魔法少女がいく~TS魔法少女は運が悪いようです~ 作:ココア@レネ
スターネイルである多摩恵の家。
そこにはマリンとミカの姿があった。
「……なるほどのう。裏ではそのような事件が起きていたのじゃな」
「私もこの手紙を読むまでは知らない事が多かったけど……」
「…………ふん!」
イニーが消えてから二日後。
手紙が届いて一喜一憂している中、どうせ手紙が届いてるのだろうと思い、3人は集まった。
そんな中、マリンは不貞腐れていた。
目の前で灰となり、死んだ事をタラゴンに報告し、世の中に絶望しながらベッドの上で体育座りをしていた時に届いた手紙。
その時はイニーが生きている事に喜んだのだが、喜びは次第に怒りへと変わっていった。
「しかし、三人とも書かれている内容が結構違うのう」
「そっ、そうだね」
スターネイルは動揺を隠しながら答えた。
ミカの手紙には、これからも魔法少女としてがんばれと書かれており、スターネイルの手紙には、世話になったと書かれていた。
そしてマリンの手紙には……。
「何がちゃんと恋愛をしろよ! なんでふたりの手紙にはまた会いに行くと書かれているのに、私のには書いてないのよ!」
マリンはグビッとジュースを一気飲みすると、コップをテーブルの上に叩きつけた。
その反応のせいだろうにとミカは思うが、口には出さない。
「まあ、生きてはいるんだし、きっとマリンちゃんのところにも帰ってくるよ」
スターネイルは年上らしくマリンを諫めるが、実はスターネイルはイニーから2枚の手紙を貰っていた。
マリンにだけは見せるなと書かれた手紙には、マリンを普通の女の子にしてくれと書いてあった。
イニーも少なからず、マリンから貞操の危機を感じていたのだ。
どちらかと言えばマリン側の考えを持っているスターネイルは、手紙を読んで苦笑いした後に、手紙を隠した。
マリンにはもう少し落ち着いてもらい、迫るにしてもお淑やかにするように教育していこうと、スターネイルは考えている。
「次あった時は必ず……」
「やれやれじゃのう」
ずずずと音を立てながら、ミカはお茶を飲んだ。
呆れてはいるが、こんな風に話せる日常が嫌いではないのだ。
「ああ。そう言えばじゃが、わらわもついに強化フォームに至れたのじゃ」
「えっ!」
「本当!」
ミカの突然のカミングアウトに、スターネイルとマリンはかなり驚いた。
こんなに早くミカが強化フォームになれるとは思っていなかったマリンは危機感を感じ、後でもっと訓練しようと心に決めた。
スターネイルは強化フォームになった魔法少女が増えた事に対する、純粋な驚きのみだ。
「ふふふ。これでマリンだけとは言わせないのじゃ!」
「喜んでいるところ悪いけど、ネイルも強化フォームになれるわよ」
「なんと! お主もか!」
強化フォームになれる魔法少女が、こうもそろう事はまずない。
ランカーならありえるが、ここに居るのはスターネイルを除いて、1年も魔法少女をやっていない者たちだけだ。
「あははは」
スターネイルは乾いた笑みを浮かべる。
まだ世間には知られていないが、スターネイルは世界で初めてシミュレーション中に強化フォームへ至った魔法少女だ。
本人としてはまことに遺憾であり、この事実を無かった事にしたい。
強化フォームは魔法少女にとって特別なものだ。
この事について、スターネイルはまだ根に持っている。
「そう考えると、日本の未来は安泰じゃのう」
「他の国はランカーにもかなりの被害が出ているし、私たちにも出撃依頼は来るでしょうね」
滅亡の危機は去ったが、これから先、人類にとって辛い時代が到来する。
人は勿論、建物にも深刻な被害が出ている。
「その内ネイルにもランカーにならないかって誘いが来るかもね」
「あはは。そんな事はあり得ないよ」
マリンはテーブルに腕を乗せて笑う。
そんな時、スターネイルの端末が鳴った。
スターネイルはふたりに断ってから端末を見ると、顔から表情が抜けた。
「どうしたのじゃ?」
「アロンガンテさんから、今回の功績を鑑みて、ランカー候補にならないかってメールが……」
喜んで良いの分からないスターネイルは、ただメールの内容を何度か読み直した。
日本に新たなランカーが誕生するのも、そう遠くないだろう。
まだまだ先は暗いが、日本の魔法少女たちの未来はきっと明るい…………のかもしれない。
1
日本がある世界とは違う世界の、とある屋敷の地下。
光を取り込む窓もなく、床に描かれた魔法陣だけが微かに光る。
外では雨が降り注ぎ、雷が鳴っているので、もしも地下で何が起きても、気付く人は誰も居ないだろう。
「これで……よし」
黒く長い髪を肩から垂らした少女は、自分で描いた魔法陣を隅から隅まで確認する。
少女が描いたのは、この世界では禁忌とされている、悪魔を召喚する魔法陣だ。
悪魔は命を対価にすることで、大いなる力を与えると言われている。
つまり、召喚に成功したら最後、少女は長くは生きられない。
それでも少女は、悪魔に縋るしかない状況に陥っていた。
(どうせ殺されるのでしたら……)
少女の家はこの世界では上流階級であり、相応の力と責任が伴う。
なのに、少女はいわゆる落ちこぼれであった。
「アインリディス・ガラディア・ブロッサムの名の下に乞い願わん。深淵より抜け出しし者よ。契約と対価の鎖を結ばん」
詠唱すると、魔法陣から巨大な門がせり上がってきた。
引き返すことは、もう出来ない。
少女は震える手足を気合いで捩じ伏せ、ゆっくりと開き始めた門を見つめる。
目映い光が門から溢れ、少女は目を細めてしまう。
こつん。こつん。足音が門の中から聞こえ始める。
そして現れたのは白いローブ姿をした何かだった。
フードを被っていても、本来なら顔の輪郭位なら見える筈なのに、顔があるべき場所は暗闇になっている。
「あなたが……悪魔?」
少女は恐怖で今にも座り込みたいが、なんとか声を振り絞って気丈に声を出す。
悪魔に弱味を決して見せてはいけないと知っているから。
白いフードの何者かはただじっと佇んでいた。
少女はどうすれば良いのか分からず、じっと待つ。
すると、ようやく白いローブは口を開いた。
「そうです。私がアクマです」
白いローブ…………イニーの受難はまたまだ続くのであった。