魔法少女がいく~TS魔法少女は運が悪いようです~   作:ココア@レネ

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魔法少女のおきてがみ

「起きなさい」

 

 ……おや?

 

「さっさと起きなさい」

 

 魂すら消えてしまった筈なのに、何故意識があるんだ? 

 

 目を開けると、真っ白い空間と、見慣れた床が目に入る。

 

 理解が追い付かないが、視線を上げると偽史郎とイブが居た。

 

「私は死んだはずでは?」

 

 ……声は相変わらず高いままだな。

 

「ああ。身体も魂すらも、灰となって消えたよ。本当ならそれで終わりだったのだが、こちらにも契約があるからね。少しズルをさせてもらった」

「そうですか。それで、私はどうなるのですか?」 

「そう焦るな。君にはふたつの道が用意されている」

 

 焦ってはいないが、自分の行く末くらいさっさと知りたいと思っても良いだろう。

 何の用があって俺を呼んだのか分からないが、情報くらいさっさと寄越せ。

 

「ひとつ目だが、戦いの結果通り、このまま消えてなくなる道だ。私たちが不甲斐無いばかりに、迷惑を掛けた。このまま終わるのも良いだろう。私たちは、敗北を受け入れた」

 

 頑張ったから、このまま終われという事か。

 俺が居なくなると言う事は、アクマもエルメスも居なくなるはずだろう。

 そうなれば、残るのはイブだけだ。

 

 魔女と戦う事は出来ても、勝つ事は不可能だろう。

 

「もうひとつは?」

「色々と()()を踏む事になるが、再び魔女と……楓と戦う道だ。今回とは比にならない位長く、険しい戦いになるだろう」 

 

 成程。考えるまでもないな。

 まだ戦えると言うのならば、選ぶのは決まっている。

 

「答えは分かっていると思いますが、アクマやエルメス。ソラはどうなりますか?」

「今は隔離しているが、今まで通り一緒に居る事も可能だよ。それと、見た目は魂に記憶されているので変えられないが、肉体はこちらで用意しよう」

 

 アクマたちと……ね。別れ際があれだったせいで、正直負い目がある。

 このままさよならをするのは、流石に不義理だろう。 

 

 それはそれとして、結局性別は戻せないんだな。

 

「向こうの考え次第ですが、一緒に居たいと思います」

「そうか。呼ぶと騒がしくなるのであいつらについては後回しにするが、これからについて話そう」

 

 今度こそ死んだと思ったら、結局生きていました。

 あいつらがどう反応するかは目に見えている。

 

「お願いします」

「少々ややこしい話になるが、魂の方は壊れる前に保護できたが、身体の方はそうもいかない。そして、この世界。この木で新たな肉体を君に与えることはルール上出来ない」

 

 ソラのやった魔法が特殊なだけで、本来魂や肉体のやり取りは出来ないのだろう。

 今更だが、俺の筋力が低いのも何かしら制約を掛けられていたからなのかもしれない。

 

「だが、少々グレーだが抜け道もある。要はこの木以外の肉体ならば、与えても問題ない。幸い君の世界の神が尽力したおかげで当てがある。それと、SYSTEMもこの程度なら見て見ぬふりをしてくれるそうだ」

「……つまりどういうことですか?」

「別の木に行ってもらい、魂と身体が定着するまで過ごしてもらう。その後は呼び戻すので、魔女と再び戦ってもらうって事だ」

 

 言いたい事は分かったが、そんな事が出来るなら細胞がどうのと問題になっていた辺りでどうにかして欲しかったな。

 

 ついでにSYSTEMとはなんぞや?

 

「これもあなたが勝ったから行える特別措置よ。結果がなければ、私たちは静観することしか出来ないのよ」

「そうですか」

 

 俺が怪訝そうにしていると察したのか、イブが補足してきた。

 

 何点か気になる点もあるが、先ずは話を全部聞いてからだな。

 

「おほん。寿命についてだが、魔女と戦う意思を持っている間は例外的に老いないようにしておく。魔女の本体を倒すか、戦う意思を失えばそのまま老いて死ぬだろう。それと、行ってもらう木だが、時間の流れはこちらと大きく違っている。なので、他の木で時間の心配はしなくても大丈夫だ」

「魂と身体の定着ですが、どれ位掛かるのですか?」

「何分初めての事例だから分からないが、十年以内とは思っている。こちらの時間では十日位だろう」

 

 十年……正直長いと思うが、仕方ないか。

 

「分かりました。……ああ。私から二つほどお願いがあるのですが」

「可能ならモノなら叶えよう。言ってみなさい」

「手紙を何人かに送っておきたいのですが、良いでしょうか?」

「その程度なら問題ない。もう一つは?」

「姉に会う事は出来ますか?」

「残念ながら君の姉は輪廻の輪に還っている。それと、もしも弟が会いたいと言ってきたらこう返して頼まれた伝言がある」

 

 ……内心を見透かされていたようで気恥ずかしいが、会えないなら仕方ないか。

 

「何と?」

「シスコンも程々にしろ……と」 

 

 ――別にシスコンでは無いと思うのだが、これ以上追及するのは止めておこう。

 ただ、姉が恨み言を残さなかったのなら、それで良い。

 

「そうですか。遺憾ですが、さっさと次に行きましょう」

「素直じゃないな。そうだ、これは渡すか迷っていたが、君の世界の神からプレゼントだ」

「プレゼント?」

 

 偽史郎が取り出したのは黒い球体だった。

 その球体は俺の中に吸い込まれ、俺の心を満たす。すると、真っ白だった空間が何時ものように真っ黒に染まった。

 

 折角払ったのに直ぐに返品してくるとは……いざという時の対価が増えたと、前向きに捉えておこう。

 

 しかしこの黒い感情はやはり俺を形成する上で大事なものだな。

 

「真っ白な空間よりも、こっちの方が個人的には落ち着くな。それと、これが隔離していたものだ。これを取り込めば、アルカナのふたりだけでなく、君がソラと呼ぶ存在とフユネが元通り君に巣くうだろう」

 

 偽史郎が次に取り出したのは、様々な色が混ざった球体だった。

 

 アクマやエルメスがどう反応するか……面倒だが、あいつらが居なければ強敵と戦えないので、覚悟を決めるか。

 

『……え……ハルナ? …………ハルナ!』

『魂のみの状態ですか……SYSTEMや管理者は、やはり逃がしてはくれないみたいですね』

 

 エルメスが不穏な事を言っているが、俺にとっては好都合なので聞かなかった事にしておく。

 

(どうやらまだ戦いは続くようだから、よろしく頼む)

 

『もう……ハルナは仕方ないなあ……』

『……なんで私も居るわけ?』

 

 ソラについては完全におまけだが、折角だしこのままで良いだろう。

 同時解放のことを考えれば必要だからな。

 

『ふふ。結局元の鞘ね。また殺戮を楽しみましょう』

 

 フユネも諸刃の剣だが、こいつが居なければ第二形態になれない。

 

「大丈夫そうだね。手紙はこれに書いてくれ」

「分かりました」

 

 送るのはタラゴンさんや楓さん。それとマリンやスターネイルとかにだ。

 ついでにナイトメアにも書いといてやるか。

 

 ……後、生き残ったリンネにも釘を刺しておこう。

 

 結局生きている事と、気が向いたら帰ると書いておく位で良いか。

 

「書けました」

「そうか。手紙はしっかりと届けておく。何かやり残したことはあるかね?」

 

 やり残したことか……まあ、大丈夫だろう。

 

「大丈夫です」

「そうか……ああ、魂の定着が完了したらアクマを通して連絡を入れる。それまでは休暇とでも思ってゆっくりしていてくれ」

 

 送られる世界がどんな場所か聞いていないが、それは行ってからのお楽しみで良いだろう。

 そして、俺にとっては休暇とは戦いも含まれている。

 

 戦い続けなければ、呑まれてしまうからな。

 

「わかりました。それではまた」

「ああ、お疲れ。そして、頼んだよ」

「もしかしたら、その内私とも契約できるかもね」

 

 俺と偽史郎の間に大きな扉が現れた。

 これに入れば再び肉体を手に入れる事ができ、新たな世界に行けるのだろう。

 

(それじゃあ行くとするか)

 

『うん』

『またよろしくです』

『……はぁ』

 

 向こうに行ったらソラの事もアクマに話しておくか。

 

 扉を開けると眩い光が溢れ、意識が遠のく。

 一体何が待ち受けているんだろうな……。

 

 

 

 

 1

 

 

 

 

 

 戦いが終わり、一日が明けた。

 

 民間人や魔法少女に多大なる被害が出た今回の事件を、政府と妖精界は破滅主義派と呼ばれる団体が起こしたものと発表した。

 また、事件の主犯格は全員死亡し、終息したとも……。

 

 始まりの日の次に被害を出した今回の事件を、終わりの日と命名し、これから平和が訪れると締め括ったが、何故そんな名前にしたのかを知るのは極僅かだ。

 

 封印されし魔物は、尊い命を犠牲にして消滅した。

 これから先、人類が魔物により滅びる可能性は限り無くゼロとなった。

 

 怯える日々は、終わったのだ。

 

 ――全ては、イニーフリューリングのおかげで。

 

「……ふう」

 

 水上にある、タラゴンの家。

 

 少しだけ休憩する時間が出来たタラゴンは、リビングで珈琲を飲みながら外を眺めていた。

 

 ――イニーの事を思いだしながら。

 

 出会いは、あまり良いものではなかった。

 シミュレーションとはいえ、殺し殺そうとしたのだ。

 その次はM・D・Wとの戦いで死ぬように命令した。

 

 そして生きて帰ってきたイニーを義妹にした。

 

 一緒にご飯を食べたり、買い物をしたり……。

 

 こっそり買った服をプレゼントしたり。

 

「まだ、これからだったのにね……」

 

 魔法少女としても、人としても11歳は若い。

 なのに、全てを背負って死んでしまった。

 

 胸に空いた、大きな穴。

 

 流石のタラゴンも、少しばかり疲れてしまった。

 

 もう、休むのも良いのかもしれない。

 

「あら?」

 

 窓から冷たい風が吹き、そろそろ閉めようと立つと、テーブルの上から紙が擦れる音が聞こえた。 

 

 振り返ると、一枚の封筒がテーブルの上に置かれていた。

 

 そこには、お姉ちゃんへと書かれていた。

 

 無論イニーはタラゴンさんへと書いたのだが、イブがこっそりと書き変えておいたのだ。

 

 タラゴンは目を見開き、直ぐに封筒を開けて中の手紙を読み始めた。

 

『おそらく死んだことになっていると思いますが、結果的に生きています。ですが、世間的にはこのまま死んだことにしておいていただけるとありがたいです。当面の間帰ることは出来ませんが、お体に気を付けて下さい。それと、約束は後で守ります』

 

「――あの馬鹿は」

 

 生きている事への喜びと、結局逃げた事へのモヤモヤ。

 けれど、帰ってくるとの約束は守ると書かれていたので、タラゴンは笑いながら泣いてしまった。

 

 手紙が届いたのはタラゴンだけではない。

 

 イニーと関りがあった人には手紙が届き、一応生きていると書かれていた。

 

 楓やジャンヌ。アロンガンテなどは事情を知っていたため、イニーが生きていると分かり安堵した。

 手紙に書かれている内容はまちまちだったが、要約すると心配するなと書かれていた。

 

「えっ! いつの間に! えっ? えっ!」

 

 自分の知らぬ間にとんでもない事が起きていたナイトメアはただただ驚いたが、直後ストラーフに「煩い!」と怒られ、頭を叩かれた。

 

 イニーはこの日以降、戦いの最中に死んだ事とされた。

 しかし墓は建てられず、葬式も行われなかった。

 

 手紙を貰った者たちは誰もイニーの事を漏らすことなく、彼女の帰りを待つことにした。

 

 ……一部の者を除いて。

 

 

 

 

 2

 

 

 

 

 

 魔女が死んだことにより機能が停止した、破滅主義派の拠点にある会議室。

 

 そこにふたりの魔法少女が居た。 

 

「これで良かったの?」

「良いか悪いかで言えば、悪い結果だろうね」

 

 リンネとロックヴェルト。

 

 破滅主義派の唯一の生き残り。

 

「ただ……私が、彼女が望んだ結果でもある」

「……これからどうする気?」

 

 リンネとロックヴェルトは顔が割れているので、テレポーターや一部の施設に入ると直ぐに追手がついてしまう。

 出来る事は少ないだろうが、出来ること自体はある。

 

「そうだねぇ……」

 

 リンネが椅子にもたれると、一通の封筒が現れた。

 不思議に思いながらも中にある手紙をリンネは読んだ。

 

 リンネは読み終わった後、手紙をロックヴェルトに渡した。

 

 ロックヴェルトは手紙を読み終えると、苦虫を嚙み潰したような顔をした。

 

「……第二の魔女ね」

「あながち間違いではないが……暫くは休暇だとでも思い、休むとしよう」

 

 手紙は、イニーがリンネに向けた物だった。

 今回は見逃すが、もしも悪さをするのならば再び前に現れる。

 

 それと、必要悪の範囲に納まるのならば、場合によっては便宜を図ると書かれていた。

 

 最後に第二の魔女と、不穏な言葉も書いてあったが、ロックヴェルトとは違い、リンネは笑っていた。

 

 魔女とリンネによって行われたアンヘーレンプラン。

 世界が滅びるならばそれまでの作戦だが、もしも世界が存続するのならば、作戦は続く。

 

 今の世界に、悪巧みをする魔法少女や一般人は全く居ない。

 

 だが、時間が経てば再び現れるだろう。

 

「しかし、一体彼女は何者だったのだろうね?」

「…………さあ」

 

 イニーが払った代償により、ロックヴェルトの記憶に差異が生まれていたが、神が気を利かせて代償を返品したので、ロックヴェルトはイニーの生い立ちを覚えている。

 

 だが、この事を話すのは何となく嫌だったので、とぼけることにした。

 リンネは顎を摩りながら首を傾げるが、ロックヴェルトは見て見ぬふりをする。

 

 このふたりが再びイニーと会う事になるのは、いつか分からない。

 だが、リンネとイニーは案外馬が合うだろう。

 

 お互い、温泉が好きなのだから。

 

 

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