑い、腰に差している刀に手を掛けた。

 ゆっくりと腰を下ろし…………。

 

「雑魚散らし」

 

 ブレードが編み出した、特殊な居合い斬り。

 マリンには光の線が一瞬だけ走ったように見え、いつの間にか納刀されていた。

 

「行くぞ。付いてきな」

「えっ?」

 

 マリンは疑問に思うが、周りを見てブレードが何をしたのかを理解した。

 あれだけいた魔物が全て塵へと変わり、姿を消しているのだ。

 

「こいつは借りてくよ。後は宜しくな」

「は、はい!」

 

 ブレードはマリンと一緒に避難誘導していた魔法少女に声を掛けた後に、マリンの首根っこを掴み跳んで行った。

 

 次の反応をブレードが探っていると空が砕け、世界を覆っていた結界が割れた。

 

 そして、今までの魔物の出現が馬鹿らしくなるくらいの魔物が姿を現すのであった。

 

 

 

 

 

1

 

 

 

 

 

 戻ってきたか……。

 

(あれからどれ位経った?)

 

『……20分位だよ』

 

 アクマはまだ立ち直れそうにないな。

 

 第二形態で戦っている時に、フユネの圧がどんどん強くなっていたのは、吸収のせいだろう。

 そして、適応によって殺しへの忌避感も和らいでいた。

 

 一度変わってしまったものが元に戻る事は無い。

 

 嫌な能力だが強くなれるし、戦いの最中も僅かな可能性を見出だす事が出来る。

 

 相手が圧倒的強者だったら意味は無いがな。

 

(微妙な時間だな。それより壊すとするか)

 

『そうだね。これで結界が壊れれば後はハルナと楓次第だよ』

 

 結界さえ壊れれば妖精界で暇をしているであろう魔法少女も地球に帰ってこれるだろうが、そう簡単に終わらない気がするんだよな。

 更に魔物が増えたり、何かしらの制約を掛けられたりしそうだ。

 

 まあ壊さない事には始まらないので、壊すしかない。

 

 クリスタルを砕くと白い光が発生し、これまでと同じく一冊の手記が落ちていた。

 ただ、今回の手記には血と思われる染みが色濃く付いている。

 

 乾いているのだろうが、あまり触りたいとは思えない。

 

『私の目的を達成するには、やはり時間が必要そうだ。だが、アルカナを手中に納めることが出来たのは僥倖だ。おかげで色々と捗った。私を染めたものの正体や、世界の仕組みを知ることが出来た。私たちの世界は一本の木みたいなものだ。仮に滅ぼしたとしても、他にも世界はある。ならば神だとかが制約やなんだと、手を出してこないのも頷ける。木の生えている大地からしたら、私のやっていることは些細なことだ。口惜しくもあるが、この制約を手玉に取っている側からしたらありがたいものだ。そして、私の身に巣食った感情。想いとは難儀なものだが、いくら経とうとも感情は風化しないものだ。私が人で有る限り、忘れることはない。後少し。後少しなのだから……それに、仲間も居たみたいだ』 

 

 結構長かったが、少し支離滅裂な感じがしなくもない。

 

 人で有る限り……人は時間には勝てないのだろう。

 いくら誤魔化していても限界がある。

 

 目的だけを達成しないのは、やはり人を保つためなのかも知れないな。

 だが、俺を仲間呼ばわりするのは止めてほしい。

 

 俺と魔女は相容れないのだから。

 

(結界は解けたか?)

 

『解けたよ。これで…………魔物の更なる出現を確認! 倍どころじゃないよ! それに、星喰いが妖精界に現れたよ』

 

 ある意味、結界を解くのは罠だよな。

 ここからは時間との勝負だ。

 

 俺と楓さんが勝たなければ、未来はない。

 

 手記をしまいこみ外に出ると、リンネとロックヴェルトが待っていた。

 

 こいつ等にとっては僅か20分ほどの出来事だったのだろうが、俺にとっては数日振りの再会となる。

 会わなくていいなら会わないままの方が良いのだが、魔女の居場所が分からない以上短気を起こす事は出来ない。

 

「お帰り。今回は結構早かったみたいだけど、どうだった?」

「最悪でしたね。ですが、魔女の行動理由をそれなりに知ることができました」 

「ほう。それで?」

「私と魔女はやはり相容れませんね」

 

 抱えているものが同じだとしても俺の行動理由と魔女の目的は共存しない。

 何もかも無くなるのは、俺の望むものではない。

 

「なるほどね。一応聞いておくが、今回のプレゼントは?」 

「あと少しで達成できる喜びと、私の事を仲間と書いてありましたね」

 

 ロックヴェルトは顔を歪め、リンネは何がおかしいのか声を上げて笑った。

 

「確かにこれまで誰一人として現れることのなかった者みたいだから、的外れという訳でもないだろう」

「私は、そうは思いませんがね」 

「相変わらずつれないな。さて、行くんだね?」

「はい。魔女はどこに居るんですか?」 

「ロックヴェルト」 

 

 リンネがロックヴェルトを呼ぶと、北極に来た時と同じように黒い渦を出した。

 流石に場所を教えてなんてくれないか。

 

 教えてくれたのならば、殺せたのに。

 

「この先に魔女が待っているよ。出来れば、負けてくれることを願うよ」

「それは出来ない相談ですね」

 

 黒い渦の中に入ると、真っ白い空間に出た。

 上も下もなく、流れの様なものが奥に向かって進んでいる。

 

 これは……騙されたか?

 

 振り返ると黒い渦は消え失せ、閉じ込められてしまってた。

 

(アクマ)

 

『これは少し分が悪いかもね。気付いて直ぐに言えれば良かったけど……ごめん』

 

 やれやれと落ち込んでいると、ロックヴェルトがどこからともなく姿を現した。

 その表情は能面の様に無表情であり、先ほど見せていた感情が消え失せている。

 

「あなたの独断ですか?」

「……」

 

 武器である剣は持っていないが、ロックヴェルトは魔法の方が厄介だ。

 だが、何故こんなマネをしたんだ?

 

 ロックヴェルトの魔法は厄介だが、今の俺が負けることはない。

 既に単独でアルカナを解放できないが、同時解放しても時間的に問題ないだろう。

 

 問題は魔女の居場所が分からないことだ。

 

「……お前は一体何者なの? 年齢と言動は一致せず、経歴すら追えない。お前の情報は施設にもなかった」

「知ったところで意味はあるんですか? 後は殺すか殺されるかだけの今となっては些細なことでしょう?」 

「なら取引よ。私が命を犠牲にすれば、滅びるまでの時間くらいは稼げるわ」

 

 ……面倒な奴だ。

 

 下手な嘘を言って時間を無駄にするのは得策ではない。

 施設と言っていた辺り、俺の嘘の経歴は看破されているのだろう。

 今更自分の身の上を話すのは癪だが、仕方ないか。

 

 何もせず聞いていてくれれば、解析の時間くらい稼げるはずだ。

 

「あるところに、仲睦まじい普通の家族が居ました。両親と子供がふたり。普通に生きて普通に死ぬと誰もが思っていましたが、ある時今では珍しくもない報せが家族に届きました」

「……それで?」

「なんと子供の内、片方が魔法少女になれたのです。危険ではあるけれどその分稼ぎもよく、世のため人のためになる仕事です。魔法少女となった子供も皆のためにと頑張りました。ですが、悲劇が家族を襲います。なんと、魔法少女は魔物に殺されてしまったのです」

 

 ふと、フユネの感情が強くなったように感じた。

 魔女の手記にも書いてあったが、俺もやはり忘れられないようだな。

 

「魔法少女の家族は大層嘆きました。あれだけ良い子なのにどうして……と。そんな家族でしたが、どうして魔物に殺されたのかを知り、激怒します。魔法少女である子供は、他の魔法少女に疎ましく思われ、囮にされたのでした」

「……よくある話ね。屑どもが地位や自尊心を守るために馬鹿なことをする。ありきたりよ」

「そうでしょうね……。残された家族は事件に関与した魔法少女へ責任を取るように魔法局に直訴しますが、全く相手にされず、お金で目を瞑るように脅されました。両親は憤慨するものの、残された子供の事もあり、手を引くしかありませんでした。しかし、残された子供の方はそうもいきません。自死すら厭わず、魔法少女の居た魔法局に特攻しようと考えますが、魔法少女だった子供が手を打っていたため、そんな自殺行為をすることはありませんでした。それから十数年。両親は精神疲労が祟り若くしてこの世を去り、子供だけが残されて大人になりました」

 

 ロックヴェルトは話を聞いている内にイライラとし始めてたが、話の矛盾点に気づいたのか表情を硬くした。

 

「大人となった子どもは過去の事もあり、他人とはあまり関わらず、魔法少女への恨みを抱えたまま生活していました。死んだ魔法少女によって手を打たれているため短慮を起こしませんが、そのせいで精神はゆっくりと歪んでいきました。このまま普通に暮らしていくのだろうと考えていた、ある日の事です。仕事終わりに公園に寄り、珈琲を飲みながら疲れを癒していました。そんな時です。魔法少女同士の喧嘩により、飛んできた魔法が直撃したのです」

「……」

「何も力を持たない大人……一般人はそのまま死ぬはずでした。魔法少女を恨み、世界を恨み……。奇跡なんて起きるはずはないのです。だってこの大人は男だったのだから。魔法少女になって息を吹き返す事はあり得ないのです。ですが、ここで魔法少女だった子が打っていた布石が悪さをしました。アルカナであるアクマを引き寄せたのです。アクマは契約を持ちかけました。助かりたければ自分の心を満たせと。男としては別に死んでも良かったのですが、布石によって自死を選ぶことが出来ないのです。アクマは昔の契約者の身体を持っており、男の魂を身体に移し替えました。そして誕生したのが私です。おかしな話でしょう?」

「男だったとしても、その精神性はおかしいわ。それに、それだけであんな化け物が生まれるわけがない」

 

 化け物とは心外だが、フユネ……憎悪の精神性は破綻しているからな。

 俺と違い、魔法少女を殺せるならば誰だって構わない。

 そして魔物には興味が無いので、魔物と戦うのが魔法少女のはずなのに、倒す事が出来ない。

 

 初めてM・D・Wと戦った時の様に無茶をすれば可能だが、あの時は俺に死なれては困ると力を貸してくれていたのかもしれない。

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