魔法少女がいく~TS魔法少女は運が悪いようです~ 作:ココア@レネ
イニーやタラゴンたちが地球で魔物と戦っていた頃、妖精界では壮絶な死闘が繰り広げられていた。
地球に現れているのは幅広い種類の魔物だが、妖精界で現れているのは全てSS級だった。
妖精女王は魔物の出現する位置を結界で隔離し、魔法少女に迎撃をして貰っているが、あまりにも魔物の数が多かった。
無数にある結界の内、ひとつをひとりで担当している楓は、息をするようにSS級やその眷属を殺していくが、戦いに終わりは見えない。
救いがあるとすれば、妖精女王と楓はこの事態を魔女が起こしたものだと瞬時に看破し、対策を立てる事が出来た事だろう。
地球側と違い、妖精界は妖精女王の命令によって機能している。
そのため、煩わしい会議や伝達などの手間が大幅に軽減できるのだ。
その結果が今の状態と言えるだろう。
だが地球側より被害を抑えられているとはいえ、被害をゼロにすることは出来ない。
各国のランカーが主導となり魔物を討伐しているが、多勢に無勢なのだ。
「ちょっ! 全く減らないんだけどー!」
「喋る暇があるなら手を動かしなさい!」
世界滅亡の危機だと言うのにナイトメアはいつものように弱音を吐き、それをストラーフが叱咤する。
魔法少女歴としては長い方であるナイトメアだが、ランカーとしては力不足だ。
それでも最近はイニーとの出会いやストラーフの尽力により、それなりの力を付けている。
ロシアでは誰もが直ぐに死ぬだろうと思われていたナイトメアは、今も涙目になりながら生き残っていた。
ストラーフの援護があればこそだが、討伐数は中々のものである。
そんな統率の取れている妖精界と違い、地球側は今も被害が広がる一方だ。
いくらタラゴンやアロンガンテが事前に準備をしてきたとしても、限界がある。
「避難を急いでください! 怪我をした魔法少女は民間人の方と一緒に引いて!」
強化フォームになれるようになったスターネイルは、怪我をして減っていく魔法少女たちの負担をひとりで背負い込み、避難活動をしていた。
ビットに短剣。銃を巧みに操り、数百を超える魔物相手に一歩も引かずにいる。
「シェルターの定員埋まりました!」
「防衛線を築き、残りの民間人をテレポーターへ向かわせて下さい」
そこには数か月前までなよなよしていたスターネイルの姿は無く、一人前の魔法少女の姿があった。
ブルーコレットと共に目指していた、誰かのための魔法少女。
「スターネイルはどうするの!?」
「前に出てなるべく数を減らします。テレポートが終わりましたら合図を下さい!」
「無茶よ!」
スターネイルは仲間の声を無視して飛び出して行った。
無茶と言われたが、無茶をしなければ死人が増えるだけなのだ。
日本に居る魔法少女は、一部の者を除いて強いとは言い難い。
誰かが背負わなければならないのだ。
(今頃、マリンちゃんも頑張っているのかな?)
スターネイルは両手に持った銃を握りしめ、迫りくる魔物へと引き金を引く。
一年前では倒せなかった魔物を、今では簡単に倒すことが出来る。
その事に対する達成感はほとんど無く、心配だけが募ってた。
何が起きているのかを正確に把握していないが、誰が起こしているかは流石に分かる。
「スターライト!」
頭上のビットから爆発する弾を発射し、銃から短剣に持ち替えて魔物の群れに突撃する。
手数も火力もあるが、ヘイトを集めない事にはいつか魔物に抜かれてしまう。
なので、態々前に出て不利な状態で戦いを始めた。
銃を乱れ撃ち、足りない火力を短剣でカバーし、有利な状態をビットで作る。
その戦いはアロンガンテの戦い方によく似ていた。
きっと、彼女がランカーになる日も遠くはないだろう。
「退避終わりました!」
「一度最寄りの魔法局に行って部隊の再編をお願い。それと、次の現場への指示を送るように言っておいて。それと、テレポーターはロックしておいてね」
「はい!」
スターネイルは戦いながらも的確に指示を出し、押し寄せる魔物の群れから距離を取った。
少しだけ息を整え、次のシェルターに行こうとしたその時、地球を覆っていた結界が砕け散った。
それは、新たな地獄の始まりだった。
遠目でも見える、大きな魔物。
その巨体は、SS級の証とも言えるだろう。
そんな魔物が無数に現れたのだ。
ブレードやタラゴンだけでは手が足りない。
スターネイルやマリンが増えたとしても、誤差程度だ。
しかし……。
(見ていてね。コレットちゃん)
戦わなければならない。
少しでも被害が減るのならば。
スターネイルは空を跳び、魔物へと向かって行った。
それが、自分とブルーコレットが目指した未来のためになると信じて。
魔物へと向かうスターネイルの背中は、少しだけ大きく見えた。
1
イニーによって解かれた結界の影響は、地球よりも妖精界の方が色濃く出ていた。
その理由は……。
「ついに……ですか」
星を、世界を喰らう寄生虫――星喰い。
最強にて災厄の魔物が楓の前に現れた。
勝てない敵ではない。
それは幾度となくシミュレーションして分かっている。
だが、実戦と仮想は必ず乖離がある。
何より勝つにしても一筋縄では行かず、勝ったとしても楓が生き残る術は無い。
北極で魔女に星喰いを奪われた時点で、こうなる事を楓は分かっていた。
「もっとも強力な結界をお願いします。それと、後はお願いします」
『……任せなさい。女王として、やるべき事はやるわ。だから……お願いね』
妖精女王も、楓が生きて帰って来る事はないと理解している。
自分たちが生き残るには、楓の犠牲が必要なのだ。
楓は肌に感じる気持ち悪い魔力を、自分の魔力で押し出す。
「今頃、イニーも戦っているのでしょうね」
星喰いが現れた理由を察し、楓は目が濁った可哀そうな少女に思いを馳せる。
魔女がどれだけ常識外れなのかは、北極で追いかけっこをしていたから知っている。
だがどれ位強いかは分からない。
おそらく自分と同程度かそれ以上。
その程度の情報だ。
そんな相手をイニーはしている。
「未来は、任せましたよ」
様々な魔法を展開し、楓は星喰いに向かっていく。
未来を皆に届けるために。
2
「……まだ、足掻くようね」
「個人的には負けても満足でしたが、私が負けるのを許せない人が居るみたいでしてね」
魔女の魔法を強化フォームになる事で防ぎ、空へと飛び立つ。
こんな土壇場で強化フォームになれるとはな……傷もふさがり、また戦う事が出来る。
ローブが変わってしまった事は気掛かりだが、こればかりは諦めるしかない。
それはそれとして、状況的には全く良くなっていないのだがな。
魔力が回復しても、魔女との差は開いたままだ。
『魔力ラインはやっぱり駄目か……今の状態なら解放位なら出来るけど、魔女に勝つには全く足りない……』
アクマの気持ちは分かるが、俺はそうは思わない。
使えるものは使い、捨てられるものは捨てる必要があるが、手立てはある。
俺の強化フォームは強い弱いで言えば、間違いなく弱い。
武器の杖も変わらないし、ちょこっと見た目が変わっただけ。
――だから、ジョーカーに成り得る。
強化フォームになったのに、何も変わらない杖を右手に持つ。
「代償:エクリプスの杖」
木製の杖は朽ち果て、空に溶けていく。失うのは二度目だ。
僅かに違和感を感じたが、楓さんか偽史郎のせいだろう。
「代償:生きた歴史」
男として生きていた、俺の残り粕を全て捨て去る。
俺が生きてきた記録は、俺の記憶だけにしか残らない。
今更かもしれないが、この世界に榛名史郎は居なかったことになる。
多摩恵にとっても、トラウマが無くなるのだから、良い行いだろう。
「代償:憎悪の記憶」
俺の人格を形成していた、魔法少女への恨みを消し去る。
代償としては大きいが、既にフユネとして乖離しているのでそこまで問題はない。
少々俺が丸くなる程度だ。
『これは……ハルナ! 君は一体何をする気なんだ!』
俺が強化フォームとなって手に入れられたのは、新しい魔法……能力がひとつだけだった。
ローブもまるでウェディングドレスみたいになっていたが、こちらはどうでも良い。
赤と白のコントラストは傍から見れば美しく、頭に咲いた大きな椿の花は見るものを魅了するかもしれない。
俺にとってはただの嫌がらせだが、今だけの我慢だ。
代償……何かを対価に何かを得ることが出来る魔法。
汎用性も何もない、糞みたいな能力だ。
紛い物である俺への当て付けを感じる。
俺が代償にして手に入れるのは、仮初の器だ。
3つ……愚者。恋人。悪魔。
これらを収めるための、仮初の器。
この身が滅びるというのならば、それはそれで受け入れよう。
だが、数分でも持つのならば、届かせて見せよう。
「唄え。嘆け。贄とせよ。――アルカナ。
「ほう……」
身体と魂が乖離し、今必要な最適な身体を構築する。
もしかしたら、勝つと同時に人ならざる者になるかもしれない。
それでも……勝てるのなら……。
『魔力回路オーバーヒート……内臓機能も全部停止……身体も……なのに……なんで立っていられるの!』
解放が終わると同時に、崩壊が始まる身体。
朽ちて行く服に、ボロボロの翼。
それを様々な魔法で食い止め、一振りの剣を構える。
「無理矢理……ね。面白いわ。どちらが勝者となるか…………――来なさい」
「夢極空断」
魔力だけを斬り裂く一太刀。
魔力が無かった可能性を引き出す、魔法ではない魔法。
魔女が発動しようとした魔法を不発にし、魔力を乱す。
「なっ!」
見開かれる魔女の目。
魔法とは力の押し付け合いだが、それを全て覆す。
愚者は可能性を引き出し、恋人は求める物を身に宿す。
そして、アクマは
魔女は直ぐに大剣にした剣を振り下ろしてくるが、下から振り上げて剣を吹き飛ばす。
「これほどとは……ね。だが、だからと言って負ける程甘くはないわよ!」
空を埋め尽くす、巨大な魔法陣。
この僅かの間で既に魔法を使えるとは流石だが、俺に残された時間はあまりにも少ない。
「天地開闢の刻」
魔女の魔法を寸分狂わずトレースし、撃ち返す。
既に代償の作り出した仮初の器は壊れ始めている。
次の一撃で、確実に殺す。
(アクマ)
『……どうしたの?』
(今回は俺の勝ちにする。……済まないな)
『ハルナ……?』
こんな馬鹿な事はするものではないな。
だが、ここまでやってしまったのだ。
ならば、やれる事全てをやってしまおう。
今も尚にやけている魔女を、両目に捉える。
さあ、可能性を見せてくれ。
「
命あるものは、必ず死ぬ。
その想いを剣に込め、魔女が死ぬ未来を捉える。
視界が赤く染まり、右目が弾ける。
だが、これで……これで良い……。
空中を蹴り、魔女の腹へと剣を突き刺す。
魔女は一瞬だけ驚いた後ににやけるが、その顔は直ぐに驚きへと変わった。
「どう……なっている? こんな……魔法なんて……」
「理解はさせませんよ。まあ、次があるは分かりませんがね」
魔女は……楓さんは魔法や武器を見る事で、それを模倣、召喚する事が出来る。
だが、それをさせないための限界解放と仮初の器だ。
死の概念のみを込めた武器と魔法。
それを互いに与えて崩壊させる。
代償で作った仮初の器が俺の死を肩代わりしてくれるが、魔女にはそんな裏技は使えないし、使わせない。
そして、魔女よりも俺には時間がある。
「まさか、この私が負けるとはね……人に可能性なんて無いって……人の想い程度に負けないと思ってたのにね」
「私とあなたが抱いているのは一緒ですよ。ただ、あなたに味方が居たように、私にも居るんですよ」
「ふふ。そうね。私にも、心を許せる人が…………次の私にも、よろしく……ね」
魔女はそう言い残すと身体から力が抜け、灰になって散って行った。
『ハルナ……早く。早く戻って! これ以上は!』
(駄目だ。もうひとつやり残したことがある)
もう身体を保つ魔法も役に立たず、内側と外側から崩壊が始まる。
だが、それでも直ぐではない。
ロックヴェルトが使っていた黒い渦を真似て使い、中に入る。
目指す場所は、この世界の楓さんが居る場所。
そこに――星喰いが居る。
『……』
俺の仕事は魔女を倒したことで終わりだが、魔女の思惑は俺を殺し、楓さんを殺す事だ。
勝つなら……完全なる勝利を目指すなら、楓さんの生存が必要だ。
そして今ならば星喰いの汚染をどうにかする術がある。
黒い渦から出ると、星喰いと思われる魔物と楓さんが戦っていた。
大型と聞いていたが、せいぜい10メートル位だろうか?
いや、外殻が大きいだけで、内殻はそれ程でもないって事か。
不気味な……エイリアンの様な姿だが、俺に気づいていない今がチャンスだ。
右腕で、剣を振りかぶる。出来れば両腕を使いたいが、左腕はもう動かない。
魔女の魔法により、魔力供給はまだ止まったままだが、一撃分はどうにかなる。
「代償:完全なる身体」
第二形態で変異してた細胞。
俺自身の身体を対価にする。
限界解放を終えた瞬間、失った身体が戻らず、そのまま死ぬかもしれないが、どの道早いか遅いかだけの違いだ。
それに変異した細胞については、どうにかしなければいけなかったのだ。
丁度良いだろう。
「夢極空断」
周りの汚染された魔力を断ち切り、道を作る。
俺に楓さんは気づいたようだが、今の状態の俺を見て、誰かは分からないだろう。
星喰いは楓さんに攻撃を続けたままだな。
それじゃあ、最後の一撃と行きますか。
「封天想命斬」
楓さんと星喰いの間に割り込み、星喰いを頭から股にかけて両断する。
星喰いは歪な反応を示すが、まだ殺した訳ではない。
ちょっとした時間稼ぎだ。
「楓さん。魔女の方は終わりました。なので、後の事はお願いします」
「イニー……なの? ――待って!」
言いたいことだけを言い、星喰いのコアを剣で貫き、魔法を発動する。
膨れ上がる星喰いの汚染された魔力を全て封じ込み、仮初の器に移す。
この仮初の器は死の概念により、もう直ぐ崩壊する。
そうなれば、魔力諸共無くなるってわけだ。
まあ、その僅かな間さえ俺を蝕むが…………悔いはない。
力を使い果たし、最後の搾りかすで再び黒い渦を地面に展開し、その中へ落ちるようにして飛び込む。
もって後数十秒の命だが、これで契約完了だ。
死ぬならば、誰にも迷惑を掛けない所が良い……。
場所は……。