魔法少女がいく~TS魔法少女は運が悪いようです~   作:ココア@レネ

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魔法少女達と戦いの終わりに

 楓と星喰いの戦いは楓が思っていた以上に、苦戦を強いられていた。

 外殻の時は互いに出力の高い魔法の押し付け合いだったので、多少時間が掛かったが眷属諸共葬る事が出来た。

 

 問題はその後の、内殻との戦いだった。

 

 数百メートルある甲虫の様な殻が剥がれ落ち、中から現れたのはアクマが内殻と呼んだ存在だった。

 その場からほとんど動く事の出来ない外殻と違い、内殻は動く事ができ、自らの手で楓を殺そうと動き出す。

 

 そして充満していた魔力が濃くなり、楓側は放出系統の魔法が使えなくなってしまった。

 

 ブレードの能力やリリウムナイトの能力を巧みに切り替え、内殻と戦うが、楓の方が不利だった。

 

 それでも徐々に内殻を押し返し、互角の戦いまでもっていく事が出来た。

 

 問題は、結界の中に充満している魔力だ。

 

 時間が経つにつれて楓は自分が不調になっているのを感じ始めた。

 

(あまり時間は掛けられませんが……流石に手強いですね)

 

 楓側は接近戦だけを強いられているが、星喰い側は様々な魔法を併用してくる。

 

 楓の長所は様々な魔法や能力を使い分け、同時に使う事にあるのだがそれを封じられているので、どうしても火力が落ちしてしまう。

 

 勝てるには勝てるだろうが、この後の事を考えるとどうしても焦りが生まれてしまう。

 

 そんな時だった。

 

 汚染魔力により感じていた不快感が消え去り、上空に人影が見えたのだ。

 

 今楓が居るのは妖精女王が張った特別な結界の中だ。

 楓すら簡単には侵入できず、ブレードですら面倒だと諦めたほどだ。

 

 そんな結界に侵入できる人物は……ふたりの内、どちらかだろう。

 

 その人物は瞬時に楓の前に現れると、星喰いを真っ二つにしてしまった。

 

 背中には所々黒く染まった白い翼が生え、肌のあちこちがボロボロと崩れ落ちては修復している。

 見覚えは無いが、今にも息絶えてしまいそうな魔法少女……。

 

 

「楓さん。魔女の方は終わりました。なので、後の事はお願いします」

「イニー……なの? ――待って!」

 

 声を聞き、誰だか察したが、その魔法少女……イニーは身体を修復している星喰いを剣で貫いた後、姿を消してしまった。

 

 星喰いの死によって撒き散らされる魔力は四散してしまい、呆然としている楓だけが残された。

 

『……終わったの?』

 

「はい。イニーが……やってくれました」

 

『そうなのね。他の結界で魔物が次々と消えているわ。余裕があるなら、地球の方を見てきた方が良いかもね』

 

「そうですね……報告も……しておいた方が良さそうですし」

 

 楓の眼には、イニーが星喰いと共に死んだように見えた。

 どんな手を使ったとしても、星喰いの魔力をどうにかして生き残れるはずはないのだ。

 

 残された者として、この事を関係者。特にタラゴンには報告しなければならない。

 

 戦いは終わり、イニーが死んだ事を。

 

 

 

 

1

 

 

 

 

 

 魔女と星喰いが死んだ事により、妖精界と地球に押し寄せていた魔物は、自然発生していたものを残して消えて行った。

 

 何故この様な事態になったかを知っている者は少ない。

 だが、一部のモノは誰が犯人なのかを知っている。

 

「おや? もうしまいかい」

「やっと……ですか」

 

 ブレードは戦おうとしていた魔物が消えてしまい、溜息を吐く。

 そのブレードに連れまわされていたマリンは足から力が抜け、倒れこんでしまった。

 

「しかし、この短時間で随分と戦えるようになったね。タケミカヅチの方も良い線いってたが、若い世代も捨てたもんじゃないな」

「まだブレードさんも、若いと思うのですが?」

 

 ブレードは今年で24歳になるが、若いかどうかは人次第だろう。

 ただ、魔法少女としては残された時間は多くない。

 

 そんな調子で休んでいると、マリンの身体に悪寒が走った。

 何か、起きてはいけない事が起きた。

 

 今直ぐに動かなければ後悔する。

 

 そんな気がした。

 

「おい、どうした?」

 

 マリンはブレードの声を無視して走り出した。

 どこに向かえば良いのかは分からない。

 けれど、居ても立っても居られなかった。

 

 彼女の向かう先は……。

 

 

 

 

 

 

2

 

 

 

 

 

「……終わった……のね」

 

 スターネイルは左腕を押さえながら、壁により掛った。

 

 シェルターを守るため、単身SS級の魔物達と戦っていたスターネイルは、正に満身創痍だった。

 

 タラゴンやブレードに比べれば、倒した数はそう多くない。

 

 だが、守った人の数だけならば、スターネイルも並べる程だった。

 

「……あれ?」

 

 スターネイルは何か大事な事を忘れてしまった感覚に陥った。

 

 今の自分を形成するために必要だった、罪の記憶。

 それが、スターネイルの中から無くなった。

 

「なみ……だ?」

 

 理由も分からず流れる涙に、スターネイルは困惑した。

 戦いに勝ち、生き残った筈なのに悲しくてしかたがない。

 

 地面に座ったスターネイルは、何かを思い出そうと必死だった。

 

 思い出さなければ、独りになってしまう。そんな気がしていた。

  

 

 

 

 

 

3

 

 

 

 

 

 黒い渦から出た先。そこは妖精界にある墓地の一角。

 俺の()()()()存在が眠る場所だ。

 

 代償を捧げた結果、姉に弟は居なかった事になっている。

 歴史の修正がどうなるかは分からないが、人の記憶にはそうなっているはずだ。

 

『……お疲れ様』

 

(馬鹿言え。これからが始まりだろう?)

 

 姉の墓に寄っかかり、目を閉じる。

 

 変身を解かなければもう少し持つが、解いた瞬間に死ぬだろう。

 

 1年にも満たない、長いようで短い魔女との戦い。

 

 あれだけ大口を叩いていたのに、結果はこの様だ。

 

 勝つには勝ったが、俺ももう直ぐ死ぬ。

 

 偽史郎が何を考えているか知らないが、俺の戦いはこれで終わりなのだろう。

 

 身体も魂も、助かる事は無い。

 

 だが、少し位強がっても良いだろう。

 

(色々とあったが、初めて勝ってやったぞ)

 

『うん……うん』

『私はこのまま史郎と死ぬです。でも、アクマは次に行くのです。今回勝てたのならば、次もあるのです』

『やだ! 私は……私はただ一緒に生きたかっただけなんだ! 戦いなんて……もう……嫌なんだよ……』

 

 淡々と語るエルメスと違い、アクマは泣いているのだろう。

 ソラの身体をこうしてしまったのは悪いと思うが、俺の為にも、アクマの為にも魔女とは戦わなければならなかった。

 

(済まなかったな。こんな終わり方になってしまって。お前の身体なのに、何度もボロボロにしてしまった) 

 

『気にしてないわ。どうせ死んだ人間だもの。短い間だったけど、それなりに楽しめたわ』

 

(そうかい。そいつは良かった)

 

 段々と意識が遠のき始めた。

 

 楽しい戦いの日々だったな……。

 

 そろそろ、眠るとするか。

 

「イニー!」

 

 …………この声はマリンか。よく間に合ったものだ。時間的余裕はほとんど無かったというのに。

 

 だが、間に合ったからと言って何か変わるわけでもない。

 もう……終わるのだから。

 

「私の事は忘れなさい。それが、あなたたちのた……」

 

 何かが頬に触れた瞬間に、俺の全てが崩れ去った。

 

 一勝何敗だか分からないが、俺も……アクマも勝ったのだ。

 

 ――初めて、勝てたのだ。

 

 

 

 

 

4

 

 

 

 

 

「そんな……どうして……」

 

 心が命ずるまま墓地に来たマリンは、墓石に寄っかかっているイニーを見つけた。

 見た目はイニーと全く違うが、それがイニーだとマリンには理解できた。

 

 しかし……。

 

 「私の事は忘れなさい。それが、あなたたちのた……」

 

 マリンがイニーに触れようとした瞬間、イニーは灰となって消えてしまった。

 

 まだこれからがあると…………平和な日常が来ると思っていた。

 

 けれどマリンが一番一緒に居て欲しかった人は……マリンの目の前で消えてしまった。

 死に目に間に合った……そんな事よりも、生きていて欲しかった。

 

 マリンは両目から溢れる涙を抑える事が出来ず、両膝をついて叫んだ。

 

 その叫びは、墓地に悲しく響くだけだった。

 

 誰も……此処には居ないのだ。

 

 

 

5

 

 

 イニーと楓の尽力により、世界を脅かす脅威は居なくなった。

 魔物が居なくなることは無いが、魔女が行動していた約半年間に比べれば微々たるものだろう。

 

 そして、その半年間の間活躍をした魔法少女。イニーフリューリング。

 流星の様に現れ、流れ星の様に散ったひとりの少女。

 

 非合法な存在で造られた魔法少女と世間では認知されており、いつ死んだのかを正確に知っている者はほとんど居ない。

 

 一年間……常に戦い続けた彼女の記録は、公式サイトに残るのみだ。

 彼女に助けられた人たちはせめてお参りでもと思うが、彼女の墓が作られることはない。

 

 いつの日か彼女の死も忘れられ、世界は再び争いあう日を迎えるのだろう。

 

 だが、今だけは……今だけは、きっと平和と呼べる状態なのかもしれない。

 

 

 

 

5

 

 

 

 

 ひとしきり泣いたマリンは腫れた目元を拭い、立ち上がった。

 

 イニーの死を看取った者として、やるべき事を成すために。

 

 世界が突如消えた魔物に困惑している中、マリンはある魔法少女を探した。

 

「居た」

 

 あちこち捜し回り、目的の人物を東京魔法局の一角で見つけた。

 

 マリンが探していた人物……タラゴンは真剣な顔で楓と話していた。

 割り込むのは悪いと思いながらも、居ても立って居られなかったマリンは近づいて行った。

 

「すみません」

「うん? あんたはマリンだったわね。どうしたの?」

「イニーの事でお話が……」

「っ!」

 

 マリンの言葉にタラゴンよりも楓が反応した。

 楓の脳裏にもしかして生きていたのかと、淡い期待が過ったのだ。

 

 そんな楓とは違い、タラゴンは落ち着いたものだった。

 

 こうなる事は、家でイニーと別れた時に気づいていた。

 あの約束が嘘だと、分かっていたのだ。

 

「話って?」

「妖精界にある墓地で……私の目の前で……イニーは死にま……した」

 

 マリンは再び込み上げてくる涙を我慢しながら言い切った。

 これだけは、イニーの保護者であるタラゴンにちゃんと伝えたかったから。

 

「そう……何か言ってたかしら?」

 

 楓は落胆の色を隠すように顔を逸らし、タラゴンは、やっぱりと思いながらも平然を装う。

 

「――私の事を、忘れろと」

 

 タラゴンの足下が、大きな音を立てて陥没した。

 

 溢れ出た怒気を瞬時に治め、一度深呼吸をする。

 

「あの馬鹿は……。教えてくれてありがとうね。あんたは少し休んでなさい。そんな顔じゃあ周りが心配するだけだからね」

「……はい」

「タラゴンさん……」

 

 タラゴンの内心を思い、楓は顔を少し曇らせた。

 

 魔女と星喰いとの戦い。

 どちらかが犠牲にならなければ、勝つことが出来ない戦いだった。

 

 自分が犠牲になれば……。

 そんなことを楓はタラゴンに言ったのだが、タラゴンにはどちらも代えが利かない存在だと論された。

 

 戦いは終わり平和が訪れた筈なのに、イニーの死がもたらした暗い影は広がる一方だった。

 

 イニーの存在は、本人が思うよりも大きいものだった。

 

  

 

 

6

 

 

 

 

 

 

 

「あははは! やりおったわ! 本当にやり遂げてしもうた!」

 

 地球上でありながら、地球のどこでもない場所。

 そこで何者かが笑っていた。

 

「しかし、最後のあれは私たちにすら届き得る一撃であったが、それを加味しても正に奇跡と呼べる偉業であった」

 

 笑い疲れ、寛ぎながら何者かは思案する。

 

「約束は……契約は守られた。ならば、私もただ見送るのは忍びない……な」

 

 何者かは一枚の紙を取り出し、スラスラと書いた後にどこかへと送った。

 意味があるかもしれないし、無いかもしれない。

 

 けれど、契約の対価を払わなければ気が済まなかった。

 

「払った代償も、意味があったのならば返してやるかのう」

 

 何者か……地球に宿る神。或いは世界の意思と呼ばれる存在は、思いもしなかった結果に、少し位ならルールを曲げても良いだろうと考える。

 

 その結果自分に罰が下るとしても、死ぬ程ではない。

 

「ありがとう。イニーフリューリング」

 

 神はただ、感謝した。

 

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